14-1ボッタ成敗
アッジの修理屋の職人が、本来はそんなサービスしないんだがと
例の酒を飲みながら鉄の切れ端からリヤカーもどきを作ってくれた。
「代車だ。無ェよりゃマシだろ。」
「ええ。手押しのカートだとどうしても無理が出るんで。」
ありがたく受け取り、すっからかんになった財布を潤すべく通運ギルドに仕事を探しに行く。
「ものの見事に鉄鉱石だらけだな。」
「そりゃそうさ。この街はそれ一本でここまで発展してきたんだ。」
「っていうか、ルート配送の木札まで飛び込みの依頼のトコに掛かってるけど大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないね。このあいだ大手の配送グループが山賊に襲われてさ、
馬車を数台取られたせいで定期便すら間に合わない状況なんだよ。
だから運び手が増えるのはギルドとして歓迎さ。」
山賊ねぇ。…例の衝動は来ない。配送グループが襲われたってのがポイントかな。
「量が少ないなら俺が運ぼうか。」
「ああ、全部一度に運べなくても、供給が止まるよりは良いだろ。」
一応鉄フレームだし補強もしてあるとはいえ、片手間で製造されたリヤカーなので強度が心配だ。
今回はトロッコ2台分で様子を見よう。
リヤカーがギイギイ言ってる。
高速走行は危ないので30km/hで走っているが、それでもおっかない。
木製の車輪は振動をダイレクトに伝えてくるし、
溶接も酔っ払いながらやってたから不安だ…
普段より遅く走ったせいか、悪徳峠(俺命名)の道中で夜が来てしまった。
仕方なくぼったくり宿で夜を過ごす。
クソッ、忌々しい。
ぼったくり宿とはいえ、信用に関わる荷物に対する銀蠅行為はやっていないようだ。
さすがにそこまでしたら商売できないし、当然といえば当然か。
峠を越え麓の街に配送を完了させたので、宿併設の居酒屋でぬるいエールを飲んでいたら
近くで流れの傭兵らしきおっさんが仲間に絡んでいた。
「だぁーからー、俺ぁ見たんだよ。賊共が宿に入っていくのをー。」
「そんなもん、宿の主人脅して占拠してたんだろ?」
「従業員用の出入り口からコソコソと入るのが占拠になるのかー?」
「おめーの見間違いだろ。ったく、今日の護衛でミスったからって許容量越えて飲むから、わけわかんねーこと喚きやがる。」
ふーん?
あの山賊の話なんだろうけど、従業員用の出入り口ってのは気になるな。
もうちょっと聞き耳を立てよう。
「うう…あのケチども、宿に泊まらず広場に天幕張ってメシも自前で用意させっから天罰が下ったんだ。」
「そんな前のことは忘れっちまえ。それより今日のミスを嘆けっての。」
施設を利用しなかった天罰?
なんか裏がありそうな話だ。
リヤカーに荷物を入れ、エユデンに向けて出発する。
速度は80km/h。リヤカーが後ろで跳ね回っている。
だが壊れることはない。自分の能力を思い出して"※非破壊"を付与したのだ。
そして跳ねまくるのは想定できていたので、割れ物は入れず衣類など振動に影響ないものを積み、幌で頑丈に蓋をしている。
ちなみにこの荷物は配送物ではなく、自前で用意したものだ。
峠のボッタ宿・食堂は全部で3カ所。俺が利用したことがあるのは2回とも頂上にある2番目の施設だった。
もしあの酔っ払いの話が本当であるなら、どれか一カ所でも利用していれば見逃してくれるという事が推測できる。
そして、今製造して貰っているのはキャンピング馬車として使用する予定なので、
ボッタ施設は利用しないのは間違いない。
そうなれば山賊に遭うのは確定だ。
だから武器も今回のために新しく用意した。
例の制約からくる衝動はないものの、襲撃がほぼ確定でくるのであれば先に芽を潰しておこうというわけだ。
そして峠のボッタ施設3つ目を越えてすぐ。
そいつらが現れた。
「よオ、ご機嫌な走りを見せてくれんじゃん。俺にも乗せてくれよ。」
「チョーシ乗ってる奴を懲らしめてくれってお方がいてな?ちぃーとお灸を据えにゃあならんのよ。」
「悪く思うなよ、こちらも商売なんだ。」
口上が山賊っぽくない。
これは推測が当たったな。施設利用を強制するために襲っている。
ニタニタ笑う山賊に対し、こちらも新調の武器をカウルポケットから取り出す。
それは扇子。
紙がないのでハリセンが作れなかったので代用品だ。
扇面部分を布で作ってるから結構重い。
これを見て爆笑する山賊。
そりゃまあ、当然だろう。そう作ったのだから。
広げて振ると"※動きを封じる衝撃波をだす"、閉じて体に当てると"※動かなくなる"、そして頭を叩くと"※大きな音を立てる"+"※気絶する"。
ゲームによくあるネタ装備に見えて無茶苦茶な武器なのだ。
特に頭にhitした時に出す「スパーン!」という音が心地良い。
首尾良く4人の山賊を捕らえ、"※ワイド世界の動画を見る事が出来る"動画アプリを見ながら縛った。
そしてその辺に生えてた食用可の草に"※気付け"+"※自白効果"を付与して山賊の口に放り込む。
「おはよう山賊君。早速だがなんでこんなことをしているのかな?」
「ぼぼぼぼ、ボスの命令だ。エユデンを仕切ってるお方の命令でやってるんだ!」
「ボスって誰かな。」
「エユデンの代官の倅だよッ、小遣い稼ぎにエユデンを通る唯一の道で一儲けしてんだよッ。」
「その代官の倅はどこに?」
「峠頂上の宿だ!畜生ッ、なんで喋っちまうんだ、俺はッ!」
「そういう薬があるのさ。それじゃあ、峠頂上の宿に行こうか。」
扇子で頭を叩き、再度気絶させる。
そしてリヤカーに乗せ、峠頂上のボッタ宿に向かった。
「やあやあ、クソボッタ宿の諸君。」
山賊の帰還を待っていたであろう連中に手を振ってアピールする。
ついで、親指をリヤカーに向け捕らえた山賊に視線を移動させる。
「ネタは割れてるんだ。どこの誰の小遣い稼ぎかはどーでもいいけど、俺を狙ったのは間違いだね。
ボスの小僧っ子出てきなよ。お仕置きしてやる。」
「クソッ、使えない奴らだな。おいッ、全員で始末しろッ。
…おいっ、何故動かないんだ!」
動かないんじゃない。動けないんだ。
一人、また一人と頭を叩かれ倒れていく子分を見て青ざめていくボスこと代官の息子。
全員の頭を叩き終わっても窓から顔を出したまま、動けずにいる。
衝撃波が当たったのかな。
まあいいやと宿に突入し、部屋の扉を蹴破る。
グァシァァという音とともにドアが吹っ飛ぶ。
「オシオキの時間だコラァ!」
「ひぃぃぃぃぃ〜」
エユデンへは行かず峠を下りて、麓の街に着く。
そして兵士にエユデンに向かう峠の山賊としてエユデンの息子を突き出した。
"※自白効果"のあるものを飲ませておいたので、尋問で簡単に山賊のボスだと自白したという。
この街はエユデンとは別の代官が治めているので、エユデン代官は隠蔽工作するにしても多大な損失を被るだろう。
もしかしたら罷免されるかもしれないが、それは息子を放置した責任だ。
俺は山賊に襲われたので返り討ちにしただけ。恨むなら自分の息子にしてほしい。
さて、あとはクッション代わりに使った衣類だが…すこし潰れてるな。
鉱山に全振りしたエユデンでならこれでも売れるとおもうけど、あとで洗って干しておこ。
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