5-1商売半畳
ケディデア側のイージェ・ミオーに入ったので、通運ギルドの配送ベース店に向かった。
「オーカンからの配送だよ。」
「どのオーカンだ?ま、いいや。伝票を。」
木札の束を渡して荷物を確認して貰う。
待っている間、魔道具たるバイクについて根掘り葉掘り質問されたが、掘り出し物なのでよくわからないと言って逃げた。
実際メンテナンスとかはバイク屋さんに頼んでいたからわからない部分多いからな。
「待たせた。とりあえず配送物と伝票の一致は確認できた。精算するからこっち来てくれ。」
支払はケディデアの通貨、エーペで支払われた。
金額は1230エーペ。
1エーペは27.6円(※通貨レートアプリ調べ)なので、約3万4千円だ。
乾いた財布に潤いが戻った。
この潤いを持続させるためにも、何か商売を始めたいな。
宿を取って馬房にバイクを置き、何か商売の種は無いかと市場を散策する。
ふーむ。どの店でもワインを置いてるな。
水代わりだから当然か。
ふと、木工品を売っている店の前で足が止まった。
樽が置いてある。寝かせて置くための木枠もついている。
あと樽の蓋部分に蛇口っぽいの。
そのとき、俺に電流走る。
"※"ってドモク共和国に居たとき直接アルコールの度数を上げる事をしたけど、青狸のひみつ道具みたいに時間経過も出来るんじゃないか?
でもワインの貯蔵って温度管理必要だったよな。
ちょっと温度計探そう。
見つからない。お高めの魔道具屋にも売ってない。
自作するにもどうやって作ったら良いのかわからない。
困ったな。
元の世界なら動画とかで見れるのに。
…動画?ケータイでも見れるよな。
動画アプリに"※ワイドの動画を見れる"と書いて見てみると、出た。
これで検索して…温度計、自作と。
あった。えーっと材料は瓶と色水とストローと密閉できる蓋、それと目盛りを書くペンか。
紙は無いから木札だな。あと接着剤は膠か米粒で代用しよう。米があればだが。
あらかた材料を購入したが、ストローが無い。
いや、あるにはあるが語源でもある麦わらなので透明じゃないのだ。
強度もないし。
仕方ないのでガラス工房に行って特注する。
「何に使うんだ?こんなもん。」と言われながらも数本作ってもらったが…クソッ、財布の半分近く持ってかれた。
すべての材料を買い終わって宿の部屋に戻った。
目盛りに書く温度はケータイの"※正確に測れる"温度センサを利用する。
もともと軍用規格満たしてる機種だし、"※完全防水"だから水の中に浸けても大丈夫だ。
瓶に水を一杯に入れて、ガラスストローをぶっさした蓋で密閉する。
ワイン貯蔵に最適な温度帯である摂氏13~15度の位置で上限、下限の印を付ける。
思った以上に狭いな。
作った後、どうせ"※非破壊"なんだからケータイをそのまま使えばよくね?と、気がついた。
だが、高い金使って作ったんだ。意地でもこっちの温度計を使ってやる。
さて気を取り直して、ワインを貯蔵する条件を満たす環境を作ろう。
まず樽を置く木枠を箱に入れて"※防水"にする。
次に井戸水を入れる。温度の他に湿度が必要らしいからだ。
なので樽の上からも湿らせるための布も木箱に入れておく。
そしてこの木枠に対して"※"による魔道具化をする。
"※密閉した樽を載せたとき5分で1年分経過する"だ。
これで樽側に小細工をせずに長期貯蔵の効果を与えることができる。
そして買ってきた空の樽を置き、そこにワインを…って、肝心のワイン買ってきてねえ。
急ぎ宿のワインを購入して部屋に戻り、樽に注ぐ。
樽一杯分も購入したせいで財布には数枚の銅貨。合わせて36エーペ(約1,000円)しかない。
これも商売のためだと自分に言い聞かせ、懐事情を少しの間忘れることにした。
あとは何年物にすれば良いかと検索してみると…
デイリーワインはすぐ飲むもの。長期熟成用は別に存在することがわかった。
あ痛たたた。
タンニンが多量に入ってるのが最適とか、そんなの素人が知るわけないだろ。
…しょうがない。今回は実験ということにしよう、それで今度やるときはタンニンの含有量を鑑定してから購入すると。
そういえばヨカル王国のワイン、アホほど渋かったなぁ。あれが長期熟成向きだったのかも。
商売から実験に格下げした今回のワイン貯蔵だが、素のままで飲んでみると渋みを少し感じた。
少しはタンニンが入っているのだろうと考え、とりあえず熟成期間を短めの2年、つまり10分間密閉してみる。
10分経過のアラームが鳴ったので、少量出して味見してみると、渋みがなくなってまろやかになったのが俺でもわかった。
これなら売れるかな。
宿の主人に試飲してもらい、元の価格の3倍で引き取って貰えた。
「こんな上等なワイン持ってるのに、なんでさっき買いに来た?」
「自分で飲む用と商品は別だろ。」
「それもそう…か?量がおかしいぞ。」
「そりゃあ、情報の対価で使うのと、これからチビチビ飲むためだ。」
「ふーん。まあ、売れるなら何でもかまわんが。」
なんとか誤魔化せたようだ。
再び潤った財布にニヤつきが止まらない。
明日は市場でワイン鑑定しまくるぞ。