第二章「部活の夏/夏の部活」
「夏の!(ばーん)ヴァンプラ全国高校選手権へ向けて!(どーん)
我が模型部は今年も参加を表明しました!(ばおーん)」
あたしはオーバーリアクション三弾活用でアピールする。
我がプラモ部は、新規に入った数名を加え定数に達していた。
六月。
「ハイスクールプラモヴィアって読ませるのすげぇよな」
確かに。全国高校選手権がいつしかそんな読み名になっていた。
「はーい!湿気は塗装の天敵でもあるけど、友情・努力・換気でスキルアップるわよ!」
「勝利じゃなくて換気なのか……」「換気!シンナー使うかんね!」
「今度異臭騒ぎおこしたら休部もあるさね」「そ、そうですね。わ、わんわん」
模型部は賑わっていた。新入部員も居るので改めて概容を説明する。
《夏のヴァンプラ全国高校選手権》とは、
(日本中に市民権を得た)ヴァンダムのプラモデルを使用し、
部員総勢でディオラマ(情景模型)を作ることである。
(もちろん部員少ない模型部向けに個人部門に挑戦も出来る)
優秀者はプロモデラーへの道を開けることもあって(うちの父みたいな)
まさのヴァンプラ甲子園さながらである。
「えーと、どのヴァンダムシリーズのロボットでもいいんです?」
恋縫ちゃんの挙手。当然の質問。
「うん、既存の作品なら何でも可。作中の戦闘機や戦車なんかでもアリ」
「フィギュア(人物模型)はどうだっけ?」
竜地が補足の質問。歳のわりに旧作が好みの渋好きメンだ。
「フィギュアもOK。だけど背景にメカ要素は何か入れる事」
「水中ヴァンタンクとかサイコ・ヴァンイージみたいな創作は?」
夜鳩のねちっこい質問。キミは重箱の隅をつつくね!
「自分で考えたカスタム機も許されるけど、
作品に全く存在しない架空の新機体はいちおうNGね。評価しにくいから」
「とりあえず皆で元ネタ作品、テーマの選定、制作担当の割り振り。諸々《もろもろ》決めるよー」
あたしが教育用に恋縫ちゃんに貸した”ヴァンダムBREED”(おとぅの私物DVD)が
皆が幼少期にやってた共通項って事で決定した。
「BREEDって名シーン意外にバラけるよな」「あぁ。人気だし」
名シーンを挙手で統計をとった処で恋縫ちゃんのリクエストが通った。
『ストレイトヴァンダムがグシュ・ギフテッドの両手をビームブレイドで一閃するシーン』
恋縫ちゃんはつい先日見たばかり。
純粋に”反目してた友人機を救うヒロイズム(英雄感)”で選んだそうだけど……。
「あぁ……あのシーンなぁ恰好イイんだけど、続編で……ちょっとな」
竜地が恋縫にはすまねえけど、って感じで口を挟む。
「続編なにかあったの?」「うん、それがな……」
平成最大人気ゆえ作られた、続編「BREEDレジェンダリー」と命名されたそれは
主人公の設定に悲劇を選んだ。
「そのグシュの両手のヒートブレイドがな……続編主人公の家族をグシャっちまったんだ」
「ひ」
冒頭は一作目の中盤から始まる。
件のシーンで切断した(両手の固定武器)高熱剣が、
避難ゆえ逃走していた家族の真上から降りかかったのだ。
「……っ、あのシーンはえぐい。あたしもあのシーンはちょっと……」
「主人公だけが生き残り、その復讐心から軍に入り新主人公になっちまうんだな」
教室もざわつく。名シーンがトラウマシーンになったからねえ。
「えと……じゃぁ他のにしましょうか、えと」
恋縫ちゃんは空気を読んで代替案をだすも、
「あえて皆が避けてたからこそ、てのはどうだい?」夜鳩の鶴の一声で色が変わる。
「あくまでも無印BREEDを推すぜ、か……恋縫が参加してくれたし、アリかもな」
恋縫の頭を撫でながら、竜地キミ、何だかんだで彼女に甘いだろ。
「わわわ~のわわわ~」
ほら、恋縫ちゃんデレッデレやん。どうすんだそれ、可愛いだろ!?
■
「おぉ。さすが才蔵画伯のアイデアスケッチだぜ……」
我が模型部、情景模型の設計図とも言える完成予想図が披露された。
「すげぇ。毎回流石だぜ北斎画伯……いいねーこのコミックバムバムの懐かし画風」
小学生ならキョロキョロ派かバムバム派で分かれてた子供向け雑誌のあの画風である。
「なつかしカッコいいぜ!」「超べりぐっ。ふむ、極太の輪郭線がたまりまさねぇ」
何だかお年寄りな反応だけど、こういう児童向け画風に共感感じるのは解る!
北 才蔵。ふくよかな腹、ふくよかなアゴ。
その名から北斎画伯とも称賛する我が部の無言の絵エースである。
彼が喋った処を観た事がないという伝説の人である……無言で入部届だしたんだぜ。
「じゃー毎度才蔵くんのスケッチでいくよーいいよね」
「あの」
そんないつもの才蔵ギャラリーに意外な参戦があった。
「あー……ちょっと面白そうって恋縫も描き描きしてきたんです、いいですか?」
「えぇ、恋縫ちゃんが?」……意外な方向からの進言に衆目が集まる。
「は……!?」「えぇ!!?」「何これ、超うめぇ……」
そこに描かれしは超絶精細で、漫画絵と写実の中間の様な世界が展開していた。
しかも漫画ちっくなオーバーリアクションなアレンジもあって迫真感あって
『シーンを切り取った感』がある。こ、恋縫ちゃん……漫画家か何か!?
「わへへー恋縫、友達あんまいなかったんで……お絵かき大好きっ子の《《下手の横好き》》です♪」
「「(いや!?……こんな迫真の下手の横好きおるけぇ……!!???)」」
プロ級のそれ、まじすっごい。後に絵師・不知火恋縫が産まれるとか何とか。
無言の志士・才蔵くんも『今回は……キミに乾杯』と無言の親指立てサムズアップ。
潔く譲る才蔵くん……あんたかっけぇッスよ……(無言がやっぱ怖い)
「なんだか急遽だけど才蔵くんゴメンね、今回は恋縫ちゃん案でいこう」
「わへぇ!?ほ、ほほ本当いいのでつちかほへ!?」
かくして、全国大会への構想図は恋縫ちゃんのに決定したのだった。
「才蔵よ、譲ってやるとは大人さね、……よいのか」
夜鳩の問いに片手で制する才蔵氏。悔しさより才を尊ぶ大人……!
「恋縫……友達もっと作れよな。だが絵ぇうめぇのは驚いた。また頼むぜ」
「うん、お絵かき好きだから。でも、りゅーちゃんやソラ先輩はお友達っで、いいよね」
「あぁ?……あーうん、そうだぜ。ともだち百人!じゃなくても量より質だぜ」
「あ……うん。わへへへ」
端っこでそんなやりとりあったとか……!




