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第八節「ソラと王子の我が儘と」

帰宅後、すぐに夕食だったので今やっと三階の自室に戻る。

さて(意識の外においやってた)

あのガラクタ王子はまだ居るのだろうか。

「……学校終えて帰宅したらさ、やっぱ夢でしたーってない?」

三階は自分の部屋しかないオマケ構造なので家人はほぼ入室もない。

「……夢だった。夢だった…………来い!」


がちゃり。恐る恐るドアを開ける……。

「どう……?」

部屋はもともと結構な汚部屋なので綺麗でもないけど……。

「――――あれ?なんだこれ、プラ箱が……」

あれだけ散乱してたプラモの箱が……盛大に……。


「……って、なんじゃこりゃーッ?」

ずさーっと盛大にずっこけた。現実に漫画ズッコケしちゃあかん。

それもそのはず、見上げた視線の先に――

なんかプラモの箱で西洋の宮殿風の玉座が出来上がってる……。

肘掛けまで出来てる。

その玉座に座る、ガラクタの王子様がふんぞり返ってた。

やだ、かっこ――……よくない。


『……帰ったか。ようこそ我が宮殿へ。さぁ我を助け……うごふぅ!』

手にした模型雑誌をぶち当てる。

すごいなコイツ、自分で組んだのかこれ。ドミノ選手かコイツ。

「出てけ!って言ったのに何やってくれてんだよ!

見事に時間かかって大変だったっしょ!」

いや、違う。なんで労ってんだあたし。

あの身体でせっせと作ったのを想像してしまうとか。


「……はぁ、やっぱり夢じゃなかった……」

がっくりへたりこむ……。

追伸【コイツやはり実在してました】――。

流石にプラ箱が勝手に積み上げる幻覚を見るには無理がある。

普段から家人が無頓着でいてくれてよかった。


『痛いであろうが!何だ……余がせっかくお片付けしておいたのに』

自分で「お片付け」言うな。

……にしても不自由な身体でマメなヤツだ。


寝たい。疲れたし――でもこのままじゃ安眠できない。

嘆息しつつふざけた人形《現実》へ目を向ける。

「で?……もうアンタを何かの生き物に扱う悪夢を続行するけど」

「ぞっこん?求婚は早いぞ――ぶげ」

雑誌をさらにブチあてる。

「するか!……朝の続きよ。アンタ何で居るの?……あのロボットは何?」

あたしは指で天井の顔を指さす。天井の顔は何も答えてはくれない。


『ぬぅ……狼藉はよせ!ぁん?居る?ロボット?……ふむ、

やはり民草には話をせぬと進まぬか、よし説明してやろうぞ』

「うっわ……ひっど……」

ロボットとはアゥエスの地上民の呼び名か、と嘆息する王子。

長話が始まりそうだった。

『嗚呼、めくるめく空の頂きは王の証。それは潤しきカェ――』

「――あ、待ってタイム」

こん。紙屑を投擲。よし命中。

『な、貴様!だからいちいちモノ投げるな!』

「……あんた、話長いタイプだね。そういうの判る」

『なんだと?』

前に食事の席で、誰も聞いてないのに二十分面白味のない話を

続けた無神経な親戚のおじさんがいて、ほんま辟易したんだ。


『ば、馬鹿者。説明を要求したのは貴様であろう。

ここは念入りにねっとり解説せねば……』

「はい、そこ駄目。いい?倒置法で話して。長話を聴くの苦手なの」

倒置法?と訝しむ王子。

「オチを最初に話してから解説すると、聴く方がラク。会話の基本よ」

じゃないと聴かない、と振ると「ぬぬぅ……」と逡巡、渋々承諾した。


玉座(プラ箱の)であぐらをかいたまま天を仰ぎ、まずはオチを言う。


『我リヒト一身上の都合でこの部屋に滞在する事が決定しました』

「……は?」

『よし完了。では解説だ。おぉ、それは偉大なるカエルム……』

「いや待て!それオチじゃな……待て!話進めんなあああ!!」


静止も止むなく、

王子の長い永い設定とトンデモな押し付け劇場が始まった。

あぁ、哀しくも全てが後の祭り。

この〈非日常〉沼にうずもれてゆくことになったのだ。





「なにが……!!この……!……っっ!」

ずばん、王子へ学習辞典を叩きつけた。

〈天威の国〉とかの設定を延々聴かされた直後である――。

「……この小娘!いちいち投げつけてくるな!」

「…………ッ!」

聴き終わって憤然。絶望と怒りだけが湧き上がる。

人形王子の怒声をよそに、あたしは制服を次々脱ぎ始めた。

もうどうせカオス部屋だ。上着もシャツもタイもぶちまける。

そうさ。ここはあたしの部屋。あたしの世界だ。


「ちょ待!庶民、なぜ脱ぐ?脱ぐな!王族を前にして……破廉恥ぞ!」

ブラとパンツだけになった。何が王族か。

あいつはあんな身体でも女子の裸なんぞで照れたりすんのか。知るか。

すとんと落としたスカートを足で拾って王子へシュート。

狼狽える王子の顔面へ……届かず落ちた。


「ふん……あんたは王様だろうね。困ってますね。そうだろね。

だがな!ご都合に、人をモノ扱いするゲスがいるか!そんなのに

はい、そうですか、と答える阿保がどこの世界にいる!?」

あたしはジャージの下を履く。

「……少なくとも地上にはいない。いるのはあんたの頭の中だけの世界だ」

ジャージの上もすんなり装着。予備の中学ん時のジャージだ。


「……気が収まらない」

「まだ話の途中だ……待っ」

「……夜風に当たりたい気分」

待て、と言う王子を無視してあたしは部屋を出た。


(……ほんっと、幻覚であって欲しかった……)

――あの一瞬に垣間見た、王子の本音さえ無ければ……――



――春とは言え夜風は肌寒い。

ベランダにはハシゴがあり、屋上へ昇れる為あたしはよく使う。

(危ないから撤去の声も上がったけど)

父に教えられて以来、よく気分が沈むと活用した。

雲の峰の果てを眺めていると、自分がこの大空と一体化する様な

そんな解放感。

迷いも悩みも、空は全てを解き放ってくれると錯覚した。


――溜息ひとつ。


屋根上に到達すると、白い巨人が頭突っ込んでるのが間近に判る。

「……ねぇロボくん、君はやっぱ存在するのね」

答えなんか期待してない。つぃっと触れてみた。

「やっぱ実体ある――わ、何これステキ。すっごい触り心地良い」

乳白色のシルクの様な体表面。でもメカっぽい装丁。

彫刻カービングも綺麗で、西洋の格調高い調度品めいてる。

王子のアレさえ無ければ、愛でていたいプラモ魂がやまない。


「……ごめんね。プラモ好きだけど乗りたい訳じゃなかった。

乗れって言われたの。闘えってさ。女の子なのにだよ?

都合のいい処に都合のいいのがあったんで、あたしを改造した。

信じられる?頭おかしいよね……」


おとぅの好きなアニメでも、喋らないロボットに話しかける

ヒロインのがあった。いま彼女の気持ちが少しだけ判る。


「これは選ばれた主人公じゃない。現地調達の道具。

それがあたし……こんなの主役でもヒロインでもない」


夜鳩の言葉が思い返される。こんな事態を想定してたかのように。

(ソラが何を見、何を選び、どうするのか?

 物語は〈選択〉の先に浮かび上がるものなのさ)


「……あたしが……選択する……?」


はた、と今その選択が目の前にあると知って冷や汗がでた。

目の前のロボット。王子。明確な――<敵>

少しづつ……落ち着かせるためにも、心の整理のためにも、

あたしは先ほどのトンデモ解説を思い返し始めたのだった――

25/05/25 修正

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