第十七節「草原の記憶/空へ咲く花」
24/06/02 修正
草原。
またあの草原。
草原の真ん中には段ボール――。
でも中には膝をかかえた少女がいる――。
【わたしを捨てないで】の文字。
黒髪少女は泣いている。
ツーテールの少女はしゃくりあげている。
彼女は抱きしめていた。見覚えのある仔犬。顔はみえない。
男の子も居た。
そんな彼女を見下ろしていた。
その顔はあたしの知ってる三白眼をしていた。
そっか、やはりキミも食べられてたのかい?
男の子は頷きつつも、最後には首をふった。
いつの間にか持ってた【わたしを捨てないで】の紙
……男の子はそれを破り捨てた。
あたしは少女に近づいた。
そのおでこを軽くさすってから……しん、と抱きしめた。
言葉はいらない。
でも気持ちだけは伝わって欲しいと祈りをこめた。
抱きしめた身体から伝わる<寂しい>の気持ち。
だから、あたしはそれも包んであげようって願いをこめた。
〈見捨てないよ〉……それだけを。
永劫に続くかの様な鳴き声を。
少しづつ――。
――少しづつ。
嗚咽は止み、草原は蒼さを取り戻していく。
青く。
蒼く。
空までも染め上げた。
少女はやっと顔をあげてくれた。
【しんじていいの?】
あたしはそっと頷く。
笑顔ではにかむ。
――陽光が差し始めた。
祝福の灯りだと勝手に思った。
二人の笑顔で草原に花が咲き始めた。
男の子も、両手で仔犬を抱いて大空に笑顔をほころばせる。
大輪の花々。
草原は花畑へ生まれ変わる。
少女は空を見上げ、ソラを見つめた。
手を差し伸べ、手を引き立ち上がる。
地から積み上げ、明日を笑おう。
さぁ、立ち上がるんだ。
これからの今を――
これからのキミたちが創る世界を――
【ようこそ――貴女がはじめる世界へ】