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67 恋人の家に初訪問。(ルクト視点)


初めての恋人の家へ。

ルクト視点。






 リガッティー・ファマスは、オレの恋人。


 出会って九日目で、想いを伝え合って、交際を始めたばかり。

 最初は遠目で、惚れ惚れする気高いご令嬢だと見惚れていたけれど、翌日にひょっこりと目の前に現れた彼女は、凛とした美しさではなく可愛さをまとっていた。

 アメジスト色の瞳で見上げて、愛らしく笑いかける。



 そんな彼女に、一日だけで、急落下するように恋に落ちた自覚があった。

 二日目で、想いを無視せずに、抱え込んで手を伸ばすと覚悟を決めた。

 三日目には、自覚以上に、想いは深く大きく、それから彼女だけだと知った。



 生涯の伴侶に決めた――――のではなく、オレにとっての唯一無二の存在だと気付かされて、だから彼女以外はもう考えられないという事実を思い知っただけのこと。



 オレには、リガッティーだけ。

 オレの相棒は、リガッティーだけで。

 オレの伴侶は、リガッティーだけだ。



 オレの隣は、リガッティーだけ。リガッティー以外は、あり得ない。

 ”()()()()()()()()()()()()()”って、月並みの言葉が、しっくりくる。


 この先ずっと。

 オレの人生は、リガッティーが中心だ。

 リガッティーの隣が、オレの人生。



 そんなリガッティーの両親から、ちゃんと一緒に冒険をする許可がもらえたという朗報を受けた翌日。

 今朝になって急遽、まさかの家の中に、お招きをされることになった。


 肝心のリガッティーの両親、ファマス侯爵夫妻は、すれ違いの形で不在。


 だけれど、ファマス侯爵家の使用人達に、出迎えを受けるとのこと。



 四日前に、リガッティーを『ダンジョン』への遠出冒険に連れ出すために、ちょっと敷地内に入っては連れ去った感じだ。



 そうじゃなくても、春休みが始まってから毎日、オレがリガッティーを冒険に連れ回していた。


 大事なお嬢様を連れ回した男。かなりの嫌悪(ヘイト)が募っているはず。

 ただでさえ、事情は全部説明が出来ないから、まだ平民という身分なのに、すでにお嬢様と交際している男だ。

 リガッティーみたいに、母親にご機嫌取りの珍しい宝石を差し出せればいいのに……。


 ……まぁ、もう挑むしかない。お嬢様を連れ回したヘイトも、甘んじて受けよう。



 リガッティーの家。ファマス侯爵邸。


 ズラッと並んだ白い壁の先の大きな門に、到着。

 開きっぱなしの門に待機した騎士が、鋭い視線で見据えてくる。


 一応、名乗れば、許可はもらえて、中へ通された。


 視線が痛いから、玄関まで【テレポート】でさっさと行きたいが、そのまま歩いていくことにした。

 そこでも騎士が整列。さらには、使用人がザッと50人は並んでいて、重々しくお出迎え。

 これが、侯爵家での最高級のお出迎えらしい。


 んー、気まずい。

 ただでさえ、貴族の豪邸でのおもてなしは、初めてである平民。

 大事なお嬢様の身分差の恋人。

 無断外泊までさせて、冒険に連れ回していた冒険者。


 どんな気持ちで、オレに頭を下げているのやら。



 けれど、オレの世界の中心はやはり、ただ一人。



 瑞々しい葡萄みたいに紫色に艶めく黒髪と、白いフリルのブラウスに濃い紫色のコルセットデザインのドレス。

 凛とした佇まいのご令嬢姿のリガッティー。


 それ以外はどうでもいいくらい眼中になくなる。


 けれども、本当に可愛いんだ。オレの恋人。


 パッと笑みになって、オレの元まで駆け寄っては、抱き付いてくれた。

 嬉しくて、両腕で抱き締める。リガッティーは細いから、両腕でしっかりと抱き締められる。キツイほどに。


 腰を持ち上げて、クルッと回す。

 以前、道端で見ていた観劇で、役者がやってたところ見たことあるけれど、なかなか気障だよな。でも、楽しい。

 両腕に抱えたリガッティーも、おかしそうに笑ってくれた。



「あれ? これ、マンサスの花の香り?」

「はい! メイド達と飾り作りをしてました」

「あっ。オレも欲しい」

「ルクトさんの分は私が作っておきましたよ。まだ一つですが」

「ホント? 見せてほしい!」


 首に腕を回してくれているリガッティーから、花の香り。

 元々、花みたいな甘い香りがすると思っていたけれど、それとはまた違う。


 花好きのリガッティーなら気に入ってくれると思って、マンサスの花が大量に満開で咲いていたそれを、思い出に摘んだ。

 砂糖漬けにすると美味しいとも聞いていたそれを、寝室に飾りたいとか。オレも欲しい。それを見て、あの最高な瞬間を思い出して浸るんだ。


「……でも、先に、オレはどうしたらいいの? 挨拶、していいんだよね?」


 この場には、ファマス侯爵家の使用人がまだいる。

 どういう対応が正解なのか。先に、聞いておくべきだった。


「あ、ごめんなさい。家令のニコラです。ニコラ、こちらが私のルクトさん」


 リガッティーが、初老の男性を掌で差し示すと、ぴとっと頬を重ねてきて、紹介してくれる。



 や、やわらかっ……頬、ヤバ、やわらか……!


 いや、今、”()()”って言ってくれた。


 オレはリガッティーだけのものではあるけれども、それを家の者に紹介してくれるのは、嬉しすぎる。



 リガッティーがオレが思っていた以上に、オレを求めてくれて強く想っていてくれたことも、嬉しすぎた。


 オレが、リガッティーだけのものだって……。


 夢かと思った。

 夕陽に照らされても、変わらない髪色の長い髪が風で舞い上がっていて、想いを込めて潤んだアメジスト色の瞳が、熱さを際立たせていていた想い人。


 オレを手放したくないなんて。

 オレを独占したいだなんて。

 オレの隣が自分のものだけだって。



 ――ルクトさんの隣は、私のものです。私だけのものです。



 握り合った手を持ち上げて見せて、そう伝えてくれたリガッティーに、涙が込み上がってきたあの瞬間。


 幸せの絶頂だと思ったけれど、今もまだ、リガッティーがオレを幸せにしてくれている。

 その時からずっと。オレは幸せすぎていて、幸せすぎて、もう、あとに来るかもしれない不運が怖くて堪らない。

 幸せと同じくらいの大きさの不幸せは、本当に大きいだろうな。怖い。


 手始めに、リガッティーの家の使用人から、敵意を受けるのか。甘んじよう。



「ルクト・ヴィアンズです」


 リガッティーが下ろしてほしいと足を動かすから、とりあえず、床に下ろす。

 肩を抱いたままだけれど、例え睨まれようとも、放したくはない。


 でも、なるべく、愛想よくして笑顔で挨拶。

 軽く頭を下げると、胸に手を当てて、深く頭を下げた家令のニコラさんが顔を上げた。


「ファマス侯爵家の家令を務めております、ニコラ・ハードルと申します。リガッティーお嬢様の……恋人、と伺っております」


 じとり、と鋭い視線が、向けられる。

 う、うーん。警戒、強い。


「はい。リガッティーの恋人にしてもらいました」

「……恋人であり、冒険者のご指導をされているとのことですね」

「えーと、そうですね」

「……二日前、下級ドラゴンの討伐をしたと」

「あー、はい。リガッティーと一緒に」


 ヒシヒシッと視線が突き刺さってる中、受け答えする。

 今更ながら、ファマス侯爵家でリガッティーを名前呼びしてよかったのだろうか。

 リガッティー嬢って呼ぶべき? そのせいで、視線の痛さが増してる?



「下級ドラゴンのことですが!」

「はい!?」


 カッと目を見開いたから、ちょっと身構えた。

 周りも、ギロッとした目をした気がする。


 お、おう。罵倒か? ドンとこい! 大事なお嬢様のための言葉! 受けて立つ!


「昨夜、侯爵家一同が、ご厚意でいただけました! 誠にありがとうございました!!」

「へ? あ、はい」

「おいしゅうございました!!」

「あっ、はい。何より、です」

「「「リガッティーお嬢様とともに、ありがとうございましたッ!!」」」


 バッと声を揃えて、ファマス侯爵家の使用人一同がまたもやお辞儀。騎士団まで、頭を下げている。


「シェフ長でございます! 希少かつ最高級お肉を、この手で調理出来たこと! ありがたく存じます! この人生に、悔いなしです!」

「それは、よかったですね……」

「昼食に、サンドイッチにしましたので、リガッティーお嬢様とどうぞ!」

「ホントですか!? 一流シェフの下級ドラゴンのお肉でサンドイッチ! 楽しみです! ぜひいただきます!」


 おお! まさかの下級ドラゴンのお肉のサンドイッチ!? やった!


 涙ぐんでいるシェフ長から、嬉々としてリガッティーの顔を確認。

 ちょっと引いている顔をしているから、思い出して気付いた。


 ……あれ? オレへのヘイト、どこ? あっれぇえ?



「本当に、なんて……美味なんでしょうか! 下級ドラゴンのお肉!」

「あー、はい。オレは野外で簡単調理だったんで、一流シェフの料理だなんて、やっぱり最高でしたよね?」

「「「最高でした!!」」」

「「「リガッティーお嬢様、ルクト()、ありがとうございますッ!!」」」


 左右から、お腹に力を込めて、声を出された感謝を飛ばされた。


 お、おう……めちゃくちゃ、感謝されている。


 ヘイトが……オレへの嫌悪(ヘイト)がない……。

 敵と思われてないのは、嬉しいけれども…………拍子抜けすぎる。

 しかも、様付けかぁ……ハハッ。


「下級ドラゴンのお肉、様様ですね……」

「うーん、まさかの下級ドラゴンのお肉が、ご機嫌取りのアイテムになるとは……」

「効果てきめんすぎるアイテムですね……」


 リガッティーも知らないうちに、家に振舞われた下級ドラゴンのお肉のおかげで、”冒険に連れ回したオレ”をすっかり許してくれたらしい。


「リガッティーが、渡したのにな……。あ! オレの分があるじゃん。もっとありますんで、調理してください」

「全財産で買わせていただきます!!」

「シェフ一同の財産で!!」

「あ、お金はいいですよ。()()()()()なんで」


 燻製にして干し肉にしようにも、かなりの量を【収納】で保存したまま。

 今までで一番、ダントツでデカかった。そうじゃなくても、二人じゃあ食いきれなかったお肉。かといって、放置なんてもったいない高級食材。欲張って、【収納】しておいてよかった。オレからのご機嫌取りってことで。


「そんな! 高級食材ですぞ!?」

「そうです。安売りはいけません! 下品な話で申し訳ないですが、お金は必要です!」

「いや、オレ、貯えは一生分は贅沢に生活出来るくらいはありますし、恋人の家から大金はいただけませんよ。本当にご機嫌取りのためなんで、どうぞ。あ、出来れば、オレにもたくさんくださいね、下級ドラゴンのお肉料理」


 シェフ長とニコラさんに、買い取らせろと言われる。


 もう一生贅沢に暮らせるお金がありすぎるんだよなぁ。


 下級ドラゴン10体の素材だけでも、このお金どうしようってくらい財産がヤバいって思ってた。

 なんだったら、経験豊富なギルドマスターとギルド職員のレベッコさんの助言で、まだ売っていない素材を、買った倉庫に陳列しているから、さらに財産は素材を売るだけで、ドンッと簡単に増える。

 だから、大盤振る舞いも別に問題ない。何より、リガッティーの実家の使用人から、財産もらっては後味悪いって。


 今後も、お金はいくらでも稼ぐから、別にいい。

 リガッティーには、倉庫に保管している素材はそのままにして、事業の方を始めようって言われてるしね。



「そうでした。まだ認めてはもらっていませんが、オレにはリガッティーだけなんで、生涯の伴侶の幸せのためにも、認めてもらえるように努力します。どうぞ、よろしくお願いしますね」


 軽い挨拶にはなるだろうけれど、リガッティーの恋人として、こうして挨拶しないと。そう思って、周囲に目をやって告げた。


「ファマス侯爵家の騎士団、副団長のテガム・バーンズでございます!」


 おおー。リガッティーが、散々撒いてきた副団長か。撒いたというか、闇魔法で眠らされちゃって、外出を阻止出来なかったんだっけ。

 厳つくて、生真面目そうな顔付きだな。いかにも堅物そうな騎士様。一番お怒りかも。


「色々思うことはありますが! ファマス侯爵家は、リガッティーお嬢様の意志を尊重しております故! 我々も、力を尽くさせていただきます!! リガッティーお嬢様のためです! リガッティーお嬢様のためなのです!! 下級ドラゴンのお肉、ごちそうさまでした!!」

「あ、はい。リガッティーの幸せのために、お互い尽くしましょう。お肉、喜んでもらえてよかったです」


 だめだ、ここでも下級ドラゴンのお肉が効果を発揮している。

 思うところが、どこにあるんだろうか……。

 厳つくて生真面目な顔付きだけれど、興奮を隠し切れてないな。騎士団一同も。



「オレ、もっと下級ドラゴン、討伐してこようかな」

「やめてくださいって。下級ドラゴンを滅ぼす気ですか?」

「そこまで言ってないよ?」


 リガッティーの家族達に認めてもらえるなら、もう一体くらい、討伐してお肉持ってくるのに。

 滅ぼすとか、物騒だよ、リガッティー。



「ほら。みんな。ルクトさんの顔を覚えてくれたなら、解散してちょうだい。お出迎え、ありがとう」


 パン、と手を叩いて、リガッティーはそう声をかけた。


 家令のニコラさんも、声をかけて使用人一同を解散。また感謝を伝えて頭を下げていく。

 騎士団も副団長の指示で、外へ出て行った。



 改めて、玄関ホールを見回す。

 50人以上いた使用人がいなくなれば、広々しすぎると感じた。やっぱり豪邸。

 ここが、リガッティーの生まれ育った家かぁ……。


「ルクトさん」

「ネテイトくん。スゥヨンさん。どうも」

「こんにちは、ルクトさん。いえ、もうルクト様とお呼びした方がいいですよね? リガッティーお嬢様の恋人ですなのですから」

「あー……慣れておいた方がいいんですかね?」


 リガッティーの義弟ネテイトくんとその従者のスゥヨンさん。

 歳は、ネテイトくんが、二個下。スゥヨンさんは、オレの三個上。


 ムズムズするんだけどなぁ。様付け。でも身分が高くなるんだから、それも慣れておくべきかな。

 苦笑を零すと、スゥヨンさんの隣から、よく似た顔の長身の男性が前に出てきた。


「初めまして、リィヨン・ジオンと申します。スゥヨンの兄で、ファマス侯爵現当主様の補佐官を務めております。今日は、当主様がご不在のため、代わりにご挨拶を。リガッティーお嬢様が大変お世話になっていると、感謝しておりました」

「ああ、やっぱり。スゥヨンさんと似てますね、流石兄弟。冒険者の指導をして面倒を見てますが、オレもリガッティーには大変お世話になっています」


 胸に手を当てて一礼する彼は、確か、スゥヨンさんの十歳は年上だったっけかな。じゃあ、オレの十三歳上か。

 スゥヨンさんに似て、柔和な物腰の軽さの人って感じだ。


「それで、リィヨンさんも、リガッティーを観賞対象に?」

「ひえっ……」


 ビクリと肩を震わせて、口元をひくりと震わせたリィヨンさん。

 怯え方も、スゥヨンさんと似ているなぁ……。


「いえ、その……ええ、その、ホント、リガッティーお嬢様は、赤子の頃から見守ってきました。天使です。見守ってきました。ところで、その瞬間的映像の【記録玉】を複製しますので、()()()()()()()()受け取ってもらえますか? ルクト様」

「受け取りましょう」

「本人の目の前で、そんな取引します?」


 スゥヨンさんよりも、交渉に長けている人だった。危機の回避が上手だ。

 天使な赤子のリガッティーの【一画映像記録玉】、喜んでもらいます。


 本人のリガッティーだけじゃなく、ネテイトくんも家令のニコラさんも、呆れている。


「では、変身すると伺っていますので、客室へご案内します。ルクト様」

「客室? わざわざ?」

「変装ですからね。着替えるなら、部屋がよろしいかと。どうぞ、こちらへ」


 家令のニコラさんが、先に階段を上がっていく。

 あとから、ネテイトくんとスゥヨンさんが続くので、ついていけばいいらしい。


「あ。エスコート。こうだっけ?」

「はい。お見事です。ルクト様」

「あははっ。まだまだ頑張ります、リガッティー嬢」


 リガッティーの肩を抱いたままではいかないけれど、放す気はないので、手を引こうとは思った。

 でも、貴族っぽいエスコートがいいな。いい機会だから、慣れておこう。

 様付けを面白がるリガッティーに軽く曲げた腕を差し出せば、手を添えられた。


 後ろには、リィヨンさんがついてくる。

 階段を上がりながら、リガッティーは一階のサロンで、マンサスの花の飾りを作っていたと教えてくれた。


 それから二階に上がれば、家令のニコラさんが、ファマス侯爵家の人間の部屋がある階だと教えてくれたけれど、案内してくれるのは、もちろんそこではない。滞在客のための部屋が並ぶ区画へ案内されたけれど、離れの屋敷もあると説明された。広い。

 王都学園も広いとは思ったけれど、高位の貴族の豪邸も、流石だ。


 すでに開かれている客室の中に、男性の使用人が三人待機していた。


「自分の着替えが一番いいと、リガッティーお嬢様がお考えしましたので、何着かご用意をしました」

「なんか、大掛かりになっちゃいましたね」


 服を貸してくれるスゥヨンさんに、苦笑いを零してしまう。

 リガッティーと会えるし、敵対していた貴族子息に会うのも心配で、単にそばにいたいがために、提案したのに。

 着替えを手伝う気でいる使用人まで準備されちゃったな……。いや、これはこれで、新鮮で面白いけど。何事も慣れだよな。


 客室も広いなぁ。

 ちょっと好奇心で高級宿屋の最上級の部屋を取ったことあるけれど、あれの三倍ありそうなんだけど。

 さっきの財産の話を考えてみて、その現財産で、リガッティーと暮らす豪邸って買えるかどうか、疑問に思う。

 その辺の値段、リサーチせねばっ。



「あれ? ネテイトくんもいてくれるの?」

「はい。従者のスゥヨンが服を貸しますし、そうでなくても、義姉上が伴侶と決めている方ですから……」

「見張り?」

「違いますよ! 出来れば、交流を、と思いまして。これから、義姉上とともに家を出ますので」

「ネテイトくんも出掛けるんだ?」

「はい。神殿で、光魔法について」

「そっか。あれ? それはスゥヨンさんが調べるとか言ってなかった?」

「神殿から記録書物室の出入りを許可してもらいましたが、一時間のみなんです。だから、手の空いている今日は、僕も一緒に調べようかと」

「リガッティーお嬢様に害を与えるようなら、ちゃんと答えを調べておきたいのですよ。ネテイト様も、負担を減らしたいのです。ネテイト様の大事な義姉上様ですからね」

「余計な一言だぞっ」


 義弟のネテイトくんについて、リガッティーがたまにツンと照れ隠しをすると言っていたけど、その通り。

 義姉上を心配する義弟くんは、からかい気味のスゥヨンさんを睨んだ。


「うんうん。リガッティーも多忙だもんね。前の婚約の後片付けだっけ? 友人のためだけど、結局、悪女に靡いた男が悪くて、リガッティーがその後始末ってことでしょ?」

「男って……だめですね、まったく」


 突っ立っているオレに、スゥヨンさんの服を使用人に合わせさせて、メイド達と比べているリガッティーが、意地悪な発言をした。


 同感だと、リガッティーの後ろのメイド達も深く頷くから、オレ達男性陣が居心地の悪さを与えられてしまう。

 オレ達じゃないのに、なんだろうな、この後ろめたさを感じる雰囲気。失言した……。


「いやいや、世の中、そんな男ばかりではないですし、悪女だっていますしね。男女問わず、悪い人が悪いのです。偏見、だめですよ」


 リィヨンさんが、そう居心地悪い雰囲気を晴らしてくれた。流石、いい大人。


「そういうリィヨンって、恋人と喧嘩中だって、一ヶ月前に愚痴を零してたのを聞いたけれど、仲直りしたの?」

「……」


 リガッティーの小首を傾げた質問に、サッと、リィヨンさんが斜め下に顔を背けた。


「リガッティーお嬢様。破局したらしいですよ」

「しかも、横恋慕により、喧嘩中のうちに掻っ攫われたらしいですよ」

「あら、まあ……」


 メイド達がリガッティーに耳打ちするけど、聞こえてる聞こえてる。

 心痛な空気でどんよりしてるリィヨンさん、唇を噛み締めてプルプル震えてるけど、泣かない? 三十代の男性、今泣く?


「横恋慕かぁ……。結局、ティヨンさんって人は、オレの恋敵なの?」

「ジオン家は、代々ファマス侯爵家の人間を、忠誠で補佐しながら観賞したい愛好者一家だそうです。初めて知りましたけど。あくまで観賞に留めて、()()()、つまりは()()()()()()だとか」


 呆れた顔をするけれど、おかしな話だとリガッティーはふふっと笑うと「これがいいのでは?」と、服を選んで、オレの意見を確認した。


 そんなリガッティーよりも、スゥヨンさんがギョッとした表情をしたことを、見逃さなかった。


 確か……スゥヨンさんの双子の弟だっけ?


「オレはこっちがいいかなー。で。そのティヨンさんはいないの?」

「領地で父親とともに、領主代理の補佐を務めていますよ。去年の夏に、領地に行ったので、それが最後ですね、会ったのは。では、蝶ネクタイでどうですか?」

「あ、いいね。これにするよ。領地にいるのかぁ……ふぅーん。そっかぁー」


 笑みを保ちながら、スゥヨンさんとリィヨンさんを交互に見る。


 オレの視線に気付かぬフリをしたいのか、冷や汗を滲ませた顔を背けていた。斜め下に向けるのは、兄弟揃っての癖なのだろうか。


「それで、リガッティー。身辺調査はしたの?」

「はい? まだですよ?」

「メイドさん達から聞き回るのはどう? 今みたいに女性とか、結構知っていたりするし、先ずは家の中を洗い流そうよ。オレはその間、ネテイトくんとスゥヨンさんの意見を参考に変身するから、楽しみにしてて」


 オレの恋敵の存在の確認。

 ジオン家に気付かなかったくらいだから、横恋慕な使用人の存在の有無を確かめてほしい。


「わかりました……。では終わったら、呼ばせてください」


 ネテイトくんの肩に手を置いて、スゥヨンさんの肩を握って、メイド達を引き連れるリガッティーを見送る。


 パタン、と扉が閉じたところで、スゥヨンさんの肩をポンポンと叩く。

 ダラダラと冷や汗を垂らして、青い顔を往生際悪く背けたままだ。


「ネテイトくん、悪いけれど、君の従者を尋問するね?」


 ジャケットを脱ぎながら言えば、びくぅうんっとスゥヨンさんは震え上がった。



「オレにはもうリガッティーだけだから、例え、リガッティーが高嶺の花すぎても、オレはオレなりに駆け上がって掴み取るって決めたし、誰であろうと譲らないって決めてあるんで。高嶺の花すぎるリガッティーに手を伸ばしそうな(ライバル)がいるなら、把握しておきたいんだ。出来る限りの情報は集めて、備えておかないと――――冒険だって、()()()()()()()



 使用人の一人が手を差し出してくれたので、脱いだジャケットを持ってもらう。


 スゥヨンさんと、きっと弟を置いていけないと思ったリィヨンさんは、カタカタと震えた。

 家令のニコラさんは、しれっとした顔で扉を塞ぐように立っている。


 ネテイトくんは知らないようで、戸惑った怪訝な顔で自分の従者を見やるが「……はい」と許可をくれた。



 



恋敵を探るルクト。


最強冒険者の尋問に、ガタガタ震えるファン魂一家の兄弟。


次回も、ルクト視点。

ただし、更新はストップさせていただきます!orz

また書けましたら、再開したいです!

2022/12/13

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