第7話 作戦
友人皆が心配して押しかけた後、週末に早速リリーが計画を実行するため
ジョシュアは結局、王宮を訪れていた。
案の定、ソフィは自室で魔法書に囲まれ、
いや……埋もれていた。
部屋に誰が入ってきたかも気がつかないので、
しようがなくソフィを本の山から抱き上げた。
夢中になっていたのだろう、綺麗な髪はぐしゃぐしゃになっており、
一国の姫とは思えない有り様だった。
「ジョシュ!!もう来たのか、よく来たな」
「ソフィ、いくら客が気心の知れた友人とはいえ、身支度はするぞ」
「もうそんな時間なのか?あいつらは、あまり気にしないと思うんだが……」
「リリーのお小言を貰いたくないなら諦めろ。支度するぞ」
ジョシュアはそう言うと、まずは鏡台の前へ連れて行った。
ソフィを椅子に降ろし、髪をとかし始める。
「それでも今日は顔も洗って、ドレスに着替えたのだな?」
「ギリギリまで本を読んでいたかったのだ」
「なるほど、そう言うことか」
ジョシュアは丁寧にゆっくりと髪をとかしていた。
時々香油をつけ長い時間とかすと、ソフィアの髪は
アッと言う間に光と艶を持ち美しく変身した。
「ほら、土台はできた。ドレスに着替えるついでに、
髪もやってもらえば良かっただろう?」
そう言うと、ソフィアは顔をしかめた。
「香油の香りが、キツくなったり薄くなったりするから、
ついジョシュアにやってもらうと言ってしまうのだ。
一生懸命やってくれるのに、そんな事は言えないだろう?」
「そこを、細かく伝えて全員が同じように出来ることが大切だろう?
それを指示するのはお前の役目だ」
「うん……分かってはいるんだが、身なりを整えるより本が気になるんだ。
今日はお前が来ると分かっていたし、良いだろう?」
ソフィアが笑うと、ジョシュアはフッと笑って答えた。
「自分で出来るようになれ。まったく俺が来ない日は、どうしているんだ?
ちょっと怖くて、想像したくないな」
ジョシュアが笑ったので、嬉しくなったソフィアは喜んで答えた。
「安心しろ。お前が休みの日は、私も休みだ。
だから誰にも会わない。家族は諦めているから大丈夫だ」
自慢にならなそうな事を、大威張りで答えたソフィアに、ジョシュアは固まった。
「……よく陛下達が、何もおっしゃらないな……」
「父上も母上も、諦めたと言っていた。
母上はにこやかにジョシュにやってもらうようにと言っておられたぞ」
更に面食らったジョシュアは、目を見開いた。
「……陛下……」
ため息をつくと、首を振りソフィアの髪を結い始めた。
ジョシュアは元々器用だった。
幼い頃に髪を振り乱して遊ぶソフィアをみかねて、
部屋に戻るまでに直してやったのが、
世話を焼き始めたキッカケだったように思う。
侍女が魔法のように髪を結うのが、面白かったのでよく見ていた。
真っ直ぐの髪が、艶を持ち、色々な形になる。不思議だなと思っていた。
ソフィアは身なりにお構いなしだったので、遊んですぐに戻ると
侍女や乳母が、さめざめと嘆くのだ。
あの空気に耐えられるソフィアは、スゴイと思っていた。
ジョシュアは耐えきれず、治してやったほうが自分がラクだった。
「ほら、できたぞ。化粧はできるようになったのか?」
「いや、休みの日は化粧はしないのだ。息が詰まる感じがしたイヤだ」
そう答えたソフィアを見て、しばらく考えたあとジョシュアは言った。
「リリーのお小言が落ちても俺は知らないからな」
「大丈夫だ。リリーは休みの日に、私が会うと言うだけで満足だからな」
そう言うソフィアを連れて、皆で会う部屋に戻った。
魔法書が散乱しているのを忘れていたジョシュアは黙々と片付けだした。
ソフィアは、慌てて説明し出した。
「ジョシュ!!それは机に!!あ、それも机に!!そっちは図書に戻す!!」
その様子を見たジョシュアは、椅子にソフィアを座らせ、
本を目の前に積んでいった。
「ソフィ、読むか読まないかで答えろ」
そう言うと、アッと言う間に仕分けし、
読まないものは侍女を呼び図書室に運ぶよう指示した。
その様子を見たソフィアはニコニコと話す。
「すごいな、ジョシュがいると部屋が綺麗になる」
「これでお小言は落ちてこないだろう。ほら、間に合った」
そう言う2人の部屋に、リリー達が着いたのだ。
片付けたばかりの部屋に、可愛らしく装飾された表紙の本が10冊ほど積まれた。
ソフィアは目を丸くして、リリー達を見た。
「よく来たな、皆。今、お茶の準備をさせた所だ。
でも……この本の山は何だ?皆が来たのに、話さないのか?」
リリーはソフィアをジッと見つめて、にこやかに言った。
「ソフィ、ご機嫌よう。今日はジョシュがいるので身支度できたのね?
お化粧の件は、追々考えましょう。
さ、ソフィ。今日はあなたの意見を聞きたいの」
「意見?何かあったのか?」
「私たち、そろそろ縁談が来ているじゃない?
でも自由に恋愛する方も増えてきているわ。
だから、恋する心について、あなたの意見が聞きたいのよ」
ジョシュアは、ものすごい笑顔で話すリリーを見て顔を引きつらせていた。
何も、そんな直球勝負しなくても……。
ジョシュは天井を見上げるのだった。