第5話 研究
ソフィアはご機嫌だった。ジョシュアを笑顔にできた。
大抵は小言か、フォローをされているだけなので、
ジョシュアが嬉しそうだとソフィアも嬉しくなるのだ。
楽しい晩餐を終え、自室に移動する。
廊下で、訓練用の道具のアイディアを話していたら
何かにぶつかりそうになったらしく、ジョシュアの腕の中に
引き寄せられた。
「ソフィー、楽しいのは分かるが前を見て歩け」
いつの間にか自分より背が高くなったジョシュアに
注意される。ソフィアは見上げながら、笑った。
「そうだな。気をつけるとしよう」
自室の前では護衛の近衛兵が待っていた。
ジョシュアは、魔力も高く騎士としての腕前もある。
ジョシュアが下がる時に近衛兵がくるようになっていた。
ソフィアは、その近衛兵に声をかけた。
「いつもすまんな。いつも通り扉の所で頼む。
今日は、少しジョシュと話があるんだ。構わんか?」
その近衛兵は、胸に手を当て礼をとって答えた。
「はっ、閣下。もちろん構いません」
「そうか、ありがとう。ジョシュ、ちょっと入れ。
そんなに時間はかからん。お茶を1杯付き合え」
そう言われて、ジョシュアは怪訝そうな顔をして頷いた。
部屋に入り、ソファに座る。彼女のデスクに積み上がっている本の山を見て、
何か仕事の話しでもできたのか?と思っていたジョシュアに、
ソフィアが切り出した。
「ジョシュ、まあ飲みながら話そう。酒じゃないから大丈夫だろう?」
「ソフィ?何だ?何かあったのか?」
そう問いかけると、ソフィアは真剣に話し出した。
「ジョシュ、お前結婚するのか?」
その質問にジョシュアは思わずむせた。吹き出さなかっただけマシな方だ。
咳き込みながら、ジョシュアは聞いた。
「なっ……なんだいきなり……!!結婚など、せん!!」
その答えにソフィアはキョトンとして言った。
「なぜ怒る??まあでもいいか、結婚はしないのだな?」
「ソフィ?!一体何なんだ!!相手もいないのに結婚できないだろう?」
「相手がいたら結婚するのか?」
「相手がいないから分からん!!」
そこまで言って、ジョシュアはため息をついた。
「一体どうしたんだ?あれか?この間持ち込まれたお前の縁談か?」
「ああ、それは前も言った通り断わった」
「ソフィ?」
「リリーに言われたのだ」
「リリーに?一体何を話したんだ……?」
「お前を側に置いておきたいなら、方法を考えろというのだ。
だからお前は結婚しないのかと聞いた」
そう言われて、ジョシュアはしばらく固まった後、
大きなため息をついた。
「ソフィ、俺が側に居なくなったらどうする?
リリーの言う通り、俺に縁談が持ち上がるかもしれないし、
ソフィの気が変わって、嫁ぐ気になるかもしれん。
そうしたら、お前はどうするんだ?」
ジョシュアは視線をそらして尋ねた。
そんなジョシュアを見て、怪訝そうにソフィは尋ねた。
「ジョシュ?私は嫁ぐ気は無い。仕事でしか国民に報いることが
できないからな。ふと思ったのだ。私はお前が側にいる事が
永遠に続くと思っていた。でもお前は?お前はそれを望まないかもしれん。
だから聞いてみようと思ったのだ。お前の望みを」
そう言われてジョシュアは、内心 激しく動揺した。
俺の望み?そんなものは決まっている。
でも打ち明ければ友人として側にいることができなくなるかもしれない。
ジョシュアは躊躇した。
固まっているジョシュアにソフィは微笑みながら続けた。
「ジョシュ、私はお前が側にいる事が当たり前だと思っていた。
でも、それは傲慢だったやもしれん。だからお前がどうしたいのか、
聞きたかったんだ」
そう言われて、ジョシュアは喜びと苦しみを同時に持った。
自分の愛情と、ソフィアの愛情の質が一致しなかった時、
いったい何が起こるのだろう。
まだジョシュアには、そのリスクを取るだけの勇気は
出てこなかった。
「ソフィ、お前は俺が側にいる事が、当たり前なんだな?」
「もちろんだ」
そう言われると、ジョシュアはソフィアの前に跪いた。
「それでは俺は、お前にもう良いと言われるまで
お前の側にいよう」
ジョシュアは王族への礼を持って、誓いを立てた。
ソフィーは立ち上がって、ジョシュの手を両手でとった。
「本当か?!本当だな?!ジョシュ、嫌だと言っても
もう遅いぞ?!約束だぞ?!お前は私の側にいるのだ!!
約束だからな!!」
ジョシュアは自分の美しい主人を見上げた。宝石のような瞳を見つめ
ソフィの約束を破るなどできない、自分の望みなのだから
と思っていた。打ち明けることの無い恋。
側にいられれば、それだけで幸せかもしれない。
ジョシュアは、やはり行けるところまで行こう、
そう想って静かに答えた。
「お前の望み通りに」