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それは蒼穹より量産型少女とガラクタ王子とロボットと  作者: 秋天
第五話「大空のソラとリヒト」
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第八章「散りゆく――あなたへ」

(……!!?)

記憶のシンクロという旅を越え――やっと彼女の現在へ繋がったみたいだ。

心象世界の彼女自身に逢えてなかったのが悔やまれるけど、

操舵空間の彼女に逢うワンチャンスに掛けたい。


しかし――そして。いや、すでに遅すぎた――――……

決定的な状況の異変に、気付けないままでいた自分を呪う。

(……え?なに!?)

何かに引き戻される様なイメージの濁流だくりゅう

(現実世界に戻ってきたみたいだけど……何が……起こったの!?)



空気が変わる。

そこは操舵空間……だけど。

夕日が暮れ終わるような、闇夜の寸前。逢魔おうまが時と言うより、もう夜に近い。

(ぞわぞわする……彼女……シュライクの中だ、たぶん……)


「…………ソラ……おき……ろ……」


ぴちょん。

何かがしたたり落ちる。それは、あたしから?

――違う。目の前に誰かがいて影を落としている……リヒトだ。

あたしを覆う、リヒトの身体からだ。

かばう?そう、そうだ。あたしが正座に近い膝立ちで固まってて、

王子があたしを守って……かばっている形なんだ。

そしてしたたり落ちているのは―――――――……

(血?……なの?)

生体アンドロイドが血を流すの?わからない。でも赤い体液は血としか思えなかった。

見上げるのが怖い……だって……、

だって、操舵空間の地表に映る王子の姿が――《《壊滅的に砕けていたのだから》》。

「……なんで……どうして?」

「あい■……待ってた■いな……」

王子の声も歪んでノイズ混じりな感じが痛々しい。

「意識を……リン■した瞬間から……偽物だと疑■俺を値踏みし■■いたんだ」

「ソラ……よりも■ず俺を図り、や■り信じられな■とさ……めった刺し■され■よ」

「声、おかしいよ?だ、大丈夫なんでしょ?……生体機械ボディなん……だし」

王子が軽く首を振っているように思えた。ほんの、僅かなんだけど。

「ざ■■んだ……が■の■■ではちょっ■げんか■だ……な」

「え?なに……ちょっと!?よく、何言ってるのか聞こえないよ!!?」


王子はあたしを軽く抱きしめた。何となく”愛おしい”様な抱きしめ方……。


「……え……リヒト?」

何だか唐突で――……本編とばしてオチを見てしまってる感じだ。

(あ。あれ――えっと……?)

やだな……これ、あたし恋愛モノの映画で知ってる……。

あんま観ないんだけど何か知ってる――――

誰かが死ぬことで……やだな……目の前で……起きないでよ。


だって、《喪失》は――

あたしの《日常》の対局で……ずっと目を反らしてきたんだから。

まだ、慣れは――しないんだ。


でも……なんかさ。唐突にわかっちゃって来て、すっごいヤなんだけど……。

ぞわぞわって喪失感が背筋を走って……終わる足音。


「ちょ……リヒト……だめだよ」

リヒトとは……相棒なんだ……運命共同体、そうなんだよ……、

「ソ■……ど■やらオ■は■おま■が■■らしい」

「…………え……」

告白らしき言葉と共に、王子の身体が崩れ始める。

パラパラと……さらさらと……。

砂の様に、とはいかないけど……精密機械の粒がほつれて崩れ落ちてる感じだ。

崩れる……?なに?……そんな……どうなって……。


「はは……何なの……やだ……なんでリヒト、こんな時に何の告白してるの……?」


記憶の中で見た、恰好いい兄王としてのリヒト。


ウチに居る時の、だらしない年相応のリヒト。


王子として生きた彼の時間。


あたしと生きた短い時間。



……リヒトにとってあたしって何だったんだろう……。



《運命共同体》はリヒトの言葉だ……あたしの言葉は……?繰り返す問い。

妹さんの記憶を泳ぐ内に少しずつ浮かんだ疑問。

相対的な一個の存在としての鴻 蒼穹。

この三か月、一緒の部屋で駄弁る、仕方なくの同居人としての鴻蒼穹。

原始的な疑問を思い浮かばなかった……”あたしはどう見られていたかなんて”

だって、

空から王子とロボが降ってくるなんて、漫画染みてて笑うだけだったから。

「……じゃな、こ■■でだ。ア■レを■■せた……」


セミは短い寿命を覚悟して散ってゆくのだろうか……?

終わりは誰にも平等で、

無慈悲で、静かで、

いつ終わりが来るのかなんて……考えてもみないんだ。

足元から崩れ、次第に上へと崩壊の波が押し寄せる。止まらない。


何で!!!?何でよ!!!


そんな……”いきなり”が止まってくれないの!!!?

ま、待って!まってよ……!心の準備も……何もないよ。

こんなの、どう処理しろってのよ……!!!?



「……■ラ……生……き……■」



ざぁ。



――――……王子リヒトだったソレは完全に崩れ去った……――――


機械の粒は、操舵空間の水面みなもへ――さざ波と消えた。

ぱらぱらと。さらさらと。砂糖がさっと紅茶に溶ける様に……。

波紋に揺らいで、よどんで、散ってゆく。

「…………うそ……」

そんなの見ても……ちっとも現実的だなんて思えない。

崩れて消える――……なに、それ……そんなの


「ぁ……ああ…………ぅぁ……」

そして咆哮――――――いやだ、とか、駄目だよ、とか。

ずっと――なんだか、何の単語もわからないまま……叫んでたと思う。

自分がなんで叫んでて、何を泣き叫んでいるのかすら訳判らなくなっていた。



あたしは……、一人だけの主人公になったんだって……――


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