不知火恋縫はペロォ人間である
不知火恋縫はペロォ人間である――――。
ドロスィア(量産機)と人間のハイブリッド、
時代が生んだ超新世紀美少女――……
などではなく、一度量産機に喰われた少女が
量産機に見初められてどっちつかずの存在になった例外の華。
「……わうー、ソラ先輩には困るのです」
「ぱうう?」
自宅では何故かゴスロリで過ごす恋縫。
スケッチブックを抱えて困り顔模様。
足元にはペロがゴロゴロ腹をみせながら転げている。
一見、和やかな日常なのだが某王子が見たら昏倒しそうな二者だ。
『そだ。恋縫ちゃん、変身ポーズと掛け声付けようぜ!それなら!』
王子に許されて数日後の蒼穹の台詞である。
「……自分の意思で変身って難しいのです……」
あの台詞を反芻する恋縫は、話をイチから思い出す。
事は単純で。ほんとうに〈ペロォ人間〉になってしまったのか、
蒼穹の興味本位で実験であった。
「えとえと。今までは、なんというかペロの意識が強かったらしく……」
「そうなの?ほわっと獣犬になってた?えっと、怪人に洗脳されてた感じ?」
「それちょっとよくわかりませんが……酔っ払って記憶ないとかの方面で」
「あぁ~、ウチのおとぅがたまに酔って全裸で徘徊するアレかぁ」
「あ、ははは、はは(……怖い話を聴いた)」
認識阻害の暗示が万人にかかっているとはいえ、天威の民の血が濃い
人間には見えてしまう可能性もあって街はずれの雑木林の広場で
こっそり実験することにした。
(今までも見える人には見えてたんじゃ、とかは秘密なのです)
「―ーでは、やってみます。えぇと……ペロ、出来る?」
「ぱう?」
生唾ごっくん。いざやれ、と言われると……
「ふん。えい。ほい。ちょっと。あれ?」
「んんん?」
「うぅ……あ、あれ?なんか、こう……うまくいかない……あれれ」
ペロもきょとんとしている。この無垢な顔に罪は無いのだけど。
某バトル漫画の様に気を溜める様にすごむ恋縫。しかし
わちゃわちゃしてるだけでいっこうに変化がない。
「むー、これはあたし的にすっごく可愛いだけだ――それは俺得。
あらま。なんだろ、きっかけみたいなのが必要なのかな」
それから数十分もうんうん唸るも、
ペロが小首をかしげるだけで何も起きない。
(これは……あたしが悶え死にそうだ、――可愛すぎて!)
「待って。これでは死ぬ(あたしの萌え心が)……な訳で、
様式美をすればいいんじゃないかな?」
「ようしきび……ですか?」
「そう、こういうのは踏ん切りだよ!
出来る様になるんじゃなく定番のをして身も心も成りきるんよ」
「その心は……?」
「変身ポーズよ!掛け声よ!」
それが冒頭の台詞である。ソラの鶴の一声である。
変身ポーズと掛け声を決めれば出来るのでは、という(安易な発案)だった。
そして付け加えたのが、
『どうせなら、変身衣装を考えよ!」という余計な提案である。
(マジもんの変身魔法少女になろう!)という無茶ブリである。
「ちょ、衣装どこから出すんです!?」そう喰ってかかった恋縫に、
ペロに目を向け這いつくばるソラ。
「ペロちゃ~ん、キミ、恋縫ちゃんのヘアバンドに化けられるんなら
衣装くらい着せて背中に乗せるくらいの芸当も出来るよね?」
「ぱ、ぱぅううぅう???」
圧を加える蒼穹。
量産機に笑顔ですごむ我らが量産系少女。
つい先日まで街を舞台に盛大にバトりまくってたとか完全に忘れてます。
「できるよね~よね~、量産機なんでもアリだもんねぇ」
(間違いない、この人。先日の恋縫の説教、あんまり効いてない……)
悪ノリなのか素なのか。
量産系少女の恐ろしさの片鱗を知った恋縫であった。
――と言う訳で『明日までに衣装考えてきて、絵、めっさ巧いもんね』
という、さらに無茶をブリブリる模型部部長。
「墓穴を掘ったのです……あぁ望まれたら断れない……」
なまじ皆の前で絵の巧さをみせてしまっては。
自分で自分を可愛らしく着飾るという、なかなかの難題。
知った仲の友人しか居なかった恋縫には、他者からどう見られているか
素の感想とか伺ったこともない。
「ま、こんなの着てる時点で恋縫も恋縫ですが……」
ゴスロリである。フリフリである。
これは、母のプレゼントである。先日の和解で気をよくした母が
『あたしね、前からね、こここんなの着せたかったの!ふふ』
という満面の笑顔で寄越した産物である。
(お母さん、すっかりキャラ変わってない……?)
一度娘を失ったかもしれない絶望と自己嫌悪に加え、
激しく落ち込んで反省して、生まれ変わった母は
どうにもデレ母になっていた。
食事も凝った料理に挑戦するようになり、家庭菜園も倍に増えた。
「……いっか。恋縫、ムリキュア大好きだし、あんな感じでまとめるのです」
〈二人じゃムリキュア〉という日曜朝のバトル変身魔法少女である。
十五年も続いてる。恋縫も幼少期からずっとファンで描いてて、
(衣装デザインもすっとこ頭に入ってるので)そらで描けるくらいになった。
「ふふ、”そらで描ける”でソラ先輩に見せるとか」
恋縫が絵が上達したのはムリキュアを模写し始めた頃からなのである。
「……でも自分が変身するとか……」想像がつかない。
なんというか、顔も体型も丸っこいのが結構にコンプレックスな
恋縫には(太ってみえないかな)という方向にしか意識が働いてない。
「ぱう、ぱうう」「ごめんね、ペロ。妙なこと突き合わせちゃって」
「ぱうぅうん?」
すっかり愛犬のそれであるが、何だかそれでも家族が増えた気がして
恋縫には善き話し相手になっていたのである。
この子と一緒に闘っていく、そう思えば一心同体の戦友でもある。
「あ、そっか……その要素入れれば」気付く恋縫。
とりあえずモチーフが決まれば描くのは早い。
絵描きはアイデアとやる気なのである。評価される事もステータスだが、
なにより描きたい!という意思で突っ走るものなのである。
「よっし、こんなんで」
次の日。
「やっふー。恋縫ちゃん、出来た?」
「はい、マジもんに可愛いの出来ました」
「おぉ?おおー、そっかーどれどれー?恋縫ちゃんガチ上手いから大期待」
「ふふー。恋縫も頑張れば出来るのです♪」
むふー、という恋縫には珍しい踏ん反り返り。
ソラなので〈ちょっと無茶ブリしすぎたかな〉とか気づかいはなく、
遠慮せずスケブを受け取る。
「さて、どんなんかなーかなー。めっちゃマジプリテ……ィ……」
「――どうです?ちょっとダイタンな感じにまとめてみたのです!」
学園の中庭。
恋縫の自信たっぷりの完成報告に、部活の時間まで待てずに
スケブお披露目会となった訳なのだが……。
「お、なんだ――ソラ、恋縫。なに見てんだ?」
「あ、りゅーちゃん」
いいタイミングで登場の竜地。何か硬直するソラを後から覗きこむ。
「――ん?なんだこれ。ご当地ゆるキャラか?」
「はぇ!?なにって恋縫がデザインした魔法少女衣装だよ!」
「変身……?ムリキュアとかいうアレか……これ、違うだろ」
「な、ななな。りゅーちゃんは魔少女オンチだから、
えらい人にはわからんのです」
「そゆモンかぁ?……なんというか、人気でなさそうなゆるキャ……」
「しゃらっぷ、だよ!(黙れ=Shut up)」
「恋縫ちゃん……すこし、頭ひやそっか……」
「なんでぇ!?」
そこに描かれていたのは……
獣犬を半端にリアルにしたまま二足歩行で着ぐるみにした――うえに、
ゴスロリ衣装を着せてあるという――……反応に困る代物だった。
「あー……恋縫。おまえ昔っから可愛いの基準おかしかったもんな」
「そ、そそそんな事ないもん!りゅーちゃんがヘンなだけだもん!」
「恋縫ちゃん……恋縫ちゃんは素が一番かわいいよ」
「がってん委細承知」頷き合う。
「なー!もー!なんでそこで息が合うのお二方~」
「ぱううぅぅ」「なんだいまの声」「あばばば!!」
こうして、変身衣装はしばらく保留で、素のままの変身となったのだった。
「あ、でもさ。変!身!で腰のベルトに風をあてて……」
「ぱうう~ぱうう~(ペロの声真似で首をふる恋縫)」
ちゃんちゃん
挿絵描いてて間が空きましたw