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七彩ノ瞳ノ”観測者”  作者: 所為人
10/40

「行きつけのバーにて」③

「そもそも、どうしてお前はあの日、大学に来てたんだ?」


最後に運ばれてきた焼うどんを平らげ、箸を置きながら、僕はずっと気になっていた疑問を尋ねた。

真衣は机に置いてある紙ナプキンで口を拭う。


「・・・実は一週間後に、陛下がカシハラ大学を訪問する予定があったのよ。お忍びでね。それ関連の調整を、私がしてたの」

「わざわざ・・・お前がか?」


僕が確かめるように尋ねると、彼女は頷いた。


「ねえ、ちょっとおかしなこと、言ってもいい?」


突然、意を決したように、彼女はそう言った。


「・・・もちろん」


グラスについた水滴を、ゆっくりとなぞりながら、彼女はぽつりと呟いた。


「伊吹が助けに来てくれた、あの瞬間ね。私、姉さまのことを思い出してたの」

麗希(りの)のことを?」


聞き直した声は、少し上ずってしまった。

だが、彼女はそれに気づかなかったように続ける。


「そう、姉さまのこと。ねえ、私、気が付いたら姉さまよりも、年上なんだよ今」


返す言葉が見つからなかった。

考えてみれば当たり前だ。

麗希は五年前で時を止めていて、彼女は当時僕と同い年だった。

年が三つ違う真衣は、二年前に彼女の姉の年を越している。


「もし、今まで姉さまが生きてたら、どんな感じだったのかなって、その時思ったの。本当に、漠然と・・・もしそうだったら、みんなもっと幸せだったのかな、なんて」

「・・・それで?」

「分かんなかった。答えを出すのが怖かったし、そんな答えが出る前に、死んじゃえばいいと思ったの」


真衣の視線は、濡れたグラスに落とされたまま、動かない。

「それで、自分を撃とうとしらんだ。・・・忘れてたよ。引き金って、あんなに重かったんだって」


あの時の銃声が、耳に響く。


「重かったの、本当に」


彼女の視線は、動かない。


「・・・助けてくれて、ありがとうね。それと、ごめんなさいは要らないから」

「・・・うん」


僕の頷きは、一体どちらに向けたものだったのか、自分でも分からなかった。


「さてと。そろそろ行かないと、怒られるかな」


真衣はグラスを一気にあおり、空にした。


「そうだ、あともう一つ。すごい身勝手なこと、聞いてみてもいい?」

「・・・聞くだけなら」


困ったように彼女は笑った。


「王宮に、戻ってみる気はない?」


ある程度予期していた質問で、そして、自分の答えはもう決まっていた。


「・・・ない。真衣、今の俺では、戻れない」


きっと、真衣もその答えを分かっていたんだろう。

頷いて、そのまま彼女は扉を開けて出ていった。

それを見送りながら、すっかりぬるくなったジンジャーハイを口に含む。


「・・・マスター、グラスゆすいでくれない?」


壁に持たれながら、端末を見ていたマスターは、新しいグラスを僕に手渡した。


「ありがとう」


そう答えると、マスターがおもむろに口を開いた。


「なあ、お前さん。すごい聞きにくいこと、聞いてみてもいいか?」

「おいおい、マスター。客の個人的なこと探るのは・・・」

「・・・いや、そうじゃない」

「え?」


思わず、顔を上げる。


「彼女のお代・・・貰ってないんだが」


そういって、マスターから皿うどんで〆られた、一枚の長い伝票が僕に渡された。


「・・・!?」


慌てて外に飛び出てたが、もう人っ子一人いなかった。

夏なのに、頬に当たった風は冷たい。


「嘘だろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?!」

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