16-1トンガラsea
コモメから逃げるように出発して、ドモク共和国とケディデア王国の国境で出入国をするとき路銀が尽きようとしているのに気がついた。
ありゃ、変だな。そんなに使った記憶にないぞ。
記憶違いを起こしているのかもしれないので、エユデンから出発した時から順に追ってみると…
たしかに財布がギリギリの方が正しかった。
記憶違いを起こした理由はただ一つ。
ドモク共和国内で仕事をしていなかったからだ。
いや仕事はしていたが、リスクがヤバかったので報酬は受け取らなかったのが正確なところだが。
バングランドでは滞在日数が少なかったのと出費が少なかったから気づかなかったが、
俺、最初の郵便以外はケディデア外で配送の仕事してないな。
日銭を稼ぐのにやってたけど、まあまあ良い稼ぎだったので食事や宿を上等にしてたのが徒となったか。
4,5日仕事をしないだけで財布が枯渇するのは困りごとだな。
配送とは別に商売を考えないといけないかもしれない。
そうなると、いつもの酒の貯蔵になるわけだが…
ブランデーとウイスキーは最終手段として出したくないしなぁ。
となるとワインか。ケディデア国内だとすでにユーク村の件で動いてるだろうから
別の国…ヨカル王国の激渋ワイン、調達できるかな。
"※ハーカンクの世界を表示する"地図アプリを見てみる。
ヨカル王国が属する小国連合はだいぶ北だ。
それにバングランド帝国かドモク共和国のどちらかを縦断しないといけない。
これはドモク共和国はしばらく近寄りたくないのでバングランド一択としてだ。
バングランド帝国って配送の仕事は民間に出してるのかな。
じゃないと途中で力尽きてしまうぞ。
杞憂だった。通運ギルドで聞いたら配送は民間でやってたよ。
これなら小国連合までは普通に行けるな。
配送という寄り道をしながらバングランド帝国を北進する。
届ける荷物はケディデアと違って重量物が多めだ。
仮に馬車があっても底が抜けかねないものばかりだ。
おかげで小型の荷物を他のライバルと取り合いになっている。
ええい、そっちはバングランドの事情に合わせた荷物車なんだから小型のは譲れってーの。
結局仕事を取れなかったので、参考までにと大型の配送依頼を見てみる。
"未来研究所宛 木材"
"未来研究所宛 香辛料"
"未来研究所宛 米(インディカ種)"
…宛先の名前についてはあえてツッコむまい。
これ、あいつらだろ。
検索しなくてもわかる。和紙とカレーライスだ。
米が長粒だが、なんとかするんだろう。
それにしても君たち、賢者君のケータイがネットに繋がるようになったからって、ちょっと調子に乗ってるんじゃないかね?
ちょっと"SEN"でツッコミを入れておくとして。
参ったな。今日は配送仕事なしか。
懐がさびしい。
屋台でじゃがバターのようなのをかじって空腹を紛らわす。
次の街で仕事が残ってれば良いんだけど。
方向違いだがあった。
さっきの街への配送依頼だ。
朝の分を締め切った後に来た配送依頼で誰も手をつけていなかったので、ありがたく引き受けた。
これで今日の夜は野宿せずに済むな。
そんな感じですんなりとは北進できなかったが、バングランドに入ってから20日。
ようやく小国連合との国境に来た。
小国連合には商品仕入れと言って入国した。
魔道具は多少怪しまれたものの、馬のような移動手段だと伝えて通してもらった。
小国連合はその名の通り、小さい国が連合した政治経済同盟だ。
名前から欧州連合を想像するのだろうが、それよりは"どこぞの紅茶キメないと気が済まない国"の方に近い。
俺を召喚してくれやがったヨカル王国も小国連合の中の小さな一国というわけだ。
通貨は連合内で統一されており、アルワレと補助単位アマを使う。
通貨レートアプリによると1アルワレ=6.0円、100アマ=1アルワレとなっている。
キヤリア地方の三大国家のレート(バングランド21.5円、ケディデア27.6円、ドモク37.0円)に比べると、1/3以下の価値しかないことがわかる。
おかげで財布の中身は数字だけで言うなら3倍になったが、あんま嬉しくない。
それから、小国連合は金銭のやりとりに魔道具を使う。
市民はみんな端末のようなものを持っていて、魔道具にかざして使うのだ。
要するに電子マネー普及率100%なのである。
なお小国連合に入国時、端末を持っていない者は借りるか、購入するかを選べるので
商人や旅行者にも不便をかけないシステムとなっている。
俺も入国時、端末をどうしようか考えていたのだが、
どういうわけかケータイに入れてたモバイル電子マネーの一つがアルワレに対応していたのでそれをそのまま使うことにした。
ただ、補助単位には対応していなかったので"※"で機能を付加することになった。
さて。無事小国連合に入国したわけだが、これからは商売のタネ探しをしなくちゃならない。
それと俺の入国をヨカル王国関係者の耳に入る前に去らなくてはいけないという、見えないタイムリミットが存在するのだ。
ちょっと厳しいけど、ここまで来たんだから完璧に終わらせたいね。