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5-4

「昨日はすこし熱くなってしまった。いやはや、ワインがここまで奥深いとは思わなかったぞ。」


昨日の即席品評会が盛り上がりすぎて、話どころじゃなくなったので

翌日また集まったのだが、開口一番そう言われた。


「俺が話したいことは昨日お伝えしたものが全てです。

貯蔵環境を作るというイニシャルコストと、維持のランニングコストがワインの風味でどれだけ稼げるか

それが課題だと思いますが、評価をお聞かせ願えますか?」


昨日鋭い推理をしたナイスミドルが目配せしてから発言する。


「君の提案は非常に魅力的ではあったが、いかんせんコストが高すぎるので投資分が回収出来ないだろうというのが我々の結論だ。」


あらま。駄目だったか。

しかしニヤリと口角を上げるナイスミドル。


「だが、これは新たな名産として非常に魅力的だ。よって我々から領主様に提案をしたいと思う。

その提案に使いたいので、昨日開けたのとは別の5年ごとのサンプルを貰えるかな?」


うへえ。そういうことが出来ちゃう立場の人たちだったのか。

やっべ、滅茶苦茶タメ語使っちゃってるじゃん。


「わかりました。いつ頃、誰に渡せば良いですか?」

「今あるなら私が預かろう。」


そりゃ沢山作ったからありますよと、寝かせた年数を書いたラベルを貼った瓶を渡す。


「よし。それではプレザンス様に手紙を送るから早馬の用意をしてくれ。」


と、使用人に指示を出しつつ、ワインを自前の保冷庫に入れていく。

このナイスミドル、用意が良いな。


「これは大事業になりますなあ、レオナール殿。」

「ああ、久方ぶりに血が湧いた。ボゼッグ店長、よくぞ私に教えてくれた。

ああ、それとミサオ君。君の提案は大体私の予想通りではあったが、あの5年毎のワインにはやられた。

君は正直すぎて商売人向きの性格ではなさそうだが、あれは効果的だった。」

「はは…」


「そうそう、そういえば聞き忘れていたんだが、この手法は醸造酒でも可能かな?」

「ブドウの醸造酒…ブランデーですね。

可能ですが、手持ちに無いので年数毎のサンプルは出せませんよ。」

「かまわんよ、そこは研究していく。

あの酒精が強いだけの酒が化けると言うなら、醸造所のドワーフ共も協力してくれるだろう。

フフ、さてこれは中々面白い趣味となりそうだ。」


趣味って…この人領主に金を出させて自分は美味しいところを頂くつもりだ。怖ッ。


最後冷や汗をかいたが、領で事業化してくれるのならこの村は無くなることはないだろう。

ぜひともそうなってもらいたいものである。




早馬で領主に手紙を送った後、調整のために居残っていたレオナールらもイージェ・ミオーに帰り、ようやく静けさを取り戻したユーク村。

宿の主人には迷惑を掛けましたと謝ったが、ナイスミドルの人たちに色々食材とか分けて貰ったので問題無いと言ってくれた。


俺がワインを2樽買ったブドウ園の老夫婦も生活必需品やら水代わりのワインやらを彼らから分けて貰ったそうだ。




やれやれ。

結局、俺にとってあまり儲けにはならなかったけど、社会的な貢献は出来たから良しとしよう。

いや、文明を徒に進めてしまったので悪いことかもしれない。


だけどメシが美味くなる分には許されると思いたい。嗜好品である酒も同様だ。


自分にそう納得させ、今日は就寝することにした。




翌日。

宿を引きはらおうとバイクに貯蔵キットをしまっていると、渋ワインの店のおっちゃんことボゼッグが来た。


「おっちゃん、店どうしたの?」

「しばらくは休業だ。レオナール殿が領主様に提案するため、方方に声を掛けててな、その手伝いでてんてこ舞いだ。」

「あらま。」

「それで、今日は礼を言いに来た。」

「へ?礼?なんでさ。」


「ウチの店はな、この村に大きな借りがあったんだ。

今でこそワインの専門店なんて名乗っちゃいるが、昔そのワインでポカやってな。

そのときこの村の住人に色々便宜を図って貰って店じまいをしなくて済んだんだ。」

「その住人は?」

「パウエル。お前さんも知ってる顔だよ。」


あのブドウ園の老夫婦か。


「だから本来は取り扱わない渋いワインを店で売ってたんだね。」

「そういうことだ。今回もそれが縁で大商いのチャンスを得られた上に恩のある村の存続ができそうなんでな。

こうして礼をしに来たってわけだ。お前さんが引き払う前に到着できて良かったよ。」


「…あんまこういうの慣れてないんだよなあ。」

「フフ。これからも同じようなことを続けるなら覚悟をしておくことだ。

最終的には貴種の方々に捕まえられるかもしれないというリスクのな。」

「そんな大げさな。」

「大げさなものか。レオナール殿が領主様だったら、お前さんは軟禁生活を強いられていたのかもしれんのだぞ。」

「ハァ、そうなったら他国に逃げるよ。」

「フン。どうせその国でもやらかすだろう。お前さんはそういう性格の様だからな。

ま、いいさ。若いうちに色々経験することだ。」


そう言って、去って行くワインの店のおっちゃん。

俺、若いっていっても40前なんだけどなあ。




メットインに荷物を全部入れ、部屋の鍵を宿の主人に返し、精算をして出発だ。


目的地はイージェ・ミオーだが、そこからは通運ギルドの荷物次第。

といってもドモク共和国はメシが不味いんで、しばらくはケディデア内をうろつくつもりだ。


…そういえばカーシェアの学生たち、連絡来ないけど無事なのかね。


モチベ維持のためブクマ、評価、感想、レビューお願いします。

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