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それは蒼穹より量産型少女とガラクタ王子とロボットと  作者: 秋天
第三話 「花びらたちの願い」
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第四章 「朋輝と水色の先の(後編)」


「コイツとは何だよキミ。ボクはえーっと、何だっケ?」

駄目だ。

やはりよく見えない。眼鏡を外した裸眼で延々度が合わない感じって

こうなのだろうな、と感じていた。

水面だけが延々に拡がる世界。見上げる空は虹色。まともな場所ではない。

そこに小島があり、とてつもなく長い銀のロングヘアの少女が絵を描ているらしい。

朋輝にも”油絵を描く用の一式だな”くらいは判る。

少女は絵筆をくるくるさせながら思案している。キャンバスには何も描かれてない。


「お前――何なんだ?」

「お前じゃない、うむ。個体名で話すなんて久しぶり過ぎて思い出せないし、

 よし、取りあえずカエルムと呼びたまえ少年」

「カエルム?……それ、天威の国の名前じゃないか」

「お。そうか、そう名付けられたんだっけアレ。じゃぁエルムで」

(”カ”抜いただけじゃんか)とツッコミたかったがやめた。


「――ここは何処なんだ。操舵空間みたいだけど」

「いきなし本題だね。操舵空間?――あぁ、それも後付けで名付けられた奴だな。

 まぁ……何だろうなぁ、”行き着く先”というか」

「俺、ここに居ちゃ駄目な系?」「そうさな。まだ早い、早すぎ問題児って奴」

銀色の髪の少女らしきソレはケラケラ微笑しながら軽快にさえずる。

表情がよく見えないだけに若干イラっとする朋輝だった。


「どうして俺はこのお仕置き部屋みたいな処に来たんだ?」

「お仕置き?……痛いトコ突くなぁキミ、顔はボクの弟そっくしなだけに痛いぞ」

「??……それより俺は早く帰りたい、出してくれるか?」

「急くなぁ、焦ってんなぁ少年。うーん……どう話せばいいか」


するとエルムと名乗った少女はささっと絵筆を滑らせキャンバスに描く。


「よし、こんな感じ。キミはね。まだ最終形態たる蚊にも成れてないボウフラなのに

 血を吸い過ぎて蚊をも超える何かになろうと無茶しすぎてハイ、

 こんな盤外ゾーンに堕ちちゃった、ざまーって感じなのさ」

可愛いのか何なのか血で腹がぱんぱんなボウフラがイキリ起ってる絵が描かれた。

ボウフラ巧いなとか蚊で例えるのやめろよとか言いたいがぐっと堪える。


「蚊を超えると……こんな世界に来てしまうのか?」当然の疑問。

「吸収した血に悪酔いしてあらぬ世界のスポットへ堕ちてしまっている。

 本来、ちゃんと蚊になって蚊として寿命を終えればいいのに段階を誤って

 一時的にエラーが起きてすっ飛ばされてしまったってぇ感じ」

「わからないんだけど」

「TVゲームでさ、たまたまヘンな感じにカセット挿してバグって

 あれ?やっべエンディング観ちった~って言えばわかるっしょ」

「いまスマホゲー全盛なんだけど……いや、ソラ姉の父親が見せてくれたか」

ソラも自分も父親がTVゲーム全盛期の人間なせいでよくレトロゲーをたしなんだ。


「つまり、たまたまなのか?」

「うん。こんな段階でここへ来るのはキミが■■なせいだな」

一部が何故か聞こえない。聴き損じたのか。

「ふーん……しかし謎世界の住人なのに、さっきから例えが庶民くさいなアンタ」

「やっかましいわー。俗世研究して直感的な例えしたってんのにー」

ぶんぶん両手を振って怒る。漫画っぽい言うか。(あ、ちょっとソラ姉に似てるんだ)


「話戻すと、たまたま誤動作バグってエンディングに来たって事なのか?」

「極端に言えばねそうなる――たまたまだ。キミの■■の■がそうさせたのかもね」

また何かが聞こえない。

「ここはね、ある意味の終わり。終わってるからボクはここで世界を眺めてる訳で」

虹色の空を物憂げに見やる。

相変わらずボヤっとしているが幾ばくかの人生の果てを観ている老人の様にも思えた。


「さて。キミさ……妙なモノが混ざり過ぎててちょっとヤバみだね」

唐突に現実に戻された。

「こんな処へ来たのも俺のせいだって?」「うわ。自覚はあるんだ」

彼女は絵筆を水でざぶざぶ洗い、軽くぬぐう。

そしてパレットから絵の具を二つ、絵筆でとる。

「桃色と銀色がこう混じる。そしてキミの■■としての血が増幅ブーストする」

「え……」駄目だ、やはりよく聞こえない単語がある。理解が出来ない。


「すると■■なる世界が飽和する。それを内包せしめる器を創れた天威の民だったが」

ぐちゃっと色を混ぜる。するとキャンバスから色の塊りが浮き上がり上空へ昇る。

そのまま空中でばふばふと大きくなって――、

「ぱーん……壊れて消えた。ホラごらん、はじけてこの世界の空になった」

エルムの声ともに、言うままに塊りは弾け、虹色の空へと消えてゆく。


言葉にならなかった。

聞こえなかった単語に答えがあるらしい。しかし彼女がよく見えない現象と同じで

(たぶん、今の俺じゃ理解できない次元)――そう感じた。


「このままじゃキミが■■なる世界そのものに成ってしまう――早すぎる」

「困る……神さまっぽいアンタなら、何か手はないのか」

図々しいと自覚するがどうにも頼るしかない。

「神さまなんて恐れ多いボクはこれをやろう」

見れば、絵筆の先に輪っか――リング状のものがハマっている。

「ほい」すると、「あれ?」いつの間にか朋輝の右手の薬指にソレは移譲していた。


「それは結婚指輪に似せた錠前なのだ」「なんでウェディングリングに似せた?」

「一見、錠前っぽくないのがシャレオツなンじゃん」「さよか……」

絡むと話が進まないのはアイレで懲りたので続ける朋輝。


「汝、己が自身の”鍵”を探せ、自身で自身の心の世界の鍵をかけるのだ~」


堅牢な仙人の様な物言いで説く少女。抽象的で捉え辛い。

「はぁ」と嘆息する朋輝――彼女の指が近づく。

「じゃね、キミ達とはもっと艱難辛苦を乗り越えた先にボクは現れてドヤりたい。

 キミの■のお姉さんにもヨロシクネ。では、ほい」

ぴっちん。弾いた指で額を叩かれた――すると足場の感覚が消失する。

「えー―うわ!?」そして没シュート宜しく意識までもが沈降する。


「鍵だゾ~。心を埋める鍵は自分で探せってコトなのな~」

銀色髪の少女の声が遠のく。意識の喪失感とともにどこまでも堕ちてゆく。

まぁ夢なんだな、とも思い直し、諦めて瞳を閉じたのだった。



「朋輝!?朋輝目ぇ覚ました!」

足音が聞こえる。複数の――すぐにここが元の場所だと理解し始める。

夕方だ。

虫の音やカエルの声がさわさわと聞こえてきて初夏なんだなと実感させた。

「……あれ?なんで地面……」

寝かされていたのは湖畔の、ダムを構成する舗装された部分であった。


「――え?ダム湖に沈んで二時間も行方不明だったって?」

ようやく朋輝もはっきり目が覚めた処で事情を伺った。オオカミ型と共に

ダム湖へ沈んでいって、そのまま行方が分からなくなったという。

ペロ水中モードで潜航するも、オオカミ型の姿も忽然と消えてとにかく反応がない。

そんな絶望の中で二時間後、虹色の光りの渦が上空から降りてきて

朋輝が静かに帰ってきたらしい。


「モキモキぃ」アイレが抱き着いて、雉子が介抱して、恋縫はペロとのシンクロで

疲労困憊で眠り込んでしまっていた。

「……すまない。俺、えと……どうしたんだっけ」何かとんでもない体験をした気が。

誰かの存在を感じた。銀色、そんなイメージが浮かぶ。

「いいよ、朋輝が帰ってきたんだから」稚子の膝枕に寝かされアイレが朋輝の手を

掴んだまま覆い被さる。

「アイレ、重い」「なんでそゆ事言うん!?」今度はキレのある反応だ。

「嘘だよ――ごめんな。心配させて悪かったみんな、どうやって帰れたかは

 俺にもわからないんだすまない」自分でも解らないのだから説明しようもない。

アイレを撫でてやる。

ここ最近は普通に少女してて朋輝も妹に接してるかの様にも――(あれ?)

撫でた自分の腕、指に何か銀色の指輪があるのに目がいく。

「これ、アイレがくれたのか?」見せてやる。

メタリックともつかない不思議な銀色だ。

「……知らない、何で指輪?モキモキ既婚者だったの?」

「みたいだ」「「マジ!?死ね!」」

「いて、なんで雉子とアイレが同時に殴るんだよ!冗談だって」

いつ付けたんだこんなの……朋輝には覚えがない、左手で指輪に触れてみる――、


『己が自身の”鍵”を探せ、自身で自身の心の世界の鍵をかけるのだ』


「!?」――そんな言葉が脳裏に染みて拡がった――様に思えた。

「鍵穴……」よくみれば、指輪には妙な穴が視えた。鍵が挿せそうな――。


「……ふあ、あえ?朋輝さん見つかったんです?」恋縫がやっと目を覚ました。

「すごい、ちゃんと脚部の回収もされていたのですね」恋縫がペロとのリンクで

アイレと朋輝の中に脚部の反応があると教えてくれた。

「よかったよよ~みんな万々歳だよ~」アイレが涙でぐしょぐしゃで。

周囲の皆に大笑いをくらった処で今日の探索を終えたのだった。


こうして――皆の知らぬ処で冒険を終えた朋輝の帰還が成されたのだった。


「あ、そだアイレちゃんの買い物、いつ行く?」女子たちがわいわい盛り上がる。

夕暮れの中の帰路を、皆を乗せたペロは颯爽と駆け抜けてゆく――

銀の指輪が夕日を反射して虹色に光っていたのだった。

構成をずっと考えていたので多少ペース堕ちるかもです、ご容赦!

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