「小話5/謎の眼鏡美少女」
「おや?こんな昼間から制服のソラ発見」
「……おげ。夜鳩さん!?」
あたしはいつもの旧道沿いの公園に居た。
当然、月子&太陽コンビは居ない。
滑り台の上でぼーっと、はるる野の街を傍観してた処である。
でも午前なんですね、いま。
なんでこんな時間に居るのかってゆーと……、
「夜鳩さん……き、奇遇っすねこんなトコで」
「……ほうほう、奇遇ね。そうさな、学園創立記念日なのに勢いよく登校して
『あれ?何でぇ部活の子しかおらへんの?』って状況かのう?」
何で!?詳しいよ!
「夜鳩さん!?明らかに見てきた様な推測、やめて頂けません!?」
なんて的確なの怖いわー恐いわー、この眼鏡さん……正解すぎる。
「そ、そういう夜鳩も制服じゃん?うへへ、仲間だったりするんじゃ」
「おー。あれ、そうだな。何でかな、制服好きなのかな小生」
何の自問自答?夜鳩の制服姿は好きだけど。
なんか通学バッグなんかは持ってない。本当にふらりと来た感。
ど、どういう状況?
「ほれ、ソラは弟分とママ上殿がいるであろう。気がつけなかったのかな」
「それがさ……朋輝が部活始めて休日の朝練で、結菜さんも同じノリで
朝練だと思ってんだってさ」
夜鳩の言う通り学校で事態に気付いて、思わず携帯で確かめちった。
「あっはっは。模型部の朝練は愉快さね。いっそ始めようか」
「ニッパー素振り100回~とか?」そっから下らない朝練案が飛びかわす。
「ふむ。夏の合宿でそういうのもアリさね」
……こんな下らないノリも永いよねあたしら、と笑い合う。
夜鳩との出会いは想い出せない。気がつけばあたしの隣りに居た。
「ソラって名前、あたちが付けたんだよ?」
出逢った頃の夜鳩の謎の台詞を今でも覚えてる。
眼鏡をかけた、でも大人びた少女。そのころからずっと印象が変わらない不思議。
ひとしきり談笑してたら、ふと、王子から通信が入る。
「わ。王子、ちょっと待っ、何こんな時間に」
「……王子」
夜鳩が反応する。わ、やべ。友人がいる時に通信とは間が悪いなぁ。
彼女あっけにとられてるじゃないか。
不審がられない様、慌ててスマホで会話してるフリをする。
『何だとはなんだ。俺は音ゲーのコンボ練習が途切れて激おこなのだぞ?
恋縫がソラを誘おうと来訪してきたのだ。不在だからと今ここにおるわ。
あやつめも今日は学業ではないのか?』
「ぐ……ぬぬぬぬ」
自己紹介で「趣味は音ゲー」をここで回収する空の王子さまです。
そこで学園創立記念日の休日だと気恥ずかしく説明。
『ほーほほーぉ。寝坊してバタバタと出てみれば。ふん、おマヌケだなー、
恋縫を待たせるでない。遊んでやれい。ほー』
「ち……くっそー言い返せない。王子のドヤ顔が浮かぶ悔しい、ほー。
こういう時にマウント取るとかかっこ悪いぞ。ま、いっか。
じゃぁ恋縫ちゃんと遊んでくるわ。何かあったら呼んでね」
『切り替え早いな!だ、だから王を小間使いの様に……』
「とお」ぽち。通信を切る。
髪留め通信機の鳥の頭を押すと通信をミュート(消音)出来る。
フィエー君に頼んだらやってくれたのだ(いい子だ)
「まーった細かいミスにうっさい王子だこと……アレがなきゃなぁ」
「王子か。金髪の留学生だったかな」
「え?うん、そう、王子ってあだ名で……だけど、夜鳩にもそう説明したっけ」
「ん?……あぁ、月子姉と太陽兄たちに伺ったのだよ」
「あぁ、何だ。そーだよね。学園で逢えるし。電話でも話せるもんね」
「……そうだな、我らは幼馴染だ」
夜鳩が何か目を伏せてた。
色々思い出しているのだろう、彼女も一緒に遊んでた幼馴染だし。
身体が弱くていつも見守ってくれてた。話を聴いてくれていた。
「では私は用事があるのでこれで、また明日会おう」
「え?何なら一緒に遊ぼうよ恋縫ちゃんいるし……」
「またの機会にしよう。彼女もまともに友人が出来て久しい、
今はゆっくり相手しておあげ」
「あーうん、じゃぁそうする。はは、まるであたしのママみたいだね夜鳩」
「……ッ……私は、その……《《謎の眼鏡美少女》》夜鳩ちゃんだ……それだけだよ」
「自分で言うか。はは、じゃぁまたね夜鳩」
頷きだけで去ってゆく夜鳩。
長身でスタイルも抜群なので後姿までサマになる。
「……あれ?こんな旧道で、彼女なんの用事だったの……?」
そういや、あたしは彼女の家に言った事はないし家族構成も知らない。
「幼馴染……だよね?……夜鳩」
ふたたび夜鳩の方向へ見やると、彼女の姿はすでになかった。
「《謎の眼鏡美少女》……本当に謎だ」
五月の微風は緩やかなまま、何も答えてはくれなかった。