27-1厄介者
ディエタ名物のディップス川渡し。
矢切の渡しと何ら変わらない渡し場の往復便である。
渡し賃払ってボートに乗り、対岸でサヨウナラ。
馬車用のでっかい筏は別料金で渡してくれる。
船頭曰く馬車用のでかい筏は支流1本につき最低2つは存在するらしい。
たしかにそうでもしないと川に挟まれた地域は生活できないからね。
そんな感じで川を渡っては陸地をバイクでぶっ飛ばし、十何本かの支流を渡って今回の目的地、コメア共和国に到着した。
ディエタのディップス川の水源のさらに北から国を縦断する様に一本、ケーション川という川が流れており、
人はケーション川沿いに街を作っている。
ディップス川がアマゾン川なら、ケーション川はナイル川という感じだ。
水の使い方もはっきり分かれていて、ディエタは広大な水源が近くにあるため水田を
コメアは水車を使って水をくみ上げ街の上水道とし、
余った水を水圧を利用したスプリンクラーに通して畑に蒔いている。
俺はその水車からスプリンクラーに至る仕組みが見たくてコメアまで来たのだが…
どうしてこうなった。
その日、いつものように熟成キットによるチート酒を酒場のマスターに売りつけ
ついでに度数上げの路銀稼ぎをしていると、外が騒がしいのに気がついた。
おかしな空気だったので、度数上げの客から情報収集するとミン首相が演説周りに来ていると教えてくれた。
なんだ、穀潰し…もとい政治家か。
興味を無くしたので路銀稼ぎに集中する。
一通り回って店じまいしようかというとき、バタンと強く扉を開く音が聞こえたので顔を向けた。
ボロボロの服を着たそいつは粉状の何かを纏っており、とても酒場に来る人間とは思えなかった。
なんだなんだと酒場の客が入り口に目を向ける。
するとそいつは懐から大きめの袋を出し床に中身をぶちまけた。
ぶちまけたそれは粉のようなものだった。
そしてそいつは出し終わった袋を使って仰ぎ始める。
うん?漫画とかでよくあるアレか?
そう思っていると予想通り火が飛び込んで来るのが見えた。
とっさに身をかがめると頭上でボワッという発火音がする。
そう、粉塵爆発というやつだ。実物始めて見た、というか食らった。
息苦しい。酸素が足りてねえ。
なるほど、粉塵爆発ってのは空気中の酸素を持ってくのか。
クソッ、出口が遠いな。
"※"で建物まるごと崩してしまうか。何か天井燃えてるし。
ガラガラ音を立てて酒場が崩れた。
平屋で良かった。落ちてくる物が少なくて済む。
フラフラになりながら外に出るとあっちこっちで火事になっていた。
こりゃあテロ起こされたな。
呆然と立っていると、逃げ惑う人にぶつかった。
「突っ立ってんじゃねえッ!」
言って押しのけてくる。
うん。そうだった、ボーッとしてた。俺も逃げないと。
ぶつかった衝撃で正気を取り戻し、現場からの避難を始める。
だがどこへ逃げても火の手が上がっている。
どこまで大規模にテロ起こしたんだ。
っていうか、あの粉塵爆発使った自爆テロをこれだけの規模起こしたのか?
ミン首相とか言うの、どんだけ嫌われとるんよ。
頑張って街の外まで逃げ、ポーチから鞄を取り出しバイクと馬車を出す。
そして同じ方向に逃げてきた2人を乗せ、郊外に向かった。
「ここまで逃げればちっとは安心だろ。」
「ありがとうございます。」
「はぁ、生きた心地がしませんでした。」
荷台に乗っけた2人に声を掛けながら姿を見ると、妙な違和感を感じた。
すぐに服装から来る違和感だとわかったが、民族衣装でないなら誰だ?
「見ない服だな。もしかして表で演説してた連中の関係者か?」
「…はい、コーシャと申します。こちらは…エーカーと言う者です。」
「だいぶ深い怪我をしているな。というか全身やけどだらけじゃないか。」
「どうにか助けていただけないでしょうか。」
なんかワケアリっぽいけど、事情を聞かずに捨てるのもアレだしな。
なにより目の前で死なれるのはちっとばかし心に刺さる。
幸いなことに馬車は怪我人にダメージを与える揺れが来ない、キヤリア地方最新式のチューブタイヤ&サスペンション(※魔改造済)だ。
俺は馬車の御者台の方に移動し、鞄から井戸水を小樽と一緒に出して"※やけどを治療する"効果を付与する。
それを薬と称して手ぬぐいと一緒にコーシャさんに渡し、怪我人のエーカーさんの体を拭いて貰った。
小一時間ほど経ってから荷台に行くと、エーカーさんは復活していたが衰弱しているようだった。
安物ワインに"※滋養強壮"の効果を付与してエーカーさんに飲ませて、落ち着いたら事情を聞くことにした。
「だいぶ良くなったかな。」
「はい、死にかけていた所を助けていただきありがとうございます。
私はミン=エーカー。この連邦の首相を務めております。この馬車はどちらに向かうのでしょうか。」
「ッ、首相!役職を伏せたというのに名乗ってどうするのです!」
「遅かれ早かれこの方には見破られていたと思いますよ。それで…」
「あー。とりあえず避難するために馬車を出しただけだ。目的地は無いよ。
それと、煤で汚れてたけど服の生地に艶が見えたからなんかの役職持ちなのはなんとなく推測できた。」
「お手数を掛けます。それではしばらくのあいだあの現場から離れるように移動していただけますでしょうか。」
わぁい。面倒事がノリコンデキマシタヨー。