第9幕
「こうして来るなんて珍しいね」
「今日は腕試しでお願いしたいです!
ミャーさんよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
いつものように挑戦者の音で出ていくとアルトとノールがやってきて礼儀正しく挨拶をする、自分たちの力を試しにきたみたいだね
「はい!よろしくお願いします」
ミャーも2人に倣って挨拶するとお互いに構えた
まず2人が同時に前へ1歩踏み出すとミャーも合わせて前に3歩出る
途中でアルトがノールより僅かに先行すると短剣を間合いに懐から取り出しアルトの目線の高さで直線に投げると脇にズレてノールが一気に加速した、ミャーはアルトの剣を柄の部分を弾くように叩き払い向かってくるノールの剣に動きを合わせ手を取ろうとした、しかしそこに短剣が飛んできてミャーは横へと跳んで躱すとノールがここぞと姿勢を低くして全速で短剣を振り抜いた、それにミャーは短剣の刃を摘まむことで対応、その隙を見逃さないとアルトは1本軽い山なりに投げ後ろに回ってミャーの首元へと最後の短剣を突き立てにかけた、それと同時にノールは短剣を放つと横にズレて蹴りを行う
一瞬の間に威力をずらされた短剣と上から後ろからくる攻撃にミャーの重心は外されて動けないはずだったが後ろも見ずにアルトの短剣を避けてクルリとアルトを回り首と肩に手をかけて後方だった方向に引っ張りうつ伏せに倒し片腕を引く
それを見てノール悔しげに降参したことでミャーはアルトの腕を離したのだった。
「「ありがとうございました!」」
「はい!どういたしまして!」
ミャーは前のアルトたちの実力くらいで応戦していたけれど、途中から動きが明らかに速くなり力を入れたのが分かる、2人も少しは分かるのか満足そう
「ミャーさんが本気を出されたらどうなのか想像もつきませんね!」
「ホントだな、絶対仕留めたとおもったんだけど」
「アルトは投げナイフ…投げ剣?が安定していたね」
「あれから力負けしてしまう欠点を補うために一生懸命練習しましたよ」
「アルトは早起きして空いてる時間があれば練習してたよな!」
「それは、ノールもでしょ?」
「まぁな、ミャーさんに負けてから頑張らなきゃって思ったから」
2人とも努力していて偉い、ミャーとの戦いがいい刺激になったんだね
「2人に聞きたいんだけど、竜ってどのくらいの強さに分類されているの?」
「「・・・・・」」
あ…何言ってるの?みたいな目はやめて…、最強の方だっていうのはなんとなく感じてたから
「みぃやさん、竜は個体差はあっても基本魔王を除いて1番強いと言われています」
じゃあ竜はこの世界でホントに1番最強だ!
「だから、始め俺たちは竜を討伐出来ることを最終目標にしていたんだ」
「魔王様じゃなかったの?」
「その魔王は竜を片手で倒せると称されていたからな」「そこまでは考えていなかったんだよね」
「今でも竜退治は目標なの?」
2人は1度顔を見合わせてから首を横に振るとミャーの方を向いて宣言する
「「ミャーさんに一撃を入れる!」」
それは魔王を倒すことよりも高い目標だよ、2人とも頑張ってね♪
「みぃやのために、いつでも相手しますよ!」
「「はい!」」
・・・??、わたし関係無いよ!?
・・・。
そのまま、荷車と共に街へ向かう。協会に加入しているからにはたまにでもお仕事をしないとね
と言ってもわたしは見ているだけだけど、道から外れて奥の方へ行くと一気に遭遇率が上がることを知ったのだった。
その中で持ち帰ったのは2種、クロアリ・・本当に人間サイズの蟻とホールディアという額に1本の短い角がある鹿、どちらも危険度は少ないが討伐が難しいらしい。クロアリは敵を見つけるとすぐに仲間を呼び集まって大群で襲いかかられ数でおされることになる、ホールディアは気配を察知する範囲がとても広く分かった瞬間死角から角を飛ばされて巣穴に逃げられるみたい、どちらもミャーが一瞬で倒したからわからないけどね。
・・・。
「みぃやさん、ミャーさん ??
こちらのクロアリは1体でしょうか?」
買い取りしてもらえる所に提出すると不思議な顔をされてしまった
職員はクロアリに傷は無いことから武器の類は使わないと思い接近戦で挑んでいるので奴に気付かれ仲間が呼ばれるのは必須である・・常識的には。荷車も余裕がかなりあるので1体というのは変に思ったのだ、仲間を呼ばれていれば倒した1体だけを回収して逃げるというのも難しい、積むのにもそれなりに重いから時間がかかる。この職員の思考はそう考えるのが限界だった。
「はい、乗せている|クロアリとホールディア《2体だけ》です、お願いします」
「・・はい、わかりました
クロアリですが、集団生物なので1体だと価値が低いので8Rです、しかし状態の良さから10Rで買い取ります。
ホールディアも同様に状態の良さから高めに買い取りしまして78Rでどうでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
危険が高いわりには安い?でも宿代が2体倒しただけで稼げるのだからかなりいいのか?
・・・どちらにせよサロさんがホイホイ出していたあれを稼ぐには大変だ! もしかして他のお仕事の給料の価値は高いとかあるかもだけど…
・・・。
外で待っていたアルトたちと合流する
「終わったよ」
「あぁ、クロアリのこと驚いていたんじゃないか?」
「よく分かったね!」
「クロアリを単体で出すやつなんて仲間と組んでいてバラバラで分配している人くらいだからな」
「それでも1体はいないですけどね」
次はクロアリは放置にしようかな、たくさん持ってくる気は無いし
「アルト、ノール、何か食べよう、協会初めての報酬だから2人にいつものお礼で奢るよ」
「「え!?」」
わたしの提案に2人はなんともいえない感じになってしまった。変なこと言った…、ミャーがやったのだから?
「ミャーいいよね?」
「はい!アルトとノールにもよくもらっています」
よく買ってきてくれるケーキ、自分たちは食べないでわたしたちだけにの時もある、さっきの報酬を考えれば大変なはずだ
「でもそれはみぃやさんたちが自分のために使った方がいいと思いますよ」
「それなら2人にそうしたいと使っているので大丈夫だよ!
・・・いっそ、お金でいる?」
「「えぇ!!??」」
「わ、分かりました! ありがとうございます!!」
「ちょっと待っててくれ!! 食事のこと言ってくる!!」
冗談で最後に付け足すとすごく慌てて青い顔になってしまった、強制になってしまったか!? 気軽に一緒してくれたらいいんだよ!
食堂はあるみたいで、その殆どは街のまとまった位置に存在している
「久しぶりに来たなぁ…」
「そうだねぇ…、僕たちも初めて受けた報酬で来たらすぐにお金が無くなって野宿することになったんだよね…」
それでビミョーな感じだったんだね
「何処がいいの?」
「あそこはおいしいって聞くけど」
「こっちは安くていっぱい食べられるって言ってたぞ」
2人とも知らないよね、高めでもおいしいお店がいいなぁと思っていたら後ろから聞き慣れてしまった声がした
「よぉ!街にいるなんてな!」
「・・・みぃやさんお知り合いですか?」
「・・・たまに来る挑戦者…」
アルトとノールはわたしを強面の男から庇うように立つ
「うぉ!そう警戒しないでくれ!
ただ、2人が愛し合ってくれればいいんだ!!」
場がシーンとなってしまった、注目も向いてしまった、アルトたちも意味が分からないと呆然となってしまった。
堂々と恥ずかしくないのか!こいつは、愛し合ったって(正しいけど)そういう風に捉えていたのか、てっきり絡みが見たいとかだけだと思ってたよ!
「んで、何だ飯でも食うのか?」
やばいほどメンタル強い…
「うん、少し高くてもいいからおいしいお店どこかないかなって」
「そうか、そうか、2人で食べさせ合っているのも見てみたいな・・・」
何呟いてるんだ…、アルトたちも前にしているのに何でこんなこと言えるの
「ヨシ! それだ!次に見せてくれたら、今、全部出してやる! お前らの分もな」
変人だけど・・気前いい! 聞いていたからいいけど自己完結した独り言を条件にしたし。今じゃないって言ってるだけ常識はあるのだろう
「いいかな?」
「……みぃやさんたちはいいのか?」
「うん」
ということでお店の紹介と奢ってくれる男が臨時のお供になりました
魔王領に来た人たちって教会の言う魔王の企みを阻止するため人のはずだけど、こっちの言い分に耳を傾けて理解してくれるいい人たちばかりだよね
・・・。
お店は店構えからして肉・肉・肉と前面に肉をアピールしているお店で店名が読めなくても分かった。見たことない生物の毛皮が店先に飾ってあって少女に勧めるようなお店じゃないね、でもお肉は普段食べないから嬉しい
「ここはうまいんだ!」
「お肉ですね!」
「そうだ、入ろう」
ずんずんと入っていくのでワクワクしながら後に続いた。内装は普通のお店と変わらずに落ち着いていた、外と内の売り込みの温度差が激しい。
「1人2つまで頼んでいいぞ」
「いいのですか…?」
「ああ!」
なんか親戚のおじちゃんみたい、でもわたしは1品でいいです、ミャーにお任せ
奥に立っている店員さんに大声で伝えるらしいが抵抗があるのかアルトはノールに任せていた。
「おいしいぃ♪」
わたしに来たのは直方体のサイコロステーキ、野菜風味のソースがかかっていてサッパリとおいしい
「みぃやさんはおいしそうに食べるね」
「とってもおいしいよ♪」
「あぁ…いいなぁ!」
男はわたしとミャーを交互に見ている、ここまでしてくれたんだもんね、レスピアの先に1切れお肉を刺すとミャーへと持っていく、ミャーもすぐに待っていてくれている
「ミャー、これおいしいよ、どうぞ♪」
「はい♪ (パクリ)おいしいです♪
みぃやも♪・・・はい、どうぞ♪」
「ありがとう♪(パクッ)うん!おいしいぃ♪」
アルトとノールには目を逸らされたが男には悶え祈られている、期待に添えたようでよかった! ・・でも・・・すごく恥ずかしい! ミャーに食べさせてもらって嬉しいけど、やるなら2人の時にしたい!
「ありがとう!本当にありがとう」
「どういたしまして…」
「ぇー…」「何に対するお礼なんだ…」
感謝する男はすごくご機嫌、2人は未だに引いてるけどさっきの行動が誰のためにしたか伝わったらしい。(顔が)少し熱くて周りを見ると、一部の人と奥にいた店員さんも静かに見ていたことに気づいてしまって居心地悪く残りを食べていたのだった。
・・・。
「「「「ありがとうございました」」」」
「こっちこそありがとな!!またな!」
お店を出ると男と別れる、値段はあまり高くないわりにかなりおいしかったからまた来たいね。結局ミャー以外は1品ずつと遠慮?していて、ミャーの2品目にも感謝を表してあれを1口貰う体でやったら、奢ってもらうのにお金を差し出してきたのでなんとか断っていたら更に2人に引かれてしまったよ。
「ホントによかったのかな?」
「うん…あの人とは初対面だしね」
「大丈夫だよ、あの人は変…優しい人だから」
「うん…でもみぃやさんたちがやってたあれは何だったの?恥ずかしくなっちゃった」
あれ?それ聞いちゃう?ソッっとしておく場面じゃないの、個人情報(にあたると思われること)だし、あまり言いたくないよね
「うーん、敢えて言うならあの人へのお支払いかな…」
「お支払い…、みぃやさんは何を目指しているんだ…」
ごめん、それはわたしもそう思う
「そういえば、あの人のお名前はなんというのですか?」
「・・・・・・分かりません…」
「「えぇ!?」」
名前も知らない顔見知りに奢ってもらう、怖いですね。でもね、合ったら名前くらい名乗ると思うでしょう、自然に知らないアルトとノールも誘ってはい!お別れってあなたたちも名乗るタイミングなかったんだよね…
「今度会ったら聞いてみるよ」
「「・・・。」」
帰り道、ミャーと話していたら4匹のグレーウルフに遭遇する
「グレーウルフ!」
「いいえ!ホワイトウルフです!」
「え?前に見たのと同じだよ」
2体が左右に回って同時にみやへととびかかる。もう2体は後ろに駆けていた、弱い奴を本能的に見抜き先に集中して倒しにかかる
「みぃや! 鼻の毛が白いのがホワイトウルフです、グレーウルフより遅いですね」
ミャーは襲いかかっていた2体を倒すとみやを抱えて荷車を引く方に移動した。目標が消えたことで後ろの2体は混乱して逃げようとした
「ありがとう♪ ミャー1体捕まえられる?」
「はい!」
ミャーはみやをゆっくり下ろすと1体を倒す、そのまま一気に向きを変え逃げようとしたもう1体を吹っ飛ばしてみやへと合図した
「ミャーすごいね♪
たしかに鼻の部分がちょっとだけ白い、変」
ミャーが気絶したホワイトウルフを抑えてくれているので頭を撫でてみる
「あんまりフワフワじゃないね」
治れーと念じてみるが気絶したままだ、繋がっている必要があるのかやり方が違うのか。それに『動物』が生き物全てであれはもらった能力であるとほぼ確定付ける
軽く何度か叩いてみると唸りながら目を覚ます、それと同時に噛みついてくるがミャーが後ろに下がる
「ホワイトウルフ、仲間になってくれる?」
「グルルルゥ!!」
「言葉の無い唸りです」
「うん、ミャーありがとう、もういいよ!」
「はい!」
ミャーは軽くホワイトウルフを奥の方に放り投げると、逃げるより標的にし直したのか素早く戻ってきてミャーに襲いかかり、返り討ちにあった。
逃げれば追わなかったのに…
「・・・帰ろうか」
「はい」
・・・。
魔王領の近くの分かれ道にある看板でミャーが止まった、どうしたのかと思ったら内容が少し変わったみたい、わたしも見てみると読めなくなっていた
「戻る看板が読めなかっただけでこっちは読めていたよね?」
「はい、なんででしょうか
みぃや、読みますね」
『 注意!!
この先、魔王やその手先のいる魔王領です
入りたい者は協会の許可を得ること(詳しいことはヘルメス協会まで)』
前は何だっけとミャーが教えてくれると始めの文の表現が軽くなっている風に感じる、『非道な悪魔』とか書かれずに事実だけ、人によって違うイメージをさせるような文だ、協会が書きかえたのだろうか
思えばこっちに来てから今までに文字読めたのって・・・
「ミャー、文字って種類ある?」
「!!、はい! 2種類あります!!」
始めから普通に意味が理解出来て読めてしまうために気付かなかったみたいだ。 わたしが読めるのは一般的にあまり使われていない文字なのかもしれないね
ともあれ魔王領に対するイメージが上がったかもしれないのはいいことだ
もう自宅と思っている門にただいまと帰るとポポちゃんがお出迎え、気分がどんどん上がるね♪
「ポポちゃん、ただいま♪」「ただいま!」
「うんっ♪ 変来てるよ♪」
ん?変?お客様? とりあえず移動してもらおう。 いつも挑戦者を迎える場所の中心にて静かに目を閉じ座っている人が、わたしたちが急に現れたことに驚き、それを隠すように取り繕うといい笑顔になる
「おや?みぃやさんですか?
お仕事お疲れ様ですね?
あ、ミャーさん!こちらをどうぞ!
娘から、貴女をお待ちしていますと言われているので、どうかいらして下さいね♪」
・・・こっちに何か言わせる気がないな…
お客様をお待たしていて自分は遊んでいるなんていい御身分ですね?というところだろう・・・ふわふわそうは耳を触りたいけどウザイ
「はい♪みぃや」
「ありがとう♪ニアルトさん」
ミャーが渡されたお土産をすぐにこっちにくれた、ものすごく睨まれる
「僕はニアルトクリヴストだ!そんなことも覚えられないのですか?
里の情報も流したんじゃないですかねぇ?」
「・・・みぃや?」
首を横に振ってミャーが殴ろうとしているのを止める、いっそ一発くらいと思うけどダメだよ
「スミマセン、ニアルトクリブストさんですね
それでノーヴェに会いに行っていいってことですか?」
「ひと言もそんなこと言ってませんよ?ミャーさんを誘っておりました!!
それに僕の娘をそんな風に呼ぶなぁぁ!」
・・・娘を通しても何も変わることがなかったな…、ノーヴェ…君のお父さんウザイよぉ助けてぇ
「みぃやが行けないなら行かないって忘れましたか?
それにノーヴェがそんなこと言うわけないと思います!」
「・・・みぃやさんもいつでもかんげいいたします…、おすきなときにきてください」
かなり棒読みだ!
「みぃや♪」
ミャー効果高いな!ミャーにはよっぽど嫌われたくないんだ、もう手遅れだけど。人を見るだけで嫌悪しているのは分かるけどせめて表面上くらい取り繕わないと、…それすらも無理な程なんだろうけどね
「ありがとうございます、またミャーと遊びに行きますね」
「ハイオマチシテマス。では!ミャーさん、僕はこれにて、是非今度はお一人で我が家に遊びにいらして下さい」
めげない、堪えない、学習しない、ミャーに好かれる最低条件すらクリアー出来ないのか?
ニアルトさんは帰っていくと、ミャーがスリスリと寄ってきた・・・可愛い!すぐに気分復活
「ミャー♪可愛いね♪」
「はい!みぃやも♪」
するとパッと部屋に移動していて、ポポちゃんも現れスリスリしていた
「ふにゅ♪みぃや♪ミャー♪」
「ポポちゃん! ポポちゃんも可愛いよ♪」
「はい♪」
ポポちゃんが自分の意思で甘えてきてくれたことに感動する、ずっと3人でイチャイチャしているのだった。
ニアルトさんの手土産はお菓子で中に手紙が入っていて『ミャー様専用』と書いてありました。それをミャーに渡すのは嫌われるようなものだよ…
次の日に門に偉い御方がやってきたのだった。