第十二章「天空のキミと――主人公系カノジョと」
リヒトはあたしをお姫様だっこすると(恥ずい)、一直線にフィエーニクスへ
舞い戻る。今度はフィエーニクスが手を差し伸べてくれた。
その大きな手を、あたしの小さな手が歓迎した――まばゆい光の祝福。
操舵空間にいざ舞い戻ると……予想外の光景が広がっていた。
「わ、綺麗!」
抜ける様な青空。雲が入道雲になっている……なんか絵画な青空。
「――操舵空間が真っ青な青空……すっごい気持ちのいい蒼―――!」
「これは驚いた。よくわからんが、気分で変わるのかもな」
「いいねー気分は爽快!行きそうかい!」
「いけるか?」「うん、何か刺されたお腹。ほとんど治ちゃったみたい」
「凄いもんだ。では、我がわがまま妹をほどきにかかるぞ!」
「よしきた!ほどいて、手名付け、帰してみせらい!」
フィエーニクスが稼動する。
「うっわ、なんか軽い」「ム、なんというか、やる気十分な気の高揚だな」
白き城。王の城。王を称える親民の声が聞こえてきそうで。
黄金の翼は四枚羽、それが四方に大きく羽ばたいて、
まるで自分がラスボスのよう光景に大空に舞う。
完全体のフィエーニクスは何だか、無敵すぎて失神しそう(それじゃ困る)
再びシュライクの元に戻ると、彼女は未だツノの上にて静止していた。
『ァアアゥ……アァ……』苦悶の表情のアイレちゃん。
「なんか、様子おかしいよ?」
「ドロスィアに侵された者が起こる恐慌状態だな」
どうにもそうらしい。正気じゃない。さっきは人語を喋ってはいたのに。
内側の暴虐な何かが暴れ狂って止まらないって感じだ。
ガギャン!
シュライクの形態が歪む。ガクガクと各関節が蠢きはじめた。
「……変形しだした!?」
「シュライクの人型形態だな……しかし、」
「デザインが凶悪になっていってない?」
「あぁ、ドロスィア達に改悪されてるな……汚染というか」
「変形大好きだけど、こりゃ優美さがないね、修正しなきゃ」
「だな。優美のない造形はカエルムにあらず!」
「そこはちょい同意って、わ!」言う間もなく襲い来るシュライク。
何だか先程には無かった武器をもって斬りかかってきた。
「手にヤリ持ってんじゃん!」
「インペリアルラスターを手持ち武器に顕現してきたか!」
「こっちも何か、恰好いい武器欲しい!」
「よし、我が至宝の剣、顕現せよ……!」
ばっと王子は手を差し出し剣をとるポーズをとる。
この操舵空間での挙動が反映されるんだけど
全裸のままなのは何とかしてほしい(切実)
……しかし、
「――……」無言。静寂……何も出ないんですが……。
シュバ!!「うあ!ヤリ早い!!」惚けてる間にヤリの猛襲だ。何というエグい。
「出ないじゃん!」「出ないな!」
「……寝起きで調子悪い系?」
「そう、なのか?……まだ本調子ではないのか」
「さっき松葉ブレイドってゆーの作ったんで、そっちにしとく?」
「クソかっこわるい名だが、それにしとく!」
勢いでイメージしたヤツだけど、いまはコレがベストか。
ジャギン!早速のイメージ現出。
「あ、あたしがイメージしたよかまーた派手じゃん!」「優美で華麗と言えい!」
ガギィィン!早速活用!早速解決……といきたいけど、
「ぬうう、俺は剣術は――そこそこだ」
「あ、大丈夫。あたし少しだけ剣道やってた」
これも、おとぅの提案だった。何だか適格だなぁ。習ったの中学で腕前は程ほど。
「ヤリを捌く剣道なんて……知らない、けど!っと」
「ほお、いけるヤツか!」
「打突をするタイプなら、竹刀を絡めて、こう!」
ガッシイイン!剣道ならそのまま頭部へ一本!となる捌きだ。
「おとぅの指南がちょっとあってね。おとぅ、中学は剣道部だったの」
「ほう、あの親父御の由来……なるほど、な!」
一回会っただけなのに何がなるほどなんだ。まぁ今はシュライク集中。
竹刀と実刀では重さとか技術が違うのでそのままでは役に立たないとかって話だけど
無い技術だけで立ち向かう無策よか――マシ!
ヤリ対剣(松葉)の攻防。ファウとファウがぶつかると凄い音響がする。
『ァアアアアゥウウアアウアア!!!!』
向こうはかなりがむしゃらに攻撃してるのに何とも拮抗してるという微妙な塩梅。
松葉ブレイドは横からもエナジーを発生してるため、
いざという時は横で受け止めて、盾にもなっている(王子のアレンジのおかげだ)
「よ!ほ!剣道なめんな!」
追い詰める。追い詰めてきた。しょせんはお姫様&機械体。
「庶民の技をなめちゃあ……イケない!」「責めるぞ!」
ガァン!ギィィン!!しばらくの攻防戦。
あっちはエネルギー収束させた奴を突き出すだけだから技を伴ってない。
”柔よく剛を制す”じゃないけど、少しでも手ほどきを受けたあたしの技が上回る。
後退してゆくシュライク。空中だけどね。壁際だったら勝ってた。
『……ギゥ……!』
シュライクはたまらず大きく間を取る。表情など無いのにぐぬぬ、って感じだ。
しばしの逡巡。顔は見えないけど、睨んでるのは伝わってくる。
そして振り返り、飛行モードで飛び去る。
「逃げた……?」「む!?」
そのまま高速に、フィエーニクスを中心に上下に回転する旋回運動だ。
「またしても特攻モードかな?」
「マンネリが通用するまで知能が下がってるとは思いたくはないが……」
すると変化が現れた。
ビュシュワ!「うわ!?」「なんだ?」何かが飛んできた。鋭利な破片な様な……。
もう一撃、二撃。三撃目で足に刺さる!
「痛ぁ!?なに?矢羽飛ばしてる?」
「く?そんな機能なぞ無いはずが……!」
ジャ!!ジュワシャ!!
羽は矢継ぎ早に射出される。どんだけストックあるんだ。
「ペロちゃんみたいにアレンジしてるのかな!?」
シュライクの翼は、確かに大きな鷲とかタカのツバサの様なデザインだけど、
パーツが分離する様には見えなかった。
「ドロスィアに融合されて、そこまで形質変化したのか……無粋な!」
「やっぱ勝手なアレンジ?」「そうだ!センスの無いアレンジは下劣!」
アレンジって言えばこちらもそうだけど、
思想の無い改造プラモほどゲンナリするものは無い。アレは頂けない。
しかし、こうなると厄介だ。
向こうは基本、飛行特化型だ。それにもう、本能で闘ってる風でもある。
「隙を見て特攻してくるパターンかな」
「だろうな。ここで奴のスピードに追随しても……どうなるか」
「飛び道具が欲しいなぁ……〈ファンウェル〉みたいなの」
「何だそれは?」「念波で小型ビーム砲飛ばして迎撃するヴァンダム定番の奴」
あれ、敵にやられるとめっちゃ嫌なんだけど。
「今度映像みせてくれ、採用できるかも」「マジで?学習つおい」
とは言え、現状は在る手で対抗せねば。
「特攻には……やっぱカウンター、かな」「だな」
そう思うと、早くもその機会は早くも訪れた。
「上……やや後方死角から矢羽撃ちながら特攻!?」
「ふむ……ギリギリまで翻弄されてるフリで機会を待つ」
またしても同じ手だけど知性が無くて、威力だけデカいんだから的確だ。
上空。ちょいと見えにくい角度、こっちの後頭部をえぐる感じで迫るモズ子。
『グォオオォォオゥアアアアァァア!!!』
下品な叫びだな。あれがアイレちゃんの本性とか思いたくない。
アイレちゃんの意思があるのかさぇも、もう解らないけど、
そろそろ幕引きだ、
叩きのめして……勝って――――帰る!