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それは蒼穹より量産型少女とガラクタ王子とロボットと  作者: 秋天
第三話 「花びらたちの願い」
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第六章「朋輝と少女たちの想いと」


○月×日 アメリカからやってきた転校生と何となく仲良くなってしまった。

     初めはムカついたんだけど、掃除当番とか、運動会の係りとか、

     色々一緒にやらなきゃいけないことが多くて。ほんっとに何となく。


△月□日 琉左って名のこいつは相変わらず自分を男あつかいする。

     坊主にして男の子の恰好してるからなんだけど。そんなある日

     お店が並ぶ街の中で古いゲームを一人で遊んでる男の子を見かける。


■月◇日 またあの男の子だ。なんでずっと一人で遊んでるんだろう。

     しかもちょっとづつ上手くなってる。でもしっぱいもおおい。

     学校でも見かけた。隣りのクラスの男の子だった。


◇月●日 今日もがんばっているあいつ。ともき、って誰かが呼んでた。

     ともき。ぼくが街でよくみてるから琉左も気になったみたい。

     ついに琉左が声をかけた。一緒にゲームをして琉左が喜んで。


     あれ?ぼくの世界にともきがずっといる様になった。

     ずっとずっとまじめに一心不乱にがんばる子。

     弱い自分を知ってて荒れ道を進む頑固な子。

 

     もやしみたいな身体の子は、いつの間にか”つるぎ”になっていた。

     友達が消えて自分で自分に刃を刺してしまったのは悲しかった。


     自分の呼び名が”ぼく”から”あたい”に替わってた。

     あたしって女の子っぽいの恥ずかしいから、小さな抵抗。


         あれ。どうして女の子の自分を意識するようになったの?


       まぁ、答えなんて――至極かんたんだったんだけどね。


稚子は目を覚ます。

朝陽が暑い。六月に入った――「……昔の夢、なんだ懐かしいな」

あんなヒョロヒョロのマッチ棒の様な子が、機械がかった左手や脚をふるって

あんな巨大な化け物に立ち向かって勝つのだ。自分達を護るためだけに。

「……あー、なんか特撮ヒーローの主人公じゃん」

口元に微笑。でも、「怖い、あのまま進んだらあいつはどうなっちゃうの?」

アイレちゃんと契約だかで繋がったとかであんな事になってと訊く……。

それなのに、

『こいつは俺の彼女なんです!』

とっさの嘘――雉子には響く。「いやいや、朋輝ナイス誤魔化しじゃん……」

それなのに心に響く自分の器量の小ささにわななく。

ぱん!両手で頬を叩く。

「あ~ちいせぃ!あたいは”自分だけ愛して”っつー恋愛脳は嫌い!」

そういうドロドロした愛憎劇を見ると反吐が出る。

そんな自分だけしか愛してないのが誰を幸せに出来るのか。頭を振る。

だって――「だってさ、大事なことは相手がどう想うかだよ?」



今日は土曜で学校は休みだけど朋輝は剣道じいさんのとこで修練だ。

――買い物帰り道の雉子は思う、

ウチのダンス教室もやって武道もやる、なんともパワフルだなぁと。

「終了時間よかずいぶん早く来ちった」別に迎えに来なくてもいいんだけど。

先日倒れたこともあって「イひ。正当な理由が出来てご満悦なのさ」と。

朋輝の「おかんかよ」が浮かぶがるんるん顔だ。

(模型部の買い物に付き合ってからでも良かったなぁ)まだ終了時間に早い。

鉄橋の中間に広間の様な箇所があり、少しだけ時間を潰すことにした。


「――失礼、剣道道場がこの近辺にあると聴きました」


「はい?」意外な場所で声を掛けられた。目を上げると飛び込んできたのは

長身痩躯の二十代くらいの男性。色素が薄い銀色の髪が腰まで伸びる。

(タテガミみたいね)――第一印象にそう思わせた。

眼鏡をちゃきっとかけ直して紳士然とした装いで一礼をする。

「北米の剣道普及に邁進しておるレアンという者です。

 雲間くもま剣道道場をご存知でしょうか」

「それが……今からそこへ向かう途中で」そんな偶然が、と驚く雉子。

「――ほう。それはそれは天空よりの幸運、ご一緒に宜しいでしょうか」

容姿はいかにも大人の男性、という風貌。切れ長の瞳が知的に光る。

外人さんか。女性なら反応しない者はいないという大人のイケメンであった。


「――えぇ?朋輝って有名なんですか」

自転車を手押ししながら、紳士と共に徒歩で案内する。

道すがら経緯を説明してくれた。雲間流は密かに独自の太刀筋で知られる流派で

あまり弟子をとらないらしい。何だか朋輝が期待のホープに聞こえる。


「朋輝はですねぇ、すっごい堅物で。師匠の爺さんより難物なんですよぉ」

「ほぉ。本体は傑物を超える鋼ですか」ふむふむと紳士。「鋼?ハハ確かに」

「彼は――何の為に、刃を振るうとお考えですかね」「何のため……」

そういえば、具体的な動機は聴いてなかった。

いじめられっ子な感じだから、身も心も強くする的な護身だと。

本人じゃないから判らない。

「あいつ……自身のことあまり語りたがらないんです……けど」「けど?」

「今は、女の子を護るために闘う、すごくシンプルな動機だと思います」

思い出すのは花の妖精の様だった――先日の朋輝と手を繋ぐ天威の姫君。

並列思考が出来ない剣道王子は今は彼女しか見えていないのだろう。

――それが自分だったらいいのに、と言う私情エゴは挟まない。


「ほぉ」と腕を組み思案していた紳士は流れを変える。

「という事は……朋輝殿とはつがいの仲なのですかな?貴女は」

「え……つがい?」紳士は自分へ手を挿し出す。あたい?と雉子。

何を突然なのだろうこの紳士。(つがい……の仲て)さっぱりわからない。

「オスとメスの仲、と言えばよいでしょうか」

「……オス、メス?」動物学者か何かなのだろか。しかし紳士の顔は真顔で平静。

(いや、人に対して使う言葉じゃないって)少し、後ずさる雉子。


「ふむ――あの個体、メスに執着してた故の強さが成因ですか……やはり」

この人は朋輝の何を知っているのだろう。不可解な文言が増えてゆく。


「人間種の、行動心理は不確定要素を孕む。勉強中なので――さてはて、ここで」

少し先を歩いていた紳士は振り返る。そして両手を大きく広げた。

眼鏡がすりガラスになって目線が見えない。(……なに、この人……!?)


「メスの為ならば本気で刃を振るえる血脈。ならば――本気にさせてみたい」


紳士の髪が揺らめいた。青白い燐光の様なものが沸き上がるのを目にした。

「アレが起きる前に私が起こして差し上げて、状況を進めるとしますか」

「え!?」

紳士の背後。オーラの様なものが湧き立ち、そこに金属の様な枝葉が四方に伝う。

それが紳士を覆い、膨れ上がり……異形の姿へと変貌してゆく。

それがソラならば恋縫に観た、あの時の光景を騒然とさせる筈だが。

「うそ……でしょ……」

雉子は知っていた――この姿は何度も視た。だが、

(こんなのは訊いてない……こんな、こんなのが……!)

刃が生え揃う巨悪なる歯牙の強襲――雉子は茫然として、身をひるがえそうと

思う頃には、その異形が雉子を捉えて――飲み込み、去っていったのだった。



「――キミが、銀のアイレだったんだね――」


気がつけば遊園地だった。

でも全てが菓子で出来ている故に、夢だとすぐに悟る。

Tカップにアイレが乗っていた。くるくると自動で回る。

コースターもメリーゴーランドも洋菓子で……アイレ以外に人はいない。

だが他のTカップには銀の誰かが乗っていた。早くて顔は視えなかったのだが、

桃のアイレは顔も視ずに、いきなりそう言い放ったのだ。


「――お主……よもや」銀アイレの眼が見開かれる。

Tカップが止まった。ドアが開いて桃アイレが歩み出る。

カツリ、カツリ。ハイヒールの音が響く。

その姿は、妖精だったものがいつしか彼女本来のサイズへと戻ってゆく。

銀アイレも女子高生妖精の姿から等身大へと戻って歩み征く。

桃アイレは朋輝から貰った服で、銀アイレは何かの洋装だ。

二人が並ぶ。


「やっと……視えた。あは、本当にアイレそっくりだ……キミがアイレに

 ずっと寄り添っていた子なんだね」

「あぁ我も……ここに来るまでずっと気付けなんだ――初めまして」

「ううん」顔を振るう。「ちーっす、だよ」「なぬ?」

「だって、産まれてから一緒だった子はアイレ自身でもあるじゃん

 だから、やっほーと挨拶を交わすだけよよ」

「お主も……まったく」銀アイレは自分が涙腺が弱いと自覚する。

「銀アイレだからシルバー(銀色)、シルヴァだったんだ」「安易じゃな」

「はは、本当にアイレと背丈も容姿も一緒だ」

「そうじゃな、我アイレはお前の――」カゲと言いかけた口を指で塞ぐ。

「人の意思を持っている子は幻想なんかじゃない、人だよ」

「お主……っ」銀のアイレの肩が震える。くしゃくしゃに揺れて涙の筋が流れる。

「行こう、銀ちゃん」アイレが手を引いて遊園地を闊歩する。


「アイレ――朋輝がもう、危ういのぢゃ――」

「うん。だいぶヤバい。朋輝、確かにおかしな事になり始めてるね」

「機械種の汚染ぢゃ、我らは一度喰らわれて何故か正気を取り戻した」

「だよね。何となく気付いた……アイレもやっと焦点が噛み合ってきた」

「止めないといかぬ」「現実世界で逢える?」「努力はする――」

二人は話す。談話。談笑。それはまるで家族の様に。


「桃の字、お主がカギなのぢゃ」観覧車に乗って対面で話す。

「アイアム・ザ・キー!」びしっと自分をさす。

「ふざけとる場合ぢゃない、お主も汚染しきる前に朋輝との……!」

そこで桃アイレが悟る。

「……そっか、朋輝との盟約リンクを解放しないと、駄目だね」

「解いても汚染が進行している、残り得るのぢゃ――だから我に考えがある」

耳打ちする銀アイレ。自分たち以外に誰もいないと言うのに。


「……そんな!駄目だよそんなの」聴き終えた桃アイレは慄然とする。

「賭けぢゃ、浄化出来る手があると言うならそれに賭けるしかない」

「ちぇ、やっぱアレ本物だったんじゃないかよぉ」毒づくアイレ。

「朋輝の優しさぢゃ――だと思う」「確信ないの?」「いや~アレ堅物でな」

けらっけら笑う二人。暫く朋輝への不満で盛り上がる。楽し気に。


「う……よもや!?」銀アイレが身悶える。

「どしたの!?」「まさか……そんな手をあやつめ……!」

わななく銀アイレ。桃アイレも勘付き始めた。「現実世界で何か起きた?」

銀アイレの表情が返答になっていた。

「征こう、我らがやらねば」「……う、うん」

「自信を持て、彼女なのぢゃろう」「アレはとっさの嘘だって……でも」

暫しの躊躇ちゅうちょ――しかし頭を振るう。


「――うん……!アイレさ、やっぱあの頑固マン、好きなのかも……!」


銀の少女は満面の笑みを浮かべる。「うむ、我もぢゃ」大きく頷いた。

「難儀なの好きになったのう」「ねー。どしてかなぁ」笑う。

桃アイレは立ち上がる。手をとり銀アイレをも立ち上がらせる。

「ね?鍵は……自分だけじゃない、銀ちゃん、キミもだよ?」

そう言って抱きしめた。

「……っ」「――行こう。これで、この不思議な旅路は終わりだ」

両手を繋ぐ。二人は鏡の様にお互いを見つめあう――そして頷いた。

「そうぢゃ」「そうだよ」


        「「わたしの名前はアイレ」」


――世界が瞬いた。

お菓子が溶ける――遊園地が解ける――甘えるものは何も無くなった。

天蓋に光の亀裂が差し込み、銀と桃の少女を包み込む。

「…………!」頷き、二人は手を繋ぎ、羽根をはためかせる。

向かうべき世界への扉へと、静かに舞っていったのだった――――


二日連続投稿!……次も早ければ

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