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第十六節「ソラとその想い、繋げて」

24/06/02 修正

暮れなずむ夕日が、わずかに陰った気がした。

振り降ろされる轟音。

その残響が獣犬を蹴り飛ばす。フィエーニクスが間に合った。

校舎に映るフィエーの影で、飛び膝蹴りでもしたのだとわかる。

「王子……!!」

フィエーニクスはすかさず手刀で触手を切断。

空中に放り上がったあたしを手の平で受け止める。

そのまま胸部へ。意識が溶ける感覚。フィエー君の中へ誘った。


「……ソラ、息災か」

「困難だったよ……間に合ってくれてありがと」

「あぁ……通信は聞こえてた。お前が話してた後輩とやらが獣の正体だったか」

「違うよ……」「ん?」

「獣犬と恋縫ちゃんは同じ。気持ちは同じ」

「どういうことだ?」

――という王子の疑問は当然で。

獣犬はそのまま転げるも反転して臨戦態勢へ。


「来るよ!」

両手のツメで襲い掛かってくる。切り替えが早い。

学校には当たらないとはいえ、この場から離れたい。

真上から学校を見る機会なんてそう無いな、と思うも

こちらも臨戦態勢だ。

回避。こちらが態勢を整える隙も与えない気だろう。

ジグザグに助走したかと思うとわたし達を飛び越え、

着地と同時に反転、急襲。足元へ噛みついてくる。

「くっ、早い……!そうか……!」

跳躍して回避。

「初戦の時の様な寝技に持ってかれるのを警戒してるんだね」

こちらが回避とみると横を通りすぎ、またしても嫌な角度で強襲してくる。


「獣犬もシンクロしてるんだろね、恋縫ちゃん。結構マメなんだ」

「さっきの話の、”同じ気持ち”とかいうヤツか?」

ガードした左腕に噛みつかれる。唸り声が漏れるその顔は怒りが見てとれた。


「たぶん恋縫ちゃん、失踪した時に獣犬と遭遇したんだ。

そこで多分、食べられた――。

でも、それで終わってれば、彼女の自我は消失して獣犬で固まった。

フィエー君たちを見つけて問答無用で襲ってきたハズ」

獣犬の顔を反対の手で押さえつけ、膝蹴りをお見舞いする。


「あの子は人の姿で何度も探ってきた。獣犬で襲ってきたり撤退したりと

獣犬が彼女と同じ意思と気持ちだったと予想するの」

「……なにか?半々に混じっててその都度、衝動的に襲ってきた

とでも言うのか?」

「……多分。不安定なんだよ」

肘鉄も叩き込み、蹴り飛ばす。

「ご主人様以外に懐かない犬がけたましく吼える。飼い主も釣られてどなる。

どっちがどっちの感情でもなく相乗していく……!」


そんな犬を見たことがある。

ご主人様が店内に入ってる間、店外に繋がれてるがとにかく唸っているのだ。

それを見た主人が怒声で叱りつける。

ご主人様以外の世界を知らないからだと勝手に不憫に思ってた。


「使えない駄犬だ。吼えるだけで役に立つとでも思っている蒙昧もうまいめが。

そして、その娘だ!」

飛びかかりを両手で抑え込もうとするが失敗した。早い。

「もう人間でもないモノが、生前の感情に振り回される……、

愚かで、目も当てられない……!」

「やめて!あの子は死んでない」

「滅せ!……殺さねばこっちが食われるぞ」

「駄目」

「稚拙な倫理感なぞで、寿命を蹴散らすのか!甘いぞ!」

噛みつきが肩をかすめる。キバで徐々に削る削る。心が視えてくる。


「アンタの世界では、そうだったかのもしれない……!」

獣犬が暫し距離をとり、こちらをけん制する。

「だけど、ここはあたし!あたしの世界よ!……愚かだろうが、

地を這い擦り廻り、努力しては――……」

またしてもフェイントからの猛攻。飛びかかり!

「小さい悩みをいっぱい抱えて……乗り越えて、強くなるんだぁ!」

巴投げ。しかし逃げられる。浅い!


「く。動きが素早すぎて抑えられない!……武器を〈生みだす〉!」

「どんなのだ?ナイフ状にした〈ファウ・ラスター〉でも厳しいぞ」

あたしはイメージを結集させる。

その間にも獣犬の攻撃はやまない。

思い浮かべるはあたしがいつも馴染んでる工具だ。

〈本来はそんな使い方をしない〉工具――それは……


――結実した!ペンチにもハサミにも似た工具――


「なんだ!?それは……お前がいつも使ってるヤツ……」

そう――「ニッパーだ!!」

プラモ部品をランナーから切り話すまさにプラモの為だけにある工具。

普段から使用してるからイメージは簡単だった。

……でも、

「バカな――デカすぎであろう!?」

そう、高枝ばさみの様な両手でかかえて使用するくらいの大きさに結実した。

そんなモノ使わせるか、という位に突進してくる獣犬。

「斬るだけが目的じゃぁ――ないんだよ!!」


がん!

という鈍い音と共にクロスした先端を、獣犬のアゴ辺りに突き立てた!はさみで斬る様に――ギリギリと引き絞ってゆく。

(恋縫ちゃんゴメンね。これで――捉えた!)


獣犬はがっちり捕まえられて動きを固定された。

元々テコの要領で――少ない力でプラを切断する様に設計されて

いるのだ。弱体化しているフィエー君でも十分張り合えるはずだ。

がぎぎ、という唸り声をあげて獣犬は身動きが出来なくなった。

そのまま持ち上げる。両手のツメも力が入らず空を切る。


「よくやった――と言いたい処だが、このまま開放してやらないぞ。

フェデルガメーションで〈融和〉してこいつは完全に消滅させる!」

「嫌だ。あたしは見捨てない……」

「まだ言うか!感傷は死を招くぞ!」

「感傷的で結構!……そんな小さな想いが一つ一つ積み重なってさ。

 明日……笑い合うんだよぉ!!!」

「…………蒼穹ァ!!」

獣犬の悔しい唸りが……恋縫ちゃんの悲鳴だとあたしには思えた。


「――恋縫ちゃん!!!聴いてェ!」

そのまま工具で地に押し付ける。唸り声をあげ抵抗する獣犬。

「ガガウ!ウグゴウガァァァ!!」


「あたしは、竜地とは普通の友人だ!!」

少し息をつく。

「……はぁ、はぁ……何かね、竜地がさ、私に気があるかもってさ」

何とかして逃れようと、獣犬は狂騒と憤怒が怒号と木霊す。


「――でも!だから両想いなんて簡単にいかないッ!

 あたしにだって誰かを好きになる自由があんのぉッ!」

「ガ…………ッ」

獣犬の動きが止まる。

「………………」

その顔が――瞳が潤んでいるように見えた。

何か判る――その目はさ。

太陽兄と月子姉と出逢う前のあたしだ――。

泣いて泣いて自分を押さえつけて誰にも感情を発露できなくて――、

孤独の濁流で巡り巡った想いが決壊して――、

愛情に叫んで――、

叫びに誰も答えなんかくれなくて――、

涙の雨を流しているんだ――。


「だからッ……始まったばかりなのに諦めないでッ!」

抑え込む。フィエーニクスの顔を寄せる。

すると獣犬の体表から無数の触手がフィエーニクスの四肢へ

絡みついきた。

抵抗だ――こちらの動きを止め、隙をみて脱出するつもりだろう。

やはりあちらの力のが強い。

引き剥がされそうになる。

ジャ!とダメ出しに毛針が至近距離でフィエーニクスへ射出される。

「……ぅく!?」

全身に毛針をくらう。太く鈍い、まるでヤリの連打を食らったかの様な

鋭い痛みが、感覚共有であたしにもくる――。

これは結構たまらない。剣山に全身で飛び込んだ様な気がしてきた。

ギリギリとニッパーの抑え付けと毛針の痛み――離してなるものか!


「――ソラ!フィエーが悲鳴を上げてる。早く決断しろ!こいつを」

「うるさい!!!あんたも心を学べ!!」

「…………ッ!!」

逃さない。この子たちをもう逃してはいけないんだと。

あたしは叫ぶ――心へ放つ――腹から声を――想いを叩き付けた!


「白戌恋縫!貴女はまだ高校一年生!まだ始まったばかりだッ!」

獣犬が目を見開いた様にみえた――

「終わってない!機械種になったから何だ!?貴女の意思が

残ってるのに、終わったとかふざけんな!!」

「生きなって!人として!自分を見失わなければ!」

「白戌恋縫は、死んで無い!生きているんだ!」


獣犬は完全に動きを止めた。

機械的な瞳なのに――恋縫ちゃんの瞳だった――


「あたしと張り合いなさい!あいつが!貴女しか見えなくなるまで!

張り合って掴むんだ!」

触手が緩んだ。

「キミが!貴女が!白戌恋縫で良かったって言えるくらいに……!」

獣犬は――白戌恋縫は汪鳥蒼穹を見つめていた――


「……そんな処で……」

あたしは息を吸い込む。

王子が何か言いたげだが知ったこっちゃあない!

あたしは全力で――彼女へ届けた。


「そんな処で!泣いてるヒマがあったら!

 想いをぶつけて!!

 貴女だけの人生を!はじめなさあああああああああああああい!!」


あたしは思いっきり頭突きをかましてやった……!

獣犬の額の宝珠へと――彼女の心へ届く様にと――。


夕日が――夕日がこの闘いの終わりを告げていた。


夕日に弾けるカケラ――粒――宝珠の飛沫なのか。涙なのか。

〈わたしを捨てないで〉――段ボールの文字が浮かぶ。

だから、

フィエーニクスを通して、あたしは願ったんだ。


     〈恋縫ちゃん――こっちへおいで――〉



きらきらと――。


ゆらゆらと――。



――砕けてゆく。


――溶けてゆく。



欠片はココロを映して――


                  そして、――つながった。


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