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俺の閣下  作者: テディ
本編
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第4話  落差

 こうして、本日の業務も滞りなく終了した。

騎士団長や、国中枢の大臣と違い、魔法省は基本的に

定時で終業になる。

これはソフィアにとって大臣になる最大の魅力だった。


鼻歌を歌い、ジョシュアを伴って部屋に帰る。

大抵はジョシュアと晩餐を取り、自室に溜めてある

魔道書や、歴史書を読んだり、新しい魔道具や、訓練用の道具を作って

過ごすのだ。


ソフィアは美味しいものが好きだった。ただ、名前を覚えられないだけだ。

なぜ王族のメニューの名は、あんなに長いのか?

シェフの語彙力を試すためとしか思えない。

ソースの名前ですら長いのだ。この間はハーブを使った緑色のソースで

確かに美しかった。でも、『香りと葉の妖精を添えて』と言う名前には

びっくりした。なるほど、そう見えなくもない。……多分。

今日は別の名を聞いた時、ジョシュアをちらっと見た。

そして給仕が下がってから、小言が落ちてきた。


「ソフィ、もうちょっと驚きを隠せないのか?

シェフがまた、自分の感性を分かってほしいと落ち込むぞ」

ソフィアはバレたかと、大して気にした様子もなく

疑問をぶちまけた。

「ジョシュ、いつも美味しいのだ。詩人でもあるまいし

夜会以外は美麗句でメニューを飾らなくても良いと思わんか?」

「お前の魂胆は分かっている。腹が減っているから

少しでも早く食べたいのだろう?」

「その通りだが、もっとやんわりと言えんのか?

一応、年上の女性なのだぞ」

「自覚があったのか、それは良かった」

そう言って、ジョシュアは優雅に食事を続けた。


ソフィアは、ジョシュアの佇まいが好きだった。

身体を鍛えているのに粗暴さがなく、仕草もゆったりとしていて

人に嫌な印象を与えることがない。自分は、何かに夢中になると

所作の事など、頭から消し飛んでしまう。

羨ましいなと思っていた。秘密を含んだような黒髪に、黒い瞳。

いつも夜空のようだなと思っていて、不思議と自分の気持ちも落ち着く。

学生時代、ソフィアは長身であったのに、気がついたらジョシュアの方が

背が高くなっていた。

あっけに取られるソフィアに、気がつかなかったのはお前くらいだと

笑ったジョシュアは、なぜか美しく見えた。


ソフィアは、グラスを回しながら静かに言った。

「お前が王族だったら良かったのにな……。

お前なら仕草も美しい、能力も充分だ。

隣国に嫁いでも、立派に王族の力を果たせる……」

それを聞いたジョシュアは、思いっきり顔をしかめた。

「お前は、俺に男に嫁げと言っているのか?」


後ろに控えていた給仕が、こらえきれずに肩を揺らしていた。

「うん?ああ、お前が女性王族だったらと思ったのだ」

「残念だったな、俺は男性で王族ではない」

「あぁ、残念だが、私にとっては良い事なのかもしれん。

お前が、そばにいてくれるからな」

そう言われたジョシュアは、グッと詰まったような表情になり

口を押さえて、横を向いた。

「ジョシュ?どうした?口に合わなかったのか?」

ソフィアがびっくりするが、ジョシュアは

自分の頰が染まっていないことを願いながら言った。

「な……なんでもない……」

最近のジョシュアは、ソフィアへの愛情を隠すのが

難しくなってきていた。特に、側に居ろと言われると

心が喜んでしまうのだ。


「そうなのか?……では良いが……。

このローストは美味しかったぞ。私には多いから

ジョシュが食べると良い。こっちのテリーヌも美味しかった。

残りはジョシュが食べるか?ほら、皿をよこせ。

取り分けてやろう」

嬉々として話すソフィアに、給仕の前にジョシュアがストップをかけた。

「待て!!分かった。頂こう。でもお前は取り分けるな。

俺がやる。」

「そうか?私でもできると思うのだが……?」

「そう言って、昨日ソースをこぼしただろう?

俺がやった方が早い」

話している2人に、今度は給仕が慌てた。

「閣下、そのようなことは私供でさせていただきますので……」

ソフィアは給仕に笑って言った。

「いいや、ジョシュにやってもらう。その方が私の気が楽だ」

そう言われて、給仕達はアタフタしながらもそのままでいた。


ジョシュアはスッと立ち上がり、ソフィアの側に来た。

ソフィアは嬉しそうにジョシュアを見上げ話した。

「ほら、ジョシュ、この皿だ。お前ならこのくらいは

食べられるだろう?テリーヌはこっち。これも美味しかったな。

お前はどう思う?」

ジョシュアは、内心ため息をつきながら、サーバーを手に取った。

全く、人の気も知らないで……。

「そうだな、どれも美味しかった」

いつもは無表情のジョシュアが、少し笑った。

その笑顔を見て、ソフィアは更に嬉しそうになった。

「ジョシュ、私はこのチーズも美味しかったと思うぞ。

お前は食べてみたか?」

「ああ、これもうまかった」

「そうか、ではそれも食べると良い」


満足そうなソフィアを見て、給仕はジョシュアを気の毒そうに見た。


副閣下……、ご自分から動いた方が早いのでは……??


当の本人は、叶わぬ恋と思っているので、

なぜ給仕が、こちらをみているのか分らなかった。


まあ、自分で給仕するなど王宮内は滅多にないからな。

そのくらいにしか、思えないジョシュアなのだった。



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