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辺境

結構変えたので再投稿。

「ハァ…ハァ…ジェードなんて野郎何処にもいないじゃないか……」


ジェード・アスティンを頼れと言われた言葉を思い返して、俺は悪態をついた。そうでもしないとやってられなかった。

それもそうだ。俺に課せられた懲役は、不毛の地であるゴエティアを開墾することであり、無心にただ鍬を振るうという動作を何度も体力の続く限り繰り返すからだ。


それに、辺境送りにされてからもう数ヶ月になるが、ここは噂に聞いていた以上の地獄だ。それも魔導師にとっての。


魔素濃度は尋常になく薄く、おまけにその質までもが悪い。


例えるなら、水中の中で暮らしているようなもので、意識は朦朧とし、ただそこにいるというだけで体力を消耗する。


空間の魔素濃度が薄すぎるせいで、体内の魔素まで流出していく始末だ。強力な魔導師ほどその影響を受けるし、加えて現在、俺の体には幾重にも魔導封印が施され、終いには魔力を霧散させる呪詛すら掛けられている。


とてもではないが、こんな場所に入れは一年と持たずに死んでしまうだろう。


「ハァ…クソ…。こんなことならあの時死んでおくんだった。」


最近ではこれが懲役の際の常套句になっていた。

もとより俺はあの戦場を墓場にするつもりだったのだ。

こうして生きているのは捕らえられるまでに一度も傷を受けなかったからだ。そして、体力が尽きてしまったために気を失ったことが一番大きいだろう。


反乱軍の生き残りを逃がすためとはいえ、戦場に残ったのは失敗だったかもしれない。敵軍の兵がさんざん苦しめられた俺を相手に殺さなかったのは、あるいは辺境送りにすることで生地獄を見せたかったのかもしれない。


いずれにしろ、ここでただ朽ちるならまだしも、苦役に根を上げて命を絶つのは己のプライドが許さなかった。


しかし、厳重に施された術式故に抜け出すことも叶わず、俺はただ望まない罰を受け入れていた。


そもそもの話、ここでの懲役に罪人の心を折る以外の目的があるとは思えない。どれだけ開墾したところでこの呪われているとしか思えない不毛の地がどうにかなるなど考えられないからだ。


ここでは適応できずに死ぬか、適応せども心が折れてしまうのか、そのどちらかしかないように思う。


たった数ヶ月ともいえど、両手の指では足りないほどの罪人が死んだ。命を絶つにしてもここには刃物が一切ないから、よほど苦しい方法でしかそれを行うことはできない。


必然的に、死にたくとも死ねないという状況に罪人たちは追い込まれてしまうのだ。


自分の未来を回らない頭で思い浮かべていると、隣で同様に鍬を振るっていた巨漢の男が俺に声をかけてきた。


「お前、魔導師か…?相当苦しそうだが。」


手は止めず、横目で男を流し見した。


「そうだ。この足枷を見ればわかるだろう。」


「俺も魔導師だった。確かにこの地は魔導師にとって過酷な環境だが、普通はお前のようにはならない。一体何をしたんだ?」


怪訝な声音で男は訪ねた。


「お前の名前はなんて言うんだ?」


「ゴードンだ。家名はニクスを名乗っていた。」


「俺はテオフィルス。辺境送りにされたのは、俺が反乱を手動したからだ。」


「テオフィルス…?テオフィルスだと?まさか、魔導将軍のテオフィルスか?」


「ん、ああ。そんな呼び方をしていたやつもいたな。」


言うと、男の鍬を振るう手が止められた。


「おい、ノルマをこなさないと俺にまで迷惑がかかるんだ。お前が俺になんの因縁があるのか知らんが、手を止めるのはやめろ。」


「あ、ああ。済まない。まさか魔導将軍が辺境送りになっているとは。」


男は再び鍬を振るい始めた。


「で、お前はなんでこんなとこにいるんだ?」


「他国のスパイの嫌疑がかけられてな。魔導将軍のお前に比べたら劣るだろうが、それなりのエリートだったんだ。」


「もしかして、ヨルムンガンドの大粛清の生き残りか…?殆どが殲滅されたと聞いたが。」


「よく分かったな。もう3年も前のことなのに。」


以外そうな声でゴードンは呟いた。


「俺が反乱を起こすに至った切っ掛けの一つだからな。忘れようがない。」


「そうか。なら1つ聞きたいんだが、アルス老師は健在か?」


今度は俺の手が止まる番だった。俺が反乱を決意した根源。

恩人であり、俺に魔導を叩き込んでくれた先生の名。

おそらく、ゴードンも彼の世話になったことがあるのだろう。俺は告げるべきか迷いながら彼に一つの事実を教えた。


「アルス殿は亡くなったよ。」


鍬を振り下ろしたゴードンが固まったかのように動かなくなった。


「それは本当なのか…?」


「彼が生きていたのなら間違いなく俺は未だにお前の言う魔導将軍だっただろうさ。彼が死んだことで反乱の圧力を抑えることができなくなってな。」


「そうか…。」


ゴードンはそれだけ口にして、鍬を振り上げた。


「そうなのか。」


譫言のようにゴードンは納得するように言った。


「ハァ…ハァ…驚いているところ悪いが、ところでゴードン。」


アルス殿の死を告げると抜け殻のようになってしまったゴートに俺はあることを聞くために質問を投げかける。


「ジェード・アスティンの名前に聞き覚えは?」


これは辺境に来てから色々な人物に聞いて回っていることだった。あの豹変した聖女の思惑に乗るのは癪だが、一応はその真意を確かめておくぐらいはしなければならないだろうと俺は考えていた。


「ジェード・アスティンだって…?」


「知っているのか?」


「知っているも何も奴とは旧知の仲だった。しかし、奴は数年ほど前に死んでいる。」


「何だと?辺境にいるんじゃなかったのか?」


思わずゴードンの顔を見ると、彼の眉根が動いて訝しげな視線が向けられた。


「ジェードが辺境送りにだって?確かに性格には多々問題があったが、それほどの罪を犯したとは思えない。そもそも、今言った通り、アイツは相当昔に戦死している。」


彼は困惑しているようだったが、俺も何がなんだかよく分からなかった。まさか信じきっているわけではないものの、あれはやはりテミスの狂言だったのだろうかと、うんざりした気分になった。


「辺境にいると言ったな?まさか、奴は生きているのか…?」


「それは俺が知りたいところだな。ある人物にアスティンを頼れと言われたんだ。この様子だと、俺をからかってのことかもしれないがな。」


「すると、君はアスティンのことを知らないのか?」


「ああ。会ったことすらないし、もしかしたら、俺が軍属になる前に死んでるのかもな。」


「そうか。」


何かを思案するようにゴードンは呟いた。


「彼が生きているとは思えないが、君が聞きたいと言うなら彼について話そう。どうだ、聞くか?」


「ああ、聞かせてくれ。」


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