22-1ヨカル王国滅亡
修理屋の工房で馬車の最終調整に立ち会っていると、事務所の方が何か騒ぎになっているのが見える。
変な客が来たのかななんて職人と話していると、事務所に続くドアが強く開け放たれた。
「ハァ…ハァ…見ィつけたァ…」
ぎゃーッ!?出たーッ!あの変な女だ!
突進してくる女に低いタックルをかまして取り押さえる事務員さん。
それでも匍匐前進のような姿勢でもがく女、いやもうこれストーカーだな。
2人、3人と取り押さえる人数が増えていき、最後は口枷と縄で縛り上げられ、保安官に連行されて行った。
ハァ、おどろいた。
せっかく忘れかけていたのに出てくるなッ。
立ち会いどころじゃなくなったので、最終調節は職人に任せて事務所の客間でお茶を頂く。
「アレは一体なんですか?」
「ストーカーですよ。ああ気持ち悪い。」
聞けば取り調べで錯乱状態で「あの人はどこ!」とか「夫婦の仲に口出しするな!」とか喚いてるらしい。
あんなのにつけ回されてるんじゃあ命が持たないねぇ。
なんて同情されるが、そんなもんいらない。同情するなら代わってくれ。
変なのの乱入でグダグダになったが、職人から調整が終わった連絡を受け、工房に入る。
チューブに"※非破壊"、バルブに"※空気抜け防止"を付加して軽く試運転する。
だいぶ振動が収まったし、変な滑りもないようだ。
燭台置きも低い位置になって寝台に一酸化炭素が来るのは減ったし、窓も取り付けられた。
非常に満足いく仕上げだった。
試運転から戻って事務所で支払を済ます。
「それじゃあ、また何か気になることがあったら来ます。」
「オウ、こっちこそタイヤってのを教わった礼をしなきゃならねえ。」
「ついでに酒もな。もう飲めなくなると思うと辛いぜ。」
「ハハ、まったくだ。」
さあ、ストーカーが釈放されるまでにできるだけ遠くに逃げよう。
そうして来たのがドモク共和国、コモメである。
ドモク共和国には以前資金不足で断念した小国連合圏へ向かうために入国したのだが、
おニュー馬車の場合普通に走ると早馬よりも早く着いてしまうため寄り道をしているのだ。
ついでにルドーのおっさんに鉄道車輪の技術を流そうかな。
そんなことを考えて居たら捕まった。
馬のハリボテを外していたのがマズかったのかと思いきや、
無駄に豪勢な馬車が許可もなく走っているので不審に思われたのが原因らしい。
入国目的を正直に言ったところで大幅に道を外れているから信用されないだろう。
しょうがないのでルドーのおっさんに取り次いでもらい、解放してもらった。
「また君か。今度はどうしたというんだ?」
「ちょっと鉄道についてね。バングランドの技術を持ってきた。」
「む。連結器とフランジ付き車輪のことか?それなら既に持っている。」
「あら。耳が早い。」
「フン。あれだけ派手に動き回っていれば当然だ。
それよりも君がバングランドの技術を何故持っているのかの方が不思議だな。」
「アンタも知ってるだろう研究所にちょっと縁があるだけだよ。」
「ふむ。それで稲作の技術も流したのかな?」
「近いかな。お米は俺等にとってなくてはならない主食なんだ。
それが不味いのはどうにも我慢ならない。」
「…まあいい。君の行動は突飛で危険だが、捕まえたところで利がない。
我々の体制を脅かすものでなければ見逃してやろう。
それよりも、国境が移動した事の方がいまは重大事なんでな。」
「国境が移動?」
「知らんのか。バングランド帝国が小国連合の1つを吸収したのだ。」
「ケディデアじゃあ噂も立ってなかったけどな。」
「それは国境が接していないからだろう。
…詳しく知りたいのなら我が国ではなくバングランドで聞くことだな。」
「へたに突っつくと犯罪になるからだね。わかった。」
ふーん?小国連合の一つがねえ。
ちょっと彼らに聞いてみるか。
"バングランドが小国連合を吸収したって本当?"
"本当だ。しかも俺達に縁のある国だ。"
"まさか"
"ヨカル王国だ。バングランドにケンカ売って自滅した。"
"アホなのかな。"
"アホだからやったんだろう。
詳細はこっち来たら話す。
それに醤油の仕込みとかやってもらいたいからさ"
スタンプ"[了解]"
元の世界では忌み嫌ってたけど、ほんと便利だよなあSEN。
セキュリティの事さえ考えなければ。
ザルにも程があったからなぁ。
嘘ばっかの誇張表現を真に受けて公共サービスに使ってたけど、本当に担当者は無能だったよなぁ。
Saezuriも大概だったけど、ログイン認証にまで紐つけていた情弱のアホが使うもんだと忌避していたのが馬鹿馬鹿しく思えるほどだ。
セキュリティの事を考えなければな。
よく使う一言なんて入力せずにスタンプでコミカルに表現できるし、そりゃあ流行るってもんだわ。
セキュリティの事を考えなければなッ。
小国連合への旅程を変更して、バングランドに入国することにした。
入国後は途中寄り道をせず、まっすぐ未来研究所に向かう。
資金の心配がないからスムーズだ。
…両替は大変だけどな。
ドモク共和国から入国してきたのにケディデア・エーペから両替って何なんだよって自分でも思うわ。
未来研究所の威光を使ってごり押しさせてもらったけどさ。
研究所に着くやいなや、味噌・醤油を仕込んでいる壺を保存している部屋に案内された。
みんなしょっからい調味料に飢えていたんだんだねぇ。
4/5くらいが仕込みに失敗していたけど、残りの1/5は成功したんだ。そっちを喜ぼう。
味噌醤油パーティーをひとしきり楽しんだ後、本題に入る。
「ヨカル王国がなんだって吸収されたのさ。」
「それが、また召喚して言うことを聞かせようとしたらしいんだ。」
「わあ、馬鹿の一つ覚え。」
「それで、今度は例の隷属の道具をつけることに成功したんで、連合国内のヤフンって国に
戦争を仕掛けたんだ。
ところがヤフンは独自にバングランドとの同盟を結んでいてな。」
「やぶ蛇だったと。事前に調査しなかったのかな。」
「それが先代から外交を担っていた重鎮が居たんだが、やんわり諫めてたのに腹を立てて反逆罪で牢に入れてたんだ。」
「…アホなのかな。」
「それで、帝国に逆に攻め込まれて降伏ってわけ。」
「被害は?」
「ヤフンが攻め込まれた地域とヨカル王国の国王の首。」
「じゃ王太子は生きてるんだ。ヨカル王国としては一応残ってるのかな。」
「それが、小国連合の幹事国に送るんだとさ。
"連合はバングランドと無用に戦う意思はない"という事を証明するために
責任者として文字通りつるし上げるんで、それまで生かしてるって言ってた。」
「うわ、おっかねえの。」
「そうそう、バングランドの皇帝から勅書を預かってるんだ。」
「勅書?」
「ヨカル王国の被害者である俺達に報復の機会をくれるんだとさ。
"外見に被害を及ぼさない程度に好きにしたまえ"だとよ。」
「ふーん。それで、召喚された奴は?」
「解呪して市井に流れた。」
「バングランドで登用しなかったんだ。」
「俺達がいるんで十分だったのと、若すぎて持ってる知識が少なかったのが理由みたいだな。」
「若いってどれくらい?」
「中二。」
「…そりゃ…若いな。」
「だろう?そいつは米があるからドモク共和国に行くって言ってたよ。」
「言論統制とかあるけど大丈夫かな。…って会ったのか?」
「なるようにしかならないだろ。
彼には会ったよ。年代特有の病気には罹ってなかった。
そんなことよりも味噌と醤油だ。
米麹は大量に作ってあるからヨネツキさんが居る内に仕込んでおかないと。」
言って話を打ち切り、約束していた味噌醤油仕込み&熟成キットを作る作業に入った。
仕込み・熟成時間の短縮で大量に作れたのは良いけど、全部味見しながらやったことによる塩分取り過ぎで体調への影響が心配になってきた。
それと清酒に米酢も作ったが…その清酒、カパカパ飲むもんじゃないよ、絶対二日酔いになるって。




