第2話 戯れ
その日、ソフィアはめずらしく学生時代の友達と
晩餐を共にしたかった。また隣国より縁談がもたらされた。
もう、金輪際ないと思っていた話が持ち上がったのだ。
不愉快だった。自分はその意思はないと、触れ回っていたつもりだ。
その意思を超えもたらされた話に、何と無粋なものがいるのかと
呆れ果てたのだ。ただ、国を介しての話だ。
無下にはできない。その手間がソフィアを苛立たせた。
ソフィアのそばに、今日はジョシュアの姿はなかった。
変わりに護衛の、ソフィアやジョシュアの幼馴染、
オーリーがいる。近衛騎士でソフィアの護衛隊長だった。
ソフィアはリリー、マイア、モリンの女性3人の親友を招いていた。
「ほら、シャンパンだ。誰かからもらったものだけど」
そう言うソフィアに、3人は優しく微笑んだ。
「オーリーも、飲もう。どうせ部下を連れてきているのだろう?
仕事は部下に任せればいい」
皆から見た、その日のソフィアはどこか投げやりに見えた。
1番母性の強いモリンが口を開いた。
「ソフィ、シャンパンだなんて、なんて美味しそうな。
でも私たち、そのシャンパンよりもあなたの話が聞きたいのよ?」
そう言った友人を見て、ソフィアはボリボリと頭をかいた。
「何だ、お見通しか」
そう言うソフィアに、
リリーはその名の通り、百合のように気高く問いかけた。
「縁談が気に入らないのでしょう?ではあなたの気心知れるものと
婚約すれば?」
マイアは陽気にその後を続けた。
「ソフィー、あなた誰と生涯を共にしたいの?」
その質問にソフィアは詰まった。
あまり自身の未来に想像はできなかった。
自分は王族の女性としては失格で、せめて仕事で国民に報いたいと思っていた。
そして、ポツリと自分の気持ちを話し出した。
「未来が見えんのだ。……現状、仕事はうまく言っている。
私の足りない能力はジョシュが、全てを補ってくれている。
恵まれすぎていて、何が不満なのか分からんのだ」
その答えにマイアは、豪快に笑った。
「あなた、自分で話しているじゃない。何かが不満だって」
ソフィアはうん?と考えた。
「そうか……、私は不満なのか……。何がだ?」
モリンが笑い出した。
「ソフィ、それはあなたが探さないと」
そこで、初めてオーリーが口を挟んだ。
「ソフィ、自分のできないことはジョシュが補ってくれると
話していたな。ジョシュが結婚したらどうするんだ?
さすがにソフィに張り付いている訳には、行かないと思うが……」
そう言われてソフィアは、目を大きく見開いた。
「ジョシュが結婚?……そうなのか?あいつは結婚するのか?」
「いや、まだ相手がいるとは聞いていない。もしもの話だ」
「ジョシュが結婚?!それは困る。ジョシュは私の側にいるのだ」
そう言ったソフィアに、みんなガックリと首をうなだれる。
良くも悪くも、才能の塊りのようなソフィアは
自身の好奇心の赴くままに生きてきた。
それでも周りに人が集まるのは、
彼女の慈悲の心と、愛情深い心を知っているからだ。
皆が、ソフィアとジョシュアが恋仲になればいいと思っていたが、
肝心のジョシュアは身分差を気にして動かない、
ソフィアは、まるで無頓着で動かないと
応援しようにも手の打ちようがないのだ。
リリーはしばらくじっと考え、ついに口に出した。
「ソフィ?あなた今回の縁談はどうしたの?」
「もちろん、国のやり取りを通して断った」
「相手は何と?」
「残念だと話しているようだ」
リリーはため息をついて、首を振った。
「ソフィー、あなたジョシュを手放したくないなら、
少し考えないとね」
「考える?何を?」
「ジョシュを手離さない方法をよ」
そう言われて、ソフィアは考え込んだ。
まさか自分のそばからジョシュアがいなくなるなんて
考えたこともなかった。
考えこむソフィアを見て、皆これで自体が少しでも動きますようにと
願うのだった。