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不味い食事の後、城を出て各々(おのおの)の車に乗ろうとしたところ「今日はまず落ち着いてこれからを考えると宜しい」と言われ、貴賓室っぽい館に案内された。

割りあてられたのは1階で、窓から停めた車が見える位置だ。

それなりに気は遣われているらしい。


ここでも建物内で聞き耳たてられていそうだったので、余計な事は喋らないようにした。


その辺はカーシェアの子たちも理解しているらしく、話に合わせてくれている。



当たり障りの無い会話ということで、自己紹介から始め、転移当時なにをしてたかの話になった。


カーシェアの子たちは都亜流大学のサークル仲間で、カーシェアで買い物をした帰りに召喚されたという。


あの会員制倉庫型卸売店か。

たしかに車で行かないと大変なところだけど、元の世界に帰ったら延滞料が無茶苦茶なことになるぞ。


料金ヤバいね、なんて話をしていたら夕食の時刻となったらしい。

メイドさんが料理を持ってきてくれた。



昼食でも思ったが…まあ―メシが不味い。

おかずは全滅。一番マシなのが黒パンで、それですら国鉄系列の駅そばクラスと来た。

なんて言うかもう、どこぞのダークマター屋さん顔負け。最早芸術的と言えるレベルだ。


どうやったら肉をこうも渋くできるのか問い詰めたい。

どうやったら野菜の色が原色になるのか問い詰めたい。

どうやったら果物からパリパリの食感をだせるのか問い詰めたい。


水で流し込もうにも、腹下す恐れがあるからとワイン出されたし、案の定不味い。


もうね。拷問だわ。


明日の朝もこんな食事だと思うと悲しくなってくる。

せめて某欧州の島国のように朝食だけはまともであることを祈ろう。


…紅茶が不味いから駄目かも。




夜になり就寝の時間となったため、学生の男女と俺の3つに部屋を割りあてて寝ることにした。


寝る前に頭を整理したいので紙とペンを貸してくれと頼んだら、

木板を数枚と布を巻いた黒鉛に消しゴム代わりのパンくずを渡されてしまい頭を抱える。


ここまで文明が育っていないのか。

マズメシだけでもアウトなのに紙すら存在しない文明ですごすなんて冗談じゃないぞ。


悩んでも仕方ないので、どうするべきかを整理しようとマインドマップを書き始める。

中心には“これからどうするか”を据え、"留まる場合"、"逃げる場合"、"戦う場合"の枝を書く。


まず"留まる場合"だが、"マズメシが付き纏う"、"無理矢理戦わされる"、"救済措置なし"…

思いつくまま書いていくがデメリットしか出てこない。


次、"逃げる場合"だ。"手段"─"バイク"─"燃料"、"学生は?"─"自動車"─"燃料問題"、"周辺の地理"…

燃料がネックになるし、地理を知らないと逃げられないと。


最後、"戦う場合"。"武器"─"バイク"─"多勢に無勢"、"遠距離からは対処不可"…

うーむ。2、3人は轢けてもその後が駄目だな。



明日学生たちと話し合うしかないかと一息ついたとき、ドアをノックされた。


「どちらさん?」

「ナナシノ殿下よりお話があるとのことです。」

「…そうかい。入っても良いけどこの部屋だけにしてくれよ?」


入ってきたのは昼間豪華な鎧を着けていたオッサンだった。


「夜分にすまんな。」

「いえ、一息ついたところだったので。それで、話とは?」

「こちらに召喚したときに魔法を掛けたのは覚えているか?」

「翻訳の魔法と推測してますが、それが?」

「うむ、そうだ。その魔法なんだがな、効果は一時的なものでそう長い時間続かないのだ。」

「具体的にはどれくらいですか?」

「丸一日。明日の昼頃には切れる。

それでな、翻訳の魔法を封じ込めたこの腕輪を付けて欲しいのだ。言葉が通じないのはお互い困るだろう?」

「なるほど。明日になって言葉が通じないのは困るから今のうちに渡しておくという事ですか。」

「そういうことだ。勇者殿らにも、そう伝えてくれ。話はそれだけだ。」


そう言って腕輪を5つ置いて去って行った。


しかしなんで王族自らがわざわざ俺の所に来てまで腕輪を?

当番兵なりメイドなりに言付ければ良いだけじゃないか…


違和感を感じたので腕輪を装着しないでポーチにしまって寝ることにした。

これなら寝ている間に装着されることもあるまい。




翌日、朝。

やっぱり不味かった朝食を辟易しながら、学生たちに昨晩の件を話す。


怪しいからギリギリまで装着は止めとこうと一致したところで、

賢者君がちょっと考えがあるからと言って給仕さんに昨日の広場(練兵場だそうだ)で能力の確認をしたいと申し出をした。


食べ終わる頃に「確かに能力の把握は重要である」と承諾されたため、

荷物をまとめて(まとめるほどの量も無いが)召喚された場所に集まった。


ヨカル国王から、能力把握のついでに貸与する装備の確認をすべしということで、

人数分の鎧やら剣やらがすでに置かれている。



「言葉が通じるのは昼までということらしい。それまでは大人しく能力把握をしよう。」


賢者君がそう言って場を仕切る。


「さて、俺の能力は鑑定だ。さっきやってみたんだが、これはあらゆるモノを鑑定して

ウィンドウみたいに表示して、こうやって人にも見せる事が出来る。

ただ、深く探ろうとすると軽い頭痛がするんで、使うには精神力が必要みたいだけどな。

ちなみにあの標的へのダメージ量とかも見れるみたいだ。

…勇、試しにアレに向かってなんかぶっ放してくれ。」


僕?と自身を指さす勇者君。



「じゃあ、やってみる。炎!」


指先から炎の柱が出て標的を焼いた。

賢者君の鑑定ウィンドウには128ダメージと表示されている。

高いのか低いのかよくわからん。


勇者君に続いて、賢者君、魔法剣士君が攻撃を当ててダメージを出していく。

ダメージ1相当がなんなのかという実験もついでに行うが、1桁ダメージが出てくれない。


聖女君は補助や回復系らしいということでスキップして俺の番となったのだが…

俺には能力なんて"※"とかいうのしかなかったぞ。

そう言うと賢者君が俺を鑑定する。


「あ、ほんとだ。称号なしで(コメ)だけ付いてる。」


どれどれとみんなで見る俺の能力。

何処に注釈があるんだろうと探すが見当たらない。

そのうち賢者君が疲れたと言い出してウィンドウを閉じようとするが、

他のみんながウなんとかを探せのノリでちょっと待ってと騒ぐ。


「そんなに見たけりゃ自分で鑑定しろよ!」


怒る賢者君。

俺達には無いんだよとブーたれて言い合いになる学生たち。


騒がしいので、暇つぶしがてらしまい忘れているウィンドウへ"※当社比"と書いてみる。

…そしたらその文字が清書されて能力欄に反映されたのだ。


何の当社比だよ?と心の中でツッコミを入れる。


しかしだ。書いたのが反映されたって事はもしかして能力追記とかできる?



試しに"※当社比"を箇所を二重線で取り消して、"※鑑定能力"と書く。

思った通り、当社比の部分は消え、鑑定能力という文言が追加された。


本当に追加されたのか確認するために賢者君の能力を表示しようとすると、できた。

できてしまった。


「……。」


さっきまで言い争っていた学生君たちがこっちを見ている。

オイオイオイ。これはヤバいぞ。


「なあ、俺って要らない子?」


賢者君が拗ねるが、そんなことはないぞ。

軽い二日酔いクラスの鈍痛が鑑定発動時から来ている。

これが精神力もってかれるって感覚なんだとしたら、よく耐えれるね?


「いや、俺のはそこまで行かないけど…ランクが低いとかなのかな。」

「そうかも。なあ、僕にも鑑定つけてくれよ。」


勇者君を皮切りに女の子たちもつけて欲しいと言ってきたので、全員に"※鑑定能力"をつける。


「「「あっつつつつ」」」


いわんこっちゃない。


"※"が色々応用ききそうだと言うことで、ヨカル王国の連中には何も言わず

言葉が通じなくなる時まで貸与品を使用してのダメージチェックをした。

このとき、ちょっとしたトラブルで俺に面倒事が起きたけど、どうにかする余裕はないので放置された。



日が高いところに来る。


「**~***、**。」


メイドさんがこちらに何か言ってるが、手で制して要らないのジェスチャーを送る。

礼をして去って行くのを見送り、賢者君にアイコンタクトを取る。


「言葉が通じなくなった。これで何話しても通じなくなるぞ。」

「やっとだ~。」

「だがこちらの様子を見ればすぐバレる。早いところ話をつけようぜ。」

「じゃあ、まずはこれだな。」


そういってポーチから昨晩渡された腕輪を1つ出す。


「みんな鑑定してみてくれ、ヤバいぞ。」


腕輪には確かに翻訳の魔法が封じ込められていたが、おまけで付いてる効果がヤバかった。


「隷属…俺達を奴隷にしようとしてたのか、あいつら。」

「しかも賢者の俺が鑑定をしないようにわざわざヨネツキさんに渡す念の入れようだぜ。」

「まったく。全部疑って掛かって良かったというか。」


そう言いながら“隷属”の属性に二重取り消し線を入れ、無効化する。


「無効化できたんで渡すけど、諸々の準備が整ってから装着してくれ。」

「わかった。」


さあ、逃げ出す算段を話し合おう。


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