9-2
バイクを止めて様子を見ていたら煙が上がった所から信号弾が放たれた。
光の組み合わせは覚えていないので、先日購入した信号弾キットの取説を見る。
えっと、上から白と赤で襲撃、次が赤、黄…緊急と。最後の緑と赤が載ってない。
なんだろ。
取説によると、「襲撃・緊急の場合…これを見た狩人・傭兵ないし兵士は任務中を除き打ち上げ場所に急行すること。」と書かれていた。
どれにも該当しないけどなんか体がぞわぞわしてるし、行ってみるか。
さっきまで辺り一面が火に包まれていたのだろう。
いろんな物が黒焦げになっている。
まだ空気が暖かいので幌に火が燃え移るかもしれない。
離れた場所にバイクを停めて、現場を見渡す。
生存者はいなさそうだ。
わりと大型の馬車が横転して燃えている。
馬は逃げたらしい。
こんな惨状でよく信号弾を放つことが出来たなと感心していると
4本足のでっかい鷲に騎乗した鎧姿の人間が空から降りてきた。
「お前が信号弾を?」
「いや、見たからここに来た方。」
鎧の人はケディデア国プグハス領軍の偵察隊で、こういう緊急事態の斥候役をしていると話してくれた。
「それで、お前は傭兵にはには見えんが…狩人か?」
「通運ギルドにお世話になってる平民だよ。ここに来たのは野次馬としてさ。」
なんだそりゃという顔をされたが、商売道具を見て、ああと勝手に納得された。
どういう評価受けてるんだろう。
偵察隊の人が本隊に報告してる間、煤が一方向に伸びているのに気づいた。
変な足跡もそちらを向いている。
そのことを偵察隊の人に言うと、何故か救出作戦が始まり、メンバーに加えられてしまった。
何故だッ!
坊やだからデス、ハイ。
メンバーに加えられた理由は偵察兵が通信しているのをなんとも思わなかったためらしい。
通信機と思しき道具の向こうから「平民はこの魔道具を知っていても実際声が聞こえると驚くものだ。」と呆れられてしまった。
確かにこっちの世界には電話ないもんなぁ。
居るはずのない人間の声が聞こえるのは驚きだよなぁ。
それで、軍関係の仕事をしたことがあると思われて強制参加と相成ったわけだ。
他に現場に到着した人間が居ないので拒否もできない。
それに例の制約が発動しているのか、戦いの衝動がさっきから来ている。
しゃーない。やってやりますか。
救出作戦といっても、まずは捜索からだ。
バイクのハーネスを切り離し、煤が伸びていた方向に向かって探すよう指示された。
何かを見つけたらこの信号弾を放てと、売店で見たことのない形の信号弾を渡される。
軍用で、中身は同じらしい。
すでに放つ信号もセットしてあるので打ち上げるだけだと言われた。
それで、偵察隊の人はこの場に留まって俺の馬車を見張るのと、他の救援者への指示を出す役割を担うそうだ。
たしかに軍の人が指示した方が余計な諍いを生まないだろう。
了解したといって、バイクを走らせた。
偵察隊から見えなくなるところまで走り、ケータイを取り出す。
やっぱり"※ハーカンクの社会情勢を記事にする"ニュースアプリから通知が来ていた。
攫われたのは特に誰とも書かれていなかったので、普通の一般市民だろう。
それで、一体何処のどちら様に攫われたのか…は、書いてない。
いやまあ、足跡からして人間じゃなかったし、組織的な犯行には感じなかったけども。
ま、攫われたのが誰であろうと依頼された捜索はちゃんと全うしよう。
都合良くニュースアプリが続報伝えてきたし、ってなんだこれ。洞穴?
地図アプリに切り替えて、ストリートビューを見たが、横幅が小さくて人が入れなさそうな穴だ。
本当にここかよと思いつつ、他に手がかりもないので該当の場所に向かう。
なんじゃこりゃ。
ストリートビューとだいぶ違うぞ。
バイクでも通れそうな穴が空いてるじゃないか。
そして靴が片方だけ捨ててある。生暖かいので脱げたばかりなんだろう。
犯人は本当に考えなしのアホだな。
さて。通信機経由で依頼されたのは捜索だけだったので、渡された信号弾を上空に放って仕事終了となるのだが。
困ったことに洞穴に突撃したいという衝動が収まらない。
ええい、忌々しい制約だなッ。
こうなりゃヤケだ。
バイクからマシェットとシールド引っ張り出して洞穴に突撃じゃーい。
洞穴に入ってすぐ目に入ったのは広めの部屋と緑色の餓鬼。足跡の正体はゴブリンだった。
人間にしてはアホすぎるし、やっぱりそうかと思いながらスパイク付きシールドで殴りつける。
右フック、右フック、右フック。
連続で衝撃波を食らって壁にたたきつけられ、絶命するゴブリン。
もはや作業感覚。正直、マシェットいらなかったかもしれない。
調子に乗って奥に向かうと、一際でっかいのが居た。
攫ってきた人間と思われる人影も見える。
この位置でフック打ったら衝撃波が人間にも当たりかねないので
ジャブに切り替えて個別に吹っ飛ばす。
あらかた吹っ飛ばしたが、でっかいのが人間を盾にしてきた。
まいったな、マシェットで斬ろうにも人間に当たりそうだ。
回り込んで位置を変えても人間をこちら側に向けてくる。
困っていると、ゴブリンが人間をこちら側に向けたまま、俺が突入してきた穴に逃げようとする。
だが、こちらが手を出せないというのは甘い考えだな。
ガスッという音と共にゴブリンの額から剣先が生えた。
いや、後ろから刺したのだ。
「遅くなった。」
偵察隊の人が応援に来てくれたのだ。
救出完了の報告をしながら、落ちてた布で剣を拭う姿がサマになっている。
ゴブリンの全滅を確認し、俺も例の衝動が消えたのを感じた。
「あとは事後処理だが、君はどうするかな?」
「どうするって、このまま去ってもいいんですか?」
「本来は調書を取るのだが、本部には逐一報告をしていたし、止め刺しは私だからな。」
それに、バイクこと二輪の魔道具の配送屋としてそこそこ名が通っているのが決め手だったようだ。
ゴブリンやオークによる人攫いはよくある事件なので、いちいち構ってられないという事情もあるらしい。
そういうことなので、ありがたくその場を辞させてもらった。
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