第六節「想い出の公園/朝焼け」
「――今日も、いるかな……二人」
暮れなずむ夕焼けは町並みを朱く染める。
昼と夜の境界線は逢魔が時。
はるる野市は東京の外れ。ほぼ片田舎な景観が広がる。
その西北――旧道のなだらかな丘陵の先に、それはある。
見晴らし台の様な場所こそがあたしの〈想い出の公園〉。
正式な公園の名は忘れた。
街をいちばん美麗に展望できるって思っている。
――さて、
自分を〈量産型〉と定義づけたのなら〈主人公〉が存在する。
私の定義した主人公とヒロイン。
主人公《太陽》兄さん、
ヒロイン《月子》姉さんだ。
別に血縁ではないけれど、幼馴染で一つ年上の二人。
二人は副会長と書記なので忙しく学校ではほとんど会えない。
なので、
部活が終わると放課後、あたしはここで二人と待ち合わせするのだ。
夕焼けが映えるブランコーー二人は待っていてくれた。
「ふふー。青春が満開だねっ!ソラの主人公ズは今日も晴れやか!」
眼鏡に長身で、理知的なハンサム顔の太陽兄。
おでこにロングヘアが光る大和撫子な月子姉。
まるで古き良き邦画のワンシーンの様で。
「……ソラはいつもお寝坊さんだな」
「そうよーお寝ボケは駄目だよ、ソラ」
破顔一笑。画になるしぐさ。
だからこそ端役でいい。あたしはこの二人の端役でありたかった――
「あらソラ、なにかあった?」
「そうだな。相談に乗って欲しい顔だ」
「わかる?……あーでも、ちょいトンデモ過ぎて自分で消化しないと」
「珍しいな。いつもは早々に甘えてくるじゃないか」
「えーそこまでじゃないよお」
「やや甘くらいだよね、ソラは」
「むー」口をとんがらす私。実際、この二人の前では甘えん坊だ。
私には母親がいない。産まれてすぐに居なくなったらしい。
消息も生死も不明。ゆえに、つまらない揶揄が世間を踊った。
『あの父親だし……』『父が父だから逃げられて……』
父は過去の騒動で有名人らしく、心無い中傷があたしを切り刻んだ。
そこを救ったのがこの二人。
『一緒に遊ぼ?』――手を差し伸べる男の子と女の子。
詮索をしない優しさ。微笑みが誘う。
その日から、淀んだ闇は祓われた。涙は笑顔に変わった。
あたしの世界は晴れに包まれた。
二人は、あたしの〈主人公〉達になったんだ。
「そうだ――模型部の部長になったんだって?」
「夜鳩がね、部の主役は君しかってきかないんだもん」
「実際にそうじゃない?」
「夜鳩の方が部長って顔してるよっ」
「そうか?部の主役って感じと思うがね」
「えー……そっか、なぁ」
この現実だけは、甘える自分で居させてほしい。
三人で街を駆け巡ったあの日。
あの日から――背中を追いかけるだけのあたしの――。
私の原点――私が主役でなくていい理由だった。
「じゃ、蒼穹は帰るね」
「トンデモ話の方はいいのかい」
「ん。お二人さんの邪魔しちゃ悪いし」
「また妙な気を使いやがる」
「ソラは気になる男の子いないの?」
「ぜーんぜん」
あの人形王子が気になる男子って未来は――ご遠慮願いたいな。
夕日を背に映える――私の主演男優と女優の笑顔。
また逢いましょう――この至福の空間で。
関係は永遠に続く――集う未来へ祝福を。
陽は夜の海へ眠りにつく――
足取りは軽い。夢を視ているかのようで。
美しい星々と、輝く月には何も映さない。
帰り道ないつも、心が夜闇で泳いでいたんだって――
24/05/22 修正