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七彩ノ瞳ノ”観測者”  作者: 所為人
30/40

「作戦」②

「お前は・・・!」


それは納涼祭の夜、あの現場にいた、顔面が傷だらけの男だった。

今は隠されているが、この男の右腕に彫られたウンバールの入れ墨が、鮮明に脳裏に蘇る。


「さてさて。貴方と再びお会い出来たこと、私は素直に嬉しく思いますよ」


傷だらけの顔面を歪め、男は微笑んだ。


「僕も嬉しい限りだ。・・・今度こそケリつけてやる」


すると、男は僕の銃を指さしながらこう言った。


「それはそれは。ですが、私を本気で殺そうというのなら、そんな無粋な物はお捨てなさい」


そして、一瞬だけ間を開けて、男は続けた。


「一体、どこに置いてきたんです。・・・()()()としてのプライドは?」


薄々覚悟はしていたが、それでも下唇を噛んだ。


「・・・どの時点で気が付いた?」

「割と早くに。あの身のこなしもそうですし、何より、その瞳があれほど眩く輝いていれば、流石に気が付きます。私達のこともご存知の様でしたし。色々と光栄です」


男は誇らしそうに胸を張った。


「・・・一つだけ、聞いてもいいか?」


男の目を見据えて、僕は尋ねる。


「どうぞ。お時間が許す限りには」


男は大げさに右腕を差し伸べながら、そう言った。


「お前たちが目指すものは、一体なんなんだ?」


すると、男は軽く頷いて、これまた大仰に、何かを解説するかの如く答え始めた。


「私達、ウンバールが目指すもの、それは今も昔も変わりません。・・・神と、そしてあなた方()()()によって作られた()()()を中心に、この世界を作り変えることのみです!!!」


声に熱を帯びながら、それでも男は冷静に続ける。


「人間は、確かに歴史の歩みの中で進歩を続けていました。しかし、我々は所詮、人類です。その速度は極めて遅く、その限界は既に見えている。あの『シャッフル革命』なんて、良い例です。私達人類が、さらなる進歩をするためには、”宝玉”の力が必要なのです」


誇らしげに男は言い切った。


「・・・そのために、あれほどの人を殺めてもか?」


男とは対照的に、僕は怒りを隠せない。脳裏に浮かんだのは、前回の戦争で目にした荒廃した町、そこで積み上げられていた大量の死体と、隣で心臓の鼓動を止めた僕の幼馴染だった。

しかし、男は当然といった素振りで言う。


「何を仰っているのか・・・。そもそも、何かの発展の為に犠牲は必要です。時間やお金、この場合はそれが人命であっただけのこと。何も目くじらを立てることではありません」

「・・・そうか」


目を少しだけ瞑る。

一筋だけ、涙が頬を伝った。

次に目を開けた時、その視界は鮮やかに、()()()()()()()

銃を投げ捨てる。次の瞬間、僕の手には剣が顕れる。

おとぎ話に出てくるような、装飾が散りばめられたものではない。

もっとシンプルで、刀身が少し反り、その柄と鍔にはそれぞれ一つだけある紋章が施されている。

眩い輝きを放つ”大宝玉”を模す、その紋章。

それを見た男が、深々と礼をした。


「本物の”観測者”とお手合わせ出来る、なんと私は幸せなことか・・・。考えは違えど、同じ”宝玉”に導かれた我々です。・・・参ります!!!」


次の瞬間、男はフードを脱ぎ捨てた。

同時に、僕は全力で地面を蹴り、男までの距離を詰める。

カァン!という高い音が響き、火花が飛び散った。僕の剣が男の二本の短刀によって防がれたのだ。

男は高らかに笑うと、両手に構えた短刀を目にも止まらない早さで振るいだした。

三回、立て続けに素早く飛んできた突きをかわし、下から切り上げようとしたが、男は素早く身体を引いて、それを避ける。


勢いを殺さずに、そのまま胴体に蹴りを入れようとしたが、男は腕でそれを受け止めた。

一度後ろに飛び、間合いを測る。

一瞬の静寂の後、同時に前に突っ込み、0距離で剣を交える。

十数度打ち合った挙句、隙を見て肩めがけて一気に剣を振りおろす。

が、その一撃もまた短剣で防がれた。


(こいつ・・・やはり強い!)


五年もの間、鈍りになまった体だ。自分の力を上手く制御出来ていないのも、また事実。

ただ、それを差し引いたとしても、この男の力量は相当なものだった。

後ろに飛びながら下がる。


しかし、男はすぐに飛び出して、攻勢に出た。

身体の反応に任せ、無数の突きと斬撃をどうにかやり過ごす。

隙を見て足払いを仕掛けたが、空しく床を掻いただけだった。

その回避のために少しよろけた体重を逆に利用し、男は全身の体重をかけて斬りこみを淹れてきた。

一瞬反応が遅れたものの、なんとか受け止める。

鍔迫り合いの中で、男が口を開いた。


「・・・確かに貴方は”観測者”だ。その強さを確かに感じる。・・・ですが、私と互角の勝負を演じている辺り、どうも不調のようですね?」

「・・・!」


何も答えずに、ただ腕を支えることに集中する。


「・・・だんまりは、頂けませんねぇ!」


男はそう叫び、一度身体を引く。次の瞬間、連続して三発の蹴りが炸裂した。

始めの二発はなんとか回避するが、最後の一発をモロに喰らい、身体が宙を飛んだ。

なんとか空中でバランスを取り戻し、着地と同時に体勢を整える。


「貴方は”宝玉”に()()()()()人間、そして私はその”宝玉”に()()()()人間です。超えられないはずの壁を・・・私は今乗り越えようとしている・・・」


男の声は少し震えていた。


「こんな日を迎えることが出来た・・・。私はなんと祝福されているものか!」

「妄言も大概にしろ、この野郎!」


自分の未熟さと、男の恍惚とした表情にいら立ちを覚え、僕はもう一度男に突撃をかます。

しかし、これもまた防がれた。

鍔迫り合いに持ち込まれ、じりじりと追い込まれていく。

その時、突如僕の足元が沈んだ。


「な!?」


激しい攻防の中で、ただでさえメンテナンスも行われていなかった床が傷つき、僕の足元は随分と脆くなっていたらしい。

そのまま、僕の身体のバランスが崩れる。


(やられる・・・!)


冷たい汗が、首筋を伝った。

その瞬間、上の階から凄まじい爆発音が聞こえ、それと共に天井の一部が崩れ始めた。


「・・・全く、もう上の連中は突破されたのですか。興ざめですね」


そういうや否や、男は後ろに下がった。


「またすぐにお会いしましょう・・・。ああ、そういえば。私の名前はヒタム、覚えておいて下されば光栄です。それでは」

「こっの!!!待て!!!」


しかし、男の姿はすぐに闇の中に消えていった。

慌てて立ち上がり追いかけようとするが、先ほど受けた蹴りのダメージが思ったよりも大きいらしい。すぐにふらついて、床に座り込む。


(僕は・・・ここまで弱いのか・・・)


自分自身に対するやるせない怒りと失望で、胸がぐちゃぐちゃになる。

やがて、視界が暗転して、僕はそのまま倒れこんだ。


---------


「お疲れ様です」


集合場所に帰還したカールに、俺は声をかけた。


「ああ、ドゥア隊長。お疲れ様でした」


カールは土ぼこりにまみれた顔を拭う。


「一応、作戦は成功ということで良いんでしょうかね?」

「ああ。敵の本拠地は壊滅させた。思っていたように殲滅までの時間は足りなかったが、成功として良いだろう。・・・亡くなられた捜査員の方々に、ご冥福を」


リスクが高いことは承知していたが、死者を出してしまったことは、やはりやるせなかった。


「ありがとうございます。・・・近衛部隊の戦死者の方々も、残念でした」


近衛部隊側も無傷では無かった。二人、優秀な部下を失った。


「・・・伊吹君の容体はいかがですか?」

「大事はないです。・・・状況的にも、ウンバールの一味と戦闘になったことは明らか。あいつは自分の役割を果たしてくれました」


エールプタワーを占拠した後、伊吹と斃れた隊員達を発見したのは俺だった。二人の命を奪ったのは、いずれも喉元に突き刺さったナイフ。火器の使用の痕跡もなかった。また、あいつ一人に重荷を背負わせてしまったのだ。


「そうですか・・・それは何よりです」


そう言って、カールはトランクに載せられたドリンクを二本手に取って、一本を俺に渡した。


「ひとまず、これが私達の最初の一撃です」


少し掲げるようにドリンクを持ち上げて、そしてカールは喉を鳴らしながら、みるみるうちに中身を空にした。


「ええ。これで奴らも、そろそろ俺たちが本腰を入れて動き始めると、察しがついたでしょう」


問題は、次をどうするかだ。


「私に妙案があるわけではないですが・・・一つよろしいでしょうか?」

「もちろん」

「どうにかして、ウンバールの人間を倒せれば、状況は劇的に変わると思います」


俺は頷いた。そのカールの指摘は最もだ。


「これまでの『同盟』が起こした事件の裏にウンバールがいることは明らかですが、直接関与してきたケースはこれまで確認されているだけで三件。極めて最近になってその影をちらつかせるようにはなったとしても、その件数、スパンを考えればウンバールの人間はそこまで多くないはずです」

「それは俺も思っていました。掃討作戦の生き残りが多ければ、それらを総動員して混乱を引き起こす・・・。わざわざ素人の集団をかき集めてここまでするんです、向こうにも事情があるのでしょう」


カールが大きくため息をつく。


「まあ、私から指摘しておいてなんですが、特に考えがあるわけではないのです。持ち帰って考えますが、隊長も何か良い案が浮かべば、是非私にもお伝えください」

「・・・あまり自信はありませんが、出来る限りのことはやってみます」


一礼をして、大声で周りに声をかける。


「撤退だ!戻るぞ!」


慌ただしく車に乗り込む部下達を見て、自分の心に棘のように刺さる何かに気が付いた。


(また・・・俺は部下を危険な任務に向かわせることになるのか)


ため息を一つつき、車両に向かう。


(それでも、俺は真衣様を護る。部下の恨みをどれほど受けようが、俺は近衛部隊隊長。イルドリス家の当主なのだ・・・)


カールから渡されたドリンクを口に入れる。

舌には、ただただ苦さだけが残った。


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