18-1いつぞやの
バングランドからケディデアへの道のり、以前来たワイモ近くの大きな街に寄った。
いつものように通運ギルドで小型の配送物を確認するが、あいにく全て捌けてしまった後のようだ。
しかし次の依頼掲示時間はもうすぐだというので、待合室のソファに座って待たせてもらうことにする。
同じように掲示時間を待っているのであろう、待合室には結構な人数が居た。
そして十数分後、カゴの中に木札を入れた職員が、依頼の掲示板に向かうと
待ってた俺を含めた配送人がワラワラと掲示板近くに集まる。
「は〜い、いま掛けるから待っててくださいね〜。」
職員にとってはいつものことなのだろう、殺気立つとまでは行かないものの、結構な緊張感の中でのんびり依頼票を掛けていく。
なお掛けていくそばから取り合いにはならず、配送人は床に書かれた線をはみ出さないように待つのがここでのルールだ。
「はーい、どうぞー。」
全て掛け終わり、職員が離れてから合図を送る。
そこからは取り合いだ。
といっても依頼票を読まずに取ることはせず、自分が運べる依頼を探してから取るため
依頼票の取り合いと言うよりは、読むための押し合いへし合いになるのが通例だ。
この争奪戦に何度か俺も参戦してみた事があるが、個人レベルではバーゲン時のおばちゃんクラスの力を出さないとこの戦争には勝つことが出来ない。
そういう理由で、争奪戦の第一波が去った後で残りの依頼を吟味する第二波に参戦する。
やはり重量物や大型の搬送品ばかりが残っていた。
仕方なく小型の重量物配送の依頼を取り、手続きをする。
手続き窓口では配送品のやりとりはせず、発送の伝票を発行するだけだ。
配送人は発行した伝票を持って、併設の配送ベースという名の倉庫に行って配送物を積載し、晴れて出発となる仕組みである。
これはどこの通運ギルドでも共通のシステムで、一回やれば誰でも覚えられる良い仕組みだと思う。
さて、請けた配送物をバイクのリアシートに乗せロープで固定させていると、
なぜか職員に呼びとめられた。
「二輪の運送屋さんに会いたいという方がいらっしゃっていますが…」
「俺に客ぅ?」
住所不定どころか、常に動き回ってる俺に客と言われても心当たりがない。
そんな俺に用があるなんてドモク共和国のルドーのおっさんくらいだろうに。
「人違いじゃないのか?」
「いえ、銀色の二輪で間違いないと…」
確かに俺のバイクのカウル色はシルバーだが…
埒が明かないので遭うことにしたのが悪かった。
「結婚してください!」
開口一番、香ばしい台詞を聞かされる羽目になった俺の心境を答えよ。(10点満点)
「いや断る。」
誰こいつ?
なんで結婚?
もしやバイク狙い?
それにしては無計画すぎね?
俺のそんな困惑を無視して、「あのとき助けていただいた者です!」なんて言ってくるが、正直覚えがない。
「ゴブリンから救い出してくださったじゃないですか!」
「ゴブリン?」
あーいった小物はたまに轢くので印象が薄いが…
ああ、そういえば立て続けに魔物が出たせいで怪我負った時か。
あれって偵察隊の人が事後処理してくれたんじゃないのか?
どうも食い違いが起きている気がする。
とにかく、あんたを救出したのは偵察隊の人だ。
俺は人間を盾にされてたので攻めあぐねていただけだと伝える。
それでもこの女は引き下がらなかった。
しつっこいな。
月並みな台詞だが、あまりしつこいと嫌われるぞと一方的に打ち切ってバイクを走らせた。
最後に彼女の目が見えたが、めっちゃ瞳孔が開いてなかったか?
怖い。
あの調子だとストーカーと化すかもしれない。
金はないけどしばらく配送はせずにバイクを隠す方法を考えよう。
それよりもまずは、配送を終わらせてからだ。
で、当面の対策としてバイクが丸見えにならないようにすることにした。
ウイスキー貯蔵作戦で手っ取り早くお金を稼ぎ、調度品を扱っている工房に行く。
そこで馬の形をしたハリボテを作ってもらい、バイクにかぶせる。
ハンドルは一応動かせるが、満足に運転が出来なくなるので、自律モード頼りになった。
また、低い位置にあるシートには座れないため、鞍をつけてそこに乗る。
ナントカエレジーを思い出す作りだ。
もっとも、あれは段ボールかドラム缶で出来てたけどな。
とにかく、外見はこれで良し。
それでも追っかけてくることも考えて、一旦西に行こう。
国境の距離が近い東か南だと入管待ちで追いつかれる可能性があるからな。
裏をかいて北に行くのもいいけれど、ケディデアに行かないと馬車が受け取れないのでこれはナシだ。
とにかくバングランド-ケディデア間の国境ギリギリまで距離を稼ごう。
先のことを考えるのはそれからで良いだろ。
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