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それは蒼穹より量産型少女とガラクタ王子とロボットと  作者: 秋天
第五話「大空のソラとリヒト」
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第一章「浮上――そして再会」

(※クライマックスなので毎話けっこう長いのですがご了承ください^v^;)

たぎる。みなぎる。

天威のり人たるフィエーニクス。

城と不死鳥をかたどる機体はソラとリヒトで満ち満ちていた。

自らを《主役》と認めたこのみなぎりが猛倍へと膨らむ。

王家のアゥエスを至高の観剣みつるぎへと昇華させているような高揚感こうようかん


「恋縫ちゃん!悪い、助かった……あたしはもう大丈夫!」

「はいっ!……はい!信じてましたッ!」

崩れ落ちる様に落下し、空中で回転、恋縫ちゃんに戻り公園へと降り立った。

(……あたしが馬鹿で、負担かけた……ゴメン!)

「恋縫すまん。感謝だ!」、王子も素直に謝辞しゃじを表した。


グォオアン!フィエーニクスは雄々しく起立する。

先程の猛攻でかなりの破損をこうむっていた……しかし、

ファァアア!!全身が虹緑色の輝きに包まれた。

「なんだと?……よもや、もう回復し始めている?こんな……早く」

「……ほんとだ。フィエー君もやる気十分ってことなのかな」


《吸収》《融合》《再生》の能力がこんなにもフル回転しているなんて。

十全とはいかないものの、以前あたりまでには復帰した。

「ね、しかも元より外装が多くなってない?」

騎士の様な外観が足されて勇壮な感じになってる。

(か、かっこいい……)プラモ馬鹿魂が疼く。

「確かに。どういう事だ?――……これでは、まさか……」

何かに気付く王子。

「リヒト、いい?」「……む?あぁ、ソラ」


夕日を背負って敵を見据える。

赤く燃ゆる大空の、山の頂きに鎮座ます鳥型のアゥエス。

リヒト王子の妹、アイレが敵性体てきせいたいに染まり牙をむかんとしている。


「今から、あなたの妹さんを……止める」

「……そうだな。止める」

リヒトは視線をそらさない。あたしの頭にぽんっと手を置く。

「俺たち二人で、あいつを引き戻すのだ」

「……うん、簡単に殺すって言わないの正解。つか、手ぇ!」

覚悟は定まった。確証はない。だが、出来ないという確証もない。


夕日に映える幻想的な荘厳さ、鳥のようなアゥエス。

ペロォやシミァン型とも違うオーラ。見た目でヤバさが解る。

そりゃフィエー君と相対してる様なもんだから。

ちらりと王子を見る。目線が胡乱うろんげだ。いぶかしんでいるのかもしれない。

(――そっか、死んでたハズが帰ってきちゃったんだし……複雑か)


(あれ?……)一瞬の隙に姿がない……どこにいった?

と、天からの甲高い怪鳥音。グァアアアアウウウウゥゥ!!

「……ッ!?真上ッ!?」

勘で急遽、大きく飛び退いた!

元にいた場所を、急下降してきた鳥の様なシルエットがえぐる。


「……こわ!さっきからアレばっかだ――!」

「あぁ、そもそもが飛行からの急襲が主武器でもある」

その姿は両腕がまさに両翼、高らかに掲げた尾、本当に〈鳥〉だった。

(あ、でも恐竜の時代に居た〈翼竜よくりゅう〉ってのに近いのかも)

「……アゥエス《シュライク》、お前たちの言語ならば百舌モズだ」

動物番組で見たやつだ。

「モズ?エサを木の枝とかに突き刺して後で喰う《モズの早贄はやにえ》ってあれ?」

「らしいな」


急降下したり旋回したり、確実にこちらをにえにしたい気満々な攻撃だ。

「――王子言ってたね、”相手が悪かった”って……そゆこと」

「あぁ、妹の要望でな、大空を元気に飛ぶ感じにって、特化されたのだ」

「妹さん、とにかく元気すぎだ!フィエーニクス、まだ飛べないの?」

「……む」

表情で解る。そんな簡単にいってたらさっきまでのボコボコは無い。

「どーにかしてコアに融合かますしかないって事かな」

「そうしたいが。アゥエス同士の闘い、おまけに飛行敵とは想定してなかったのでな」

「策が無ければ思考するしかない!せめてば妹さんを《アゥエス人間》にさ」

「その名称にツッコミたいが、最善を目指す、よいな?」

またしても急襲をかわす。


「あー武器欲しい!」

恰好いいビーム剣や銃火器というロボもの定番武器がない。

「くっそぉ、かっこよく”二人はアゥエス!”って真打ちになったのにな」

裏山の方に着地するシュライク。

よく見ると足や胴体が破損してるのが見て取れる。結構にボロだ。


「――なんか、回復を飛行に回してたって感じだね」

「俺と相打ちになった破損が深刻だったのだな、

 この三か月動きが無かったのはやはりだ。よく死滅しなかったとはいえ」

「……完全にどかーんって瞬間は見てなかったって事?」

「相打ちだった。操舵空間までやられてまともにな。俺も暫く意識不明だったし」

「ほんっと……瀕死で必死だったって訳ね」


王子を知った今なら少し想像できる。心の強くないリヒトの最後の頼みの綱。

あたしだったら土下座でも悲鳴でもあげている。

(あんな凶悪になった家族が襲ってくる――それじゃあたしだって怖気づくよ)

死んだと思ってたし……自暴自棄にならなかっただけ、王子も強かったんだな。


(――そこで何時までもヘソ曲げてるあたし相手は難儀だったろうなって)

今更だけど、自分って面倒メンドいヤツだなって反省した。ごめんね。


「だが。今は、お前がいる……!」

「はう!?あ、うん……それ、カッコいいね……」不意打ちやめーや。

「電池扱いは無いぞ。お前が大事だ」

「……は。ぅぁ」

素直すぎて、口説き染みててドキっとした。や、やだな、戦闘に集中せな。

今までがひねくれ坊主だったから慣れないよ。こ、これは困る。

いくら自分が〈主人公だー〉と吼えた処で、いきなりヒロインになれるとも

思ってない……想ってないんだ、わかって。


「と、とにかく!うわ!」またしても急降下。回避。えぐいなアレ。

細微で独特の美しいデザイン、敵には回したくはなかった。


「ペロの奴もそうだが、量産機どもにも感情と知性があると知れた。

 本能以外で策を巡らさられると厄介だ……アイレはほぼ絶望だが確実に止めてみせる」

「諦めないで」「ん?」

「諦めないで、妹さんを」あたしは祈る。

「……諦めが悪いのがおとぅ譲りなの、あたし。

 あらゆる手が通じなくなるまで現実を簡単には認めない、

 認識を遅らせる。それ、けっこー重要」

現実を受け止めすぎて、そのショックで逡巡してしまい思考が停止してしまう。

その隙に、一番成さねばならない好機を逃して一気に劣勢になる。

それだけは避けたかった。


「あたしが言うなって話だけどさ」

「まぁ、夢は覚めた。なら現実を見るだけだな」

「……ん。もう目の前の現実を取り逃がさないよ」

言い得てだ、と言いつつ躱す。急降下しつこい!

そして思案する。

「んー対空柔道技なんてあったかなぁ」「ふ、柔道で落とす気だったのかお前」


そういえば生み出すとか何とか言ってた……。

「ねぇ、”生み出す”とかで武器、出来る?」

「む。そうか……先程の回復具合もある……少しは出来るか」「やった!教えて」

王子から解説を受ける。

「あら……すっごい体育会系だね」「ぶっつけ本番は致し方ない」

「よっしゃ!ここはあたし達の主人公補正でカッとばブッチする!……どう?」

「お前らしい言いまわしだが……言葉は力だ、推して参る!」

時代劇モノの台詞の影響だろけど、フィエーニクスが吠える!


「そんでさ、少しやってみたい手を思い付いた」「ほう」

王子に提案する……「なんだと!?そんなモノを武器とするかッ」

「優美さは二の次、実用優先っしょ?」指で”まる”を作ってみせる。

「……だがおまえのその無茶が微笑ましいとか、俺も毒されたな」「へへ」

この三か月、ペロォタイプとの戦闘でアドリブかましまくってたおかげだ。


またしても急上昇からキリモミで落下……ならば!

「「集中!」」二人のイメージがはっきりしてると早い……ハズ。

「出でませ!これが我が至宝のぉ!」王子がまたカッコつけた口上で吠える。

モズのアゥエスが迫る、かなりエグい速度。


こちらも集中!両手の先が輝き、イメージが収束する。

ファウ・ラスター(エネルギー波)を物理としてイメージして形と成す。

結晶化……二人のイメージが明瞭ならば力強い実体と成すのだ。


「出でよ!!必殺ッ『フィエーニクス松葉ぁ!』」

「やめろぉ!!専用武器みたいな言い方ぁ!」


両手に現れたのは王子にあげた、あたし特性の”松葉杖”だった。

ただ、王子の意識が介在してたせいか、妙に優美でカッコイイ松葉杖になってる!

言われなきゃ松葉杖って判らないって言う。それを両脇にかかえ、地に下ろす。


そして……モズアゥエスの正面からの特攻!

フィエー君の頭部をねらう!

「そう、くると……思ったのよッ!」

特攻の瞬間。両手の松葉杖をXの字にクロス(交差)させ盾の様に起立。


ガッィイイン!モズ子(仇名)の頭部を受け止めた!


が、しかし衝突の加圧は凄まじく、そのまま後方へズリズリと後退させられる!

ガガガガガッ!!!

「うっぐぁぁ」「ちょっと……きっつ」

だが、捕えたモノは簡単に離せない!!

「ここからぁぁ、こう!!」クロスさせた下方のすき間から片足を入れ……!

「巴投げるッッ!!」足を軸に後方へ投げる柔道技だ。

モズ子の勢いもあって、かなりの重量で回転が掛かる!

「いや、ま、待って……すご」

「いや、このままで善い!その無防備で叩き伏せる!!うぉおぉお!」

ズガァッァン!アト何とかの大地に叩きつける!


――――はずが、

ぴた、まさにそんな擬音が似合う、吹っ飛ばされた空中での不可思議な制動をみた。

「ぇ!?空中で止まった?」「なんだと!?」


奴はそのまま一直線にこっちに特攻しかけてきた。早い。速すぎる。

「二段ジャンプか何かなのぉぉ?」「駄目だ!避けれん!」

そして頭部の、ツノの様な部分が脇腹に刺さる!!

ギャッグァアア!!

ただでさえ痛そうな鋭利なデザイン、あの大質量と重力加速。

とんでもない《圧》があたしの全身を殴打した。

ドッギャガアァアン!派手な破砕音が木霊こだます。


「ぐぁああ!なに?!?痛い、痛いよッ」

共神感覚きょうしんかんかくか」「何それ!?いったぁあ」


ツノの鋭角な質量があたしの臓器をえぐる感覚。

そう。〈あたしの〉なのだ。フィエー君の身体を貫いているハズなのに、

あたしの身体に知覚・体感される痛覚。

注射の針が何百倍の太さで脇腹をえぐっていると思って欲しい。


「ぐ……あっ……あぁ……今まで、そんなん無かったじゃない!」

「くう、リンクした上に共感性シンクロニシティまで増幅されたのか……!」

信じられん、地上民がそこまでゆくとは、と毒づく王子。


「共神??……あたしどんどん人間辞めてんじゃ!?」

ガン!ドガン!

ひじ打ちで胴体を打撃するも食い込みが深くて抜けないし離れない。

グアン!

モズ子の背面の翼の様なものが左右に展開された。


「うわ、こいつ飛ぶ気なの!?」「くっそ!」

エメラルドグリーンの閃光を放ち、モズ子とフィエー君が持ち上がる。

舞台は強制的に大空へ引き上げられた。

推進力すいしんりょくもさながら、この執拗な圧倒。本当に飛ぶことしか考えてない。


「モズの文字通り速贄はやにえにでもする気なの!?」

ゴオオオオオオオゥ!爆音を放ち、上昇する両機。

とてつもない大きさと機体重量だろうになんというパワー……。


妹さんの意識はどこまで介在しているのだろうか?

一縷いちるの望みも膨らむが、まずは現状がヤバい。

高度が増す、獣の咆哮ほうこうの様な大気をつんざく風、脇腹の軋みと痛みもままに。


「――――……ぇ?」

すると、モズ子のツノの表面に何かが浮かび上がってきた。

銀色の……、塊り……いや、これは人型……いや、女性。小柄な……。


「……アイレ……」「え……!?」


夕日が暮れきる間隙かんげき血化粧ちげしょうに染められた美麗かつ物憂げな銀色の人形ひとがた


リヒト王子の妹、


        第七子〈アイレ〉――――――哀しい再会だった……。




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