1-1巻き込まれて
性懲りも無く異世界物
米印、というのをご存知だろうか。
当社比とか、当社調べとか、個人の感想であり、効果・効能を示すものではありませんという逃げ口として使ったり、
コマーシャルで都合の悪い限定条件を小さく表記し、見る人をだまくらかすアレである。
快晴の平日にサンダル履きの私服でバイクを走らせている不良社会人こと俺は米付操。
それは夏期休暇を台風で潰された翌日のことだった。
電車が架線障害で不通になった事を連絡したら、有休使えと会社が言ってきた(※合法)ので
昼間から飲んだくれようと、酒を買いに走っていたときだ。
前が詰まっているわけでもないのにトロトロ走っているカーシェアの軽自動車を追い越している最中、道路が突然光り、バイクがそれに包まれたのだ。
その光に驚いてブレーキを握ったのが悪かった。
光が消えて目が慣れた頃には既に別の世界だった。
左後方を見ると、さっきの軽自動車と、その車を中心に丸く残った見覚えのある道路。
そこからブレーキ痕が伸びて、今俺の足下にあるのは均された土だ。
あらためて軽自動車の方を見ると大学生ぐらいの若者が呆けて固まっている。
ターンして運転席の窓ガラスを叩くと、我に返って窓をあけて何が起きたのか聞いてきた。
俺もよくわからんが、とりあえず俺一人が見ている幻ではないな、と返す。
運転席の子に、助手席と後部座席に座っていた子を現実に引き戻してもらっている間、あたりの様子を見ると、そこは四方が壁に囲まれた運動場の様だった。
映画セットのような鎧を着込んだ人がこちらを取り囲み、槍を構えてくる。
そして司令官らしき豪華な鎧の人が何かを唱えると、道路が魔方陣のように光って、光の壁を作り、消えた。
「私の言葉がわかるか、勇者殿。」
勇者?さっきのは翻訳の魔法か?
車から降りずにいくつも質問を投げかけるカーシェアの子たち。
しかし、豪華な鎧の人は無視して「言葉はわかるようだな、説明するから付いてきたまえ。」と、自分の要件だけを伝えてくる。
カーシェアの子たちと相談し、何が起きたのか情報は欲しいので
車から降りずに付いていこうという事にした。
とはいえ用心は必要なので、小回りが利く俺のバイクを前にして、後方がシェアカーという順番だ。
運動場のような場所から出ると、そこはファンタジーな世界だった。
明らかに現代地球ではない、いわば中世風の景色。
いつの間にか馬に乗っていた豪華な鎧の人に連れられて、城の入り口までたどり着く。
「此処で馬から降りられよ。我が父王に会っていただく。」
拒んでみてもどうしようもない。
車に触らないと約束させ、下車する。
もちろん鍵掛けて、スマートキー自体もロック。
これで車に何かされたときイモビライザーは作動する…んだろうけど何も出来ないんだよなぁ。
豪華な鎧の人に案内され、謁見の間らしき広々とした場所に着いた。
「父王よ、召喚の儀式は成功いたしました。
彼らが召喚に応じた者となります。」
父王と呼ばれた人が頷き、俺たちに事情を話し始めた。
いわく、
ここはハーカンクという名の世界。
この世界において、英雄・英傑の住まう世界という伝説の世界ワイドと呼ばれる場所があると。
ヨカル国には古い言い伝えがあって、
国が危機に瀕したとき、現れる英雄が解決してくれるという、
まぁーよくあるおとぎ話を信じて儀式をしたと。
要するにどこぞの聖戦士よろしく自分の都合で召喚してくれやがったわけである。
で、能力を表す魔道具とやらで俺とカーシェアの子たちを見たのだが。
運転手の男が勇者、助手席の子が聖女、後部座席の男女がそれぞれ賢者と魔法剣士という称号で、
称号とともに何かユニークなオマケが付いていたらしい。
さて俺はというと、称号なしで"※"とだけ出ていた。
人間に"※各種割引適用時"とか付いてるのかな?
いずれにせよ戦闘に関係なさそうだ。
召喚時の状況からしてわかっていたけど、俺は完全に巻き込まれただけの存在だな。
戦うための能力は備わっていないと判定された俺は続きを聞く必要はないと言われ、ひとり控え室に追いやられてしまった。
小一時間ほどケータイアプリ(当然ネットには繋がらない)で暇つぶしをしていると、話を聞き終わったカーシェアの子たちが控え室に入ってきた。
「やれやれ、とんでもない話だったぜ。」
出された不味い昼食を食べながら、勇者と判定された子がかいつまんで説明をしてくれた。
「異世界の馬車(車とバイク)を駆って他国に攻め入って欲しい」
簡潔に言うとそうなるらしい。
しかし、滅亡に瀕しているはずのヨカル王国なのに
無駄に豪華なお召し物だったり高級そうな調度品が飾ってあったり、
なにより戦争しているはずなのに兵士の鎧は磨かれてピカピカであると、
主張と矛盾するところがあるという。
オマケで召喚された者(つまり俺)にはそのまま御者なり、ポーターを兼任させれば良いとも言われたそうだ。
ははぁ、これは馬と馬車で一対になっていると思われてるな。
さて、国王サマの話と周りの様子をから考えて、
利用するだけ利用してやるという意図が見え見えだったと賢者君が小声で言う。
じゃあ、どうやって逃げるかという相談になるのは当然の帰結なのだが、ここは城内。
盗み聞きされているかもわからないので、移動してから相談しようということにした。
巻き込まれ系って、本体の処理(失礼)が様々でおもしろい