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それは蒼穹より量産型少女とガラクタ王子とロボットと  作者: 秋天
第四話「あの夕焼けに、真実は積もりて」
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第九章「想い、ソラへ手を伸ばす」

沈む陽光《日の終わり》。

あたしは何をするでもなく……膝立ちのまま固まっていた……。

「ソラ先輩!大丈夫でしたか!?」

公園に獣犬けものいぬが舞い降りた。背には恋縫こいぬちゃんの姿が見えて。

あたしはただ無言で見上げる。

「リヒト様から、ソラ先輩を護るようにって……あの?」

恋縫ちゃんは飛び降りて、あたしに近づき介抱かいほうしてくれる。

格好悪い……何も出来ないあたしはただ茫然ぼうぜんとしてるだけだ。

「……すみません。先程、ソラ先輩と幼馴染お二人の話、全部(うかが)いました」

街なかで王子と逢い、竜地達があたしの変調に気付き、

(夜鳩が事故の記憶が戻ったと)悟り――全てを語ったと。

(……夜鳩すごいな……何で色々……)


「今しがたのやり取りも……伝わってしまってて……その」

「………………」

王子の臣下となってるし……無理もない。

恋縫ちゃんはあたしをまじまじと見つめ、目を伏せると

優しいお母さんのように、なだめるように告げた。


「ソラ先輩の闘いは終わったんです……誰も責める事ではないのです」


「…………あ」

やっと声が出たのにそれか……。

「領域があります。ソラ先輩はこちら、恋縫とリヒト様はあちらに。

 夕日と夜との境界線。地上と天のへだたり。

 それが今、はっきり為されたんです。

 だから……お疲れ様でした、で終わっていいんだと思います」

恋縫ちゃんも起ち上がる。強い目だ。空を見上げてる。

(そうか。もう覚悟が出来てたるんだ。この子に……逃げる選択肢は無いんだ……)


「では、リヒト様に加勢に参ります、

 ソラ先輩は万が一がありますので、お早く退避、帰宅のほどを」

そう言うと、獣犬へと駆け上がり、光りの塊りとなって一体となった。

「……こ、いぬ……ちゃん」

へたり込んでしまう。情けない。

ウォオッォオオオウウウ!!獣犬は咆哮すると鳥のアゥエスへと駆けだした。

……あたしは……。





そこからは圧倒的だった。向こうは飛行型で。こちらの攻撃が届かない。

空からの奇襲でじわじわと弄られてゆく。恋縫ちゃんも満身創痍まんしんそういだ。

領域りょういき……」あたしはさっきの言葉を思い返す。

《逃げる選択》……彼女もあったハズだ。でも、領域の向こうへ行ってしまった。

王子言う、向こうの世界の話を想い返していた……それはわずかだったけど。


(あいつは独りだった……家族もほとんど失って、

 それで家族に満ち足りたあたしを……どう見てたんだろ)

《楽しかった》……そうはっきり言ってた気がする。

(……でも、そこに妹さんの亡霊の様なモノが襲ってきた)

(また、大好きな家族を殺さなきゃいけない……?)

そんなの最悪だ。酷すぎる。

「嫌だな……すっごい嫌、でも……王子はもう誰も頼れなかったんだ」

孤立無援こりつむえんであたしだけが味方……になれたのに……。


キィ……!

「……っ!」

ブランコが揺れた。太陽兄さんと月子姉さんが座ってたブランコ。

二人の笑顔を思い出す。


『《《卒業の時が近いから》》、蒼穹が心配だったの……』


「…………あ…………」

あたしはようやく気付いた。月子姉さんの言葉。あの意味。とてもシンプルな。

ブランコに歩み寄り、椅子いすにしなだれかかる。

「は、はは。ははは……あぁ……、

 そっか……卒業って……あたしが《しなきゃ》って……そゆこと……はは」

太陽兄さんの笑みを想い出す。

『ソラは面倒と言いながら、結局誰かの役に立とうとする、善くも悪くもね』


「兄さん、姉さん……」

二人の優しさと愛情が花の様に舞い、あたしを包み込んでいた。

記憶の二人は笑顔で。楽しくて。

それは……こんなあたしの背中を押していてくれ続けていた証だった。

二人の様な知己もカリスマもない。平凡すぎる鴻蒼穹。

だから価値がない?……誰が決めたんだ。

人間の意味ってそんなモノではないだろう。

恋縫ちゃんだって、竜地だって、アイツだって……自分の価値は……。


「…………主人公だから……特別だ、じゃぁないんだ……」


勘違いしていた。

何かを〈特別〉と認識した瞬間から、

自分はそれ以外の外野だと思う――だからラクな道を選んでいた。


「……自分が、ほんとうに……何かをしたいと思った瞬間から……」


ゆっくり。ゆっくり心が鳴動して。


歯車が噛みあいだす。

「そうだよ……あれが亡霊でも幻影でもいいんだ。大事なことは……」


あたしの瞳に灯火が宿り始める。

「逃げとか弱いとか……いいんだ、それはもう認めた……大事なことは」


ゴグォォン!

空から叩き落されたフィエーニクスがすぐ目の前に堕ちてきた。

轟音。《アトモスフィールの大地》で僅かに浮いている恰好で。

舞い堕ちてきた不死鳥の城。かつては王国の防人だったソレ。

本当に満身創痍まんしんそういだ……あれだけ回復してたのに。枯れ果てた廃城。

フィエーニクスの眼差し。あたしを見つめていた、この子の想い。


《本当にそれでいいのか。鴻 蒼穹》と。


目が語る……お前は何者なんだって……ごめんね、フィエーニクス。

あたしは起ち上がる。心が吼え上がる。

(――大事な、ことは)


また破損した胸部から王子が顔を見せた。

あたしはゆっくり、そして確実に歩みを詰める。

「……蒼穹……」

あたしに気付く王子。

そこに鳥のアゥエスが急襲する。

「ソラ先輩!任せて!!」飛びかかる獣犬恋縫ちゃん。

有難う、頼んだよ恋縫ちゃん……。

あたしは駆け出し、仰向けのフィエーニクスの胸部に辿り着いた。

(大事ってことは)

王子の身体もボロボロ……機械部分がむき出しだった。

目と目が合う。あれだけ治ったのにガラクタ王子に逆戻りだね。


「……リヒト」

「……?」


「ねぇリヒト、イビキが五月蠅いなら耳栓フタしなさい」

あたしは片耳を指でふさぐ動作をしてみせる。


「なに?何言って……」


「あたしもだ……弱い。脇役なら、現実を誤魔化せる、

 いつもそうやって……あの二人の死をも耳も目も心にもフタをした」

「量産系女子だって言ってれば……楽な生き方が出来るって心を塞いだんだ」

「ソラ……」

「でも不思議だ。あんたとのハチャメチャな生活で、なんかあたしは

 現実にピントが合いはじめた。だからあの二人が認識できなくなってたんだ」

抱きしめてくれた月子姉さんを思い出す。あれが幻影(逃避)との別れ。


「だから、大事なこと………あたしは」


あたしはさて、天にむかって吠える。

このちっぽけな男の子は一人になった。でも我、可哀想だと涙を流すことはない。

一人、世界と闘おうって去勢をはり、牙をむき、歯を食いしばった。


月子姉さん、太陽兄さん……みつかったよ。


………夕日の想い出に逃げる時間は、もう終わろう……。


鴻蒼穹おおとりそらああぁぁぁ!答えろおおお!!いま、お前が、何をしたいのかああ!!」


「……!?」王子はおののく。

だが、あたしはあたしに問う。

だって、もう止められはしないんだから。


「お前はいない!世界で!ここだけにしかいない!!」


空に吼える。


「あたしは量産系じゃない!!!あたしは……この世界の主人公、鴻 蒼穹だ!!!

 量産系少女なんかじゃない!!!」


「だから!」


私はリヒトの顔を夢中で両手で抑える。力がこもる。

初めて真正面から彼を捉えた。

ほんっと綺麗だね。宝石と美術品が人の形を成しているよう。

……その正体は、脆くて、普通の――ただの男の子だった。


「あたしと……主人公になるって、世界に誓いなさあああああああぁぁぁい!!!」


「………………ソラ――――」


王子の眼に生気が戻り始める。


「聞こえたよね?こんな、主人公さまが一世一代の告白するんだから……!

 あたしの声……届かないわけ……ない……じゃない」


蝉の鳴き声が聞こえた。

ただのミンミンゼミ。夏の環境音おと。それは――あの日の残滓わすれもの

何故か、まだ鳴いてもいないのに。

いや、……あたしの止まっていた歯車が稼働したせいだ。

あの夏の日から止まっていた……あたしの心。


……ぴと……。


「蒼穹、お前……」「え……ぁ……!」

水音。何かの雫がこぼれた。

それは、人がもつ心の温度……「なみだ……が……」あたしは嗤う。

こんな簡単なこと……あたしが……。


みーん。みーん。


そう……あの時は泣けなかった。一年前の夏。セミの鳴く空。

ショックで心が凍って、夏休み中ずっと窓の外の空だけみつめ、

来る日も来る日も自室の片隅で部屋の灯りもつけずに。

蝉の大合唱で吐きそうだった。

二人の葬式にもついに行けなかった。

何時の日か、二人を幻に見て、心の崩壊を止めるまで――……


だから、あたしの失くした〈大切なこと〉は、もう失っちゃいけないんだ――


「…………ふ。

 ふふ、ははは……あははははははははははははは」

王子が笑う。今まで視た事ない声で笑う。

「はっはっははは、あははははは!!!」

            ひとしきり笑って、

            哂った少年は、

            拙い身体で立ち上がり、手を差し出す。


「あぁ……伝わったさ……おまえのヒョロい告白……でも、」

            六歳くらいの少年の無邪気な笑顔で、

「……いいな、最高だ。庶民だからこその力。でも、これは俺の物語でもある」


「……だから」


            すっげえバカみたいで、

            クシャクシャでヘロヘロでかっこ悪くて。


……でもなんか……最強のイケメン顔でこう言ったんだ。



    「――――誓おう、ソラとリヒトだけが、この世界の主人公だ――――」



あたしの手をとった。あたしも引き上げた。

世界が輝く。

あたしの世界と、リヒトの世界と。

心と感情が黄金の旋律をうたいだし、世界のてっぺんまで手を差し出す。

手をとったのはフィエーニクス。不死鳥の名を持つアゥエス。

何時の間にかその体内、いつもの黄昏の間に居た。

ふぁっていう閃光とまばゆき想い。


繋がった気がした。


太陽と月子は死んだ。


私の願う主人公たちは天国へ旅立った。


でも、あたしは生きている。わたし達は活きている。


ならば、我らが主人公。

主人公は幸せに向かって羽ばたかねばならない。


破滅を願う根暗な主人公なんて……私たちが主人公のこの世界には必要ない。


さぁ、行こう。


さぁ、征こう。


〈大切なこと〉を取り戻すために


〈大切なこと〉を続けるために


           あたし達が主人公の物語は……きっとハッピーエンド……!



                         【第四話 終わり】

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