迦土さんちの事情
本編、構成ともに時間かかりますゆえ、また少し外伝をば(今後もあります
迦土竜地の家は、平凡な中流家庭のお手本であり、
ぶっちゃけ昭和の建物で古い。恋縫の実家の裏手にあり、
横丁の空き地からショートカット出来てしまう位の近所である。
「ふふん、ふんふーん……何だよ……結構キマってんじゃぁねぇか……」
「兄。恋縫ちゃんとデートなん?」
「ん?……違う。本命がな、ついにアイツが俺に告ってきやがったんだ」
「は?死ね。なんで恋縫ちゃんじゃないん?死ね」
スーツにタイにばっちりキメた竜地はヘアスタイルの仕上げに入っていた。
さきほどソラに”もう付き合って(はぁと)”と告白されたばかりだ(勘違い)。
「あのな、天青……確かに恋縫とは友達に戻れたが――
別に恋仲になった訳じゃ」
「あのな、竜地。恋仲とか呼び方はいーんだよ、ただ黙って
恋縫ちゃんを愛せば解決なんだよ」
たまらず振り返る。
セミロングで片方を結んだ髪はまだ、中学生らしさそのままだ。
迦土天青、竜地の実の妹……普通に可愛い容姿だが、どうにも口が悪い。
「おまえ、恋縫とずっと友達やってたんだってな。あいつからつい先日聴いた」
「――だろ?オレを敬えよ」
「あぁ、こればかりはお前には感謝だ……すまん。ありがとな」
「おう――ったりめーだ、どんだけオレが恋縫ちゃん愛してたか」
「愛……たしかに、あいつの気もしらねーで疎遠にしてた俺も悪かったが」
「悪いと思ってんだろ?知らねえ女に玉砕して屁ぇこく暇あったら、
さっさと恋縫ちゃんデートに誘え、恋縫ちゃん可哀想すぎんだろ」
「なんで即フラれる前提なんだよ。あと屁はいま出ねえ」
なんという自己本位な忠告・訓告。いつからこうなったのか。
口調がオレになってしまい、誰に似たのやら。
「天青な。それはそれって話だぞ。俺に女性選ぶ権利ある、だろ?」
寝そべって、ポテチと漫画で豪遊する妹にしかられる理不尽。
「おまえ恋縫ちゃん嫌いか?」
「いや、嫌いじゃねえ、普通に好きな方だ」
「なら結婚しろよ」
「キスしたら子供が出来る世界の住人か俺は。なんで過程すっとばすんだ」
「嫌いじゃねーなら結婚だろ」
「お前が結婚してーみてーだなそれ」
「な、な、なんて事いうの!?」
「そこでやっと動揺してんじゃねーよ……」
やはり会話がループする流れだな……竜地は半眼になる。
母が行方不明になって十年。その騒動で妹はやさぐれた。
友達はほぼ恋縫だけ。
家事や料理は竜地がやってきた。父親は職人肌で家庭に向かない。
妹は……どうにも極端な性格になってしまった。
寂しさの矛先に――甘えたい心理があるんだろう――竜地にもそれが解るが
態度と言葉がいまいち統合性がない。
矛盾してるが直すほど本人も現世に興味がない。恋縫が大事なだけ。
どうしてやれば解決か、この時の竜地にはまだ答えを得ない。
「――そうだ、今度あいつにウチで料理を教えてやる、って約束はしたな」
「えぇ?ほんとお兄ちゃん、恋縫ちゃん、恋縫ちゃんウチに来るの!?」
なんで恋縫からみだと普通の妹口調になるんだよ――言いかけてやめた。
「あぁ、あいつな。すんげー弁当作ってきたんだよ。犬のエサみたいなの。
ガッカリだぜ。あんなちんまくて女の子女の子してるわりに
料理からきしなんだよな。絵が巧いくらいで、嫁修行くらいし――」
どげし!
天青のダッシュキックが竜地の腰をえぐる。
「く……げぇ!?」どがぁーん。大仰にふっとぶ竜地。
「恋縫ちゃんを罵倒すんな!セクハラだろソレ、無神経ゴリラが!」
「うげぇぇ……てめ、この」
天青は言は正論だが、竜地の鈍感さでは理解できない。
「いいよ、恋縫ちゃん誘ってオレが遊びに行く。あーあ、何でオレ女なんだろ」
そういうと、ぱぱっと脱衣して外行きに着替える。
(こいつ女の子女の子した服着りゃ異性にモテそうなんだがな)と思うが。
「――なんかほんっとお前が恋縫ちゃんと結婚したいみたいだよな」
「そう言ってる!出来るならしてる!」素で言いやがった。
「確かに恋縫は可愛い。ほってはおけない――俺なんかじゃ勿体ないってな」
「ほんとタコが!ソコじゃねえんだよ!にぃはな、人間学べ!女を知れ!」
「あいつは小さい頃から俺しか見えてねぇ、俺以外の異性を知る――」
「うっせぇ!恋縫ちゃんは最高なんだ!」
勿体ない、というのは”悪い事した”という気おくれでもあるが
自分も女性の気持ちとかを察する共感性は薄い――竜地も反論をやめた。
「――じゃ、俺はいってくるぜ」竜地は靴を履く。後は花束買っていくだけだ。
「恋縫ちゃんはオレが幸せにすんだから!」
二人して玄関を出てゆく――お互い片思いに奔走するの兄妹。
妹なりに色々考えてたんだな、と反省と自戒が芽生えるが、
竜地の成長と展望はまだまだ先だ。
竜地は蒼穹とのデート先へ向かう
一人キモく――んふんふ、しながら(結果は散々なのだけど)
その後――モモンガ事件を経て、我が家に恋縫と蒼穹を交えて交流があり、
恋縫家でささやかな夕食にありつけ、天青もおこぼれを貰う。
そこで、
天青の感情に変化が現れるのだが――それはまた別の機会。