3-2
忌々しい制約による衝動が強くなる。
これ以上は抑えられない。
野盗にあえて遭うため、通運ギルドにてモヴァノ教の臨時輸送依頼を受ける。
通運ギルドか発送者に内通者がいる事を想定したのだが、依頼を受けてからバイクに載せている間に
"※ハーカンクの社会情勢を記事にする"ニュースアプリに野盗が動いたことが通知されたので、ビンゴだったということだろう。
そいつの始末は野盗共を片付けた後にするとして、まずは衝動の原因退治だ。
マシェットをバイクのフロントインナーポケットに収納する。
"※無限収納"のため奥行きを気にしなくて良いが、抜き身だしヤバい効果を付与してるから取り出すときに注意しないと。
背負子3つ分程度の配送物を"※大きさ無視"のメットインに収納して、いざ出発だ。
野盗が襲いやすいよう、"※自律走行"で10〜15km/h程度の速度で走行する。ちょっと速い荷馬車くらいの速さだ。
ATの自動車ならクリープのみで走行している感じだな。
バイクだと遅すぎてフットレストから足を下ろして地面蹴りながらでもない限り絶対転ける速度だ。
自律走行中、暇なのでケータイのweb辞典アプリ(※ハーカンク対応)で付近の情報を見てみると
付近に現れる野盗等のセクションにモヴァノ教を標的にした、リーブモという街発行の私掠免許持ちというのが書いてあった。
私掠免許か。また面倒な仕組みが出てきた。
どっかの公認となると、下手に捕らえたりしたら話がこんがらがって俺の方がお尋ね者になってしまうかもしれない。
本当に忌々しい制約だな。
"※現実情報をベースにする"改変をした位置情報ゲームアプリを起動し、
レイドボスたる野盗の位置を確認する。
モヴァノ教の集落に至る道の、どうしても通らないとならない場所に居るようだ。
地図アプリで地形を確認すると、山の合間を切り拓いて作った道のようななにかが通っている。
web辞典アプリでもオーカン西の峡谷として載っていた。
しかしなんで曖昧さ回避ページへのリンクがあるんだ?
まあ良い、もう居るのであればチンタラ走る理由が無い。
操作を手動に戻し、120km/hまで速度を上げた。
やがて峡谷に着くと、兵士崩れのような格好の男が複数の配下を連れて現れた。
「大人しく荷を渡せ。そうすれば命は助けよう。」
「ありきたりな文句ご苦労さん。私掠免許があるからって盗賊には違いない。
俺の後ろで控えてる4人もまとめて吹っ飛ばすから出てきなよ。」
「…そこまで知っているのであれば話が早い。こちらも任務だ。悪く思うなよ?」
「“上等”だ。」
お行儀の悪いジェスチャーをしながらバイクを自律走行モードにする。
そしてアクセル全開にして体当たりをぶちかまし、後方の4人を宣言通り吹っ飛ばす。
「スットラーイク。」
数秒で60km/hに到達するビッグスクーターの衝撃をモロに受けたんだ。
まともに動けないだろう。
ブレーキを掛けてカウルポケットからマシェットを1本引き抜き挑発する。
「次はお前等だ。痛い目を見たくなかったら免許置いて帰りな。」
「クソ、変な馬を自在に操りおる。だが任務だ、通すことは出来ん。
…お前の馬は恐ろしいが、見たところ遠距離からの攻撃は出来なさそうだな。弓兵!」
的確にこちらの不利な点を掴んできた。
優秀な指揮官だ。
だが、甘い。
弓が飛んでくるのは想定済みだ。
マシェットを上空に放り投げる。
「迎撃せよ。」
放たれた矢が俺に当たる前にマシェットに防ぎ、ゲームキャラの様に宙に留まる。
バイクを自律走行に出来るのならば、武器も出来るというわけだ。
しかもバイクと違って物理法則を無視した動きもさせられる。
バイクを降りて2本目のマシェットを握る。
こっちには"※蒟蒻以外綺麗に両断できる"を付けている。
シャレにならない切れ味になったので、この戦闘が終わったら解除予定だ。
「優秀な現場指揮官であるアンタと、アンタを失う依頼主には悪いが、こちらものっぴきならない事情があってな。
殺人の覚悟があると制約に見せつけにゃーならんのよ。」
「…制約?」
「知らんでいい、どうせ死ぬんだ。」
「フン、ただの荷運び人としては物騒な奴だ。だが良い覚悟だ。かかれッ!」
配下の連中が一斉に飛びかかってくる。
1本目のマシェットが次々と迎撃し、斬っていく。
しかし人数が多く、迎撃しきれない。
ワンテンポ遅らせて攻撃してきた指揮官の剣が俺にまっすぐ振り下ろされる。
それを2本目のマシェットで受け、そのまま剣ごと横に薙ぐ。
「まさか…」
「フウ。指揮は優秀だが、剣技が普通の兵士レベルで助かった。剣筋が綺麗で素人の俺でも読みやすい。」
後続の矢は降ってこない。弓兵は逃げたようだ。おそらく報告に行ったのだろう。
やはり指揮官としては有能な奴だな。
衝動が消え去ったのを感じ、マシェットに付与した効果を解除する。
しかし、おかしい。
人を殺したというのに手に来た衝撃の感覚とかが思い出せない。
殺したという事実もどこか他人事に感じている。
制約の副作用みたいなものか?
うーむ。精神が影響を受けないというのは課題だな。ほっとくと殺人鬼になりかねん。
ともかく厄介な衝動が去り、無事モヴァノ教の集落に配送した俺は
配送の報酬を貰うためオーカンに戻った。
「リーブモって街は知ってるか?」
通運ギルドに配送完了の手続きをしているときにふと尋ねられる。
「名前だけは。有名なのか?」
「そうじゃない。襲撃があったはずだ。」
「アンタが内通者ってことか。」
「違わい。通運ギルドとしても連中のせいで配送が出来なくて困ってるんだ。
あいつら開拓事業を自分の街の領域でやって貰いたいからって宗派違いのモヴァノ教集落を襲ってるとか噂されてるんだぜ。」
それはまた自己中心的な奴がいたもんだな。
粛清すべき悪党って奴だ。
…今度は制約の衝動が来ない。これは相手の規模がでかいからかな。
「それで、他の仕事は請けていってくれるのかい?」
「いや、ケディデアへの通行料には十分な金が今入ったんで遠慮しとく。」
「そうかい。あっちに行くなら頼みたい荷物があったんだが仕方ないか。」
む。ここから南のケディデアに民間人として入国するのを考えていたけど…
バイクあるし、合理的に入るためには請けた方が良いかな。
「んー。物にもよるなぁ。俺のバイクはそんなに入らないから。」
「いやいや、郵便物だよ。早く確実に届けられる奴に任せたいんだ。」
「そういうことなら引き受けるけど、ヤバい物は混ざってないだろうな?」
「それは探知の魔道具で走査済みだ。やってくれるかい?」
「しょうがない、引き受けるよ。」
モチベ維持のためブクマ、評価、感想、レビューお願いします。