イレアノーレ
イレアノーレという名前にも、覚えがあった。メイラーのライバルであり、現魔王の娘のはずだ。それがなぜエレに向けられているのか、本人に尋ねようとした押川は……言葉を失った。エレは、怒っていた。これまで見たことがない表情を浮かべて。
「……っはは、隠してたのかよ、さっすが最弱の魔王候補サマ。前に見たときよりさらに魔力が減ってるってことは……そいつらの召喚に使い果たしたのか?」
『…………』
「怖い顔すんなよ、事実だろ? 仲間のふりして油断したところを襲うつもりだったんだろうが……残念だったなぁ」
エレは、何も言い返さない。まるで女の放言が、事実であると認めるかのように。きちんと否定してほしいと願うも、エレは自身を取り囲む視線に耐えるように、じっと目を伏せるだけだ。
黙りこくったエレを見て、メイラーは鼻をフンと鳴らす。
「じゃあな、魔王候補と勇者ども。またいつか!」
不穏なメッセージを残して、突風とともに彼女は飛び立っていった。
危機をまぬがれたというに、喜ぶ者は誰一人いなかった。
しばらくして、目を覚ました三木を取り囲んでいたのは、重い沈黙であった。小島も山口も押川も、味方であるはずのエレに対して異様なまでに警戒をしている。
「せ、先輩たち……どうしたの……?」
「……エレは、魔王候補のイレアノーレだった。俺たちはこいつの『最弱』を直すために餌として召喚されたんだ」
「……え? ……な、何それ……冗談はやめてよ……」
冗談だと思いたいのは、山口たちも同じであった。しかしメイラーの言葉やそれへの反応を見ていた3人は、嘘でないことを知っている。
三木はすがるようにエレを見つめるが、帰ってきたのは無情な事実であった。
『……皆様がおっしゃる通りです。私の本当の名前はイレアノーレ=リドルマ。あのメイラーと、次なる王の座を競う者です』
「……随分あっさりと、認めるんだな」
『今更取り繕うより、正直に話した方がいいでしょう。……あれのいった通り、私は自分の魔力強化のためあなたたちを召喚しました』