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「ソラと巫女姉妹のGW」

「そらきゅー、GWゴールデンウィークは巫女しよう」

「いやです」


また来た。

現役巫女・神子巫秋かみこみあきのいつものフリだ。

「……確かに、GW予定ないけどさー。バイトする予定もな――」

「巫秋、そらきゅーの巫女服、すっごく可愛いと思うの」

「ぐ……」

巫秋こわい。褒められ慣れてない娘にその超絶美人な顔で迫られると。

相変わらず教室では〈聖女じゃない方の巫女姉妹〉と思われてる巫秋。


「巫秋には巫冬みふゆってさー可愛い妹おるじゃん。双子の」

「あー巫冬は揉み飽きた。おじさんは新鮮な揉み具合を所望するの」

「……そのセクハラおっさん《巫秋さん》、巫女そんなに忙しいの?」

巫冬ちゃんに日頃からセクハラしまくってるのは既知なので軽く流す。


御朱印ごしゅいんブームって知ってる?」

「あーTVで特集してたね、巫女のサイン会みたいなヤツっしょ」

「そうそ。手描きのサインを何だか行列で有難ありがたがる神聖な営業おしごと

「全国の神主さんからブン殴られそうだけど、へぇ。明美川神社《巫秋ん家》も

 そのブームの波が来たってことか」

「今までもコソっとね、あたし書道やってたから筆まめだったし、

 たまーに依頼されるだけだったし、呑気してたんだけどさー」

巫秋はあたしの机にだらんとのせる(制服上でも形のいいおっぱいで焦る)


「サバ缶ダイエットみたいに、火がつくと一気に需要が来るのウチの国の

 日常じゃん?呑気してる内にすっげ、ブームきちまってさぁ」

「……遠回しに”あたし達姉妹すっごい美人だからやっぱかぁ”って

 聞こえるけどそこスルーして――つまりGWで押し寄せるから手伝え?」

「うっそ、そらきゅー新人類トゥルータイプ!?」

「3、4年友人やってりゃ分かるよ巫女さん」

新人類トゥルータイプはヴァンダム用語だ。



「……てな訳で、あたし蒼穹きゅうは巫女になる事になったのです」

「巫秋、あたしのモノローグ勝手に捏造しないで……」

「でも、もう来ちゃったじゃんじゃん」「尺の都合上だよ!」


明美川あけみがわ神社は巫秋んであり、このはるる野の北西部の

山間部に鎮座ます。(噂では)平安から続く、霊験あらたかな神社だそう。

何故か、このはるる野には神社が多く、ある意味、街の観光名所なのだ。


「おぉ。着てみたらサマになるね。ちょっとプチ聖女気分」

「んほー。やっぱそらきゅー可愛いわ」「えひひ。お世辞でも嬉しっす」

ショートヘアなあたしでも着ればなんとか巫女れる。清々しい。


挿絵(By みてみん)


「なんか……こうスースーするんだけど、これホント基本忠実よね?」

うん、なんというか、下が――……

「もっち信じて。我が仕来しきたり、この巫女オブザ巫女の巫秋さまのお墨付き」

「ん。そ、そうなん――」まぁ、こういう世界なのかなって。


「んー、この緋袴ひばかまってなーんか

 神聖感あって、スカート状なの可愛いからいいやね」

「ズボン型もあるけどあたしがこれ推しなんで一択なのよん」

――神社の裏がそのまま巫秋の自宅なので、着替えや準備、

お茶する事も兼ねて母屋おもやにお邪魔させて頂いてる。

「おし、髪も整えたし、準備は万端、どきどきしてきたー」


境内から喧騒が聞こえてきた。

「わ。人集まってきたよ。よくこんな山間いまで……ワイワイだ。

 巫秋たちも、下山&登山とか毎日なんでしょ?」

「まー慣れよ慣れ。巫冬がすっごく嫌がってたんだけどねぇあはは」


「……みぁ姉それ、逆だよぉ(ぼそ)」


「んん?」ふいに、耳慣れない声が。

見れば、障子の向こうに黒髪ロングの人影が見える――あ、あれは。

「みふゆちゃん?」何回か挨拶した双子の妹さん、巫冬みふゆちゃんだ。

「ヒィ!?」人影がわたわたと去ってゆく。

「――わ、嫌われちゃった?」

「いんや巫冬アレ、ドヨドヨに人見知り」

「GW中はお世話になるし、ちょっとは交流したかったのになぁ」

「難易度、ややムズかな。要らないコンプレックスと自己批判、

 自分が可愛いって自覚できない寂しさ。 

 あたしの”揉み”が足りないせいかなー」手をわきわきする姉。

「あんたが揉むせいもあるんじゃ……」どこ揉んでるんやら。


コンプレックスの元はこの姉だな。美人で気さくで器用な性格。

一卵性の双子だけど性格まったく似てない姉妹……でも、

「巫冬ちゃんもーすっごい美人で勝ち組って気もするよ」

あたしから見れば。

「そ、あの子はねぇ、ちょい本気出せば勝ち組になれる素養だわよ、

 キョドる眼鏡っ子巫女、揉み甲斐あり!ってステータス高ぇのに」

アンタみたいにズケズケした生き方出来ないせいだよ、みぁ姉さん。

女子は精神的な成長が早いぶん、情緒も距離感も複雑怪奇なのだ。


「はい。みなさま、本日の”御朱印の儀”ただいまより開幕に在ります」

「おぉぉお、巫秋さまーー!」「巫秋さま、お美しい~」

境内の特設ステージみたいな檀上で巫秋が起つ。

出た。巫秋の〈聖女モード〉だ。

巫女服きて人前に出た時だけ”成る”状態だ。陶酔トランスというか。

すっごいオーラ……そして聴衆がデレる、この空気。

みんなー詐欺だぞー。そいつ中身はおっさんだ。


ざわざわ。わいわい。

(しかし。訊いてはいたけど次から次へと集まってる……)

境内だけじゃなく階段にまで――こりゃブームと巫女姉妹人気だな。


御朱印ごしゅいんとは、神仏とえにしを結ぶ記念の証みたいなので、

神社名や、神社の押印、神の使いのウサギ等のイラストも添えたりで、

描いて頂いたあとにちゃんと御朱印料を納めて完了となるものだ。


見れば、”御朱印専用”の専用机みたいなのが出来てる(屋根つき)

巫秋用。巫冬ちゃん用……(あれ?)真ん中にもう一つあるぞ……


演説する巫秋(詐欺モード中)の横に並ぶあたしと巫冬ちゃん。

「ぼそ(ね、ねぇ巫冬ちゃん。あの台……だれ用?)」

「こそ(え、あの……あれ、ソラ、さん用の……聴いてません?)」

ここでやっと(キョドキョドと)返事してくれた。

「ん?んんん?……あたし?用?」

あたし、ただ人員整理とか雑務って聴いてた気するんだけど……。

なにかなー。なんかなー?なんか世界の悪意が見える様だよ――

「あたし!?」「こくこく(頷く)」

「マジ!?」「マジ出島デジマ……」

「出島!?」


いやいや、ぶっつけ本番であたしに何描かせるの!?

「コラ巫秋……さん、どういうことですの」ワナワナながら伺うあたし。

「皆さま、本日はわたくしの大切な運命共同体、蒼穹女史に緊急参戦をば

 いただきましたわ。貴女かのじょの筆の冴え、私のお墨付きです」

「「おぉぉ~」」

大仰で無理くりな解説で聴衆の了解を得やがった……。

「巫秋てんめぇ……いえ、天命に誓って鋭意努力をば~、かもしれません」

こいつ、ハメやがったな……ぜってぇ遊んでる(ば~かを強調した)

しかも”運命共同体”とか。この時期に微妙な単語使いやがって……!


あたしは画力。才は――ぶっちゃけ……〈メカしか描けない〉こと!


情景模型ディオラマ制作の構想図もそうだけど、ほんっと父譲りで

描くのはロボとかメカ系に限る。チラシの裏にロボ描いてた幼少期ですよ?

”可愛い”とか万人に好感もたれることを想定しない!(かっくいいの好き)


ちらり。

左隣りの巫冬ちゃんのを見る……「(わ。うまい。可愛い!)」

いわゆる女子高生がノートの端に描く落書き的な”下手うま感”なのだけど

こういう手描きの味わいって好きになるよね。あたし好き。


さて、右隣りの巫秋は、て~と……「(あ”?なに?……キモ!)」

ぐちゃぐちゃ。抜け落ちた体毛言うか……なんだこれ、なんだこれ。

巫秋、最近スマホの簡易お絵かきツールで何か描いてるの見たけど

あれ御朱印の練習してたん?……しかしすっごい魔像だ。

お客さん、コレありがたがるの?体毛だよ?って反応をみると……

(にまぁー!)

んん?……ウケが、いい?

どゆこと?……次から次へと回転率高い。男性と女性の客が半々で。

お客は貰った御朱印の絵、眼中に収めた瞬間に「ぶ!」と言う

吹きだしと共にふぁ~と去ってゆく。足取りふわふわだ。


(あれさ。いわゆる”画伯”と称される蔑称べっしょうだ。

 ”下手が極まって、オメ、マジ、天才すぎるやろ!”系だ……)


あの聖母(詐欺)モードから繰り出される画伯絵……あぁこれは病み付きに

なるヤツだ。巫秋自覚あるんかな、あれ絶対、テラ苦笑されてるヤツだぞ。


「あの、巫女さま、御朱印頂けますでしょうか……」

「え?あ、……っはははい!えっと」

しまった。観察してる場合じゃない、あたしも描き手の方じゃん。

「えと、えと……」

巫冬ちゃんが(参考にどうぞ)って描き例の見本をくれてたんで、

基本はそれ見ながら書けばいいんだけど。

(じぃ~…)

視線が、視線が痛いよママン(どこに居るかしらないけど)

(えぇい、こうなったら……!)

とにかくあたしのスキル全てつっこんで……!


「わぁ……なんか、かっこいいですね」

「え。はい、前衛ぜんえい芸術を絡めまして」

お客さん(大学生風)は、ほくほく顔で去ってゆく。

前衛芸術って”よくわからんけど現代アート”みたいな意味も含めて

都合のいい言い方で使ったんだけど、アレでよかったのかなぁ。


あたしが描いたのは量産機の〈獣犬〉の模写だ(うろ覚え)。

アイツまだ倒せてないし最近姿みないけど、

狛犬っぽいんで描いてしまった(そんな時期だった)

突発で何を描けばって思わず、神社=狛犬を連想したゆえだ。

ちょっとデフォルメしてロボ犬っぽくなった。うん、悪くない。

(あとで獣犬の真相に気付いて笑うのだけど)


――そんなこんなで〈獣犬入り御朱印〉を描いてたら

割かしこっちにも人の波が集まる様になった。

(ん。何かさっきの大学生風が多い気が……)

あたしの描く獣犬が微妙に好評――なのかな。

しかし視線が上から食い入る様に……なんだろ。



「それでは、本日の〈御朱印の儀〉はこれにて閉幕と相成りました。

 どうか皆さま、帰路から未来、良運が微笑えまします様に」

〈聖者モード〉の歯の浮く美辞麗句と共に、夕刻には解散となった。


「はぁ~~疲れたびぃ」あたし脱力。

「おっす、お疲れ」「あの、鴻さん、お疲れ様でした」

神子家の方へ引っ込んで、やっと解放された。

やはりプレッシャーは凄い。

フィエー君に乗ってる疲労感も凄いけど(あれは生命吸い取られる系)

対人の緊張感はやはり違う。友達とも家族とも違う間合いと言うか、

自営業の人って緊張感との付き合い方が巧いんだなって思う。


「なー?やっぱそらきゅー、巫女向いてるってばば」

胡坐あぐらでダラける聖女さん。巫冬ちゃんは女の子座りなのに。

「なーじゃねぇよ!よくも騙したな似非エセ聖女!」

「やはり騙し討ちだったんだ……」慣れてるね巫冬ちゃん。

「だってほら、どっきりってリアルな驚きが欲しいぢゃん?」

「リアルどっきりの話してねーよッ!」

胸元ぱたぱたさせて、ほんっとおっさんだな。

「あんたまさか、あたしがメカ絵しか描けないの知っててハメたなぁ」

「そらきゅーのロボ絵っていつかどこかでネタ……祝福されるべきってね」

いま一瞬”ネタにされるべき”って言いかけただろコイツ。


「……でも、鴻さんの御朱印絵、おもむきがあって私は好きですよ」

「ありがとねー巫冬ちゃん。貴女こそ聖女。巫冬ちゃんの絵もあたし好きよ」

くいくい、っと”あたしは?あたしの絵は?”ってアピールしてるのは無視。


「ウチさ。御朱印のあとには風呂、って決めてるんでソラきゅも入ってく?」

「いいの?」「ウチのは密かに温泉引いてるのでお得ですよ」「おお!?」

確か前にちろっと聴いてたけど入浴できるとは!温泉ですよ温泉。

さっきの騙し、水に流したくなってしまう乙女心。


「いやーありがてーっす、ソラさん疲労が溜まっててね(主にロボ関係で)」

するりと脱衣所で巫女服を脱ぐ。すると横の巫冬ちゃんが「え」って声が。

「ん?どしたの?」

「あの……鴻さん、……言い辛いんですが、その……」

今日一日で距離感少し縮まったんで何でも言ってよ聖女(本物)さん。

「あ。あたしの事はソラって名前で呼んで。で、なに?」

「では……ソラさん……あの」「うん」


「――もしかして、下着つけずに巫女服着てました……?」


(おや?)「……う、うん。そゆモノだって巫秋が……」

「あ”」蒼白する巫冬ちゃん。見れば、巫秋はさっさと脱衣して

手ぬぐい頭に乗せて桶を小脇にかかえて行く後ろ姿。

「ちょっと待てやコラァァ!」

軽くポニテにした巫秋の尻尾テイルを捕まえる。

「んぎゅぎゅぎゅ!な、なにするだー」

すっこけそうになる巫秋が反目する。くそ、裸体がエロいな聖女おっさん

「な、何するもねぇ!おまえ、今日お客さんの視線がエグかったのって」

「うん、集客サービスの一貫。だってソラ、自分が可愛いって自覚ないから」

「それとノー下着の●女はやりすぎだろ!」

「だってぇ、抵抗しないんじゃもーん」小学生か貴様。

「ふつー巫女の慣習何かだって思うだろ!……くっはっぁぁ恥かいたぁぁ」

つまり何か?あたし今日一日、身体のラインがくっきり出てる

エロアピールで羞恥プレイしてたってか?

「うん、乳首うっすら見えてて巫秋もけっこー興奮してた」

「とお」

聖女さまを足蹴に温泉風呂に叩き込んだ。どっぽーん。

「……みぁ姉、そんな事させてたんだ」

巫冬ちゃんは人見知りで身体まで目がいってなかったんだ。彼女に罪はない。


「んにゃーん!巫秋、髪は大事にしてるんだから湯舟に浸かっちゃやん」

「うるせー!あたしが揉んじゃるー!」「にゃぷにゃぷぐえー!」

「もーみぁ姉もソラさんもやめてええ」

こうして、邪悪巫女エロおやじの陰謀でさんざんな目にあったGWだった……。

温泉は割かしいい湯加減でこの特典があるならもっかいやっても?

――とも一瞬思ったものの――また、いずれ。


「そらきゅー、大学生軍団があのゲスト巫女いないの~?って

 言うからさっそく第二回を予定し」「しねえよ!」

GW明けにさっそく勧誘に来た巫秋に頭突きかましたソラさんでした。


ちゃんちゃん。


ソラの巫女服姿描きたかっただけ……とか秘密です

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