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第二節「ソラと我が家と見えないソレと」


「いやいや、ロボットって――……」

急に冷静になり、やはり確認したくなった。


〈はるる野市〉は東京の西の果ての片田舎な街。

我が一軒家は街外れの北西にあり、小高い丘みたいなトコにある。

裏の雑木林はもう、そのまま山へ繋がっている感じ。

こっそり家の外から確認しようと試みた。

『マジであのデカさのロボット……まんまのぞき込んでいる?』

当然な疑問。

家人と出くわさない様に勝手口から抜け出て見上げると――


いた。

まんま過ぎてコケた。


「うっわ……リアルガチ。そこは幻であって欲しかっ……た」

ギャグ漫画のように、ぐんにゃりヘタりこむあたし。

巨大なロボットらしき人型が、うつ伏せ状態で小山の雑木林を

クッションに寝そべっていて、顔だけが見事に我が部屋に

突っ込み静止していたのだった。


「……やっばー……顔だけ穴に突っ込むマッサージあるけど、

あかん。それロボットでやっちゃあかんし……これは……不味い」

そのロボットは〈白い巨人〉に見えた。

何というか、予想以上にボロボロ。

もう……プラモで言えば武装や外装パーツが焼け落ちていて、

西洋の彫像と甲冑を併せたデザインだったろう外観は

見事に酷いウェザリング(汚れ)加工になっていた。


「なんだか……墜落……でもしたの?」

空からダイブして顔突っ込んだ様にも感じられる有様。

「いや、それでもさ!なしてウチ?ありえないって……!」

天を仰ぎ、半開きの口に桜の花びらが舞い降りた。

そこから、当然のようにその後の展開が予想出来てしまう。

悪夢が巡る。吐き気が廻る。

なんつーか、最悪のスケジュールがカレンダーを埋めてゆく。

一か月はマスコミを騒がすネタが寝転がってくれてる訳だ。

取材が来る。街も学校の皆も大騒ぎになる。

裏の煩い爺さんにもキレられる。いや、警察も自衛隊もくるだろう。


「あ~……脇役でいいのに……そんな目立ち方……」

あたしがイヤでも<時の人>になってしまう未来予想図。

〈日常〉は間違いなく崩壊する。

誰が、どんな理由で作ったモノなのだろう。

航空機から間違って落ちてきたイベント用オブジェ?……にしても、

なぜわざわざ我が家なの……?どんな嫌がらせ?

アレを警察や自衛隊が回収しに来るにしたって大騒ぎ確定じゃないか。

学校でも平凡な学生だと思っているあたしには最悪の贈り物。


「そ、そうだよ!みんな、ウチのおとぅ!結菜さん家の人達は……?」

あかんその2。

こんなモノが突っ込んで来たのだ。家族たちはもう気付いて……?

あたしは驚天動地に駆け出した。


ここで解説。

隣りの一軒家は従兄妹の家だ。

ウチの父親と、隣家の結菜さんは”兄と妹”っていう仲良し家族だ。

ばたばたと駆け戻り、ウチの居間へゆくと、

結菜さんとその息子、従兄妹の朋輝がのんびり朝食しているのだった。

従兄妹のお隣さんが『我が家』で普通に朝食をしてるっていう日常。

なにソレって感じだけれども。

玄関から居間に戻ると家庭料理の和の香りが穏やかに香しい。


「おばさん!朋輝も平気?……あの、ロボが……添い寝で……皆、平気?」

「ソラちゃんおはよう。今日もママの天使ね、はい、朋輝にもおかず」

「おはよ!お隣さんでママじゃないけど。いつも朝食アリガト…じゃ、なくて」

齢四十前後なのだろうけど、まるで老けてみえない”可愛い系”主婦、結菜さん。

シングルファーザーな我が父は特殊な自宅仕事をしてるので、

家事全般はほぼ、隣りの超美人な妹の結菜さんにおんぶにだっこだった。

旦那さんは海外赴任なので、結菜さんもさらにママ気どりだ。


「無事な様だね!いい?今から信じられないの目にすると思うけど、まずは落ち着いて」

「ソラ姉。まずはお前が落ち着けって。紅シャケはもう焼けてる」

「わー紅シャケ大好き~美味そ……じゃ、なくて!」

結菜ゆいなさんの一人息子、朋輝ともきだ。

あたしの従姉弟になる。

結菜さんも朋輝も自分の家があるってのに朝食だけは必ずウチ。

『食事は皆でするのが楽しいもの♪』という楽天的な思想で

(強引に押し切って)結菜さんも朋輝もいつもウチを朝の団欒にする。

旦那さんの海外赴任が永すぎてこれも<日常>になってしまっていた。


「は、はは……落ち着いてられんのも今のうちだよ!……今から凄いモノを目にする!」

「ソラ姉が落ち着きないのは知ってる――で?」

促すこの従姉弟は冷淡だ。この春に分かり易く”反抗期”に入りました。

昔はあたしにべったりだったんですよ。

おねぇちゃーんって甘える美少年は結菜さん似で可愛かったのにー。

あたしの真似して柔道したり、剣道したり……健気な子が……(泣


「あ、うん待って。いきなし見たら心臓がズバっと惨状するから。

 深呼吸してさ、カーテンを開けてさ……ゆっくり惨状してね?」

「結局、惨状すんのかよ……」

すっかり身長を抜いてしまった従姉弟は、やれやれと起立して

あたしの指さす方向通り、カーテンを開けて覗きこんでくれた。


「……何処らへん?」

「ん?すぐ観えるっしょ?あたしの部屋の、ホラ、天井らへんだよ」

窓際から二階のあたしの私室を見上げ、のぞき込む。

「ね?すげーよね!とんでもないもの、部屋にダイブしてるっしょ?」



「………………」

朋輝はなにか、天井の破損を見つめてはいるが無反応。

後ろに続いた結奈さんも、天井を視てはいるけど無反応。


「あ……あれ?ちょま、ちょ待てよ、と狼狽を期待して……あれ?」

しかし、朋輝は無言でテーブルに戻り、そそくさと朝食を再開させた。

「……言葉がないほどショック、わかるよ!」

しかし斜め上の返答が返る。

「ソラ姉……屋根の修理代、高くつくぞアレ」

「……はえ?」

「そうねぇ……」

結奈さんもエプロンを締め直し、ハニーフェイス。

「ソラちゃん。天井壊れちゃったのね――お兄ちゃんに修理手配して

もらわないとね。さ、お朝食お朝食」

「おちょ、ちょま!?」

「な、何で?ホラ、あそこにデカいのが、どーんと寝てるっしょ?

二人には見え…」


「何が……見えているの?ソラちゃん……」


小首を傾げる叔母様。その顔は冗談めかしてるのもなく、素だ。

「…………はい!?」

(――え?見え……あれ………えええええ!?)

あたしは息をのむ。

確かに、鼻血が出るほどの衝撃と振動があったはずなのだ。

だのに……あんなはっきり見えてるものを

幻覚に見てしまうほど老いてないしクスリもやってもない。

ロボットはたしかに存在しててあたしには視認できている。

陽光が当たって影も出来てて、物理的に存在を証明している。

(……そんな、あほな……)

マスコミだって猫型ロボットだって黙ってない代物ですよ……?


狼狽する私を結菜さんが後から抱きしめる。

「……ソラちゃんには何かが見えるのね」

「…………えっと」

「うん、結菜は信じたわ。根拠もなくソラちゃんを肯定します!」

ぱん。結菜さんは手を叩くと『ささ!朝食にしましょ』と踵を返した。

それっきり。

あたしの、この一か月の騒動予想図を全キャンセルにして、

斯様に〈日常〉はすんなりと、元に戻っていったのである。

腹がぐぅ、と鳴る。

その音だけが現実で、

朋輝に鼻で苦笑されるだけの朝の団欒に戻っていったのであった。

ちゅんちゅんと朝日に雀がさえずる――そんな日常に。


(私にだけに見える……ロボット……なの?)

(240/05/19)修正

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