第二章 「朋輝と、二人の居場所」
「――いや、やっぱ同棲とか無理だった」
『さっきの感動かえして!』
自宅近くまで戻ってきた朋輝は急にそんな事を。
日は暮れて――さすがに母・結菜も心配かけてしまう。
今日はパートに出かけているので大丈夫だと思うが。
それこそあの温和な性格で(朋輝も困るくらいで)、
こっそりこの謎妖精を飼うくらいなら出来そうにも思えてしまう。
「俺がその血筋の力だとかで、お前ら見えるって言うなら――」
『それは幸せなことだよね』
「――いいや。俺の母さんにも、隣りの叔父と従姉弟にも”見える”
可能性があるって事だ」
『見えてもいいじゃん!』
「ダメだろ。大騒ぎになる――特に母さんには無理させたくない」
『……なんでぇーこんな妖精の一匹飼ってもって言ったじゃん。
説得してよよー』
「ウチの母さん身体弱いんだ。お前は濃いキャラだし、
父さん海外赴任で居ないし、性格が温和なこともある。
負担をかけたくないんだ、お前は濃いキャラだし」
『……わかったよ、そうだね。家族は大事だね――
”濃いキャラだし”二回言ったのはムカついたけどアイレ反省……』
とほー、とうなだれる妖精。
妙に簡単に引き下がってくれた。朋輝の言葉に嘘はない。
アイレなりに何か〈家族〉で引っかかる心情があったんだだろう。
「悪いな――どこかさ、人目が付きにくい場所で待ち合わせして
お前が天に召される方法でも探す手伝い、それならどうだ?」
『なんか幽霊モノの昇天する方法探す話になってるけど……あれ?
それ……もしかしてまた、ずっと逢ってくれるの?』
「――ずっとじゃねーけど……まぁ、なんだ。程ほどには」
視線を合わさず朋輝。
アイレの中でほわんと膨れ上がる感情。
若干テレ顔に見えたのだ――それだけで、アイレの心は
華が咲いた。心が弾んだ。
冷たそうなクールさの中に、朋輝の優しさを見えた気がした。
「んん~ふふふ」その感情に、まだ名前はない。
「――頼れられる時には助けろ――ソラ姉と叔父さんの受け売り」
『それでも、嫌だって人は助けないよね、ふつー、へへ』
にま~っとはにかむアイレ。
ぐわし。朋輝はイラっと両頬をつまんでこねくり回してした。
『ふぎゃぎゃやめてやめて、アイレ女の子だよ顔はらめぇえ』
「無駄口叩かなきゃ可愛げあるんだが」
『ふにゅにゅアイレ可愛いもん』「自分で可愛い言う奴は信用せん」
本当は先ほどのあの本体(?)を見て心奪われた朋輝ではあるが、
素直に口外するのは気恥ずかしい。増長するが目に見えている。
『――ねー、結局どこで逢引きすればいい?』
パート帰りの母と遭遇するのを避けるため、手近な公園での会話。
「逢引き?」『そ、そんなの女のあたいから言わせないでよ!』
「デート気分なら即グッバイだぞ」
『嗚呼、我、大変至極に申し訳なく……』バカはほっておこう。
少し問題だ。母は繁華街方面を通って通勤している。
そのルートに入らず、ソラ姉や大空叔父さんにも見つかり辛く、
街の東にある学園から下校時でも通いやすい場所が理想だ。
人目を避け、万が一、視認できてしまう人が居ても
誤魔化せそうな……「――あ、動物公園か」『動物園?』
朋輝はスマホの地図サイトをぱぱっと開き、アイレにも見せてやる。
「……昔、TVで有名な北海道の動物愛好家が一時期、
ここに越してきて”東京動物共和国”を創ったんだが撤退してな」
東京の西の果てという立地。まだ街中を通る高速道路も未開通。
宣伝不足もあったうえ、とてつもない損失が発生してしまい
止む無く契約解除。閉鎖。北へ帰っていったという。
「その跡地をそのままNONOタウンで有名な金持ちが買い取り、
無料の動物公園として一般に開放したんだ」
『すごーい。アイレそこ行きたーい』
「あぁ、お前の様なイタい妖精が視えたとしても
マスコットのNONOちゃんはるる野verと言い張れる」
『何か不穏な単語混じってたけど、アイレの好奇心が勝ったたわ』
「ここだ」『わ。灯が落ちてもやってるのね』
「夜行性の動物も観覧して、ってな。ライトアップされてる」
はるる野の西南。
【はるる野ふれあい動物公園】はそこに在った。
動物園というより、本当に公園に動物がいる感じの施設。
少々閑散としているが、のんびり動物たちを観覧できる。
全盛期の様なライオンやキリンはおらず、ヤギや馬などの
馴染みやすい動物がメインだ。
『アイレ、ここしゅき!ここに住む』
「あぁ、動物共和国時代の廃屋が幾つかある。
とりあえずそこに身を隠せ。臭い飯を食うにはまだ早い」
『どうしてもアイレを受刑者に仕立て上げたい悪意は無視して
そうするよよ!』
アイレはふわふわと観覧しに漂う。楽しそうだ。
(……なに和んでるんだか。この超常現象妖精が)
『逢引き♪逢引き肉~♪』「不穏な歌、唄うなっての」
口には笑み。花びらが舞う――夕日が香る。
逢引きの、二人の当面の居場所は静かに決まったのだった。