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俺の閣下  作者: テディ
本編
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第3話  鍛錬

 ソフィアは、昼食後によっぽどのことがない限り

部下の魔力をあげたり、安定させたりする訓練を行なっていた。


ソフィアは、見れば大抵のことはできた。

ジョシュアに、皆が練習が必要なのだと聞かされた時は

何を言われているのか、さっぱり分からなかった。

ジョシュアも、ソフィアより魔力が少し低いとはいえ

同じようにできたから、それが普通だと思っていたのだ。

まして自分の部署は魔法省だ。当然できるだろうと思っていた。


ところが、現実はそうではなかった。皆に得意不得意があり、

最初は頭を抱えるほどできなくても、練習を重ねるほど精度がます者もおり

どちらが良いなど、一概にはいえないことを知ったのだ。


魔法にも属性があることも、初めて知った。

氷属性、火属性、聖属性、魔属性。

どれも誰でもできると思っていた。しかし誰しも得意な属性があり、

全ての属性を使いこなせる者は、希少なのだと知ったのだ。


ソフィアが魔法省のトップとして君臨できるのは、

魔力がべらぼうに高いからでも、王族だからではない。

努力して力を高めるものを、見捨てなかったからだ。

ジョシュアは、ソフィアが決して人の可能性を諦めない所に魅了された。

それは、幼い頃からソフィアの美点として突出したのものだった。

次々とアイディアを出し、楽しそうに人に自信を与えていく。

ジョシュアは、人々の表情が喜んだり幸せそうに変化していくのを

目の当たりにして、ソフィアの人を幸せにする力に魅了された。

自分は、そういった事が不得手だった。

自分でもできる事。

それはソフィアを精一杯サポートする事だったのだ。


ソフィアは、皆が何故、自分を褒めるのか分からなかった。

努力して、才能を持つものより上回ることができる者を

支援することは、当たり前のことだった。

現にソフィアは、王族の女性としての能力は壊滅的だったのだから。

努力しようと務めた時期もあった。

しかし相手に気に入られようと計算して振舞ったり、

自分の女性として不得手なことを、ハッタリでやり過ごすなど

時間の無駄としか思えず、どうしてもやり切れない。

まず、自分の能力を発揮することを抑えて、

苦手なことに身を投じるべきではない。

そう想っているうちに、やはり自分は仕事に生きるべきだと思うのだ。


ソフィアは昨日、友人達から言われたことを考えていた。

ジョシュアを手元に置くには……?

そのことについてふと1つの疑問が湧き上がってきた。

いや……、そもそも、ジョシュアは

自分の側にいることを望んでいるんだろうか……?

そんな事に気を囚われていると、ジョシュアから注意された。


「閣下、……閣下、……閣下……!!」

ソフィアは、ハッとしてジョシュアを見た。

「すまん、ちょっと考え事を」

ふっと稽古場を見ると、今日は新任の者が1名立っていた。


新任者が来る時期は、1人1人を丁寧に見たいとのソフィアの希望で

少しゆっくり見てやる事ができた。

学校を卒業したばかりで、その面差しには、まだ幼さが残っている。


「すまんな、では始めよう。君はどこに配属された?」

「はっ、魔石の部門に配属していただきました」

「そうか、何か困っていることは?」

そう尋ねると、その者は少し困った表情で答えた。

「実は、魔力の加減が得意ではなく、魔石の特徴を引き出せないのです……」

「なるほど……」

ソフィアは、少し考えると奥の棚から何の魔力もない

普通の石を持ってくるようにジョシュアに言った。

その石は透明、球体で、中が空洞になっていた。

ソフィアは、その石に魔法をかけて、差し出した。


「これは普通の石だ。私が魔法をかけて魔力の強さによって

色が変わるようにしてある。普通の石だし、表面強化もしてあるから

よっぽどの事がないと割れない。魔石のように繊細ではないんだ。

だから、遠慮なく これに魔力を入れ自分で感覚を掴むんだ。

弱い魔力は紫、普通の魔力は青、強い魔力は赤に変化する。

魔力は数値化するのが難しいからな。感覚と視覚で覚えるんだ」

ソフィアは、一気に説明した。その者はキョトンとして話を聞いていた。

まさか練習するための道具を、大臣自身から教授されるなんて

夢にも思っていなかったのだ。

その様子を見て、ジョシュアが苦笑いする。


「試すが良い。魔法省は、大臣が直接訓練するのだ。

ある程度のレベルになれば、他の者が訓練する」

そう言うジョシュアに、ハッとしたように礼を言った。

「すっ……すみません!!まさか直接見ていただけると

思っていなかったので……」

新任者は慌てたように石に向かい、ソフィアの言うように

自分の魔力を試していった。色を見るに、弱い力と普通の力の

境目が安定しないようだった。色が混じって、

紫と青を瞬間的に切り替えられない。


ソフィアは、落ち着くように言った。

そして、何度試しても良いから、その境目を少しずつ探すんだと言い

何度も根気よく、その練習に付き合った。

そして1時間後、色の切り替わりがハッキリと、そして何度やっても

その能力が変わらず安定した時、ソフィアは優しく微笑みながら言った。


「よく頑張ったな。ほら、たった1時間でできるようになった。

魔石は色々な物に使われる。武器の能力を高めたり、ブレスレットで

その者の身を守る能力を高めたり。生活用品にも使われる事がある。

いつか、君の魔力を込めた魔石が、誰かを幸せにできると良いな」


それを聞いた若者は、じわじわと嬉しさが

込み上げてくるような表情をした。

そして、若者らしく感激を素直に現した。

「閣下……!!感謝申し上げます……!!

この感激を忘れないよう、努力します!」


それを聞いたソフィアは、嬉しそうに頷くのだ。

「あまり、悩みすぎないようにな。バランスが大切だ。

魔力と同じ、解決策は必ずあるんだ」

「はい!!」


若者は、恭しく礼をすると、感謝を述べ仕事場に戻っていった。

これでまた、ソフィアの熱烈な信望者ができた。

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