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それは蒼穹より量産型少女とガラクタ王子とロボットと  作者: 秋天
第二話「朋輝と桃と銀の花びら」
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第五章 「朋輝とオオカミの刃2」


「琉左はよ、色々てめぇ勝手なんだよ……ほんっと今更なんだボケ」

「……朋輝、言いたい放題だな……」


明晰夢めいせきむ】――というのがある。

”あぁ、()()()()わ……”と気付いてしまうやつである。朋輝は割かし観るほうで、

車のボンネットに腕つっこんでグルグル掻き回したり、

見知らぬ老婆にケンカ挑んで何故か柔道技で返り討ちにあったり、

夢の中で”あり得ないこと”して幼少期から遊んでいたりしていた――だから、


すでに閉鎖された――あの想い出の、〈道楽雑貨屋〉の中に自分が居て、

琉左が音ゲーDDBで遊んでいる光景を目の当たりにして、

”再現率たっけぇ夢だな”と……さっさと気が緩んでいたのだ。


「こんな夢みてるって事は俺、オオカミ型に喰われてまだ死んでないって事だよな」

「なら目が覚め次第、シュライク腕使って脱出する算段練らないとな」


今じゃ珍しいテーブル筐体の椅子に座り、大昔のレトロゲーをプレイしながら

ブツブツ独り言に花を咲かす。名を〈GigGug(ギィグ-ガグ)〉という。土中を掘って進み、

怪物に空気を入れて破裂させクリアする内容だった。


「そっか、童話で狼のハラ割いて脱出するのあったな、あの腕で出来ねーかなぁ」

「……朋輝って独りだと、けっこーブツクサ独り言多いのな」

「うっせぇよ夢の琉左。どーせお前は()()()()()()()()()()だろ」

「かもしんねーけどさ。そんなに饒舌ならさ、もっと現実でもババンと言えや、ハハ」

DDBの1ステージ目をクリアして一息つく琉左。この筐体自体がもう失われて久しい。


「だってよ。俺は見捨てられたと思ったんだ……言葉だけ濁して見限られたってさ。

 そんな失望が四年続いて、帰ってきたら何事もなく日常に溶け込んでくる、

 いきなり簡単に、さりげなく無垢に、……そんなので情緒が切り替わるかよ」

「夢だからって唐突にすんげー感覚的な告白だな。まぁ……気持ちは、わかるよ。

 お前からしたらさ、青天の霹靂へきれきってヤツだ……何いまさらだ。

あんな思い切った事してさ。取返しつかねーの。で、いきなりの引っ越し。

 ……目が覚めたら数年経って……帰国して、あーぁ朋輝にどう言うべってな」

「それ、俺の夢だから適当につくった設定だろ……」

「お、そうなるな」「夢のくせにヤワい言い訳考えやがってさ」「すまねぇ」


自機は敵の怪物に追いつかれて1ミス。最後のラッシュが怖いゲームだ。

「でも、”事情があって欲しい”、俺の弱さがそう創ったんだな……ヤワい」

いつの間にか琉左はテーブル筐体の向こう側に座っていた。

「ヤワくねーよ。それ普通だよ。オレも色々謝罪の言葉考えて――お前に

 逢ったら、なんか楽しかったことしか思い出せなくてさ、ササっと

 おどけちまった……へったくそだよなオレも」

「……琉左本人に逢ったら、またはぐらかされて、なぁなぁになりそうで嫌だ」

「オレ馬鹿だからさ、胸倉つかんで説教してやってよ……ドギャンと蹴っ飛ばして

 肝に銘じさせてやってよ――取返しつかない内にさ」

「………………琉左。こうやってずっと話していたい」

「そぅ、……だな。いいんじゃね。現実のオレはヘタレなんだよ。内心は。

 だからさ、言ってやれよ。触れてやれよ。〈大事なこと〉は機会を逃しちゃな、

 いいんだよ、後悔するより。それで失う仲ならそんなモノは……。

 だって朋輝は俺の――」


夢は唐突――夢だから唐突……場面が転換して次の舞台に。

オオカミ型に飲まれた朋輝はまたひたすら眠り続ける……――

琉左の言葉の続きを聴けぬまま。



()()()”は早かった――。

彼女の時間はあいまい……。何しろ目覚める度に日付が飛んでいるからだ。

その度に侍従や兄が「あ――そっちの方か……」という表情をしてくる故に。

そんな事が積み重なり、

知識や物心がつけば、”おかしいのは我なのだ”という簡単なオチに到達する。

気がつかないフリをしていた。

気がつけば自分は何かの幻だと自覚してしまう。


だから、自分は”いつもと違うアイレ”という役職の様な立ち位置を演じて――


       朋輝と出会って……消えるのが怖くなったのだ。



「はぁ、はぁ、……あいつ、トンデモないです」「団子虫の比じゃないよ……」

こんな短時間に、ペロも恋縫も皆も疲弊困憊していた。

アイレの策もやすやすかわされた。

銀糸で獣犬の全面を覆って強化し、特攻しかけるシンプルなモノだったが、

追いつけた、と思った矢先に反転。上部から、横から、意図しない方向から

ワープしてきた様に襲ってきて脚の踏みつけ、横蹴り等をかまされる。


「こちらの特攻すら当たりもしない……何て動き――でも、

 なんで乗ってる恋縫たちを狙わないんでしょうね」

そこが不可解だった。雉子はともかく、ドロスィア寄りの恋縫やアイレは

向こうにも探知できるはず。司令塔、もしくは不穏因子をまずは潰すが上策だ。


「謎だよなぁ、無駄に紳士派なんだよな。あの狼」

「ふふ。ドロスィアに紳士派なんていたら恋縫も尊敬します……が、

 雉子さんもアイレさんも無事で助かってます」

「そこな。あたいやっぱ邪魔だし、どこかで降ろして貰いたい位なんだけど」

周りを見回す。見事な大森林で降ろしたら逆に雉子が遭難する。


『恋縫よ雉子よ……策が思いつかぬ、すまヌな』

「アイレちゃんさぁ、言いっこなしだぜ」

八等身のアイレを見るのは初めてだが、銀色に染まっているのに

とても生物的に見える。それだけに、苦悶の表情もありありと浮き出て辛い。


「朋輝くんに何かある、そう読んでます」『ム?……何故ヂャ』

「朋輝くんの腕の能力には驚きました――でも、アゥエスの脚と同じくらいの

 ”吸収する価値があるのか”……そこが解せません」

「か、か、価値って朋輝はあたいの……えっと、うん、仲間!友達!」

「ドロスィア側では?と考えると意味を成しません」

「あー……うん(ちょっと冷静すぎひん、恋縫ちゃん怖い)」

「あ!いや……わわわ朋輝さん価値ないって意味じゃないですすす!」

恋縫はようやく達観モード?からいつものキョドりに戻ってしゃがむ。


『朋輝は我にモ友達だ……――友達”だッタ”……と思っテおっタのヂャ』

「…………?」「アイレちゃん?」

アイレの様子に二人は気付く。

暫く長考していたのはずっと策を練っていたのだろう。

でも、ここにきて。何かに想い至り。少しの逡巡。

そして――ようやく……ゆらりと顔を上げたのだった。


『うん、そうヂャ。やっぱ、我は朋輝めに――()()()――たのヂャろうな!』


「「え……!?」」空気が固まる。

何故ここに来てそんな告白?……稚子と恋縫も呆気にとられた。

後ろ手に両腕を組み、年相応の女の子らしいしぐさで――まるで、

コンビニにでも行こうかという様な軽い――、開花した向日葵の様にまばゆく。


『そうオノノくデない……我も、誰かニ恋なんてシタ事ないノヂャ

 だガ、こんナ気持ちヲ恋と呼ぶナラ、我はその感性ヲ褒めて遣ワス』

素直な告白。素朴な感情。何に想い至ったか。

両手をまじまじと眺める。

『ダガ、我のコノ異常は何だ――全身が銀に染まっテおる……いつモノ、

 ”気付かないフリ”で見過ごシテたのかもシレぬ。……はハ。

 桃色のアイレという別の我モおるトイウし……我は……何だロウなぁ』

「アイレちゃん……」

気付いてたのに何で……という無粋な責め苦は口に出来ない。

異常に気付かない事情、状況、環境。

複合的な何かが彼女の〈日常〉を日常たらしめていたのだろう。


『我は、ドロスィアに取り込まれ、染まって、偶然元の姿に――意識を取り戻した

 にスぎない……タブん、そんナ処であろう』ニカッっと両端を釣り上げる笑み。

『よい、我は一時期の幻想……夢の様なものヂャろう……よいのダ。だから、……』


『……少シ、賭けテみるのヂャ!』両手を大きく開く。

『朋輝を救い出シテ、そしテ、ソして、そっかラは……しこたま考えル!』

銀アイレは両腕を掻き抱くように、何か、楽しい未来を想い起こしているような。


『そしテ、朋輝に告白しテ……!……あァ、それカら……そレ、から』


でも、恋縫にも雉子にも見えていた――これは覚悟した女の意地だ、と。


そして恋縫に耳打ち。顔色が変わる恋縫の頬を優しく撫でると銀アイレは、

『まぁ、下手すレば、我ハ最期かモな~……』とはにかみ、背を向けた。


「アイレちゃん?待っ……」恋縫に腕を引かれる。無言で顔を振る。

その眼差しでアイレと恋縫の覚悟が決まった。稚子の顔が沈む。


『デは、参る!――朋輝は……生きてイテ欲しい……オトコヂャ!』


距離を置いて小走りに追従する獣犬。オオカミ型もゆるゆると走り、

またカウンターの機を伺っているのがみえる。小賢しい。

銀のマスクを被ったような獣犬はまたしても特攻をしかける。

しゅん、と――またオオカミ型が視界から消える。

そして、「また――そんな角度から……!」後方斜め上からの急襲。

恋縫の毒づきと共に、急制動できない獣犬はまたしても虚をつかれた形になる。


グァアアオオウウ!

両足を伸ばした狼の特攻――しかし、だが。『……ッ!!?』

〈それ〉を目撃したオオカミ型に明らかな動揺が見える。

特攻の先、打撃予想点とでも言うべき場所に――〈彼〉がいた。


彼方朋輝かなたともき】――――どう見てもそう見える人間の姿。


『……ォゥッ!??』オオカミ型がありありと驚愕に歪める。

急制動。こちらが出来ないのであれば、向こうも出来ないはず。

本物か疑う時間は無かった。オオカミ型は、朋輝の姿の〈それ〉を潰してはなるまいと

不自然に身悶えし、もんどりうって獣犬に激突した。


至近距離。そこでオオカミ型は観る――朋輝そっくりの姿が崩れ、銀糸がほどかれる。

そのまま銀糸は眼前のオオカミ型に取り入り、

その半分は口から鼻から侵入――残りは獣犬にからまり互いを銀糸で縛る。

銀アイレ、全身を使っての捕物帳――そして爆音のまま二者はぶっ飛んだ。


「うあぁっぁ!??」「ぅぅ!!?」

恋縫はペロに溶け込むことが出来る。半身でもあるからだ。

稚子を掻き抱いたまま、緊急回避で一時的に獣犬内部へ潜りこんだ。

なにしろ、獣犬の速度にオオカミ型の特攻のエネルギーが加算しての

爆発的な質量の洪水である。

ここが広大な森林と山岳地帯という地形で無ければ出来ない芸当であった。


何度も転げ、何度もひしゃげ、何度も大地と空をグルグルと見るはめになった。


ペロ自身も強い。それでもオオカミ型を全脚で捕まえ離さない。

【捕える】――ただそれだけに恋縫とアイレの決死の覚悟がそう成した。

軽く数キロは転げ駆け巡ったのちにやっと静止した。


「――……やった、の?」暫くして、獣犬の頭部から浮き出てくる二人。

機械生命種という単語がピンと来ない雉子は『息苦しくて窒息したらヤだな』とか

呑気に思っていたのだが、恋縫の機転で

”巨大な風船状の中に入って遊ぶ水上遊具”の様な形で潜ったため軽傷で済んだ。

見れば、獣犬ペロもかなりの損傷が。恋縫も痛みを分かちあってる故、表情が苦しい。

「ッく……アイレさん、頼んでばっかりですね……頼みました、よ」


恋縫もよろよろ這い出てきて祈る。雉子もそんな恋縫をゆるく抱きとめる。

オオカミ型は異物混入に悶え苦しむ――機械生命種にそんな感覚があるのか解らない。

一矢報いただけでも前進。だが、すべては侵入した銀アイレの成否にかかっている。


朋輝奪還の第二幕へ移行したのだった――!

意外に早く書けてしまいました(次回も間が空くやもしれませんが近い内に!

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