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28-1手配書

側近であったコーシャの裏切りはミン首相に相当なダメージがいったらしい。

さっきから塞ぎ込んで一言も喋らない。


「それで、これからどこ逃げますかね?」

「…」

「返事が無いなら近いシリティへ行きますよ?」

「…」

「ったく。」


この馬車の性能であれば北側の東デンシデにも行けるのだが、

それだと敵本拠である本デンシデに近くなるので却下するつもりだったが

こうも反応しないと腹が立ってくるな。



今日の天気は曇り。

昨日の雨のおかげで土煙を出さずに走行出来るが、かわりにジメジメした空気が鬱陶しい。


湿気がうざいが馬車の姿を見えなくするのには最適だ。

このまま国境を越えてしまおう。




"※光学迷彩"にした馬車を走らせて2日。

国境を越えてシリティに入ったが発信器による追尾を出来なくしたので追っ手は来ないようだ。


「…申し訳ありませんでした。」


5日も黙りこくった挙げ句の一言目だ。

信頼していた仲間に裏切られたのはお気の毒としか言い様がないが

あらためて政治の世界っていうのはそういう恫喝、暴力何でもありのドロドロということが身に染みたのだろう。


「んで、これからどうするんです?いい加減こっちも巻き込まれたままでは居たくないんですがね。」

「まず、情報が欲しいです。

もしミカカ連邦全土を掌握されてしまっているのであれば抵抗も無意味ですから。」

「オーケー。」



適当な街に向かい、馬車を降りて賑やかな酒場へと入る。

入った客は俺一人だ。


ミン首相には街から少し離れた場所で光学迷彩のままにした馬車の中で待機してもらう。

紙(※バングランドで学生たちから入手した和紙)を円錐状に丸めて"※指向性集音"の効果を付与した即席集音器でこちらの声や音を聞けるようにした。


というのも、ミン首相の手配書がちまたに出回っているのだ。

そのせいで憲兵が怪しい奴を片っ端から捕まえては尋問して回っているため

ご本人の姿を見せないようにする必要があったのである。



さて。そんな状況下で酒場に入ったわけだが、手配書に流れの付与魔術師が同行と書かれてしまっているためいつものような路銀稼ぎが出来ない。


仕方がないのでエールを頼んで当たり障りの無い景気話から始める。


「この辺の景気はどうだい、マスター。」

「どうもこうも、他と同じだ。ありとあらゆる物に税金が掛かって首が回らん。

あんたはこの辺の人間じゃない様だが、旅人かい?」

「モグリの行商だよ。課税がキツくて開店休業状態だ。」

「ああ、今はその方が利口かもな。商売するほど赤字になる。」


そういえば、と切り出す前に近くで飲んだくれていたオッサンが絡んできた。


「ヨォ、兄ちゃん。ちっと聞こえたが行商だって?」

「売り物は税で全部持ってかれたけどな。あんたは?」

「ヘヘッ、ハンターギルドの解体屋だよ。」

「解体屋?それがなんだって昼間から飲んだくれてるのさ。」

「仕事が来ないからだよ。今、狩人は傭兵として戦争に出てるのさ。」

「戦争?ちょっとまって。その話は初耳だ。」


気になる話だったのでエールをごちそうし、話を促した。

解体屋は滅茶苦茶な順序で話し始めたが、要約すると"ディエタで反体制派が蜂起した"というニュースだった。


最初はディエタで水害の対応を禄にしないくせに税金を上げたことに不満を募らせた民衆が暴動を起こし、軍が出動する事態になったらしい。

しかも暴動は現地の連邦軍では対応しきれず規模が急速に拡大。

それを契機に反体制派が組織化して内戦状態になり、現在は隣国のコメアまで巻き込んでいるという。


おかげで連邦軍と反体制派の両軍から傭兵の仕事が舞い込んできており、

苛税で食っていけなくなった狩人(ハンター)達の参戦も相まって

傭兵ギルドはいま戦争特需でてんてこ舞いになっているとのことだ。



「なんとまあ。」

「俺もあと5年早けりゃ傭兵として働けたんだけどな。

ギルドじゃ仕事はねえし、狩人時代の怪我で戦いは出来ねえんでここで飲んだくれてるってえワケよ。」

「なるほどね。」

「あんたも商売できないってなら傭兵になった方が良いぜ。今が稼ぎ時だ。」

「うーん。悪いけどやめとくよ。命あっての物種なんでね。」

「フン。ま、個人の自由だわな。」


そう言ってバンと背中を叩いて元の席に戻りながらマスターにエールの追加を注文する解体屋(酔っ払い)


うーむ、内戦か。

俺が政治家だったらこれをチャンスとみるけどミン首相がどう対応するかな。



酒場を出てミン首相と合流し、街の外に出る。


「聞きましたか?」

「ええ、しっかり聞こえました。ディエタとコメアで内戦ですか。」

「元は暴動なので反体制派がいくら頑張っても最終的に数で勝る連邦軍に鎮圧されるのがオチでしょうがね。」

「…しかしこれはチャンスだと思っています。」

「それじゃあコメアに戻ります?」

「いえ、苛税が原因であれば鎮圧に時間が掛かり、連邦全体に戦火が拡大するでしょうから、それを待ちます。」

「じゃあとりあえずこの国でも民衆が蜂起するまで待ちですかね。」

「はい、そうしたいと思います。」


さて。待ちはいいんだけど…いつまで、どうやって待つかが問題だな。

民衆が蜂起するったって、どこで起きるかわからないし、課題だらけだ。


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