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それは蒼穹より量産型少女とガラクタ王子とロボットと  作者: 秋天
第五話「大空のソラとリヒト」
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第十章「彼女と――彼女と」

動きが止まる。

何を言っているのか?という意思だろう。暫しの逡巡しゅんじゅんのあと、

シュライクのツノに、アイレが再び浮かびあがる。

『―――――――…………』

銀色の相貌そうぼう。完成品フィギュアみたいな銀の彫像。

でも、その表情は……いぶかしみと困惑――――どうみたらいいのか。

『ホントニ……?』

(……! お……これは?)

これは……無難にいけてしまう……のか?

相手は中学生くらいの少女だ。誰かに甘えていたい時期なんだろうって。

「うん……そ。あたし出来るっぽい」『出来ル……?』

「うん。じゃ……そっち、行くね」

フィエー君を緩やかに下降させ、シュライクに横付けする感じに併行へいこうさせる。

胸のトコが丁度とんがっている感じなので、向こうのツノと、こっちのを接岸(?)させる。

すとん―――あたしはツノに立つ。ゆっくりと歩み出す――ちょっと緊張。

かなりの高度なんだけど、どうもフィエー君、なにかの力が体表面を対流してる

っぽく、あたしも息苦しいとか風で飛ばれるっていう感じがない。便利だ。


「……夜風、気持ちいいね」アイレちゃんは無言。

「あれ?そうでもない?……気持ちが落ち着くの、空眺めたり……、

名前がソラだけに、ね」なんてね?と少しおどけてみる。

何かで読んだ。子供と話す時、ちゃんと会話したい時は目線を合わせてって。

「このフィエーニクスってアゥエスさ。何か浄化の力があるって」

目をぱちくりなアイレ。お願い、もっと聴いて……!

「だから今からこの子に頼んで何とかそう浄化にもってくから……信じてくれる?」

『………………』

やはり全身、銀色の被膜に覆われてる彼女では気配も感情も読みにくい。

「さぁ、あたしに身をゆだねて……ね?」

『…………』無言の彼女へ向けて、あたしは両手を広げる。

一歩、また一歩。歩みを詰める。

撫でたい野良猫に逃げられないよう近寄る、そんな感覚にも似た緊張感。

それはふざけすぎか。とにかくこの子は気まぐれな猫を思わす。

「ね?」やっと彼女を抱きしめられた。(――よし、ここから)

ペロちゃん時と同じ要領だ。心をつなげる感覚で……あたしが導いてゆく揺らめき。

アイレちゃんは、幽かに微笑んで……そして。


ザシュ!!


腹を貫かれた。ツノの表面からまたしても刃が現出。ひとつ、また一つ。

あたしの内臓をえぐってゆく。


『アハハハー―……バカダァァァ、コノ人ヲォォ!』

「……ッ……だと、思ったよ……アイレちゃんと直接話したかったんだ」

五月蠅ウルサイナァ!』

ガシュ!ズギャウ!!ガギャガグ!

十本、二十本の銀の刃があたしを串刺しにしてゆく。

それが積み重ね、束ねり、ついには現代アートの様なオブジェと化してゆく。


『キャッハハハハハハ!!本物ノォォ!モズノ速贄はやにえェェェエ!!!』

狂い笑うアイレ。

兄を失った彼女の暴走が量産機ドロスィアたちの意識で倍化しているんだろう。

つくづくおかしな状況だ。人でなかったものに人が侵されてゆくその狂気。

この状態じゃ、

カエルムって国に関わるモノは皆憎しみの対象でしかないのかもしれない。


でも、

「……あたし……にはね、お兄さんみたいな……人がいて、

 ついさっき……死んでた事を認めた……んだ」

『キャハ…………エ?』

アイレの狂笑が止む。あたしは語りを続ける。

「好きで……大好きで、あたしの世界の主人公だった人、でも……事故で死んだの。」

「死んでたの……、一年も前に……だから、だからさ」瞳を離さない。

「主人公がいなくなった後のあたしって――何が残るんだろって思ったの」

あたしは手を広げる。

「リヒトが居るってわかったの……あいつは突然現れて、勝手気ままして、

 ワガママとグータラで……あたしの生活めちゃめちゃにして……でも」

両手を胸のまえに、抱きしめる様に。

『…………っ』

『バカだよね……王子と名乗ってるけど証拠なんてない……ただ、偉そうなだけ」

「でも、いつしか……ただの男の子と変わらないって気付いて、少し歩み寄って」


「なんだか……ふつうに……好きになってた……みたいなの……――――

 いまさっき、気付いたんだ……」


『………………ッ!』

「その好きが、愛情なのか、好感なのかまだ分かんないんだけどね……でも」

あたしはニッコリと泣き、さめざめと笑う。

自分がおかしくて……泣いても帰ってこないのわかってるのに……。

あいつが笑っている顔ばかり思い出して、一緒に笑えるんだもん。

「だからさ……」

あたしは腹の刃に手を触れる「(フィエー君、力を貸して)」そう祈ると

バリィィッンっと砕ける無数の刃。

フィエー君リンクで微回復はしてたけど、今のILの能力に上乗せしてもっと

回復率が上がってると期待する。――とても痛いんだけどね。


だからこう、気合いと無茶な辛抱で何だか出来るって思ってた。

女同士てのはやっぱ話さないと解らないもの、ね。タイマン勝負だから。

でも出血がちょっと酷いな……無茶しすぎたか。いててて。


『……ヒィ……!』

あたしは歩み寄る。ふたたび辿りつく。

白い夏服のシャツは赤く染まり、したたり落ちるは生命の赤。

「……あいつ、死んじゃった……あたしの……もう一人の《主人公》が……」

手を伸ばす。

届いて、あいつの分まで。

「だからせめてさ……妹さん、貴女だけでも……お家に帰さなきゃ……ね?」

『……ァ……ゥア……ァ』

抱きしめる。抱き留める。

詳しいやり方なんて知らない、フェデルガ何とかって名称出てこない。

でも心を……繋がなきゃ……終われない。

光が。

光りがまた、包み込む――――お願い……届いて――――!

閃光の中に、アイレちゃんが見える。生前の……いや、まだ生きてる。

彼女は量産機にまだ全部染まってない……ハズだ!


『アアァァァァァ!!!!』

苦しんでる……ペロちゃんみたいなのも居る。でもここは退場して貰う!

『……ゥゥ、アア、ッアァアアァア!!!!!!』

「そう……貴女の意思は……貴女だけのもの……吐き出していい……」

『アッ……アアゥウ……ア……アウウァァァア!』

「闘って!……貴女だけの、貴女の心を取り戻して!」

「アイレノォ……ァゥアアゥ……!?」



だけど……やはり、

そうそう同じ様にいかないってのも……思い知ってしまったんだ。

『ヤァッァアアーッ!!』

ズバアアァアアアァ!!苦し紛れの彼女の髪が狂い咲き、辺りを殴打しだして……、

ザギュ!「あぁッ……!」あたしの身体を直撃したのだった……!


バァァァ……ッ!

まともにくらって、投げ出されるあたし――眩む情景。回転する闇夜そらの星々。

足場は遥か彼方の地表。

空を舞う……それは高度千メートル以上。

あたしはそのまま落下していったのだった。



ゴオオオオオオオ。つんざく風切り音。

(……は……これは、参ったな……)

足場がギリギリだったのもあるけど……避けれる体力も無かった。

堕ちてゆく。

あたしを支えるものは何も無かった。

スカイダイビングで、落下速度は時速200kmは超えるとか聴いた気もする。

…主人公だって名乗った少女が……もう一人の主人公を死なせて、

女の子一人も救えず転落死オワリ……。


(すっごい半端な死に方……やっぱあたしは未完成な主人公だったか……)


今さら、自虐してもね。何を冷静に振り返ってんだろって……。

ごめんね。おとぅ、朋輝、結菜さん……みんな……

これで蒼穹が主人公のお話は一巻の終わり。

「やれる事はやったよ……でも、主人公にはなれなくてさ。

 リヒト……今からそっち行くね――――」

事故で突然死んじゃう人って、自分が死ぬなんて覚悟も余地もないで……。

それがあたしの番になっただけ。

何だか燃え尽き症候群だ。やるだけやったよね、って。

(…………あたし、がんばったよね…………)

あたしは孤独な流れ星となって堕ちていった。


願わくば彼女が……アイレちゃんが悪い悪夢ユメから解放されますように――――




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