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6-1風呂爆弾

国境のイージェ・ミオーから離れて数日。

かなり遠い配送先に向けて走っていた途中野生の猪と正面衝突して、シートバッグの様に括り付けていた荷物破損する事故が起こった。

近くにあった集落で荷物の補修のついでに、衝突の衝撃で死んだ猪を"※ワイド世界の動画を見る事が出来る"動画アプリを見ながら解体処理をしていた。


「へー。猪肉って豚に近いんだ。」


全部は食えないから美味いとこだけ確保して、余りを井戸を貸してくれた集落に渡そうかと考えていたところ、

解体の参考にした動画で脂は別の物に使えると言っていたのでちょっと調べてみた。

ほほう、石鹸を作れるなら挑戦してみよう。


まずは材料、アルカリと水と脂。

脂はあるのでアルカリと水が必要と。



井戸水を使うとミネラルが混ざっていてアウトらしいので、

蒸留水を作る。


1.井戸水を入れた鍋の中に小さいボウルを浮かべる。

2.大きいボウルで鍋に蓋をして冷却用の水を張る。

3.Fire


蒸留水ができあがるのを待っている間、アルカリを作るため

集落の人に余った猪肉と木灰を交換してもらう。


それで、灰からアルカリを採取するために水と混ぜ合わせて…また放置か。

めんどくさいからぼろ布(ウエス)で漉してしまおう。

やべ、手がしびれる。


ガラス容器にアルカリ溶液を採取できたので石鹸作りに入ろう。



1.脂を温めるため鍋に水張って、油を入れたガラスボウルを入れ湯煎して取り出す。

2.アルカリ溶水だばぁ

3.ぐりぐり混ぜる

4.クリームみたいになったら木型にだばぁ

5.the放置


また放置かッ。面倒だから貯蔵キットみたいに"※10分で24時間分経過する"を木型に付与してしまおう。


10分後。固まりかたが微妙な石鹸ができた。

でもって獣臭が半端ねえ。


昔の人はよくこんなのを使えてたな。

小便よりはマシなんだろうけどさ。


自分で使うのはちょっとためらわれるので、こいつは売ってしまおう。

そんでもって作り方もわかったことだし、自分用にオリーブオイルで作り直すとしますか。



どういうわけかあの猪脂石鹸、集落のおばちゃんに非常に喜ばれた。

1個20エーペ(約550円)という値段だったのに安いとか言われたよ。


石鹸てそんなに高いもんだったかなと思いつつ、集落を出発する。





翌日。配送先まであと一息というところまで来て日没となったので、付近の宿場街に向かった。


宿には先客がおり、装飾を施した馬車が馬車止めに置いてある。


「一人部屋、あいてるかい?」

「ああ、1泊300エーペ(約8,300円)だ。」

「うん?他のとこよりだいぶ高いな。」

「そりゃそうさ、ウチには大浴場があるからね。」


風呂か、そりゃあいい。


なんでも湯治にハマった宿の主人が大枚(はた)いて作った設備なのだそうだ。

薪代がかさむんで宿泊料が高額になるが、貴族や金持ち、そして俺のような物好きが好んで宿泊しているのでなんとかなってると話してくれた。


しかし薪代を少しでも節約するために、風呂に入れる時間を宿側が一方的に決めてきて、

その時間を外して入る場合にはバカ高い追加料金を取るシステムだと言われた。


そしてその風呂、どんだけ広いかを見させてもらったわけだが、大浴場という割には狭かった。

人が3人入れれば良いかなというくらいだ。


沸かすのはどうやってるんだと思って浴槽を見たら

横に穴があり、外に繋がっていてそこで沸かすような構造だった。

へえ、五右衛門風呂じゃないんだ。意外と先進的。



風呂の時間になったので、石けんを持って浴場に行く。

脱衣場では先に入っていた宿泊客が使用人に体を拭かれていた。


「おっと。先客はお貴族様でしたか。」

「ん?ああ、時間なのだな。私には構わず入りたまえ。」


それじゃ失礼して、と。

着替えをせずに浴室に入り、そこで服を脱ぐ。

盗難対策という異世界での一般的な常識だ。


体を洗って、浴槽に浸かる。


「あ゛~…」


よく考えたら、異世界(こっち)来て初めて浴槽に浸かったな。

井戸で水浴びくらいはやったが、しっかり洗って風呂入るのは初めてだ。


ボケッとそんなことを考えながら浸かっていると、脱衣場から声が聞こえる。

まだやっとんのかいと思いつつ聞き耳をたてたのは仕方ないと思う。


「ジュヌーン、なぜ風呂を嫌がるのだ」

「だつて、つまらないんだもん。」

「清潔にするのは貴族としての嗜みなのだ。明日はおとなしく入りなさい。」

「だってー…」


ははぁ。貴族の子供が駄々こねてるのか。

どこの貴族かは知らないけど次代は大変そうだねえ。



風呂から上がって、部屋に向かうとき、ロビーでさっきの貴族親子が喧嘩をしていた。


遊びたい盛りの子供側が優勢のようである。

疲れた顔の父親。


「おお、済まんな。恥ずかしいところを見せてしまった。」

「はぁ。」

「ときに、きみは商人かな?」

「真似事ならやるときもありますが、何かご所望で?」

「うむ。知っての通り息子が風呂嫌いでな、清潔さを保つためにも二日に一度は風呂に入れたいのだが言うことを聞かん。」

「つまり率先して風呂に入らせる方法ですか。難しそうですが、何故自分に?」

「この宿の宿泊客だからだ。倍額出して風呂付きの宿に宿泊する客は風呂好きと決まっている。

であればアイデアの一つでも持っているのではないかとふんだのだが。」

「今はちょっと思いつかないですが、しばらく部屋で考えてみますね。」

「うむ、頼んだ。」


風呂に入るときも感じたけど、意外と気安い人物らしい。

そして風呂嫌いなどという不届き者は俺も許せないのでちょっと真剣に考えてみよう。




部屋に帰って検索しながらあれこれと考えるが、子供の癇癪というのは中々難しい。


アイデアが出ないので気晴らしに動画配信者の過去動画を自動再生で見ていたら、固形入浴剤の自作という動画が始まった。

お、風呂爆弾か。


…これ、使えるんじゃね?


材料はアルカリ性の重曹とクエン酸、それと固める何か。片栗粉が多いな。


たしか重曹は掃除用の洗剤として売られてた。

クエン酸はレモン汁で代用可、そんで片栗粉はジャガイモから作れたはずだな。


宿の食堂から重曹とレモンを借りて、片栗粉を自作する。

乾燥工程は面倒くさいのでいつものパターンでスキップだ。


さて、材料が用意できたら重曹と片栗粉を混ぜる。

次にレモン汁を入れてうりうり混ぜる。水分はできるだけ入れないように。


木型に詰めて完成と。


テストのため木型に入りきらなかった分を固めて湯を入れたボウルに投入する。

動画のようにシュワシュワいって溶けていった。成功とみて良いだろう。




翌日。貴族様が朝風呂を所望しているという話を聞いたのでロビーで待ち構える。

そして湯が沸いて風呂に入ろうと階段を降りてきたところを捕まえた。


「おはようございます、昨晩ぶりです。」

「おお、きみかね。どうした?朝早くから。」

「子供が喜びそうな面白い品物を作りましてね。」

「何っ、もうか!?」

「材料の都合で一つしか作れませんでしたが、子供は興味を示すと思いますよ。」


お代は後でと言って、風呂爆弾を手渡す。


「これを湯船に入れるだけです。投入はお子様にやって貰うのが良いでしょうね。」


半信半疑の表情で大浴場に向かった貴族様。

宿の主人には勝手に入浴剤を入れたことを後で謝らないと。


そんな事を考えながら朝食をとっていると、廊下からバタバタと足音が聞こえた。


「おいっ、きみ。何だねアレは!?」

「何って、ただの入浴剤ですよ。ちょっと発泡するだけの。」

「あれはまだ作れるのか?」

「残念ながら材料がもうありません。ああ、レシピは教えませんよ?」

「ぐっ…」

「ですがお子様は喜んだでしょう?」

「う…うむ。」

「ならよかった。」


お代が請求できる、と続ける。


「あれは幾らするのかね。」

「技術料込みで150エーペ(約4,000円)です。」

「技術料?きみは錬金術師かね?」

「真似事ですが。」

「うーむ。さらにわからなくなった。」


そりゃまあ、商人の真似事に錬金術師の真似事をする配送屋モドキだからなぁ。


「仕官する気は?」

「ありません。」

「だろうな。しかしあれは定期的に手に入れたいのだが。」

「難しいでしょうね。形が崩れやすいですし、水を含んだら溶けちゃいます。」

「ぬぅ。仕方がない。今日は縁が無かったということで諦めるが、今度はそういかんぞ。」


ヤレヤレのジェスチャーをすると貴族様が踵を返した。

ボゼッグのおっちゃんが言ってた通りそのうち俺捕まるかな、これは。



なんやかんやとあったが、宿の主人経由で風呂爆弾のお代を受け取って配送先に向けて出発した。

向かった先で今度は何があるのやら。


モチベ維持のためブクマ、評価、感想、レビューお願いします。

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