19-4
翌日、ジェームス君の工房。
今日は地面の紅い土を調べたいと言ったら、奴隷を貸してくれた。
東の方はそんな制度なかったけど、この辺は奴隷制が存在するのか。
…これには色々言いたいことがあるが、堪えておこう。
とりあえず奴隷に土を掘ってもらい、その土からアルミニウムを分離できるかやってみてもらう。
どうせ記憶を抹消するし、化学式を言ってもわからないのでイメージとして1円玉を貸した。
採れたよ。採れてしまったよ。アルミニウム。
蟻塚くらいの土からアルミニウム、そして使うかもしれない鉄を分離して俺の用意したケースに入れた後、忘却の効果を付与した水を飲んでもらう。
あとはサファイア作るならチタン、ルビー作るならクロムがあれば出来るが、どちらも入手困難な代物だ。
これはケータイから画像見せて集めてもらうしかなさそうだ。
「それで、金紅石かクロム鉄鉱が必要と。」
画像を見せた後、指を顎に当てふーむと考えるゴードン氏。
「クロム鉱石は似たようなのが多くてわからないが、金紅石には心当たりが無くもない。」
「はぁ。」
「以前石英にその金色に光る線が入っているのを見たことがあるんだ。
ただ、それを見たのが例の宝石商でね。」
「あまり利用したくないと。」
「そうなんだ。
だから、君が何を作ろうとしているのかを教えて欲しい。
それが"素敵な物"になり得るのであればアレと商談しても良い。」
「別に違うところの宝石商を当たっても良いのでは?」
「そうもいかないんだよ。時間がないんだ。
それにもう何日も宝石加工の業者を待たせてるんだよね。」
「例のダイヤモンドは?」
「アレは駄目。大きすぎる。割れた破片ですら何カラットあることやら。」
「うーん。じゃあ、言いますよ。青い石はご存知で?」
「サファイア、アクアマリン、ターコイズあたりかな。」
「その中にありますね。でもどれだけの大きさになるかはわかりませんよ?」
「…あのサイズはやめてくれよ?」
「保証できないですね。金紅石を確保したら言って下さい。必要なくなるか、確保できるまで待ってますので。」
「わかった。明日は部下を使って市井の宝石商を回ることにするよ。
それで駄目なら…業腹だけどアイツから買う。」
よっぽど気に入らないんだな。
だけど海に行って砂浜からチタンを採取する地獄よりは確実なんだ。
俺がやれることは例の宝石商から買うことにならないように祈るくらいだね。
「石英を買い占めてきたよ。」
金紅石集めをして2日目。いきなりとんでもないことを言い放ったぞ、このオヤジ。
「どういうことです?」
「そのままの意味だね。アイツに本意を知られたくないから石英を全部買い占めた。」
あー。やっぱ例の宝石商から買うことになったのか。
「それで、金紅石は?」
「あるよ、これだ。」
投げて寄越してきた麻袋を両手でキャッチして開ける。
結構な数の金紅石がそこにあった。
「これならたぶんいけますね。」
「いってくれないと困る。アレとの商談は本当に嫌なんだ。」
早速ジェームス君のところに行き、チタンを分離する。
あとは青くするための分量だけど、これが困ったことに検索しても出てこない。
模型も売ってないので画像から模型を作る。
ええいクソッ!ややこしいッ。
こうなれば数で勝負だ。
材料はアルミニウムとチタン、鉄、そして空気中の酸素。
チタンと鉄の割合を少しずつ変えて合成坩堝に投入し、錬金術で合成する。
アルミニウムに対して0.5〜1%の分量だと書かれているが、
0.1%ずつ割合を変えるとしても5掛けの5で25通り。
大きさやそのほかの条件がわからないので一度に20個ほど同時合成をする。
合成には1回につき1時間強掛かった。
最終的に4日かけ、25通り×20個を試して、失敗作含めてゴードン氏が吟味し
一番綺麗な青になったサファイアを贈り物用とすることに決まった。
やれやれ。一日ごとに記憶を消されたジェームス君には本当に苦労を掛けたよ。
だって覚えてないのにやたら疲れてるんだぜ?
俺が彼の立場ならキレる自信がある。
「ゴードンさんの支援がないと、生きていけないんですよ。」
泣かせるのう。
そして貴族のご令嬢デビュタントがあった日の翌日。
「素晴らしいとお褒めの言葉を頂いたよ。」
「よかったじゃないですか。功労者のジェームス君をねぎらって下さいよ。」
「それはわかっているさ。
それから、例のダイヤモンドね。伯爵様からケディデア王に献上することになった。」
あら、やっぱり。
「それで、破片の方を伯爵様の保有とする栄誉を賜ったんだって。」
「栄誉を賜ったって…ずいぶん話が早いですね。昨日の今日でしょ?」
「ダイヤモンドはもっと前から伯爵様にお渡ししていたんだよ。
それに伯爵様は国境警備の任もあるから、王城と連絡がダイレクトにできるとおっしゃっていたね。」
「ああ、そういえば軍偵察隊の人も通信の魔道具使ってましたね。」
「あれを見たことがあるのかい。」
「ええまあ。」
「あれも有用だよねえ。遠くから僕の指示をだせるのはとても便利だろうなあ。」
「じゃあこれで俺のお仕事は完了って事で良いですかね?」
「うん。完璧以上の結果だった。
それじゃあ割り符を書くからちょっと待っててね。」
そういって先日の様に金額とサインを書いて板を割る。
「…これ、すごい額ですね。」
「ダイヤモンドとサファイアの代金としては安いけどね。
数年は遊んで暮らせるだけの額を用意したつもりだよ。
それから僕も伯爵様とのコネクションを太くすることが出来たから、
そのお礼はまた別で借りにしておいてくれるかな。」
「りょーかい。それじゃまた。」
そういってゴードン氏の屋敷を辞して、街の安宿に泊まる。
貧乏生活も今日で終わりだと思うと感慨深いな。
翌日、ゴードン氏の事務所で換金をして、出発だ。
今度向かう方向は、アレな女を避けるために南東。
南の海岸に着いたら海岸線に沿って走ろう。
海沿いのツーリングは久しぶりだな。
モチベ維持のためブクマ、評価、感想、レビューお願いします。