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それは蒼穹より量産型少女とガラクタ王子とロボットと  作者: 秋天
第五話「大空のソラとリヒト」
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第七章「・・アイレの世界・・」

ベッドの上にいた。


「――――……これは……」

見回すとそこは、古風な洋室だった。鳩時計らしき針を刻む音がする。

荘厳そうごんな石造りの内壁。流麗りゅうれいな彫刻を施された調度品。

いつしかTVで観た西洋の古城こじょう……そんな感じだ。

天威てんいの国とかもう、未来都市とか天国みたいに思ってたけど、

それほどあたし達の文化との大きな違いはない様に感じた。


「不思議。臭いがする。理科室とかのすえた、カビの臭いがするよ」

何故だかだけど、嗅覚しゅうかくまで感じられた。たぶん、感覚的に感じてるんだろう。

「アイレちゃん記憶の世界?シンクロしてる……」

そう確認したのは何という事もない、姿見すがたみに映るあたしが、


「わ。あたし、アイレちゃんになってる!やっぱ……すっげ可愛い」


ツーテール(ツインテール)の薄桃うすももの髪。華奢きゃしゃな手足。中学生くらいかな?

何よりもリヒトと違う美貌で、これが王女アイレか。

瞳の色は、宝石がはめ込まれたような左右違う色。

「オッドアイなんだ……綺麗」

お姫様として産まれ、王女として生涯を終えることを確約された存在。


「アイレ、もうすぐ誕生日だな」「え?」

振り返ると……礼装なのか普段着なのかわからない程の装具を纏った……、

「リヒト?」

「ん?……あぁ、リヒト呼びは珍しいな」

「あ、いや!違うの……お、オニイチャン……」

やべ。思わず名前呼んじゃった。つか、返事してくれるの?この記憶。

「そう呼ぶのは公務、人前だけだもんな、フ、少しは王女らしく目覚めたかい?」

そういってあたしの頭を撫で始める王子。

「ふあ!……あ、うん。うん……そぉなの……」

アホか。記憶世界でほおけてどうするよ。これじゃ猫か犬だ。

でも頭撫でられるの弱いのにゃ。ま、ましてや、いつもの百倍優しい表情で……。

何という、とろける微笑。甘いテノール。こ、こ、これは高精度のVR空間かよぉ。

あたしには兄や姉がいないので、この感覚が衝撃的だった。



フ、っと情景がゆがむ。

公務、という単語で意識が飛んだのか、

次はステンドグラス張りのまばゆい大広間へ場面が飛んだ――――。

堅牢けんろうかつ、荘厳そうごんな王宮の装い。

王都の兵士、士官、将校、諸々の国民の群れ――。

「これ……お葬式?」

神父らしき老人の祈祷いのりの言葉。黙とうする親民のなげきの波。

断片的な単語を拾い、よくよく聞いてると、

リヒトとアイレの兄王、姉王の何周忌(しゅうき)かを偲ぶ式典の様だ。

「……そっか、訊いてたリヒトのお兄さんお姉さんたちの……」


長男が他界。長女は意識不明の重篤じゅうとく状態。次男次女が行方不明。

三女が王都の行政を主に執り行っており、リヒト、アイレと続く。

「リヒトとアイレちゃん……寂しいんだろなぁ」

隣りのリヒトはずっと手を握ってくれている。

……王として、兄として、人としての感触(ちゃんとしてると王様なんだなぁ)

我が家でダラけてる”《妖怪食っちゃ寝王》”と大違いで――調子が狂う。

リヒトはそんな思いを見透かしたのかの様に、軽くウインクしてくる。

(わ……)アイレちゃんへのウインクだって判ってるのに

公務の礼装もあって百倍に恰好よく見える。こんな表情するんだな……。


(待って待って。リ、リヒトにときめいてどうすんの……いやいや、

 あたしが制服フェチだからだ……そ、そうだぞー、そうに違いない!)


ロボものもそうだけど、軍服、礼服の男性に弱い。

服装一つでなびくなんてチョロイン(チョロいヒロイン)だな思うけど、

素直に王子リヒトの一面を見れた。それに心が動いたのは確かだ。



また。意識が飛んだ。今度は……(わ。フィエーニクスだ)

ハンガーというか整備工廠(こうしょう)に収容されてるフィエーニクスの姿が見える。

工廠の中のフィエー君は派手な翼とかが無い。取り外してるのか何かかな。

(待機状態だと本当にロボものっぽ……いや、お城の一部みたい……あ、リヒト)

フィエーの胸部で何やら作業をしているリヒトを見つけた。

今度はラフで汚れた作業服でメンテナンスしているらしい兄王の姿。

手慣れた手つきでよく分からない器具を片手に調整をしている。


(へえ。作業服も似合うな……じゃないや。この視点って……)

どうも離れた位置から隠れ見ている感じ。向こうから見えないだろう角度。

(アイレちゃん、何でこんな隠れて……あ、まさか)

モワモワした感情を胸中に感じる。兄への恋心……ではなく……。

(……嫉妬しっと?)そこで思い出す王子の言葉。


『フィエーニクスは姉上の機体だからな』


(独占欲……あぁ、そういう事か)

兄姉が逝去せいきょ。身近なのは兄王リヒトだけ。

遥か年上の三女さんは王政の激務で、この記憶世界にもほぼ姿を見なかった。



すると、また映像が飛ぶ。

ベッドの上だ……朝なのか夜なのか。ベッドの上の一人のアイレ視点。

(ん……?…………あれ?)聞こえる……”なまめかしい”アイレちゃんの声……。

(……いやいや、これまさか……)モゾつくシーツ、下方から衣ずれの音。

彼女の口からは同じ相手の名が聞こえる。艶めかしい声がさらに高ぶる。

(……あ!あ、うぁ!い、いけませんよ!こ……これは……いけませんヤツですよ!!)

ひ、人のプライベートを見てはいけないね!

やだなー……あたしまでイケナイ気分になってきた。

(……そっか、そういう対象くらいまでになってしまっていたのか)

何かこう、憎悪を向けてくる理由が解ってしまっていた。

(兄しか見えてない世界で、その兄をたぶらかした野良犬だもんねあたし)

無理もない帰結だった。そしてまた飛ぶ情景。



それは。

それは量産機に乗っ取られた直後。

意識が染毛せんもうされ【■■の意識】が占有せんゆうひしめく悪夢。

只々……感情を飽和ほうわさせるだけの快感の意識。

《兄への想いを抑えなくていいよ》……心だけが拡大し、漏洩ろうえいし、爆発し。

姉の機体を愛してた兄への嫉妬から、

丁度、フィエーニクスを整備してた処を急襲して

そのまま天威の国を飛び出し、我らが地上の世界の領域まで堕ちながらの戦闘。


その流れが断片的に、飛び飛びに映し出されてゆく。

(むごい……彼女のお兄さんへの感情ってそんなもんじゃないだろうに)


そして暗転。そこからは何か映像がぐちゃぐちゃだった。

回復状態で三か月ほど経過していたんだろう。彼女の時間はずっと止まっていたんだ。

あれ?たまに何か《観た様な人影》がみえるけど……気のせいか。


結局、シンクロしたままで彼女自身に相対あいたいする事が出来ず終いだった。

あの子の心が固いのか、拒まれてるのか――……

――――かくして、そのまま彼女の心の旅を追体験し終えたのだった。


果たして、アイレちゃんの心の〈今〉は……あたしにぎょせるものだろうか……。




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