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第五節「ソラとわんこと幼馴染と」

「あ、名前、改めて。白戌しらいぬ 恋縫こいぬって言います」

「あたしは……」

汪鳥おうとり 蒼穹そら先輩、でしたよね」

「え?うん。よろしくね。名前、覚えててくれたんだ?」

「はいはい~♪わふふ」

わんこの耳を思わせる不思議な黒髪ツインテール。

背は150cm代だろう。美人さんだけど、

どっちかていうと庶民的に可愛い系。小型犬を思わせる愛らしさ。

おでこが可愛く、くりっとした丸い瞳。妹に欲しいくらい。

バスの中。後部座席であたしと恋縫ちゃんが模型部に興味もった

いきさつを伺っていた。

高校は東の果てにあり、距離があるのでバス通学だ。


「わう。興味のきっかけですかぁ。なんて言うか、ですねぇ……」

その瞬間だけ――ふっと彼女の笑みが消えた。

「――もっと先の、違う自分になりたいんです」

「ん?」

とつぜんの詩的な告白。

「違う、自分?」

「はい!」

快活そうな返事だけど、笑顔が不思議な色にゆらめく。

「模型で?」

「ですです。食べて寝てってだけじゃなく、何かを作りだすっ子です」

高校デビューの、彼女なりのスローガンなのだろうか。

「まぁ、模型素材でいちから作りだす〈フルスクラッチ〉も模型だしね」

「そうです。そんな感じ……え、そんなのあるんですか」

「うん、無いものを部品集めて制作するのがフルスクラッチ。

〈スケールモデル〉って実在した戦車とかの模型をより

 精細に作りこむって子も多い。

 ウチの部は〈ヴァンプラ〉ってロボット模型多いけどね。

 ちなみに私が部長。へへ」

「ロボット……」

「うん。”ヴァンダム”ってアニメのプラモ。

 四十年前から続いてるロボットアニメでね。

 父親の影響でまんまとハマって

 あたしってほんっと女の子らしさゼロなのさ」

「……へえ」


〈機動兵器ヴァンダム〉は四十年来、国民的人気のロボットアニメ。

あたし達の世代でも普通に有名だった。派生作品が未だに創られている。

「私は量産型って脇役のメカ大好きでさ、

 それがガキィーンて輝く様なのばっか作ってんの」

「脇役……量産型が輝く……」

「お、目の色変わったね。私は自称〈量産型系部長〉な訳よ」

そしてあたしは《量産系女子》ね!がっははは!」

「…………量産……(そ…れ…」

何だろ。

恋縫ちゃんはうつむいて、何かボソボソ言ってる……。

そして何かを意を決したのか、


「……いいですね!それいいですっ!輝きたい」


ぱぁっとオデコと一緒に光る恋縫ちゃん。眼前に迫るとさらにさらに。

「お、おお?量産型にシンパシー感じてくれた?……おお」

何が好かったんだろう。

確かにこの子はメインヒロインより傍らで輝くタイプに見える。

むーん、あたしの同類判定で……おけ?


「量産型ってある意味<影の主役>ですよね!」

「うん!そう、その通り!わかってるね~!

あれだよ、量産型あってのヴァンダム、魂の主役だね!

はは~恋縫ちゃんって呼んでいい?見込みあるよ貴女!」

「そですか!わふふ、私も量産型☆ですかね。恋縫と呼んで下さい!」

はははーと笑いあう女子高生が二人。

量産型談義をバス内で続ける。奇異の目で見られてたに違いない。

後で思えば、とんでもない事言ってたんだけど、この時のあたしは

まるで気が付かなかった。



さてはて部員の事とか解説してるともう学校前だ。

コレは脈あり、なのかな。

「じゃ、ソラ先輩!放課後、部室紹介して下さいね!」

バスは高校の付近に到着。ぺこり一礼。

恋縫ちゃんはパタパタと昇降口へ去っていったのだった。

「はぁはぁ可愛いぜぇ……欲しい……あたしのモノにおなりやぁ

いやいや、ぶ、部員としてだよ!」


恋縫ちゃんの可愛いお尻とか制服姿が天使でしかない。

その日、授業もそっちのけで興奮して上の空。

あたし女だけど、あの天使に発情しないメスはいないって!

(……ここらへん。後で物凄く後悔しました。はい、すみません)


さて、興奮冷めやらぬまま放課後を迎えてしまった。

一人でハァハァしてる部長が学校でこんなんでいいのか……。

いや、いいのだ……むしろ学校に住みたいのだ。

だって……家に帰るのもう嫌だよ(ロボに王子に犬ロボって)




??「……おっめぇ……一人でどうした?こっえーなぁ」


「……うっわ!あたしの妄想ドリームに入門するなよ竜地!」

「――入門って……したくねぇよ。なんだ、なに発情してんだソラ」

「か、可愛い子を勧誘できそうって脳内シミュレーションだよ」

「はぁ……まともに勧誘しろよ?部長が出禁くらうぞ、その調子じゃ」


のっそり現れる巨躯。

一昔前のヤンキーのような相貌。怖い三白眼。

つんつん頭で……これもウルフヘアとも言うのだろうか。

我が模型部の一員にして異性の友人たる、迦土竜地かづちりゅうじ

中学の頃から腐れ縁で高校も同じで、普通に異性の友人だ。

あたしに妙な世話焼くオカンな面もある。

その癖、ガラが悪く低い声。

よって不良味があって怖がられるが、根は普通にいい奴だ、

けれども、

”彼氏さんと仲いいね”~とか”結婚式はいつ~?”とか揶揄されるんだ。

……いやいや友人だよ普通に(強調)……竜地の気持ち考えないとさ。

こいつはあたしを妹か従姉妹くらいにしかみてないって。

(うん。見てれば解る。確信。きっと同じな気持ち)


「なんだぁ?ま、まじまじ俺の顔みんなよっ」

「えーいやいやぁ、同じ気持ちだよね?ってさ」

「な、何だよっ……え、あ……ついに、マジ?」

「んー??……」

きょとんと、あたし笑顔で首をかしげる。


すると妙に顔を紅くして竜地はせわしく踵を返した。

「は、うひひ。や、やる気出たぜ。これからの青春に精が出るってもんだ!」

「ん?はい?そだね、がんばってな青春~」

青春?そこは勧誘じゃないの?あたしの言葉が届いたか不明だけど、

ただでさえヤンキー顔の竜地が色気づくとちょい迫力あるね。

上機嫌で竜地は去っていったのだった。



さて、模型部のドアをくぐる。

まだ部員は少ないので部室(教室)は人がまばらだ。


「……またイチャコラしたのか……小生以外の男と……」

「いや……夜鳩さん。腐れ縁だし、貴女は女子だし」

腰より長く伸びた髪をなびかせ眼鏡が光る。

女子にしては背が高く、スレンダーで巨乳で眼鏡美人が現れる。


「そうだった。つい自分が人類の女子であることを忘れてしまう……」

「その定番ギャグ好きよね……副部長さん」

「はっはっは。して、なにかあったのかね、愛しのソラ部長」

我が模型部・副部長、夜鳩が待っていた。

その日の活動の指示を部員たちにして、あたしは改めて

夜鳩に雑談と――相談を持ち掛けてみた。


「――ほう。そうか、可愛い犬耳女子の子が入部希望とな、

それは幸先いいさね」

さりとて――

恋縫ちゃんは結局、その日、部室には現れなかった。

新一年生、いろいろあるのだろう。

クラスを聞きそびれてたし、また明日逢えればでもいいかな。

旧校舎にある模型部。

古いこちらの棟はまだ健在なので、模型部にも教室が使えた。

年季が入りすぎててカビやらプラモ溶剤が混じった香りが独特だ。


「それがねー可愛いんだわ。うちにもマスコット可愛い部員ほしい」

「……そうかい?小生にはソラもマスコットぞ」

「夜鳩~毎回そのイジリ、たまに本気に想えて怖いんだけど……」

「ふぁふぁふぁ、小生は謎多き女。奇怪で機械で奇々怪々」


彼女はあたし以外にはこういうコントな返しはしないらしい。

この時のあたしにはさっぱり気付かなかったけれど。

さすが幼馴染だけあって、あたしの奇妙奇天烈な問いとかにも

一応の見解を示してくれるのが嬉しい処だ。


よって、ここ一番の奇怪な問いを投げかけてしまった。

「……えっとさ。突然だけど奇天烈な質問。……何てか、ほら、

異世界転生モノあるじゃん?ラノベとかの」

「ソラはロボもの小説は読むが、そういうの読まないな」

「はは、そうね。ロボ馬鹿だから。でさ、それの真逆――

現実に異世界なモノが現れたら……どうしたらいいのかなって」

「ほう、それは奇天烈さね。ふ、いいさ。で、具体的には?」

「たとえばヴァンダムが我が家に現れて――とか」

「……おや、そこは量産型ではなく?」

「うん、悔しいけど主役機が来ちゃうサプライズ」

「ふ。ソラの質問なら見解を述べねばな」


留毬とどまり 夜鳩よばと――。

黒緑色のストレートな長い髪。大人びた容姿。古風な言い回し。

彼女もあたしとは別の「量産型な」眼鏡キャラ。

幼馴染・兼、アドバイザーだ。


「やたー夜鳩はアホ話でも付き合ってくれるから好きー」

「おぉ。はふ、ふふ、小生ますます人間がんばるさ……おふふ」

何かたまに興奮スイッチ入るんだけど目付き危ういんよ……気のせいか。


「ヴァンダムか――ならまずは」

「うん、まずは?」

「材質を確かめる」

「触ってみたくなるね」

「誰が乗ってるか確認めてみる」

「みるね」

「あと舐める」

「舐めるね――え?舐め!?」

コクリ。

舌を出して頷く幼馴染。なぜか絵になるクール女子。

「舐めるとね、嘘ついてるかどーか判るって何かで読んだ」

「……それ漫画知識なんじゃ……」

「もしくは世界を革命するやもしれぬ」

「たぶんだけど、判る世代が限られる返し方してないっ!?」

本の虫なので小説からライトノベル、ウンチク本とたしなむ彼女。

小・中・高と、何故かクラスがずっと一緒という相談役。

彼女はいつも当たり前に横にいた――母親のように。


「ふむ。真面目に答えようか」「……お願いします」

彼女の瞳が引き締まる。

彼女はクールに陽気なのだけど、たまに冷徹というか機械的というか

不思議な静謐さがある。真面目モードに入るのだ。


「ヴァンダムに限らず、ロボットものは少年が主人公になるケースが

多い。まぁ、大人の都合ってやつで」

「それだけに、作品のテーマで少年が大人の世界をロボットに乗って

乗り越えなくてはいけないドラマが常だ。受け手の目線と共に」

「そして必ず使命が来る。『自分が乗らなきゃ』ってなる。

理不尽も流され系も惰性もすべて込みで、それがドラマの核になる」

「そうだね……そこをハラハラしながらロボアクションを込みで

楽しむもんだよね」


そこではた、と気付く。

使命――ロボが現れたなら乗らなくては、という王道。


「使命か……まるでそれじゃ……あたしに乗れって……」

あの白いロボット。謎の王子。敵かもしれない犬ロボ。

「あ、いや。えと、”主人公なら”って事だよね」

まさかあたしもあんなのに乗れって?……いやさすがに。


「ん。ロボアニメの王道に、本当のパイロットが他界して、

偶然に最新鋭機に乗せられそのまま〈主役〉になるのも王道さね」

「そんな迷惑な!あ、いやいや……えっと〈偶然〉じゃなくて

〈必然〉で乗っちゃうもんかな」

「”結果的に必然”、なのだろうね。

 最適格者じゃなくとも”運命に選ばれた主人公”が圧倒的に多い」

「……あたしって〈量産系女子〉だからなぁ。無理そうだ」

「そうでもないさ。〈脇役》=〈量産系女子〉と言いたいんだろけど

 脇役だった者が、主人公に成長するパターンのが多い」

「ハナから成長する主人公という企画じゃないの?」

「だろうね。どっちにせよ、人生は誰しも〈主人公〉さ」

「わ。かっこいい。人生で一度は言ってみたい台詞」

「そうかね?小生には蒼穹ソラも〈かっこ可愛い主人公〉タイプに

しかみえないぞ、フフ」

そう言って、彼女に頬を撫でられた。

「はは、はは……は、”可愛い”は無くてもいーかなぁ」

彼女はよくあたしを撫でる。

愛玩動物を撫でる感じもあるけど……何か”その気”がある感じが

するのは……き、気のせいだよね?


あたしはロボアニメの主人公を物語の舵取り役として観てる場合が多い。

シンクロして観てない訳でもないけど、

どこか達観して観ているのかもしれない。

(自分が主人公だったなら、って考えてもみた事なかったや)


「まぁ『最初から最後までほぼ量産機で闘い抜いた』ロボアニメもあるし」

「あ、ロボットだけ知ってる……どんな主人公だったの?」

「”運命でぜったい死なない”系主人公」

「うっそ」

「燃やしても極寒に放り込んでも死なない」

「ちょ!?チート通りこしてギャグじゃん!」

彼女はプラモに余り興味はない。ただ、ウチの親父のウンチクを聴いて

ロボアニメの歴史とか興味を持ってアニメ・書籍をかなり網羅していた。

部員が少ないので数合わせ……とは言葉が悪いが、在籍してもらっている。


「運命で死ぬまで主人公させられる……あたしにゃムリだ」

「小生の知るソラは出来るさ。部長も主役も、ね」

「買い被りだよ~。ね、夜鳩、やっぱ部長替わらない?」

「ノン。プラモに愛情ありし者がこそ部の主役。小生はそう思うさね」

「そっかー……ちぇ」

部員は少ない。でもプラモ熱強くて適任は誰よ?って結論、任されただけ。

駄目なら夜鳩に替わって貰う約束だった。


「はーぁ……まるで私が主役になれって……まさかねえ」

「何の話?」

「あーいやいや」そこらで部活は終わりの時間になった。



部室の戸締りをし帰り際。幼馴染は最後にふと、こう付け足した。


「運命に選ばれた主人公――それ自体に意味があるテーマが多い。

 ソラが何を見、何を選び、どうするのか?

 物語は〈選択〉の先に浮かび上がるものなのさ」


揶揄にしても。常道としても。

彼女の言葉はどこかあたしに道を示す。

そんな予言めいたアドバイス。

後で思えば――あたしは確かに<選択>を考えてはいたのだった。

(24/05/20)修正

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