第十五節「ソラと彼女たちの観ていた世界と」
24/06/02 修正
「けほ、けほ。少し、何とかなった……かな」
ちょっとは回復したので、出口に近づき様子を伺ってたけど……。
獣犬はあたしとは違う方向を観ていた。
「どういうこと?……獣犬が、何かに気を取られている?」
触手もそちらを向いている。
(……恋縫ちゃ……獣犬の興味を引く何かがあるの?)
あれから十分余。
(――でも都合がいい!生徒たちはいなくなったみたい。何故か警察も来てない)
この隙は好機!小走りに出口に向かう――
連絡通路をつたい、極力音をたてず、急ぐ。新校舎へと。
「……オウトリ。まだ校内に残っていたのか……!」
「うえ!?」(誰も居ないと思ったのに……!)
間が悪く生徒会長と遭遇してしまった。
「……えと、部員たちが残ってないか確認してたんです……はは」
「駄目でしょう。異臭騒ぎの報はアナウンスされていたでしょうに!」
「せ、生徒会長も逃げないとでしょ?……」
「私も在留生徒がいないか最終確認だ。教師からも叱られたがね」
会長の領分じゃない、帰りなさいと言われたのに、と言う事らしい。
「……お互い、何かしたいと突っ走る、損な性分ですねぇ」
「…………」
会長はいぶかしげな表情であたしを見つめていた。
「……なんだろうな。キミも大分落ち着いてきたからと思案していたが、
まだ〈捕らわれている〉……のかな」
「どういう話の展開ですか……あたしは普通ですよ」
――意味がわからない。
そろそろフィエー君が来るはずだ。屋上で搭乗したい処なのに。
「……いい。いや良くはないが、早くなさい。観なかった事にする」
(……??)
何だろ。綺麗だけど鉄面皮な会長の思考がよめない。
会長は立ち去った。気のせいか――表情に慰みをみた気がした。
■
生徒会長は見逃してくれて、一気に最上階へ駆け上がる。
会長の哀れむ様な顔がよぎる。会長と自分、どんな関係だったっけ。
いや、今はそんな事はおいといて、だ。
屋上は立ち入り禁止。
でも施錠の不完全な扉があるのは知っていた。
老朽化でちょちょいとイジると鍵が外れやすくなるのだ。
ガラッとドアを開け、屋上へ躍り出る。フィエー君が遠目に見えた。
「ここだよ!ここ――さぁ。取り戻すよ!あたしの時間だ!」
がん!
――その直後に後頭部に痛みが走る。視界の端に触手が見えた。
そのまま仰け反ったあたしの下半身に触手が巻き付き、
宙吊りにされてしまった。
「あぐ……!」
(な――速攻に捕ま……まさか、会長との会話で気取られてた!?)
スカートまで巻き付いてたんでパンツ見えずにすんだとか
考えてる場合じゃなかった。
「ちくしょ……恋縫ちゃん……出待ちは……ラブレター渡す時だけ」
ばきばきと触手が絞め付ける。
そのまま獣犬の眼前にもってこられる。深淵の見えない目。
その奥に、恋縫ちゃんの愛憎が煮えたぎって視える。
「……そっか……ずっと恋敵……食べようとしてたのね」
執拗にあたしを狙うのも理解できた。
「ね……これはわんこの意思?それとも恋縫ちゃん?」
「…………」
「……どっちもキミなんだね……?」
わたしは訥々《とつとつ》と喋りだした。
「”わたしを見てないで”……多分フィエー君でキミに触れた事視た、
キミたちの意思だ」
「想像だけどさ、獣犬が恋縫ちゃん食べたけど……彼女の寂しさが
判りすぎるから獣犬も恋縫ちゃんになっちゃった……」
「いつでもあたしを食べられたのに……竜地の心を奪った人を
理解したかった、もしくは、わからないけど……ずっと躊躇してた」
鉄橋の時もアメンボの時も。
「……あのね……あたしバカだから相手の気持ちに疎いの……。
だから……誤解させてほんと、ごめんね……」
「竜地は友達だよ……あいつがどう思ってるかは知らない……
でも……、それでも恋縫ちゃん――あたしはね……」
獣犬――いや――恋縫ちゃんたちが観ていた世界。
何かから解放されたい――それは何処にでもある悩み。
彼女は〈どこにも向かえない想い〉獣犬は〈自分たちを縛る誓約〉
――世界が変えてくれないのなら、自らが現状を変えないと。
でも、
自分以外を害したり奪ったりする〈未来の求め方〉はダメなんだ――。
だからあたしは立ち向かう――。
お節介をする――今から、あたしなりの〈求め方〉を持って闘うんだ。
「――あたしはね、キミたちと解り合いたい、だから
あたしは闘う……!我儘を言うの――!」
バカなあたしはお節介をする。今から、《笑顔になれる結果》を求めて……!




