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ご令息日録

初恋のおねえさま

作者: 黒森 冬炎

 俺がうんと小さい頃のことだ。多分4歳位だったと思う。母が娘時代の友達とやら5、6人で田舎に集まった。グループのひとりが持っている夏の家というやつだ。

 その時来ていた子供たちの中に、優しくて綺麗なお姉様がいた。1人だけ大人だったので、あるいは子守だったのかもしれない。


 俺はその人と一緒にいたくて、たくさん話しかけた。何を話したのかは、まるで覚えていない。金髪だったか、栗毛だったか。瞳は何色だっただろうか。顔も名前も朧げだが、素敵な人だった。



「起きたか」


 太陽鳥(たいようちょう)王国王立魔法学園の裏庭で目を覚ますと、もう夕方だった。


「まだ寝てるとは思わなかった」

「げっ、何だよ。起こしてくれても良いだろ」

「いやあ、幸せそうに寝ていたからよ」


 雷撃科の黄色いマントを颯爽と着こなす悪友シドが、ニヤニヤと覗き込んでくる。品行方正を絵に描いたように撫でつけた銀髪から、いく筋が綻びて落ちた。嫌味ったらしい白い歯が夕陽にキラリと光る。俺の在籍する爆炎科のならず者どもとは違う。さすがエリートコースの坊ちゃんだ。


「良い夢見たかぁ〜?」


 低めの美声も揶揄いの色を浮かべる切れ長の目も、女生徒達に持て囃されるモテ男だ。身長もすらりと高く体格も良い。同じ琥珀色の瞳でも、吊り上がった三白眼の俺など女子には居ないも同然だ。髪は半端に伸びた赤毛だしな。一緒なのは身長くらいか。



「煩ぇ。ああくそっ、午後の授業全滅かよ」

「何の授業だったの?」

「実技ふたコマ、古代魔法語、太陽鳥(たいようちょう)王国魔法史」

「ヒャハハ、全部ビリーが好きなやつじゃねーの」

「くそう、今学期もA評価狙ってたのによぉ」

「お前ホント、脇が甘いよなー」


 俺は大袈裟に溜息を吐きながら立ち上がる。腹に掛けていた鮮やかな真紅のマントの皺を軽く伸ばして羽織れば、火傷に使う薬草の匂いがツンと鼻につく。朝焼草(あさやけそう)と呼ばれるこの薬草の群生地は、柔らかで寝心地がよい。昼食後につい横になってしまったのだ。


「シド、飯食いに行くか」

「おう、行こうぜ」


 俺たちは肩を並べて新しく出来たカフェテリアへと向かう。カフェテリアでは、値段が安めで量が選べる。どのメニューにも大盛、並盛、小盛の3種類があるのだ。今までの食堂は量重視だった。シェア禁止な上に値段も高めで、少食の生徒たちには常に不評だったのだ。



「お前、今日実技あった?」

「あった。何で?」

「いや、カフェテリアに向かってるみたいだからさ」


 カフェテリアにはもう一つ、食堂にはないものがあった。ミードという名のカフェテリアオリジナルドリンクだ。


 魔法を使うと体力の他に魔力と呼ばれるものが減る。自然回復もするが、月漕花(げっそうか)という花の蜜は回復に役立つ。この蜜を加えた飲み物や食べ物は、さまざまな種類が出回っている。苦味が強いのが難点だ。


 カフェテリアで考案されたミードは、たっぷりの月漕花蜜とレモンに生姜か混ぜられたものだ。苦味が薄く飲みやすい。何か特別な方法で攪拌しているらしい。



「ミード呑むんだろ?」

「まあな」

「疲れた?」

「疲れた!リンジーの奴が本気出しやがってよ」

「へえ、珍しいな」


 リンジーは、輝くプラチナブロンドの雷使い女子だ。スタイル抜群だが気が強い。実力は高く、自覚もある。いつもは余裕の表情で、7割くらいの力しか出さないと聞く。そこがいいと言う奴も多いが、俺は苦手だ。



「婚約が決まって張り切ってんだろ」

「まじか、迷惑」

「だよなぁ」


 王立魔法学園生は就職も結婚も、おおむね引く手数多である。13歳から18歳までの5年間で、殆どの生徒が仕事の内定を貰い、婚約も結ぶ。


「シド、海運王のお嬢さんどうなった?」

「断られた」

「えー?」

「雷より水がいいらしい」

「そりゃそうだな」

「海運王の跡継ぎ娘だからな」

「シドならまたいい縁談もくるだろ」

「まだ3年だしな」



 校舎の角を曲がって、開けた場所を横切る。校舎沿いに並ぶ妖精林檎(ようせいりんご)の白い花が、仄かな香りを漂わせている。開けた場所には、モザイクで魔法学園の校章が足元一面に描かれている。高いところからでないと形が掴めない大きさだ。


 校章の中央で枝を広げた妖精林檎は、深緑色だ。樹の中に、先の曲がった紫色の杖と襟の高いマントがある。この2つは魔法使いを表している模様だ。マントは黄色、青、赤、白の縞模様。樹の根元を囲むようなオレンジのリボンには、銀色の流麗な装飾文字が見える。わが校のモットー「時の彼方に実を結ぶ」である。



「好きな子いねぇの?」

「うーん、雷撃科は可愛い子けっこういるけど」

「けど?」

「友達どまりなんだよなぁ」


 学科内恋愛も多い。俺たち爆炎科だけは別だが。炎使いは気性が荒く、体格もゴツいやつが多い。俺は珍しく細身で上背があり色白だが、目つきは悪く火傷の跡だらけだ。シドは端正な顔立ちに程よく筋肉がつき、脚も長い。


「シド、モテるだろ?」

「好きって言われたりはあるけど」

「つき合わねぇの?」

「うーん、つい断っちゃうんだよなぁ」

「つい?勿体ねぇ」

「お前どうなんだよ、ビリー」

「この見てくれじゃなぁ」



 魔法使いが力を発現する年齢はまちまちだ。幼い頃に発現した場合、自分の力で身体を傷つけてしまう場合もある。力が弱ければ大した事はない。だが大きな力を持って生まれてしまうと、消えない傷が出来る子供もいる。


「何だよ、優秀な証じゃねぇか」

「そう言っても爆炎じゃ」


 俺の発現は赤ん坊の時だったらしい。産声と共に火柱が上がったという。母が同じ炎使いでなかったら周辺地域が焼け野原になっていただろう。すぐに助けを呼び、消火と力の抑え込みを冷静に行ったので被害は小さくて済んだ。


「爆炎科の子なら火傷くらい見慣れてるんじゃね?」

「俺、色白だからスゲェ目立つんだよね」

「好きな子居ねぇの」

「居ねぇなぁ」

「縁談は」

「来ねぇなぁ」

「お袋さん友達多いんだろ?」

「やんわり断られるらしい」

「爆炎科って、そんなにダメなのか」

「ダメだねぇ。母さまよく結婚出来たと思うよ」



 カフェテリアの建物に到着した。重たい樫の扉を押して中に入る。扉を取り巻く蔦を象る金属の枠は、魔法で常に形を変えている。昼には混むのだが、夕方は閑散としている。俺たちは食べ物を買って窓際に腰を下ろした。


「それも美味そうだな」

「んまいよ」

流塩(りゅうえん)地方の羽兎(はねうさぎ)だっけ?」

「そう。それの薬草焼き」

「衣美味そう」

「サックサク」

「いい匂いだな」

「匂いもいいよな」


 シドが羽兎をかじる度に、こんがりと焼き色がついた粗い衣からふわりと香ばしい匂いが立つ。ミードの甘酸っぱい香りと混ざり合い、食欲をそそる。



「ビリーはキッシュだけ?足りんの?」

「今日、移動研究会の呑み会なんだよ」

「へー」


 俺たちは早々に食事を終えて立ち上がる。食器下げ口へと向かっていると、涼やかな声が聞こえてきた。思わず声の方を向く。初めて見る女の子だ。一瞬目が合い、睨まれた。


「なに、ビリー、知り合い?何かやらかしたの?」

「いや、違う」

「ああいう子好きなの?」

「そうじゃねぇ」

「睨まれてたよな」

「目が合っただけだぜ?」

「酷ぇな」


 声が似ていたのだ。その生徒の声が耳に届いた途端に、初恋のお姉様を思い出したのだ。声だけだが。お姉様は、いきなり睨みつけるような失礼な女性ではなかった。優しかった。思い出が傷付けられた気がする。酷く嫌な気分だ。



 シドと別れて呑み会に行く。メンバーの1人が彼女を連れてきた。柔らかな明るい茶色の髪が女性らしく好ましい。


「よろしくお願いします」


 にこりと笑う。初恋のお姉様の笑顔が蘇った。金灰色の緩いウェーブに、群青色の瞳がよく映えていた。目の前のお嬢さんは可愛らしいが、髪の色も眼の色も違う。別人だ。


 そもそも、俺が4歳くらいの時にもう大人だった。4歳にとっては、14、5歳でも大人である。それを踏まえて考えると、どんなに若くても10歳は年上だろう。今なら若く見積もってもアラサーだ。


 親より少しだけ若い世代。今更ながらその事に気づく。素敵な人だったけれど、会ったのはたぶん一度きり。幼い頃の優しい情景に過ぎない。だが、今日突然に声や顔を思い出し、何だか懐かしい気分になった。胸の奥がじんわりと温かくなる。


(どこの誰だったんだろう)


 そろそろ実家に手紙を出す時だ。母に聞いてみるかな。



「風芳しく月は明るく、星の原より光流れて、太古より燃え続ける命の炎がある所、緑滴る清涼の森、ボイメ神秘国シーレの地より参りましたわたくしは、魔法統括官エドムント・アルブレヒトが長子、ヴィルヘルム・ハインリヒでございます。本日は……」

「え、ビリー、なにそれ」


 ぼんやりと初恋の美しい思い出に浸っていて、思わず正式な挨拶を初めてしまった。立板に水の自動再生を、移動研究会員で爆炎科の同級生ダンテの大笑いが中断する。笑い声で我に返らなければ、延々と堅苦しい挨拶をかましていただろう。正直、助かった。


 その後は特に何事もなく、呑み会は和やかに終わった。




 母への手紙でお姉様のことを尋ねたら、色々聞いて回ってくれたようだ。母の友人の親戚で、今はなんと魔法学園で働いているという。魔法生物育成科なので、校舎の敷地からして違う。こんなことでも無ければ、二度と会わなかっただろう。せっかくだからと話が通り、俺は10年ぶりにお姉様と会う事になった。


「覚えててくれたなんて、嬉しいわ」


 お姉様は素敵なおばさまになっていた。旦那様は少し歳上の同僚で、お子様は3人いて、皆俺より少し下。人当たりの良い兄妹だった。


 後日、シドにニヤニヤされたが、特にときめいたりはなかったのだ。残念ながら。


「女の子もいたのか」

「いたけどな?そういうんじゃなかった」

「何だよ、つまんねぇ」

「そんなもんだろ」

「それよりお前、今日は昼寝すんなよ?」

「分かってるって」


 実はあれから2回、同じ場所で寝過ごして授業をサボってしまったのだ。流石に反省したので、食後横になるのはやめておく。シドは何か用事があってどこかへ行ってしまった。俺は特に用もなく、ぶらぶらと構内を歩いていた。



「わあっ!ぎゃあー」


 突然、女性にしては低い声が、色気も風情もなく響く。妖精林檎の陰から灰色の石ころが幾つも転がって来た。続いて、這いつくばって石を拾い集める女子生徒が現れた。石は広範囲に散らばっている。


 たまたま辺りに人影はなく、ひとりで必死に拾っている。気の毒だ。俺は石を拾い集めるのを手伝うことにした。


「ああっ、すみません、ありがとうございます!」


 よく響く声は美しくはないが、誠実で頼り甲斐がありそうだ。焦りつつも冷静を保ち、石の汚れをひとつひとつ丁寧に拭いながら木箱に回収してゆく。


 可愛いな。


「この石、何に使うんですか?」

「あっ、これ、燃料石の原石なんです」

「へえーっ!君、激流科ですよね?燃料石って水と関係が?」


 女子生徒のマントは、水使いが所属する激流科の紺碧だ。


「ああ、いえ、燃料石研究会に所属してまして」

「あ、そうなんだ。燃料石を研究するサークルですか?」

「そうです。地味ですけど、面白いですよ」


 話しながらも、俺たちは淡々と手を動かす。水使い女子は、働く人の手をしていた。傷もあり、節も目立つ。声と同じくしっかりと太く、筋肉の付いた指で、灰色の小石を確実に集めてゆく。堅実な様子が実に良い。


「例えばですね」


 作業の中で、女子生徒は小石をひとつ、自然な動作で差し出した。俺は思わず受け取ってしまう。


「その石を握ってみて下さい」


 言われるままに握る。


「開いてみて下さい」


 掌には、少し赤く光る小石が載っていた。


「では、燃やしてみて下さい」


 今度は、石を火で包む。


「わあっ、凄いですね。綺麗」

「えっ?」


 俺は戸惑った。


「こんな綺麗な火炎魔法、見たことないです!」

「いや、普通だけど」

「ええっ、爆炎科の人、うちのサークルにいるけど、もっと色は濁ってるし、炎の勢いも弱くて、石の包み方も均一じゃないです」


 女子生徒の手が止まる。苔色の瞳がキラキラと輝く。日焼けした丸顔を取り巻く地味な鳶色の巻き毛が、そこはかとなく愛らしい。



「あれ?」


 石に灯った火が奇妙な渦を作り始めた。


「ふふ、面白いでしょう」


 炎は小鳥のような形を作り、石の中に吸い込まれて行く。


「この石、全部こうなるんですか?」

「その人の魔力によって形は変わるんですけどね」


 女子生徒は小石に水を纏わせる。水は渦巻いて可憐な小花の形を作り、消えるように石の中へと染み込んだ。


「綺麗だな」

「あら、ありがとうございます」


 女子生徒はニコッと笑う。俺の胸は高鳴った。自然と口元が弛んでしまう。


「精製前の燃料石は、魔力を注ぐとこんなふうになるんです」

「知らなかったなぁ」

「機械を動かしたり、調理に使ったりは出来ないんですけども」

「精製しないと、魔力を溜められる容量が小さいんですか」

「そうなんですよ」



 楽しそうに語る女子生徒が眩しく見える。


「あの、実験、手伝いましょうか?」


 照れ臭くなって石拾いに集中したが、思いついて申し出る。すると、女子生徒は、嬉しそうに声を弾ませた。


「是非っ!あ、私、激流科3年のミリアムです。キール王国出身なので、名字はありません」

「俺も3年。ヴィルヘルム・ハインリヒ。ボイメ神秘国出身だから、俺も名字ない」


 同学年だと分かって、敬語が取れた。ミリアムの手がまた動き出す。


「ボイメ?ごめんなさい、知らない」

「北の方の小さな魔法国家だよ」

「後で地図を調べてみるね」



 ちょっと気まずくなったので、慌てて話題を変える。


「キールって魔法鉱物で有名な?」

「そう。しっかり学んで国で活躍したいの」

「へえー。すげぇ。俺、将来とか決まってねぇ」

「贅沢な悩みねぇ。どこだって大歓迎でしょう?こんな凄い火を作れるんですもの」


 ミリアムは不思議そうに俺をみる。キョトンとして無邪気な子猫みたいだ。俺はどきりとしてしまう。


「ちっとも。爆炎科なんて、ならず者だと思われてるしな」

「ええっ、そんなぁ」

「ミリアムも聞いたことあんだろ?」

「学園内の他学科への悪口かと思ってた」

「ミリアムいいやつ!」

「ええっ?なんで?」

「俺を見ても怖がらないし、嫌がらないし」

「それも何で?怖くないし、嫌じゃないけど」


 冗談だと思ったのか、ミリアムが軽く笑い声をたてる。妖精林檎の花の匂いを運ぶ風が、鳶色の巻き毛を撫でて吹き過ぎた。ミリアムは片手で髪の毛を整える。愛らしいなあ。


「あ、俺授業だから。行かなきゃ。燃料石研究会ってどこで活動してるの?」


 ミリアムに燃料石研究会の活動場所と時間を聞く。


「じゃあ、また今度」

「また」


 その日、眠りにつく前に自然とミリアムの笑顔が目に浮かんだ。生き生きと燃料石のことを語る様子や、丁寧に石を拭う手つきも思い出す。研究会を訪ねる日が待ちきれなくなってしまった。



 次の日は朝一から実技授業で疲れたので、カフェテリアへと急ぐ。ぐるりと見回すがシドは来ていない。爆炎科の仲間と来る時もあるが、今日は1人で来た。俺はミードが飲みたかった。だが、他の連中で今日カフェテリアに行きたい気分の奴はいなかったのだ。


 今日は汁物にした。白身魚のすり身団子が入った根菜スープに、三角形の平たいパスタが浮いている。ミードは2杯頼んだ。一杯目を一気飲みしてグラスを置いたところで、耳に心地よい真面目な声が降って来た。


「あっ、ヴィルヘルム・ハインリヒ」

「おう、ミリアム」


 思わず笑顔になって見上げると、苔色の瞳が柔らかく笑っていた。声を失いじっと瞳に見入ってしまう。



「ここ、いい?」

「うん、座って」

「今日一緒に食べる人いなくて」

「ちょうど良かった。俺も今日ひとり」


 ミリアムはコトンとプレートランチを置く。


「実技だったの?」


 小さな音を立てて腰掛けると、ミリアムは水色の炭酸水を口にした。丸い氷が入ったずんぐりしたグラスで提供される、甘口の清涼飲料だ。甘いの好きなのか。なんとなくさっぱり派かと思ったんだけど。 


「そう。きつかった」

「やっぱり。これふたつともミードのグラスでしょう」

「魔力空っぽだぜ」


 俺はおどけて笑ってみせる。ミリアムはほんのり頬を染めて、厚切りベーコンを一口サイズに切り分ける。付け合わせのサラダが緑や赤で彩りを添えていた。


「ヴィルヘルム・ハインリヒほどの魔力が空っぽなら、2杯でも足りないんじゃない?」

「昨日ちょっと見ただけなのに解んのか?」


 俺は驚いて目を見開く。


「燃料石の原石に魔力を注ぐと、色んなことが解るんだよ」

「へえー」

「面白いでしょう?」

「面白いな」


 ミリアムは得意そうにニコッと笑った。


「あのさ」

「何?」

「ビリーでいいよ」


 ヴィルヘルム・ハインリヒはちょっと長すぎる。学園では皆ビリーと呼ぶので、ミリアムもそう呼んでくれたらいいな。



「私、よくミリーって呼ばれるんだけど、似てるね」


 思いがけない障害があった。どうするかな。


「そうだな。じゃあハイニーで」

「うん、わかった。ハイニー」

「ミリアムはミリーでいいの?」

「うん。ミリーでいい」

「解った。ミリー」


 ニックネームの交換をして、俺たちは友達になった。 




 燃料石研究会は想像以上に面白かった。だが俺は移動研究会に所属している。爆炎科の特性を生かした移動方法を研究する傍ら、幻の古代魔法「ゲート」復活を目指すのだ。だから、燃料石研究会にはそんなに参加できない。興味は引かれるので、たまに手伝う程度の関わりとなった。


 そんなある日の夕方、シドと夕食の相談をしていたら、ミリアムが通りかかった。


「ハイニー」

「お、ミリー」

「今度、採掘行ってみる?」

「いつ?」

「今週末行くんだけど、暇?」

「暇。行きたい」

「じゃあ、夜明けに裏門の魔法車両乗り場でいいかな」

「夜明けぇ?」


 成り行きを見守っていたシドが、素っ頓狂な声を出す。


「採掘場は遠いからね」


 ミリアムは動じない。流石だな。


「週末の夜明け、裏門の魔法車両乗り場だな」

「そう」

「じゃ、そん時に」

「うん」



 浮き立つ心で榛色の巻き毛を見送る。しばらく見ていると、シドが不審そうに話しかけて来た。


「誰?」

「激流科のミリアム」

「いつ知り合ったの」

「最近」

「彼女?」

「や、友達」

「ふーん。好きなの?」

「え、可愛いとは思うけど」

「ふーん」


 シドが納得できない顔をしている。


「採掘ってなに?」

「ミリアムは燃料石研究会なんだよ」

「ああ、それで」


 それで?どういう意味だ。


「何だよ、それでって」

「いや、別に」

「気になるなあ」

「いいよ、気にしなくて。いいと思う。お似合いだぜ」


 シドは、奥歯に物の挟まったような言い方をしてくる。



「何だよ。はっきり言えよ」

「え、別に」

「別にじゃねえよ。気になるだろ」

「気にすんな」

「言えよ」


 シドは舌打ちをした。俺はだんだん苛立って来た。舌打ちしたいのはこっちである。


「あー、まあなあー。夜明けに集合して採掘とか」

「それがどうしたんだよ」

「別にいいんだよ、変に思わないなら」

「採掘場遠いって言ってただろ、ミリアムが」

「いや、いいんだって。同じ感覚なら」

「何だよ、引っかかる言い方しやがって」

「ほんと、俺のいうこと気にしないでいいから」

「なんなんだよ、もう」


 失礼なやつだな。



「そんで、どこ行く?」


 シドはもう興味を失ったのか、話を夕食に戻した。


「え?飯?」

「そう。飯」

「たまには外行く?」

「外か。門限大丈夫かな」

「学園の近くなら大丈夫だろ」

「魔法車両、帰り便は早くなくなるしなぁ」

「短距離ならゲート使えるぜ」

「おまっ、ビリー!」


 シドはギョッとして俺の目をぐぐいと覗き込む。


「何だよ」

「何やらかす気だよ。お気軽に古代魔法なんか使うな」

「大丈夫だって。普通に使ってっから」

「学園には申請してんのか?」


 優等生はこれだから。


「移動研究会としての実験許可は毎年貰ってるよ」

「実験扱いなの?」

「そう」

「教員立会いるんじゃね?」

「安全基準の確認済んでるから大丈夫だぜ」

「ほんとかよ」

「本当だよ」


 そのあたりの融通は効くのだ。


「じゃあ、行くか」


 俺は目の前の空気に、指先に灯した炎でアーチのような線を描く。すると、炎のアーチの向こうには飲食店街が見えた。


「そういうことするから、ならず者とか非常識とか言われんだよ」


 シドが死んだ目になった。ならず者は俺個人の渾名じゃないのだが。爆炎科全体がそう呼ばれてる。非常識のほうは初耳だ。今日のシドは全くもって無礼であるな。


「行かないのかよ?」

「いや、行く」


 結局行くのか。まあいい。兎に角街に出る。時間がないので制服のままだ。専攻科ごとの色違いマントの下は、茶色い毛織のローブである。けっこう暑い。今年の夏からは涼しい麻素材の導入が検討されているとか。本当だといいな。



「やっぱ平日の夕方は知った顔いねぇな」

「シドは街に住んでる知り合いいねぇの?」


 寮生は、やはり門限を気にして夕方街に出ることは控えるらしい。


「そういや、いねぇや」

「そうか」

「うん。ビリーは?」

「爆炎科のやつが下町に住んでるらしい」

「へえ。旨い店教えて貰った?」

「雪原トカゲの旨い店があったな」

「トカゲ?」


 シドがまた警戒を始める。


「雪原トカゲはトカゲって名前だけど、牛の一種なんだよ。鱗もない」

「えー?なんでトカゲって言う?」

「知らね」

「店で聞けるかな」

「かもな」



 喋りながら煉瓦の道を進む。


「あっ、シド」

「ごはん?」

「ねーねー、新しくできた店行くんだけど、一緒に行かない?」


 女の子たちが、シドだけに話しかける。いつものことだ。町住まいなのだろうか。時々見かける寮生の私服よりもラフな格好である。地元民にとってはお出かけじゃないからな。


「ビリー、どうする?」

「何の店だろ」


 シドは女の子たちに向き直って店の詳細を聞く。


「パンケーキ」

「え、夕食に?」


 俺は呆れた。


「俺たち肉食いたいから、やめとく」


 シドも乗り気ではなさそうだ。


「えーっ、お食事パンケーキもあるのに」

「今パンケーキはいらないかな」

「そうなんだぁ」

「残念」

「じゃあまたねー」

「うん、じゃ」



 しばらく歩いて、俺たちは普通の定食屋に入った。結局、トカゲと言う名の未知なる肉はやめておいた。


「あれ、ハイニー」


 定食屋では、燃料石研究会のメンバー数人が帰るところだった。


「よ、街住まいだったのか」

「そうだよ。ビリー寮って言ってなかった?」

「寮だよ」

「え、門限は大丈夫?」

「帰る手段あるから」

「へー」


 燃料石研究会のメンバーたちが聞きたそうにしている。だが、まだゲートの事を話すほど親しくはない。研究途中の魔法なので、噂が広まって使いたい人が殺到しても困る。強引に話を変えよう。


「ここうまい?」

「旨いよ」

「だいたいどれでも旨い」

「へえ、ここにしてよかったな、シド」

「そうだな」



 定食屋は賑わっていたが、運良く待たずに座れた。


「なあ、ハイニーって呼ぶのあの子だけじゃねぇんだな」

「えっ?ああ、あの子ミリーって呼ばれてるからさ。ミリーとビリーじゃ紛らわしいだろ」

「何だ、そうか」


 シドはがっかりした様子を見せる。


「不審がってたくせに、何がっかりしてんだよ」

「いやだって、友達に恋人が出来たら嬉しいだろ?」

「そりゃまあ」

「本当にただの友達かぁ」

「いやまあ」

「警戒すんなよビリー。別に狙ってねぇよ」


 それはわかってる。解ってても、一応は俺が気になってる子だってことは知っていて欲しいような。


「あんな変人、そうそう盗られねぇから」

「シド、失礼だな」

「いや、変人だろ」

「何で。可愛いだろ。好きなことに熱心で真面目で」

「夜明けから採掘行くとか」

「可愛いじゃねぇか」


 シドは俺をじろじろ見てくる。


「何だよ」

「好きなんだな」

「え、いや」

「違うのか」

「違うってわけじゃねぇけど」


 注文取りが来たので、気恥ずかしい話は中断された。2人して、店員に看板メニューのクリームコロッケを頼む。


「初恋のお姉ちゃんとはずいぶん違うタイプだよな」


 シドには魔法複写版という道具で、初恋のお姉様と再会した日の様子を見せていたのだ。おばさまになっても、お姉様は綺麗な笑顔の優しい女性である。見た目も似ていないが、実直で一生懸命なミリアムとは雰囲気も違う。


「どうだっていいだろ」

「さっさと付き合えばいいのに」

「まだそこまでじゃねぇし」

「ふーん」

「何だよ」

「週末頑張れよ」

「揶揄うな」




 採掘の日、他にも人が来るかと思ったらば、ふたりきりだった。あの時俺を見かけて、たまたま思いついて誘っただけらしい。お陰で、一対一で指導して貰えた。


「ミリー、ありがとう。楽しかった」

「ならよかった」

「ゲートに使えそうな石もありそうだって解ったし」

「ライフワークになるんじゃない?」

「そうだなあ。今のところ、魔法が使えない人用にするにはコストがかかりすぎるからな」


 ミリアムは一旦口を閉じて考え込む。


「ねえ、研究科に挑戦しない?」

「俺が?」


 再び開かれたミリアムの口から出た言葉に、俺の声はひっくり返る。ミリアムは朗らかにわらった。


「可愛い」


 俺は思わず言葉を漏らす。


「えっ!ありがとう」

「可愛いよねぇ、ミリアム」

「やだ、何回も言わないでよ」


 恥ずかしがって赤くなる様子も、つくづく可愛いと思う。帰りの魔法車両の中、俺は思い切ってミリアムの手を握った。ミリアムは嬉しそうに俺を見て、黙って手を握り返してくれた。



 その後、俺とミリアムは燃料石を使った道具でゲートのアーチを描く研究を始めた。卒業迄には間に合わない。


「ねえ。本気で研究科に進もうよ」

「共同研究じゃ、取ってくれないんじゃね?」

「魔法環境の先生に相談してみたんだけど」

「魔法環境?」

「魔法学園の授業だと、魔法鉱物学は魔法環境学の一部として勉強できるんだよ」

「選択科目か」

「そう。たしか、ハイニーが取ってる魔法化学と同じ理科の選択科目カテゴリーだったよ」

「へえ、そんなのあったっけ」


 ミリアムは真面目な顔で頷く。


「あるよ。それでね。魔法環境の先生は、先々は共同研究にしたいとだけ言っておいて、試験は夫々の内容で計画書提出したらいいって」

「なるほど」



 シドに話すと顔を顰められてしまった。


「お前さ、ほんとに研究科進みたいの?ミリアムが行くから?」

「ゲートの研究は続けたい」

「実技専攻から技術専攻に転向ってだけでも珍しいのに、爆炎科から研究科上がるのなんて、前代未聞じゃね?」

「そうかもな」

「大丈夫なのかよ」

「やるだけやってみる」

「まだ3年だし、就職先も探しながらよく考えたほうがいいぜ」

「そうするよ」



 麻の制服が正式採用になった。マントも麻に変わったのだが、色が毛織の物よりも薄めだった。


「濃いのも良いけど、その色、ハイニーに似合ってる」

「ほんと?ミリーに褒められると嬉しい」

「やだ、また」

「ミリーは薄いの着ると大人っぽいなあ」

「嬉しい」


 頬を染めて笑顔を輝かせるミリアムの手を、思わずそっと握った。俺たちは妖精林檎の下に立っていた。初夏の頃、花盛りのこの木の下で、俺たちは出会ったのだ。真夏になった今、木には薄紫の大きな実が枝もたわわに実っていた。



「なあ、この木、覚えてる?」

「覚えてる」

「実技棟の角から5本目」

「ここだったよね、初めて会ったの」

「落とした燃料石を丁寧に拭いてから箱に戻しててさ」

「そんなこと見てくれてたの」

「うん。すごく真面目で可愛いなって思った」

「ハイニーの炎はとても綺麗で驚いたな」

「あの時もそう言ってくれたねぇ」


 俺たちは手を繋いで妖精林檎を見上げた。


「ハイニー知ってる?妖精林檎は花も実も毎年つけるんだけど、()は遥かな昔の花が実った物なんですって」

「聞いたことある」

「何だか壮大よね」

「不思議な植物だよなあ」

「魔法植物だからね」


 薄紫に煌めく妖精林檎の爽やかな香りを浴びて、俺たちは視線を戻して見つめ合う。しばらくの後、ミリアムが静かに言った。


「校章の木だよね」


 俺は頷いて、校章のモットーを口にする。


「時の彼方に実を結ぶ」

「うちのモットー、好きだなあ」

「いいよね」



 木漏れ日がミリアムの苔色の瞳を神秘的に彩る。


「君は森の精霊みたいだね」

「精霊?」

「俺の故郷シーレには、森に精霊が住んでてさ」

「森の生き物?」

「精霊知らない?」

「知らない」

「場所や生き物の思いから生まれる魔法存在のことなんだけど。そういや、シーレ以外じゃ見たことねぇや」


 ミリアムは繋いだ手で俺の腕を軽く引く。


「ねえ、ハイニー。素敵なところね。シーレって」

「ミリーに褒めて貰えて、ほんとに嬉しい」


 俺の心は幸せでいっぱいになってしまって、ミリーの方へと静かに身を屈めた。ミリーの瞼がはにかんで一旦下がり、また上がって見つめ返してくる。ゆっくり顔が近づいて、自然に2人は目を閉じた。


 言葉もなく、互いの鼓動だけが大きく響く。初めて触れ合う唇の感触が、柔らかに2人の心を結びつけるのを感じた。




 4年生の秋、シドは就職先兼婿入り先が決まった。相変わらず好きな人も出来ずに、告白されてもなんとなく断っていたところへ、見合い話がまとまったのだ。


 初恋のお姉様が、俺の友達に電撃科の優等生がいるという事を覚えていたのが始まりだ。お子さんのお友達が王立魔法学園の電撃科に進みたいと言い出した。そこで、俺経由でシドが受験サポートのバイトを始めた。


「その子の親御さんが俺の授業の様子見てて、合うんじゃないか、って、紹介してくれてさ」


 親御さんの知り合いに会ってみたら良い感触で、数回デートして本決まりになったという。まとまる時にはあっという間だな。


「おめでとう」

「お前は?どうなってんの、ミリアムと」

「えっ、いや」


 出会ってから1年、2人で研究したり食事に出かけたりはしている。デートだってしてる。一緒にいると心地よいし楽しい。


「研究以外の話すんの」

「するよ!」

「結婚しねぇの」

「俺たちはゆっくりで良いんだよ!」

「ミリアムと結婚してぇの?」

「共に過ごしたいとは思ってるけど」

「それじゃダメなのか」

「俺たちはお見合いじゃないからな」


 見合いで婚約したシドと違って、俺たちは互いの家の状況や条件を知らない。故郷や家族のことはポツポツ話してはいるが、家族の仕事や将来住む場所のことは話題にしていなかった。そろそろ話しても良いかもしれない。



 秋が過ぎれば、魔法学園には長い冬休みが来る。今年はミリアムに故郷の森を案内する約束になっている。森が氷で閉ざされる前に、森の精霊たちに会わせたいのだ。


「家族もミリアムに会えるの、楽しみにしてる」

「お父さんの魔法統括官って、何してる人?」

「魔法に関わるあらゆる事に対応する係」

「1人で?」

「何人もいるよ」

「へえー」

「キール王国にも似た仕事ある?」

「ないと思うなぁ」


 俺たちは、育ってきた国も環境も違う。もし本当に家族として暮らすなら、互いの文化を知っておくのは大切だ。ボイメ神秘国のお祝いが、キール王国では禁忌という事だってあり得る。



「精霊に会う時、気をつける事ってあるかな」


 ミリアムは、ちゃんと気を遣って聞いてくれる。遠慮しすぎて質問しないと、致命的な事故に繋がる時もあるだろう。こちらが常識だからと思って相手への配慮をせず、説明を怠る場合もあるのだ。


「色とか、音とか、なんかある?」

「そうだなあ」


 精霊の領域を犯さなければ大丈夫だが、それをどう説明するか迷う。


「森を荒らさなければいいと思うけど」

「それだけ?」

「それだけかな」

「良かった。具体的な禁忌は知らないと困るからね」

「あ、そういうの無いから平気」

「そっかあ。精霊って優しいんだね」


 ミリアムのほっとした笑顔が愛しくて、俺は思わず抱き寄せる。


「えっ、恥ずかしい」

「ミリー可愛い」

「やだもう、恥ずかしい」




 晩秋の森の中、ミリアムと俺は手を繋いで歩いてゆく。なかなか精霊が姿を現さない。外国人が訪れることは滅多にないのだ。隠れて観察しているのだろう。


「うわぁー!広いねぇ」


 突然目の前が開けて、対岸が見えないほどの湖に出た。水使いのミリアムを是非連れて来たかった場所である。


「水がとっても澄んでる」

「嬉しそうだな」

「連れてきてくれてありがとう」

「喜んでくれてよかった」


 俺が腰を曲げて口付けを落とすと、ミリアムは恥ずかしがってもじもじした。


 身を寄せ合って静かな湖面を眺めていると、風に乗って木の葉が流れてきた。赤や黄色の枯葉がくるくると湖の上を舞う。やがて湖面に降りて、今度は漣に身を任せる。


 ミリアムがふと片手を挙げた。何か魔法を使うのだろう。見ていると、掌から飛び出した指先ほどの水球が風に舞う木の葉の方へと飛んでゆく。小さな水球たちは晩秋初冬の冷たい風を切って、鮮やかな枯れ葉を飾るように飛び交う。



 俺は水面に炎を当てて湯気を立て、所々に拳大の火の球を浮かべる。木の葉と水球のダンスは靄の中で幻想的に繰り返す。火の球に照らされて、靄のスクリーンを木の葉の巨人が愉し気に行き交う。


 俺たちが無言で遊んでいると、森の精霊たちも集まってきた。湖の精霊も、木の葉の精霊も、鳥や動物の精霊も来た。枯れ葉と水滴の静かな踊りは、いつしか賑やかなパーティーになっていた。


「ミリー、踊ろうか?」

「え?私踊れない」

「適当でいいんだよ、誰も観てねぇし」

「精霊たちが観てる」

「精霊たちだって適当だよ」


 ミリアムは精霊たちの様子をまじまじと見る。


「あらら、ほんとだ」


 屈託のない笑顔を見せた恋人に、俺はもう一度口付ける。それから水と火の勢いに乗って、俺たちは湖の上に飛び出した。精霊たちも快く迎え入れてくれる。


 腰に手を回したり、繋いだ手を高く上げて回転したり、踵を打ってみたり。2人とも決まったダンスは知らないから、精霊たちの真似をして、出鱈目なダンスを踊る。



 ミリアムの髪を木の葉の欠片や水滴が飾る。ふわふわと跳ねる鳶色の巻き毛がたまらなく愛おしい。苔色の瞳は、真っ直ぐに俺を見つめて輝いている。


「ミリアム!」

「えっ、なあに?改まって?」


 俺はだらしなく顔が弛むのをどうすることも出来ない。


「ミリアム、俺たち、結婚しよう!」


 一瞬驚いて動きを止めたミリアムは、すぐに破顔して抱きついてきた。


「そうね!ヴィルヘルム・ハインリヒ!私たち、結婚しよう!」


 俺たちは意味もなく笑い声を響かせながら、広大な湖の上で、月が出るまで精霊たちと踊り続けていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)NARUTOの世界観に入ったみたいな。登場人物に属性がある世界観がなんとも良かったです。「俺たち爆炎科」ってフレーズがなんかツボでした。 [気になる点] ∀・;)ちょっとボリュームが…
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