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それは蒼穹より量産型少女とガラクタ王子とロボットと  作者: 秋天
第二話「朋輝と桃と銀の花びら」
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第八話 「朋輝と桃と銀の目覚め」


『しかし、朋輝も難儀ぢゃな……昨日の今日でいきなりぢゃ』

『……ん?あ、汁子ちゃんだ』

すぐに思い出した。なんで忘れていたのか。アイレはまたお菓子の国にいた。

夢……今度は高層ビル化した街並みだけが拡がる。お菓子ビルディングだ。

その最上階にビュッフェみたいな場所があり、盛られたケーキを皿に盛って食す。

所謂ケーキバイキングだが、和菓子盛りもあってわちゃわちゃだ。


お菓子処の敷居がすりガラスになっていて、シルヴァは向こう側に居るらしい。

『ぬぐ、やっぱ味しない、でも喰うよよ。むぐもぐむぃ~』

『こりゃ朋輝が危うい時に呑気ぢゃの』『喰う?』『我は喰うても意味はない』


すりガラスなのでシルヴァの姿はよく見えない。でも、気づくのはシルエット。

『あれ?汁子ちゃんもツインテールなんだね』『話が飛ぶのう。ま、まぁそうぢゃ』

見れば自分と同じ背丈だ。なんだか鏡を見ているかのよう。顔が視えれば。


『――で?朋輝がどうしたの』

『やっと話が進むな、うむ。ぶっちゃけ、いっぱいいっぱいでキレかかっておる』

『便秘だったの?』『うん。おぬしならそーゆーボケ言うと思った』

『よ、読めるボケなんて言わないもん!』

『……朋輝な、おぬしまでも失うと思って行き詰っておる』

『そうなの?――なんで……だっけソレ』むぐむぐもぐもぐと、

『えぇい、夢と現実を交互に忘れおって!あやつはそっけない様で失うことに極端に

 怖がる。おぬしは今、モモンガ型に取り込まれ夢を見ておる、このままでは』

『モモンガ系アイドルデビュー?』

『おぬしまで失う、ぢゃ。アイドルどこから出てきたコラ。

 ともかく、そうなったら朋輝の暴走が止まらぬ』そこでぴくりと反応するアイレ。

『えと――朋輝、もしかしてアイレのこと、好き?』

『恋愛の好きかは分からん――が、友達以上の”好き”ぢゃろう』

『むー、そこは愛情の好きっしょー?ならアイレ燃えたのに!』

『勝手ぢゃの、だが……ん?』シルヴァは気付く、

『ね……アイレどうしたらいい?』アイレの目が本気に視えたからだ。


そこでニッとシルヴァが笑った様に感じた。

『おぬしが……強うならねばならぬ』

『”変貌!”って叫んで仮面ライナーになれる?』

いつの間にかアイレは片手に絵本を持っていた。

特撮変身ヒーローモノの絵本。朋輝の幼少期からのバイブルだ。

『あぁ、朋輝が暇つぶし用に置いてった絵本か。そうぢゃな変貌せねばならん。

 もちろん、”心が強く”――の方ぢゃ。アイレ。

 心は光りだ――自分の内から生み、どわっと育てて、強ぅならねばならん』

『どわっと強くなるには、どうしたらいいのかな』身をノリだすアイレ。

『相手の身になって考える、そこから始めるのぢゃ』

『んー、えー。朋輝の鬱ってる感じになるのー』

『難しいのぅ!』『だねー!きびしーねぇ!』

ひとしきり笑う。むっつり顔をモノマネしてみせるアイレ。シルヴァも吹きだす。


『よはは!……でもさ、汁子ちゃん何でそんなに朋輝詳しいん?』

ぴくりと反応。

『アイレの影からこっそり見てたのぢゃ……にしといてくれまいか?』

はぁ~?と首をかしげるも『いいよ、夢だし。朋輝、ほんっと好きなんだね?』

『……そう。そうぢゃ……好きなのぢゃ。嬉し困ったことに』

『もっの好きー!!!』アイレはケタケタ笑う。ケーキが頬について小汚い。

『な、なんぢゃ!我も困ったと言うておろう、お主は……』

『えー。イケメンだけど性格はぁ……どうでしょうねぇあの子は』

『何ぢゃその主婦みたいな値踏みは、あやつともっと正面からな』

『朋輝の身になって考える――だっけ、先生、具体的に!』挙手するアイレ。


『善い意味であやつアレで特撮モノ好きぢゃ――そこから初めてみい』

先生と言われて少し上気したのか教師っぽい腕組みをするシルヴァ。

『アイレはウルティラマン好きだけどー朋輝が仮面ライナー推しよよ』

『ウルティラマンでも基本は変身じゃ、お主が大きくなる、そこが肝要ぢゃ』


『ぢょぁ!』アイレは変身の構えに入る。

『あの絵本は我も少し読んだ。二人で変身するウルティラマンあったな』

『じゃ、汁子ちゃんも!』『そうか、うむ!』そういうと同じ様に構えに入る。

二人は走り、跳躍。空中で二人が重なった。

アイレが手を差し出し、シルヴァも手を、二人の手の平が重なって、

光りが――輝きが生まれたのだった。



「朋輝、やみくもは駄目!アイレちゃんを傷つける」

朋輝は子機たるモモンガ型たちを喰らいつくし、親機へと挑もうとしていた。

肩をつかむ雉子の腕が強い。抑止の意思。心から言っているのが判る。

「……雉子にはわかんねぇ、俺は、もっと高く強くならないといけねえ」

振り払う。まるで沼の中を這うような重い足取り。痛みをかき分ける様に。


「そーゆーとこが心が弱いってんだよっ、彼方朋輝!!」


稚子の怒声。ビクっとさしじも朋輝も止まる。

雉子は朋輝の正面になおる。両肩をわしっと掴まれた。

すぅ、はぁ。と一呼吸おいて稚子は続ける。

「あたしの好きな朋輝はさ、豆腐メンタルでも強がってむっつりで!」

「あたしが好意をもった朋輝は、むっつりだけど……

 すっげぇ……すげー……優しんだ。キャラぶれんなよ!」

言いたい放題いってしまう。少し震えていた様にも見えた。

しばし、呆気にとられていた朋輝も、両肩が降りる。


「……そう言うの、ふつう本人の目の前で言わねーよ」

そこで鼻先をぺしんとやられた。「ふふ、ちょっとは戻って来れた?」

「いて……」少しの逡巡。「……すまない稚子」「よろしい!」

ばしーんと背中も叩かれる。「おかんかよ」「JKだぜ?」


稚子のこういう処、敵わないな……――改めて思う。

そうだ。オオカミ型でも無い最下層クラスだ、落ち着け。

すこしは冷却できた。焦って唸って敵う現実ではない。

「…………」

左手でバシン!と自分の頬を叩いた。気合いを入れ直す。腐るな、動けと。

「よし、とにかく……この腕の翼も使ってあいつに追いつく……後は」

稚子に向かって頷く。雉子も、以心伝心なのか無言で頷いた。

「征くッ!」

シュライク化した左脚で地を蹴り、跳躍する。自分でも驚くくらいの飛翔。

モモンガ型の親機はゆっくりと北上していた。何処へ向かうのか。

少し親機を飛び越すほどの高度に達したあと、右手の羽根を広げ滑空する。

ほどなくして背に飛び乗れた――油断しててくれて助かる。

機械とも生物とも思えぬ不可思議な体表面。「アイレ――今助ける」

念じた……今なら出来ると何故か想った。アイレを見つける――その一心で。


グアァウ!生身の脚に痛みが……見れば、子機たるモモンガ型が絡みつき、

小さな口で噛みついているのがわかる。一匹だけでない次々に体表面から。

「……邪魔だ!」

シュライク腕で叩きつぶす、そして融合して喰らう。

「ち、やっぱ数でしてくるのか」次から次へと際限なく湧く子機の猛威。

「く!や!……ちっくしょ、めんどくせぇ!」

(仮面ライナーなら二号ライナーが助けにきてくれる場面だよな)とか

幼い発想に自虐する朋輝。

「いや、これだけの猛攻ってことは、逆にアイレに近づけたくないって事か」

数だ。こっちにも数が欲しい。


(不知火さんの……ペロって何か飛び道具出せるって)

実に、あの学園での獣犬ペロと白い巨人の一戦を目にはしていた。

「羽根……そうか!」

朋輝は振り払い、軽く跳躍すると、右手シュライク腕に集中する。

「ぶっつけ本番!薙ぎ払う!」右手を振る――すると羽根が射出された!

どこからそんなに、という位に無数の羽根が射出、子機たちを貫いた。


「おぉ、おお?すっげ、俺すっげ」まるで変身ヒーローだな、と自嘲する。

(応用が出来るんだな、俺は――出来る!)

そのまま親機の頭部に近い背面に向かう。

「アイレ……無事でいろよ……じゃねぇと、雉子にまたシバかれる」

それこそまさにオカンに頭が上がらない子みたいで嫌だったが、

「居たな……そこだ!」

羽根を寄り集める――それはヤリの形状になって手で握る。そのまま突き刺した。


(だいぶ深い、アイレまで刺しちまったら、ゴメン!)

ぐりぐり、ギリギリと、機械と生物の中間の様な体表面を掘る。

しかし、「うぐぁ!?」――背中から、痛みが電撃の様に走る。

見れば――朋輝と同じくらいの背丈のモモンガ型の腕が朋輝を貫いていた。

「……て、めぇ……くっ」

寄り集まってそのサイズにでもなったのか……不気味に大きい子機が迫る。

「うるせぇんだよ!お前に……うぐぁ」振り返り様に右手で一閃。

だが、刺さったままでは力が弱い……背骨をよけていたので致命傷は避けられたが

内蔵を貫いている、出血が……このままでは意識が堕ちる。

「俺は、こんな処じゃ終わらねえんだよ……て、てめぇなんぞ、が」


「そこは”変貌!”って恰好よくキメるのぢゃよよ!」


「え?」

ズババ!ザシュ!中型のモモンガ型の動きが静止したかと思うと、

コマ切れに断裁され……砕け散った。一瞬の出来事。

見れば、無数の銀糸と……桃色の糸が宙を漂い、その持ち主へと還っていく。

「……アイレ?」

『そうです、120%アイレちゃんなのです!』


そこには、妖精の姿ではなく――桃色の髪ではない等身大のアイレがいた。

「アイレ……その髪……」

『うん?え?……あれ?何でこんな色なのアイレ』

そこに起っていたのは、桃と銀の髪色が半々に混ざる、アイレの姿であった。

「えっと……ただいまだよよ朋輝」

「いや……なんで」

「うーん……あれ?夢で何かあってアイレ、こんなん出来ました」

アイレはそう背は高くはない。だが、こう面と向かって立つとリアルにくる。

「お前人間だったんだな」「そういうリアクションが嫌いなのぢゃ!」


「え……」ぷんすか怒るアイレだが、朋輝は語尾が気になった。

「お前……どっちの」「え?」「あ?」「いや、ともかく。お帰り……」

そういうも、子機たちが迫る。キリが無い。

ん!とアイレが手を差し出す。

「ここはぁ、お姫様だっこでぇ、颯爽とさらって帰還が極上です」

「おまぇやっぱ桃色脳ミソの方だ……!」「なんでえ!?」


そう言いながらもアイレをがばっと抱え込む。

「えーうわマジ、マジで」「妖精サイズなら猫つまみでよかったのに」

見ればちょっとテレてる感じなのでアイレもにっこりだ。


こうして、アイレを抱き上げてそそくさとダッシュ、羽根で滑空、帰還した。

モモンガ型はその後すぐにソラを認識、強襲にかかり、白い巨人の返り討ちにあう。


「やー、アイレ、ヒロインしてるにゃー、朋輝は……主人公でしたよ、今日だけは」

「今日だけなのかよ」言うも朋輝の表情が明るい。

「アイレは……ふふん、まーだ言わない」何が言いたかったのか。

風になびくアイレの桃と銀の髪は不可思議だがとても美しく、逆に不安にもさせた。


だが朋輝はアイレを取り戻せたことで得心、(今は……いい)風に流れるままにした。

こうして、一角の安寧が得られた。

             ――その先の光りは、何色になるのだろう、と心を残したまま。

繁忙なのは終わったのでまたいつものペースに戻ると思います。かしこ!

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