プロローグ
その日も、ジョシュアは侍女に頼まれていた。
自分の上司であり、幼馴染の寝起きの悪さは、
もはや知らないものはいない。
本来、男性の近侍兼部下が女主人を起こすなど、あってはならないのだが
幼い頃からジョシュアしかその役割はできないのだ。
ソフィア・ラ・グリフィス。
それはこの国の魔法省の頂点に立つ、王族の名だった。
ジョシュアはドアを勢いよく開け放ち、いつも通り告げた。
「ソフィ、朝だ。起きろ」
掛布団をひっぺがし、ソフィアを転がす。大丈夫だ。
ソフィアのベッドは彼女の寝相の悪さに合わせて、とても広い。
今朝は、それでも往生際が悪かった。
上半身をベッドの下に垂れ下げながら、ソフィアはモゴモゴと
言い訳をしている。
「……ジョシュ……。眠い……。昨日は夜会を頑張ったはずだ……」
ジョシュアは、冷静に言い放った。
「お前の15歳の弟も同じ内容をこなし、もう起きて
学校で勉強している。よって、その意見は却下だ」
ジョシュアは、鍛え上げられた腕でソフィアをかつぎ上げ
風呂場まで運んだ。待機している侍女の脇にある椅子に座らせ
この後の予定を長々と教えた。
「いいか、この後は朝食を取れ、その後は書類だ。昼食をとったら
役人にトレーニング、その後報告を受け、必要であれば打ち合わせを入れる。
まずは目を覚ませ」
ソフィアはまだふらふらしていたが、椅子の上で伸びをした。
「ジョシュ、甘やかしてくれれば、褒美が出るのに……」
「お前からの褒美より、業務が5倍になる方が苦痛だ」
そういうと風呂場から出て、ソフィの書類の確認に向かった。
ジョシュアは、伯爵家の次男だった。ソフィアの4歳年下で、22歳になる。
幼馴染のソフィアと1番気があったのがジョシュアだった。
彼女は幼い頃から変わっていた。ジョシュアに言わせると
能力も高すぎ、時代も先に進みすぎ、民衆が理解できるのは10年後なのだ。
あまりの能力の高さと、生活力の無さで国王から個人的に面倒を見るように
頼まれる始末だった。
ソフィアは黙っていればとても美しい。
長く豊かな光を持つ、金色の髪。濃い紫の瞳、透き通るほど白い肌に、豊かな胸。
折れそうな腰に、長い手足。王族の姫としては存分すぎるほどの容姿だった。
いかんせん、魔法オタクで、生活力も社交性も無さすぎた。
ジョシュアがついていて初めて、社交性も出てくるくらいだ。
まるで男友達のようだった。
ジョシュアは、自分が適齢期であることがわかっていても
ソフィアから離れられなかった。
もはや彼女の隣にいる自分が、自分の人生の全てだったからだ。
我ながら想う。なんと難儀な恋をしたのだろうかと。
ソフィアから求められなければ、自分の気持ちを打ち明ける気持ちもない。
要は、叶わぬ恋だと思っていた。
そんなジョシュアの気持ちを知ってか知らずか、
ソフィアはヨロヨロと風呂に向かうのだった。




